顧客に仕組債を説明する場面や、購入前にシナリオでリスクを確かめる場面では、判定日ごとの受け取りが、決まった額か、0 または低い利率かに分かれる点は、グラフや表にして確かめる項目です。
判定日の水準でクーポンが決まる債券
日本証券業協会の資料でいう「利率が変動する日経平均リンク債」は、利率を決める日の日経平均株価が基準価格以上なら高い利率、基準価格未満なら低い利率を適用するものです1。この形、つまり判定日の指数などの水準でクーポンの高低が決まる仕組債を、デジタル・クーポン債と呼びます。発行体が投資家にクーポンを払います。仕組債を債券とオプションに分ける一般の考え方は、仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。
H 社が発行し、日経平均株価を参照するデジタル・クーポン債の架空の例で考えます。条件は次のとおりです。
- 額面は 100 万円で、期間は 3 年です。
- 判定日は 1 年後、2 年後、3 年後の年 1 回で、判定日にクーポンを払います。
- 基準価格は 10,000 円です。判定日の日経平均株価が 10,000 円以上なら、額面の 4%(4 万円)のクーポンを払います。10,000 円未満なら、クーポンは 0 円です。
- 満期には、額面の 100 万円が償還されます。ただし、これは発行体が払えることが前提です(後の「発行体の信用と途中で売るリスク」の節)。
低い方の利率を 0% にするのは、この例の置き方です。レンジ型の債券については、1998 年の資料では、金利、通貨、コモディティ、株式に連動する指数を参照するものが発行され、低い方の利率が 0 のものもありました2。
図の説明
投資家は、発行時に H 社へ 100 万円を払います。H 社は、判定日に日経平均株価が 10,000 円以上だったときだけ、投資家にクーポン 4 万円を払います。満期には、H 社が投資家に額面の 100 万円を払います。
判定日ごとの受け取り
クーポンは、判定日ごとに 4 万円か 0 円のどちらかです。判定日の日経平均株価が 10,000 円を超えた幅は、クーポンを変えません。比べる相手として、同じ期間の普通の固定利付債(この例では年 2%、毎年 2 万円のクーポン)を置きます。3 つの場合の受け取りは次のとおりです。
| 場合 | 1 年後の日経平均株価(円) | 2 年後(円) | 3 年後(円) | クーポンの合計(万円) | 満期の額面を含む合計(万円) | 普通の債券の合計(万円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 10,500 | 11,000 | 12,000 | 12 | 112 | 106 |
| B | 10,200 | 9,900 | 10,100 | 8 | 108 | 106 |
| C | 9,500 | 9,800 | 9,000 | 0 | 100 | 106 |
A は 3 回とも基準価格以上で、クーポンが 12 万円になり、普通の債券を 6 万円上回ります。B は 2 年後だけ 9,900 円で、クーポンは 8 万円です。それでも普通の債券より 2 万円多くなります。C は 3 回とも基準価格未満で、クーポンが 1 回もなく、満期の合計は額面の 100 万円にとどまります。同じ期間の普通の債券より 6 万円少なくなります。普通の債券と比べて得になるのは、条件を満たした日が 2 回以上のときです(この例の数値では)。
図の説明
表の場合 B の受け払いを、投資家から見て描いた図です。発行日に 100 万円を払います。1 年後は日経平均株価が 10,200 円で基準価格以上のため、クーポン 4 万円を受け取ります。2 年後は 9,900 円で基準価格未満のため、受け取りはありません。3 年後は 10,100 円で基準価格以上のため、クーポン 4 万円と額面 100 万円の合計 104 万円を受け取ります。矢印の長さは金額の大きさの目安です。
割引債とデジタル・オプションに分ける
デジタル・クーポン債は、満期に額面を払う割引債と、判定日ごとのデジタル・オプションに分けて見ることができます。割引債は、クーポンがなく、額面より低い価格で発行される債券です6。仕組商品は、通常の債券などにスワップやオプションを組み合わせて作られた商品です7。デジタル・オプションは、満期の価格が行使価格を超えたかどうかで、決まった額を受け取るか何も受け取らないかが決まるオプションです8。
H 社の例では、投資家が発行時に払う 100 万円は、次の 2 つに充てられると見ます。
- 満期に 100 万円を払う 3 年の割引債。H 社の割引債の価格を 94 万円とします。
- 1 年後、2 年後、3 年後の判定日ごとの、日経平均株価が 10,000 円以上なら 4 万円を受け取るコールのデジタル(行使価格 10,000 円)。3 回分の代金と H 社の費用に、残りの 6 万円が充てられる計算です。
割引債の価格が低いほど、デジタルに回せる代金は増えます。デジタルの代金が同じなら、判定日の条件を満たしにくいほど、条件を満たしたときのクーポンを高くできます。
見方を変えると、H 社が判定日ごとに 4 万円を必ず払う債券を出し、投資家が H 社に、判定日の水準が基準価格未満のとき 4 万円を渡す約束(デジタルのプットの売り)をした、と見ることもできます。受け取りが決まった額か 0 かのどちらかになるデジタルのコールとプットは、合わせると、ちょうど行使価格のときを除き、満期の価格によらず決まった額になります(定義から導けます)。そのため、基準価格未満のときにクーポンを払わないことは、投資家がデジタルのプットを売っていることと同じです。
クーポンを払わない場合を 0 ではなく低い利率にする型では、投資家が売るプットの額は、高い利率のクーポンと低い利率のクーポンの差になります。デジタル・オプションの価格は、受け取りの割引した期待値として求めます9。デジタル・オプションの定義と評価、価値が何で変わるかはデジタル・オプションで扱います。
条件の境目で受け取りが大きく変わる
判定日の水準が基準価格をわずかに上回るか下回るかで、1 回のクーポンの全額が変わります。H 社の例で、判定日の日経平均株価ごとのクーポンは次のとおりです。
| 判定日の日経平均株価(円) | クーポン(万円) |
|---|---|
