発行体が固定金利の資金調達を変動金利に換えるときや、投資家が償還された資金の運用先を探すときに出てくる債券です。

発行体が期限前に償還できる債券

コーラブル債は、発行体が、あらかじめ決めた日に、決めた価格で満期の前に債券を償還できる債券です。発行体が選んで満期の前に償還することが期限前償還です。日本証券業協会の資料が日経平均リンク債の「早期償還条項」と呼ぶのは、日経平均株価が決めた水準以上になると自動で償還される仕組みで、発行体の選択ではありません1。

E 社が発行するコーラブル債の架空の例で考えます。条件は次のとおりです。

項目 条件
額面 100 万円(投資家 1 人が買う額)
期間 5 年
利率 年 2%(利払いは年 1 回。毎年 2 万円)
期限前償還 2 年後、3 年後、4 年後の利払日に、E 社が額面の 100 万円で償還できる。1 年後は償還できない
比べる債券 期限前償還の条項がなく、ほかの条件が同じ E 社の債券。利率は年 1.5%

期限前償還するかどうかを決めるのは E 社で、投資家は選べません。償還の価格はこの例では額面にしました。1998 年の米国の連邦準備制度理事会(FRB)の検査官向けの手引によると、米国の社債は額面より高い価格で償還できるものが原則で、その上乗せは満期に近づくにつれて小さくなります2。

E 社が 2 年後の利払日に期限前償還を選んだ場合と、償還しなかった場合で、投資家の受け取りを比べます。

場合 償還の時点 受け取る利息の合計(万円) 償還される額(万円)
2 年後に期限前償還される 2 年後 4 100
期限前償還されない 5 年後(満期) 10 100
↑ 受取 ↓ 支払コーラブル債を買った投資家から見た受け払い発行時1 年後2 年後−100 万円購入+2 万円利息+102 万円利息と元本
図 12 年後に期限前償還されたコーラブル債のキャッシュフロー
図の説明

E 社のコーラブル債(額面 100 万円、期間 5 年、利率 年 2%)を買った投資家から見た受け払いで、E 社が 2 年後の利払日に期限前償還を選んだ場合です。投資家は発行時に 100 万円を払い、1 年後に利息 2 万円を受け取り、2 年後に利息 2 万円と元本 100 万円の合わせて 102 万円を受け取ります。償還されたので、3 年後から満期の 5 年後までの受け払いはありません。矢印の長さは金額の大きさの目安です。期限前償還されると、償還の日より後の利息 6 万円は受け取れなくなります。

投資家が発行体にコールを売る分解

債券とオプションへの分け方の考え方は、仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。コーラブル債を買った投資家は、償還の条項のない債券を買い、同時に、その債券を額面で買い戻す権利を発行体に売ったのと同じ立場にあります23。発行体が持つ権利は、償還の条項のない債券を原資産にし、額面を行使価格にしたコール・オプション(コール)です4。日本の仕組債にも、発行体が半年ごとの利払日に期限前に償還できる権利を投資家が売り、対価としてプレミアムを受け取る形があります5。

この分解から、価値の関係は次の式になります3。

Pcallable=Pnoncallable−CP_{\text{callable}} = P_{\text{noncallable}} - C

PcallableP_{\text{callable}} はコーラブル債の価値、PnoncallableP_{\text{noncallable}} は利率と満期が同じで償還の条項のない債券の価値、CC は発行体が持つコールの価値です。E 社の例では、償還の条項のない年 2% の 5 年の債券を、償還の条項のない E 社の債券の利回りの年 1.5% で割り引くと、価値は約 102.4 万円です6。コーラブル債を額面の 100 万円で売り出すなら、コールの価値は約 2.4 万円にあたります。投資家が毎年、額面に対して 0.5% 多く受け取る利息は、このコールの対価です2。

E 社の権利は、2 年後、3 年後、4 年後の決まった日にだけ行使できるので、行使のスタイルはバミューダン・オプションにあたります7。

金利が動くと償還と価格がどう変わるか

金利が下がると、発行体は期限前償還を選びやすくなります。償還の日に市場の金利が債券の利率を下回っていれば、発行体は債券を償還し、低い金利で借り直せます29。償還された投資家が、受け取った資金を低い金利で運用し直すことになるリスクを、再投資のリスクといいます10。

E 社の例で、2 年後の時点の、E 社と同じ信用の残り 3 年の債券の利回りが、年 1% に下がった場合と年 3% に上がった場合を比べます。下がった場合は E 社が 2 年後に期限前償還を選び、投資家は戻った 100 万円で年 1% の 3 年の債券を買うとします。

