調達と運用で参照する金利が違う銀行は、その差の動きが収益に響きます。この差を交換する取引がベーシス・スワップで、金利のカーブを作るシステムの担当者も、期間ごとの金利の差を扱う場面で出会います。
2 つの変動金利の交換
ベーシス・スワップは、金利スワップのうち、変動金利どうしを交換するものです1。固定金利と変動金利を交換する基本の仕組みは金利スワップで扱います。
E 銀行と F 証券が、想定元本 100 億円、期間 3 年の、TONA(無担保コール翌日物金利)の複利と 3 か月 TIBOR(東京銀行間取引金利)を交換するベーシス・スワップを結ぶ架空の例で考えます。日本円では、この組み合わせの交換や、期間の違う TIBOR どうしの交換があります2。E 銀行は 3 か月 TIBOR を払い、TONA の複利に年 0.2% を足した金利を受け取ります。F 証券はその逆です。受け払いは両方の側とも 3 か月ごとです。金利スワップでは、想定元本は利息の計算に使うだけで、受け渡しません3。
一方の変動金利に足す年 0.2% のような金利の幅を、ベーシス・スプレッドといいます。参照する金利が違えば値も違うため、スプレッドを足して釣り合わせます4。TIBOR と TONA は、含まれる信用リスクも違います。TIBOR は銀行が無担保でほかの銀行に貸すときのターム物の金利なので、銀行の信用リスクを含みます。TONA は翌日物の金利で、含まれる信用リスクはごく限られます5。ベーシス・スプレッドは、マルチカーブでの割引と予想のカーブの作り方にも表れます。
TONA と TIBOR の受け払い
2 つの変動金利は、利率の決まる時期が違います。TIBOR の利率は利息の期間が始まる前に決まり、TONA の複利は期間の終わりに、期間中の TONA を複利で積み上げて決まります5。そのため、E 銀行が払う TIBOR の利息は期間の初めに分かりますが、受け取る TONA の側の利息は期間の終わりまで分かりません。この決め方を後決め複利といいます6。
1 回の期間の利息は、想定元本を 、期間の日数を として次のとおりです。 は期間の前に決まった 3 か月 TIBOR、 は期間中の TONA を複利で積み上げて年率に直した利率、 はベーシス・スプレッドです。清算機関の日本証券クリアリング機構(JSCC)で清算する取引では、TONA と TIBOR のどちらの側の日数計算も Actual/365(Fixed)です7。
期間の前に決まった 3 か月 TIBOR が年 0.9% の架空の例で考えます。計算を簡単にするため、3 か月を 0.25 年とします。E 銀行が払う TIBOR の利息は、100 億円 × 0.9% × 0.25 で 2,250 万円です。期間中の TONA の複利を 3 通りに置くと、E 銀行の受け払いは次のとおりです。差し引きのプラスは E 銀行の受取、マイナスは E 銀行の支払です。
| TONA の複利(仮定) | 受取:TONA+0.2% の利息(万円) | 支払:TIBOR の利息(万円) | 差し引き(万円) |
|---|---|---|---|
| 0.6% | 2,000 | 2,250 | −250 |
| 0.7% | 2,250 | 2,250 | 0 |
| 0.8% | 2,500 | 2,250 | 250 |
この期間の TIBOR と TONA の複利の差が 0.3% なら E 銀行は 250 万円を払い、0.1% なら 250 万円を受け取ります。差がベーシス・スプレッドと同じ 0.2% なら、受け払いは釣り合います。F 証券の受け払いは、E 銀行と符号が逆です。
テナー・ベーシス
同じ TIBOR でも、期間ごとに値が違います。日本円 TIBOR には 1 週間物、1 か月物、3 か月物、6 か月物、12 か月物の 5 つの期間があります8。3 か月物と 6 か月物のように期間の違う TIBOR どうしを交換する取引を、テナー・スワップと呼びます2。このページでは、期間の違う変動金利を交換するときのベーシス・スプレッドを、テナー・ベーシスと呼びます。マルチカーブを扱った Fujii、Shimada、Takahashi の論文(以下、論文)は、LIBOR の例でテナー・ベーシスを扱っています。論文によると、期間だけが違う 2 つの LIBOR の交換でも、どちらかに 0 でないスプレッドを足さないと釣り合いません4。円 LIBOR では、3 か月物にスプレッドを足して 3 か月ごとに払い、6 か月物を 6 か月ごとに受け取る形がありました。そのスプレッドは 10bp(0.1%)を超えることも多くありました9。