| 9,000 | 0 |
| 9,999 | 0 |
| 10,000 | 4 |
| 10,001 | 4 |
| 12,000 | 4 |
9,999 円と 10,000 円の差は 1 円ですが、クーポンは 4 万円変わります。10,000 円と 12,000 円では、水準が 20% 違うのに、クーポンは同じです。ちょうど基準価格になった日の扱いは、条件の書き方で変わります。デジタル・オプションの定義でも、「超えたとき」と書く資料8と、「以上」と書く資料10があります。上の例は、日本証券業協会が示す「基準価格以上」の形にしています1。
判定日の数も、債券の条件で決まります。1998 年の資料では、レンジ型の債券は、参照する水準を毎日確かめるものが多く、毎月、四半期ごと、期間中に 1 回だけ確かめる形もありました2。デジタル・クーポン債でも、判定日が少ないほど、1 回の判定が受け取りに占める割合は大きくなります。判定日が 1 回だけなら、その日の水準だけでクーポンの有無が決まります。
発行体の信用と途中で売るリスク
発行体の財務の状況が悪化すると、元本や利息の支払いが滞ったり、債券の価格が下がったりするリスクがあります11。H 社の例で、条件を満たしてクーポンを受け取れる場合も、H 社が払えなければ、クーポンも額面も受け取れません。
途中で売るときの価格も、リスクです。日経平均リンク債は、中途売却が難しいほか、満期の前に売ると、売却価格が額面を下回ることがあります12。仕組債は、複雑な構造のものほど買い手が限られ、満期の前に売ると大きな損失になることがあります13。日本銀行の資料は、売却価格が理論価格よりかなり低くなることも想定しておくよう求めています14。
外貨建てなら、為替相場の動きで、円で受け取る額が投資額を下回ることがあります15。この例のように、満期に額面が償還される形では、損失はクーポンがなくなることと、これらのリスクから生じます。
似た仕組みの債券との違い
クーポンを条件で決める債券と、償還額を条件で決める債券は、条件が受け取りに入る場所が違います。償還額そのものが指数で変わるノックイン付きの型は、株価指数連動債で扱います。
| 項目 | デジタル・クーポン債 | レンジアクルーアル | ノックイン付きの株価指数連動債 |
|---|---|---|---|
| 条件で変わるもの | 判定日ごとのクーポン | 日ごとに積み上げる利息 | 満期の償還額 |
| 条件を確かめるとき | 判定日(利率決定日) | 多くは日ごと(1998 年の資料では毎月、四半期ごとの形もあった) | 株価の観察期間中 |
| 条件の決まり方 | 判定日 1 回ごとに、基準価格以上かどうか | 範囲の中にあるかどうか | あらかじめ決めた水準(ノックイン価格)以下になったかどうか |
デジタル・クーポン債は、判定日ごとの全額か 0 かで決まります。レンジアクルーアルは、多くは日ごと(1998 年の資料では毎月、四半期ごとの形もあった)に範囲の中かを数えるため、範囲の中にあった日数に応じて利息が変わります。同じ資料では、レンジ型の債券は、範囲の中にある期間は高い利率で利息を積み上げる形でした2。ノックイン付きの型は、観察期間中に水準が下がると、償還額が株価の動きに連動して変わります1。
注
-
日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 1 ページ、「1.そもそも日経平均リンク債とは?」の「利率が変動する日経平均リンク債」と「償還金額が変動する日経平均リンク債」。 ↩ ↩2 ↩3
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 4 ページ、「Range Notes」。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 3 ページ、「利率(クーポン)」の注。 ↩
-
日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 2 ページ、「説明を受けるべき事項」。 ↩
-
日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 15 ページ、「3.シナリオ分析」。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4045.1「Corporate Notes and Bonds」の 2 ページ、「Zero-Coupon Bonds」。 ↩
-
日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 3 ページ、「1.仕組商品とは」。 ↩
-
Durham University, Department of Mathematical Sciences「Chapter 5 Pricing options from around the world」の、デジタル(バイナリー)・オプションの定義の段落。キャッシュ・オア・ナッシングのコールは満期の価格が行使価格を超えたとき、プットは下回ったときに、決めた額を受け取る。 ↩ ↩2
-
同じ資料の、リスク中立評価の説明の段落。受け取りの割引した期待値が、時点 0 の価値になる。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 4 ページ、「Range Notes」の脚注 1。 ↩
-
日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 3 ページ、「発行者の信用リスク」の注。 ↩
-
日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 7 ページ。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 8 ページ、「Liquidity Risk」。 ↩
-
日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 30 ページ、「(1)購入前の検討(続き)」。 ↩
-
日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 6 ページ、「日経平均リンク債に特有のリスク」。 ↩