2 年後の残り 3 年の利回り E 社の判断 投資家が 5 年間に受け取る利息(万円) 償還の条項のない年 1.5% の債券との差(万円)
年 1%(下がった) 期限前償還する 7 −0.5
年 3%(上がった) 償還しない 10 2.5

下がった場合、投資家の利息は、最初の 2 年の 4 万円と、運用し直した 3 年の 3 万円(年 1 万円)の合わせて 7 万円です。償還の条項のない年 1.5% の債券なら 5 年で 7.5 万円なので、0.5 万円少なくなります。上がった場合、E 社は償還しても低い金利で借り直せないため償還せず、投資家は 5 年間で 10 万円を受け取り、年 1.5% の債券より 2.5 万円多くなります。ただし、市場の利回りが年 3% のときに年 2% の債券を持ち続けることになり、途中で売ると額面より安い価格になります7。

価格の動きも、償還の条項のない債券と違います。金利が下がって償還されやすくなると、発行体が持つコールの価値が大きくなり、コーラブル債の価格の上がり方が鈍ります11。

金利の動き 償還の条項のない債券の価格 コーラブル債の価格
下がる 上がる 上がるが、償還の価格に近づくにつれて上がり方が小さくなる
上がる 下がる 下がる。コールの価値が小さくなり、償還の条項のない債券に近い動きになる

金利の変動の大きさ(ボラティリティ)も、コーラブル債の成果を左右します。投資家はコールを売っているため、金利が大きく上下する環境では、コーラブル債の投資の成果は償還の条項のない同じような債券を下回ります12。金利が下がる側では償還されやすくなって値上がりの利益を得にくく、上がる側では償還の条項のない債券と同じように値下がりするためです11。

ステップアップ・コーラブル債

ステップアップ・コーラブル債は、期限前償還されないと、利率があらかじめ決めた時点で段階的に上がるコーラブル債です。1999 年の FRB の手引によると、ステップアップ債はふつう発行体が償還でき、当初の利回りは、同じ満期で償還の条項のない固定利率の債券より高く設定されます。利率が上がる時点が 2 回以上あるものはマルチステップと呼びます7。

E 社のステップアップ・コーラブル債を考えます。額面 100 万円、期間 5 年で、2 年後、3 年後、4 年後の利払日に E 社が額面で償還できる点は、前の例と同じです。

期間 利率 毎年の利息(万円)
1〜2 年目 年 1.8% 1.8
3 年目 年 2.3% 2.3
4 年目 年 2.8% 2.8
5 年目 年 3.3% 3.3

償還の条項のない E 社の債券の利率が年 1.5% のままなら、3 年目以降の利率は E 社が新しく借りる金利を大きく上回ります。そのため E 社は 2 年後に償還を選びやすく、投資家が受け取るのは 2 年間の 3.6 万円だけになりやすくなります。利率が上がっていく仕組みは、発行体の持つコールの価値を大きくし、期限前償還の見込みも高くします7。一方で、金利が上がって E 社が償還しなければ、投資家は 5 年間で 12 万円を受け取ります。ただし、市場の金利が利率より高いと、途中で売るときの価格は額面を下回ります7。

発行体がスワップでヘッジする流れ

コーラブル債で集めた資金の固定金利を、金利スワップで変動金利に換える発行体にとっては、債券を期限前償還したときにスワップだけが残ることが問題になります。E 社が年 2% のコーラブル債を 100 億円発行し、ディーラーとスワップを結んで、固定金利の年 2% を受け取り、変動金利を払うとします。スワップの期間が 5 年のままだと、E 社が 2 年後に債券を償還しても、スワップの受け払いは残り 3 年続きます。

期限前に元本を返せる債務(コーラブル債など)を持つ機関は、債務とヘッジのスワップの期間のずれを避けるため、解約の権利を付けたスワップ(キャンセラブル・スワップ)をふつう使います15。E 社の例では、E 社が 2 年後、3 年後、4 年後にスワップを解約できる権利を持てば、債券を償還する日にスワップも終えられます。1998 年の FRB の手引は、固定金利の払い手が解約の権利を持つものをコーラブル・スワップ、受け手が持つものをプッタブル・スワップと呼びます15。固定金利を受け取る E 社が権利を持つこの形は、手引の呼び方ではプッタブル・スワップにあたります。