C 銀行と D 証券が、想定元本 100 億円のテナー・スワップを結ぶ架空の例で考えます。C 銀行は 3 か月 TIBOR に年 0.1% を足した金利を 3 か月ごとに払い、6 か月 TIBOR を 6 か月ごとに受け取ります。D 証券はその逆です。最初の 6 か月では、開始日に決まった 6 か月 TIBOR を年 1.0%、開始日に決まった最初の 3 か月の 3 か月 TIBOR を年 0.8% とします。3 か月後に決まる次の 3 か月の 3 か月 TIBOR は、まだ分かりません。
図の説明
3 か月 TIBOR に年 0.1% を足して払い、6 か月 TIBOR を受け取る C 銀行の、最初の 6 か月の受け払いです。開始日には受け払いはありません。3 か月後に、C 銀行は最初の 3 か月の利息 2,250 万円(100 億円 ×(0.8% + 0.1%)× 0.25)を払います。6 か月後に、6 か月 TIBOR の利息 5,000 万円(100 億円 × 1.0% × 0.5)を受け取り、次の 3 か月の利息を払います。次の 3 か月の利息は 3 か月後に決まる 3 か月 TIBOR しだいで、図の矢印の長さは 3 か月 TIBOR が 1.0% のときの 2,750 万円を目安にしています。
次の 3 か月の 3 か月 TIBOR を 3 通りに置くと、最初の 6 か月の C 銀行の受け払いは次のとおりです。6 か月 TIBOR の利息は 6 か月を 0.5 年として計算しています。
| 次の 3 か月の 3 か月 TIBOR(仮定) | 受取:6 か月 TIBOR の利息(万円) | 支払:3 か月 TIBOR+0.1% の利息の合計(万円) | 差し引き(万円) |
|---|---|---|---|
| 0.9% | 5,000 | 4,750 | 250 |
| 1.0% | 5,000 | 5,000 | 0 |
| 1.1% | 5,000 | 5,250 | −250 |
次の 3 か月の 3 か月 TIBOR が 0.9% に下がれば C 銀行は 250 万円を受け取り、1.1% に上がれば 250 万円を払います。D 証券の受け払いは、C 銀行と符号が逆です。支払の頻度が 2 つの側で違うため、3 か月後の支払は 6 か月後の受取より先に出ていきます。
ベーシス・スプレッドの変動と損益
ベーシス・スワップの損益は、金利の水準ではなく、2 つの変動金利の差で決まります。TONA と TIBOR を交換する例の E 銀行は、TIBOR と TONA の複利の差がベーシス・スプレッドの 0.2% より小さい期間に受け取り、大きい期間に払います。TIBOR を受け取る F 証券は逆で、差が大きい期間に受け取ります。
約定の後に、市場で同じ残りの期間のベーシス・スプレッドが動くと、取引の時価が動きます。論文は、テナー・ベーシスの分を残りの期間にわたって上乗せして払うときの損失を、およそ次の形の式で見積もっています10。ベーシス・スプレッドの変化による時価の変化も、同じ形で見積もれます。
ここで はベーシス・スプレッドの変化、 は残りの期間の各利払日の割引係数に期間の長さ(年)を掛けて足した値です。残りの期間が 3 年で、 が 2.95 の架空の例で考えます。市場のベーシス・スプレッドが 0.2% から 0.3% に広がると、E 銀行の時価は 100 億円 × 0.1% × 2.95 でおよそ 2,950 万円下がり、F 証券の時価は同じだけ上がります。0.1% に縮めば、E 銀行の時価が同じだけ上がります。損益は金利の水準ではなく金利の変化から生まれるため、ベーシス・スプレッドが金利の水準に比べて小さくても、その影響は小さくありません10。
調達と運用の指標のずれのヘッジ
ベーシス・スワップの使い方の 1 つは、調達の金利と運用の金利が違う変動金利に連動している金融機関のヘッジです。翌日物金利に連動して資金を調達し、TIBOR に連動する資産で運用すると、どちらも変動金利ですが、2 つの金利の差が動くリスクが残ります。このリスクは、TONA の複利と TIBOR のベーシス・スワップ(資料の呼び方では OIS/TIBOR ベーシス・スワップ)でヘッジできます。リスク・フリー・レートに関する勉強会(事務局は日本銀行。以下、勉強会)の資料が、この使い方を挙げています11。
