金利が一定の範囲にとどまった日数で利息が変わる債券は、二つの場面で出てきます。利息を受け取る側は、その日数についての見込みを考えます。発行する側は、債券に含まれるデジタル・オプションの評価やヘッジを考えます。

利息が範囲の中にある日で決まる仕組み

レンジアクルーアルは、参照する金利が範囲の中にある日を数えて利息を決める商品です。米国の連邦準備制度理事会(FRB)の検査官向けの手引(1998 年 2 月。以下、手引)は、仕組債の節でこの形の債券を扱っています1。レンジ・ノート、アクルーアル・ノートとも呼ばれ、日ごとに利息が積み上がり、利率は参照する指標で決まります。利率は 2 つの水準を持ちます。指標が決めた範囲の中にある期間は高いほうの利率、範囲の外にある期間は低いほうの利率で、低いほうは 0 のこともあります。参照する指標は金利のほかに、為替、商品、株式のものも発行されてきました。

決める項目は次の 4 つです。

項目 内容
観測日 参照金利が範囲の中にあるかを見る日。ほとんどの債券は毎日見る1
範囲の上端と下端 範囲を決める 2 つの水準。範囲が毎年変わる形もある2
範囲の中の利率 参照金利が範囲の中にある日に積み上がる利率
範囲の外の利率 範囲の外にある日に積み上がる利率。0 のこともある

範囲の中にあった日数を観測日の数で割った値が、範囲の中にあった日数の割合です。1 期の利息は、範囲の中の日の利息と外の日の利息を、この割合で按分した額になります。範囲を外れた幅は利息に関係せず、決まるのは範囲の中か外かだけです1。観測日は月ごと、四半期ごと、期間中に 1 回だけの形もあり、四半期ごとなら、四半期の観測日の位置だけが利息を左右します1。

株価指数を使った同じ考え方の例もあります。3 か月の間、日経平均株価が 13,000 から 14,000 の範囲の中にあった日数の割合を、想定元本に掛けて受け取る商品で、想定元本 1,000 万米ドルのうち 70% の日数が範囲の中なら、受け取りは 700 万米ドルです3。

利息の計算例

参照する指標が金利で、発行体が払い、保有者が受け取る債券を例にします。I 社が想定元本 100 億円のレンジアクルーアルの債券を 1 年間持つ場合の架空の例で考えます。利息は 3 か月ごとに受け取り、参照金利の範囲は 0.50% から 2.00%、範囲の中にある日の利率は年 3.0%、外にある日の利率は 0% とします。各期の観測日は 60 日で、各期は年の 4 分の 1 として計算します。範囲の中の日が 1 日もなければ、その期の利息は 0 です。

1 期の利息は、次の式で決まります。

利息=想定元本×範囲の中の利率×14×範囲の中にあった日数観測日の数\text{利息} = \text{想定元本} \times \text{範囲の中の利率} \times \frac{1}{4} \times \frac{\text{範囲の中にあった日数}}{\text{観測日の数}}

想定元本 100 億円に年 3.0% を掛けて 4 分の 1 にすると 7,500 万円で、これが範囲の中にずっとあったときの 1 期の利息です。

期 範囲の中にあった日数(60 日のうち) 日数の割合 利息(万円)
1 期 60 100% 7,500
2 期 45 75% 5,625
3 期 30 50% 3,750
4 期 0 0% 0
合計 135(240 日のうち) 56.25% 16,875
↑ 受取 ↓ 支払レンジアクルーアルの債券を持つ I 社から見た受け取り3 か月後6 か月後9 か月後12 か月後+7,500 万円利息+5,625 万円利息+3,750 万円利息
図 1I 社が 3 か月ごとに受け取る利息
図の説明

I 社は、3 か月後に利息 7,500 万円、6 か月後に 5,625 万円、9 か月後に 3,750 万円を受け取ります。12 か月後は、参照金利が 1 日も範囲の中になかったため、受け取る利息はありません。矢印の長さは金額の大きさの目安です。元本の受け払いは含めていません。