スワップを使わず固定金利のまま借りている発行体は、期限前償還の権利の値打ちを、プレミアムとして先に受け取ることもできます。償還できる日に、ディーラーが固定金利を受け取り変動金利を払うスワップを始める権利(スワップション)を、ディーラーに売る方法です。その代わりに、金利が下がったときに低い金利で借り直して得られたはずの利益を手放します9。

償還の時期が決まらないリスク

コーラブル債の投資家は、償還されるかどうかも、いつ償還されるかも選べません。償還されやすいのは、市場の金利が下がったときです10。利息を受け取れる期間は発行のときに決まらず、金利が下がるほど短くなりやすくなります。発行体の信用のリスクと、満期の前に売りにくいことは、仕組商品に共通するリスクです。

償還の権利と条件による違い

満期の前に償還される債券は、誰が権利を持つか、何で償還が決まるかで分かれます。

種類 償還を決めるもの 投資家の立場 満期の前に償還されやすいとき
コーラブル債 発行体の選択 発行体にコールを売っている 市場の金利が債券の利率より下がったとき
プッタブル債 投資家の選択 発行体からプットを買っている 市場の金利が債券の利率より上がったとき
早期償還条項(オートコール)が付いた債券 観測日の株価などの条件 条件を満たすと自動で償還される 観測日の株価などが決めた水準以上のとき

プッタブル債は、コーラブル債と逆に、投資家が発行体からプット・オプション(プット)を買った債券です。プットの対価の分だけ、発行体が払う利率は低くなります。売り戻せる日に市場の金利が債券の利率を上回っていれば、投資家は債券を発行体に売り戻し、戻った資金を高い金利で運用し直せます16。価値の関係は、償還の条項のない債券の価値にプットの価値を足したものです17。

オートコールが付いた債券では、発行体は償還するかどうかを選ばず、観測日の株価などが決めた水準以上になると自動で償還されます1。株式に連動する仕組債での早期償還の例はEB 債(他社株転換債)で扱います。

注

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4045.1「Corporate Notes and Bonds」の 3 ページ、「Callable Bonds」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. Jennifer Carpenter "American Options, Callable Bonds, and Swaptions"(New York University Stern School of Business の講義資料)の "Valuing the Callable Bond"(PDF の 12 ページ目)。価値の式と、発行体と投資家の立場の説明の箇所です。 ↩ ↩2

  3. 同じ資料の "American Call on the 1.5-Year 5.5%-Coupon Bond"(PDF の 8 ページ目)。 ↩

  4. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の「2.商品の仕組みとリスク特性」の設例(4〜7 ページ)。権利は「期限前解約権」と呼ばれています。 ↩

  5. 毎年の利息 2 万円と 5 年後の元本 100 万円を、年 1.5% の年複利で割り引いて足した値(約 102.39 万円)です。本文は丸めた値です。 ↩

  6. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1999 年 3 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 1〜2 ページ、「Step-Ups/Multi-Steps」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  7. Jennifer Carpenter "American Options, Callable Bonds, and Swaptions"(New York University Stern School of Business の講義資料)の PDF の 11〜13 ページ目。 ↩

  8. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 2 ページ。 ↩ ↩2

  9. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(2001 年 9 月)の Section 4045.1「Corporate Notes and Bonds」の 5 ページ、「Prepayment or Reinvestment Risk」。 ↩ ↩2

  10. Jennifer Carpenter "American Options, Callable Bonds, and Swaptions"(New York University Stern School of Business の講義資料)の "Negative Convexity of Callable Bonds"(PDF の 18 ページ目)。 ↩ ↩2 ↩3

  11. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 8 ページ、「Market Risk」。オプションを売った投資家の仕組債一般についての記述です。 ↩

  12. Jennifer Carpenter "American Options, Callable Bonds, and Swaptions"(New York University Stern School of Business の講義資料)の "The Market for Swaptions"(PDF の 19 ページ目)。 ↩

  13. 同じ資料の "Option-Adjusted Spread" と "OAS"(PDF の 16〜17 ページ目)。 ↩

  14. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 1 ページ、「Cancelable Swaps」。 ↩ ↩2

  15. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4045.1「Corporate Notes and Bonds」の 3 ページ、「Put Bonds」。 ↩

  16. Jennifer Carpenter "American Options, Callable Bonds, and Swaptions"(New York University Stern School of Business の講義資料)の "Swaptions and Cancelable Swaps"(PDF の 27 ページ目)。 ↩