E 銀行が 100 億円を 3 か月 TIBOR に年 0.5% を足した金利で貸し、その資金を翌日物で借りて毎日借り換えている架空の例で考えます。借入の利率は、期間中の TONA の複利と同じとします。E 銀行が最初の例のベーシス・スワップ(3 か月 TIBOR を払い、TONA の複利+0.2% を受け取る)を組むと、3 か月 TIBOR が 0.9% の期間の利ざやは次のとおりです。
| TONA の複利(仮定) | スワップなしの利ざや(万円) | スワップの差し引き(万円) | スワップありの利ざや(万円) |
|---|---|---|---|
| 0.6% | 2,000 | −250 | 1,750 |
| 0.7% | 1,750 | 0 | 1,750 |
| 0.8% | 1,500 | 250 | 1,750 |
スワップがなければ、TONA が上がって TIBOR との差が縮むと利ざやが減り、TONA の複利が 0.8% のとき 1,500 万円になります。スワップを組むと、貸出で受け取る TIBOR をスワップで払い、借入で払う TONA をスワップで受け取ります。そのため、利ざやは差の動きによらず 1,750 万円(100 億円 ×(0.5% + 0.2%)× 0.25)になります。反対に、差が広がって TONA の複利が 0.6% になると、スワップがなければ 2,000 万円だった利ざやが 1,750 万円にとどまります。ベーシス・スワップは利ざやを固定しますが、差が広がったときに利ざやが増える分は手放すことになります。
テナー・スワップは、受け取る変動金利の期間をそろえるのに使えます。論文の例では、3 か月物と 6 か月物の LIBOR を受け取る取引を半分ずつ持つ金融機関が、3 か月物を払い 6 か月物を受け取るテナー・スワップを組み、3 か月物の受取を 6 か月物の受取に置き換えます。そのためには、テナー・ベーシスの分を上乗せして払う必要があります10。
清算と取引の実務
JSCC は、変動金利どうしを交換する金利スワップを清算の対象にしています。対象の表では、期間の違う金利の交換をテナー・スワップ、OIS と日本円 TIBOR の交換をカーブ・スワップとして載せています2。清算機関を使うと、金利スワップの取引相手の信用リスク(カウンターパーティ・リスク)を減らすのに役立ちます12。
JSCC が清算の対象にする TIBOR は、全銀協 TIBOR 運営機関が公表する日本円 TIBOR で、変動金利の期間は 1 か月、3 か月、6 か月のどれかです。金利の支払いには東京のカレンダーを使います7。もう 1 つの全銀協 TIBOR だったユーロ円 TIBOR は 2024 年 12 月末で公表を停止し、日本円 TIBOR は公表を続けています813。
似た取引との違い
金利スワップは、交換する金利の組み合わせで種類が分かれます1。ベーシス・スワップは、固定金利を含まず、2 つの変動金利の差だけに損益が左右される点で、ほかの金利スワップと違います。
| 取引 | 交換する金利 | 例 |
|---|---|---|
| 金利スワップ(固定と変動) | 固定金利と変動金利 | 固定金利と 6 か月 TIBOR |
| OIS(翌日物金利スワップ) | 固定金利と、翌日物金利の複利 | 固定金利と TONA の複利 |
| ベーシス・スワップ(TONA と TIBOR) | 変動金利と変動金利 | TONA の複利とスプレッド、3 か月 TIBOR |
| テナー・スワップ | 期間の違う同じ種類の変動金利 | 3 か月 TIBOR とスプレッド、6 か月 TIBOR |
| 通貨ベーシス・スワップ | 通貨の違う変動金利 | 米ドルの変動金利と、円の変動金利とスプレッド |
通貨の違う変動金利どうしを交換する取引を、通貨ベーシス・スワップと呼びます。ドル/円の取引では、元本を交換するほか、米ドルの 3 か月の参照金利と、円の 3 か月の参照金利に通貨ベーシスを足したものを交換します15。元本の交換を含む仕組みは通貨スワップで扱います。
注
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「(OIS の定義)」(3 ページ。PDF の 5 ページ目)。金利スワップを「異なる金利(固定金利と変動金利または変動金利同士)を一定期間毎に交換する取引」としています。 ↩ ↩2
-
株式会社日本証券クリアリング機構「清算対象取引(金利スワップ)」の対象の表(「Basis Swap-Tenor Swap(JPY)」と「Basis Swap-Curve Swap」の「OIS vs D TIBOR」)と、条件の「3.スワップの種類」の b「変動金利と変動金利を交換するIRS」。2026 年 9 月 25 日に確かめた内容です。 ↩ ↩2 ↩3