年の利息の合計は 16,875 万円で、想定元本に対して年 1.6875% です。比べる債券は、同じ想定元本に年 1.2% の固定の利息が付くものとします。この債券の利息は 1 年で 12,000 万円です。

比べる債券と同じ 12,000 万円になるのは、範囲の中にあった日数の割合が 40% のときです(30,000 万円 × 40%)。この条件では、割合が 40% を超えると上回り、下回ると下回ります。金利の動きごとの差は、次の節の表に並べます。

金利の動きで利息がどう変わるか

手引は、参照する指標が範囲の中にとどまる安定した環境では、この債券の利息の受け取りがほかの変動利付の債券より多く、指標が範囲の外に出る変動の大きい環境では少なくなると整理しています2。範囲の中の日が多いほど、その債券の利息は多くなります。範囲が狭いほど、似た商品より利率の上乗せが大きくなります2。範囲を狭くして範囲の中の利率を高くした債券は、前の節の例のように、範囲の中に収まれば受け取りが多く、外れると少なくなります。

例の債券で、金利の動きごとの結果を並べると次のとおりです。

参照金利の動き(架空) 範囲の中にあった日数の割合 1 年の利息(万円) 年 1.2% の固定の利息との差(万円)
1 年間、範囲の中で安定 100% 30,000 +18,000
途中から範囲を外れる 56.25% 16,875 +4,875
1 年間、範囲の外 0% 0 −12,000

範囲の外に出たときの損は、参照金利が上端を超えても下端を下回っても同じです。

デジタル・オプションの組み合わせ

利息を受け取る側は、範囲の上端を行使価格とするデジタル・オプションのコールと、下端を行使価格とするプットを、観測日ごとに一連で売った立場と同じです1。デジタル・オプションの定義と評価は、デジタル・オプションで扱います。

この説明を、1 期の利息の式に直すと次のようになります。範囲の中の利率を rinr_{\text{in}}、外の利率を routr_{\text{out}}、観測日の数を NN とします。

利息=想定元本×14×[ rin−(rin−rout)×上端を超えた日数+下端を下回った日数N ]\text{利息} = \text{想定元本} \times \frac{1}{4} \times \left[\, r_{\text{in}} - (r_{\text{in}} - r_{\text{out}}) \times \frac{\text{上端を超えた日数} + \text{下端を下回った日数}}{N} \,\right]

毎日範囲の中にあったときの利息を基準にして、範囲の外にあった日だけ、利率の差の分を減らす形です。減らす分が、売ったデジタル・コールとデジタル・プットが、売った側から買った側へ 1 日ごとに払う額に当たります。1 日の払いは、上端を超えたか下端を下回ったかのどちらか一方のときだけ起こります。範囲の外の利率が 0 の例では、払う額は範囲の中の利率の 1 日分(1 期の利息を観測日の数で割った額)になります。この式は、手引の説明を日数の形に書き直したもので、手引にある式ではありません。

観測日ごとに 1 組のデジタル・オプションがあるため、価格は観測日の数だけのデジタルの合計になります。範囲の中の日数の割合で受け取る商品は、期間中の日ごとのデジタルの組で考えられます(前に挙げた株価指数の例)3。デジタルを売った見返りが、範囲の中の利率の上乗せとして利息に出ます。

範囲の決め方には、もう 1 つの形があります。デジタルではなくバリア・オプションを売る形です。範囲の下端にダウン・アンド・アウトのプット、上端にアップ・アンド・アウトのコールを置き、指標が 1 日でもバリアに触れると、その期間の利息が 0 になる形です。手引は、この形をまれ(quite rare)としています4。

評価とヘッジの論点

前の節のとおり、評価の出発点は観測日ごとのデジタルの価格です。1 点目は、範囲の端でのデルタです。デジタル・オプションの受け取りは、行使価格をまたぐと 0 から決まった額に跳びます。為替のデジタル・オプションのデルタは、1 を、満期までの時間の平方根とボラティリティの積で割った値に比例します。デジタルをコール・スプレッド(行使価格の近い 2 つのバニラ・コールの買いと売り)で近似すると、受け取りの形がなめらかになり、非常に大きい(限りなく大きくなりうる)デルタを避けられます5。この式は為替のデジタルのものです。

観測日ごとのデジタルにこの性質を当てはめると、観測日が近づいて参照金利が範囲の上端や下端の近くにあるとき、その日のデジタルのデルタが大きくなります。デジタルを売った側は債券の保有者で、その反対側の持ち高を持つ発行体が、ヘッジの持ち高をデルタに合わせて直す場合、金利が端をまたぐたびに大きな組み直しが要ると考えられます。これは上の性質からの推論で、資料に書かれた実務ではありません。

2 点目は、モデルへの依存です。デジタル・コールの価格は、行使価格を少し動かしたときのバニラ・コールの価格の変化で表され、行使価格ごとのボラティリティの違い(スキュー)が価格に入ります。満期 1 年、現在の価格と行使価格が同じ、ボラティリティ 25%、行使価格が 10% 動くごとにボラティリティが 2.5% 動く株式の架空の例で考えます。スキューを入れた価格は支払額の 55%、スキューを無視して一定のボラティリティで求めた価格は 45% です6。観測日ごとのデジタルの価格が行使価格ごとのボラティリティで変わることから、レンジアクルーアルの価格も、ボラティリティ・スマイルをどう扱うかに左右されると考えられます。これは株式の例からの推論です。扱いの違いはモデル・リスクの一因になりえます。

期限前償還の条項が付く形については、CMS スプレッドに連動する、期限前償還のできるレンジアクルーアルを、最小二乗モンテカルロ法で評価する方法を示した 2023 年の論文があります7。CMS スプレッドは、CMS スプレッド・オプションで扱います。

リスク

利息を受け取る側のリスクは、参照金利が範囲の外にとどまり、利息が減ることです。デジタルの売りが持つレバレッジのために、この種の債券は価格が大きく動き、価格のリスクが大きいことが多いと、手引は説明しています8。

範囲の決め方によって、リスクの形が変わります。毎日観測する形では、範囲の外の日が増えるにつれて利息が減ります。バリア型は前の節のとおり、1 日の範囲外が期間全体の利息を 0 にします。期限前償還の条項が付く形があることも、前の節で述べたとおりです。

似た商品との違い

商品 利息や受け取りの決まり方 レンジアクルーアルとの違い
範囲の外に出ると利息が 0 になる形(バリア型) 範囲を 1 日でも出ると、その期間の利息が 0 1 日の外れが期間全体に響く
デジタル・オプション 満期の価格が行使価格をまたぐかで、決まった額を受け取る 受け取りは 1 回。レンジアクルーアルは観測日ごとのデジタルの組み合わせ

この記事が書いていないこと

金利を参照する場合の評価モデルとデルタの式、参照する金利の種類(短期の金利かスワップレートかなど)ごとの違い、期限前償還の条項の中身は、この記事では扱いません。

注

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual"(1998 年 2 月)の Section 4040.1 "Structured Notes" の 4〜5 ページ、"Range Notes"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  2. 同じ Section 4040.1 の 5 ページ、"Range Notes"。 ↩ ↩2 ↩3

  3. Columbia University の Martin Haugh "Black-Scholes and the Volatility Surface"(IEOR E4707、2013 年)の 6 節 "Pricing Exotics" の Example 4 "Pricing a Range Accrual"(ヒントを含む)。 ↩ ↩2

  4. 同じ Section 4040.1 の 5 ページ、"Range Notes"。バリア型の説明と "quite rare" の評価。 ↩

  5. OpenGamma "Digital Forex Options" の Section 2 のデルタの式と、Section 3 "Call spread approximation" の "avoiding huge (potentially infinite) delta numbers"(1〜3 ページ)。 ↩

  6. 同じ Haugh の講義資料の 6 節 "Pricing a Digital Option" と Example 3 "Pricing a digital"。 ↩

  7. International Review of Financial Analysis の He, Hsieh, Huang, Lin "Valuation of callable range accrual linked to CMS Spread under generalized swap market model"(vol. 90、2023 年)の要旨。 ↩

  8. 同じ Section 4040.1 の 5 ページ、"Range Notes" の末尾の段落。 ↩