-
Society of Actuaries「Interest Rate Swaps」(FM-25-17)の 3 ページ(PDF の 4 ページ目)。"The notional principal amount under an interest rate swap is never paid by either counterparty" としています。 ↩
-
Fujii, Shimada, Takahashi "A Note on Construction of Multiple Swap Curves with and without Collateral"(2010 年 1 月改訂版。以下、Fujii ほか)の 1 章(1 ページ)。期間の違う LIBOR の交換には、0 でないスプレッドが要るとしています。 ↩ ↩2
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「(1)IBOR と OIS レートの性質の違い」(7〜8 ページ。PDF の 9〜10 ページ目)。IBOR は銀行の信用リスクを含み、受払額が期間の前に決まる、OIS は信用リスクがごく限定的で、受払額が満期日に確定する、という対比です。 ↩ ↩2
-
日本銀行・金融庁「円LIBOR移行対応の振り返りと今後の取り組み」(日銀レビュー 2022-J-8、2022 年 5 月)の 3 ページ、図表 2「代替金利指標の3つの選択肢」。金利決定のタイミングを、TIBOR は「前決め」、TONA 後決め複利は「後決め」としています。 ↩
-
株式会社日本証券クリアリング機構「清算対象取引(金利スワップ)」の条件の「4.変動金利の種類」「5.変動金利の期間」「11.日数計算式」「13.金利の支払いに係るカレンダー」。2026 年 9 月 25 日に確かめた内容です。 ↩ ↩2
-
全銀協TIBOR運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」(2024 年 6 月)の「①全銀協TIBORとは」(1 ページ。PDF の 2 ページ目)。 ↩ ↩2
-
Fujii ほか(同じ論文)の 2.3 節(4 ページ。PDF の 5 ページ目)。3 か月 LIBOR にスプレッドを足して四半期ごとに払い、6 か月 LIBOR を半年ごとに受け取る取引で、観察されるスプレッドが 10bp を超えることも多いとしています。 ↩
-
Fujii ほか(同じ論文)の 4 章(17〜18 ページ。PDF の 18〜19 ページ目)。損失を、想定元本、平均デュレーションの PV01、テナー・ベーシス(論文の語ではテナー・スプレッド)の積でおよそ見積もり、PV01 を割引係数と期間の長さの積の合計としています。、、 がそれぞれにあたります。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「②それ以外の活用事例」の「(OIS/IBOR ベーシス・スワップ)」(10 ページ。PDF の 12 ページ目)。資料は、活用事例は特定の取引を勧めるものではないとしています(7 ページ)。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「(清算適格取引の拡充)」(12 ページ。PDF の 14 ページ目)。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」詳細説明資料(2026 年 6 月)の 4 ページ(PDF の 5 ページ目)。「2024年12月末をもってユーロ円TIBORは恒久的な公表停止に至りました」「一方、日本円TIBORは、引き続き公表を継続していきます」としています。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「例2:1年未満のOIS 清算取引で、満期時のみに利払いを行うケース」(6 ページ。PDF の 8 ページ目)。 ↩
-
日本銀行「(日銀レビュー)店頭デリバティブ取引データからみた通貨スワップ市場:感染症拡大の影響とその後の回復を中心に」(2021 年 5 月)の 2 ページ「通貨スワップ取引の概要」。ドル/円のベーシス・スワップは、元本の交換に加え、米ドルと円の 3 か月参照金利(円は通貨ベーシスを加算)を交換するとしています。 ↩