貸出や金利スワップで TIBOR を参照する金融機関、事業法人、機関投資家は、情報提供会社から値を受け取って取引に使います。
TIBOR の定義と 2 つの性質
TIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate)は、銀行どうしが無担保で資金を貸し借りするときの、期間ごとの金利(ターム物金利)の水準を表す指標金利です1。今の TIBOR は日本円 TIBOR で、1 週間物、1 か月物、3 か月物、6 か月物、12 か月物の 5 つの期間があります2。たとえば 3 か月物の値は、銀行が別の銀行に 3 か月の期間で無担保の資金を貸すときの金利の実勢を表します。指標金利の役割と種類は、指標金利とはで扱います。
TIBOR には、TONA(無担保コール翌日物金利)とは違う性質が 2 つあります。1 つ目は、銀行が他の銀行に無担保で貸すときのターム物金利なので、銀行の信用リスクを含むことです3。2 つ目は、変動金利の利息を計算する期間が始まる前に値が決まることです3。期間の初めに利率が決まるため、借り手と貸し手は、その期間に受け払いする利息の額を前もって知ることができます。このような決め方を前決めといいます。一方で、TONA の後決め複利は、金利を払う日の直前まで利率が決まりません1。
運営機関と、呈示から公表までの流れ
TIBOR は、一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関が算出し、公表しています。もとは全国銀行協会が公表していましたが、より中立的な運営体制にするため、2014 年 4 月に設立された全銀協 TIBOR 運営機関に算出と公表の業務が移りました4。
毎営業日の手順は次のとおりです5。
- リファレンス・バンク(レートを呈示する金融機関)が、インターバンク市場の取引などをもとに、レートを運営機関に呈示します。
- 運営機関が、呈示されたレートから TIBOR を算出します。
- 運営機関が、契約を結んだ情報提供会社(情報ベンダー)に算出した値を伝え、情報提供会社が原則 13 時に公表します。
- 金融機関、事業法人、機関投資家などの利用者が、情報提供会社から TIBOR を受け取り、取引に使います。運営機関のウェブサイトにも、原則 16 時 30 分以降に参考情報として載ります。
図の説明
毎営業日の流れを、担う者ごとに並べた図です。リファレンス・バンクがレートを運営機関に呈示し、運営機関が呈示されたレートから TIBOR を算出して、契約を結んだ情報提供会社に伝えます。情報提供会社は原則 13 時に公表し、金融機関、事業法人、機関投資家などの利用者は、情報提供会社から受け取った TIBOR を取引に使います。運営機関のウェブサイトには、原則 16 時 30 分以降に参考情報として載ります。呈示から利用まで、値は 4 者の間を順に渡ります。
リファレンス・バンクは毎年の公募で選ばれ、2026 年度は 15 の金融機関です。リファレンス・バンクは、運営機関の行動規範などを守ることを求められます5。
呈示レートから TIBOR を求める
運営機関は、呈示されたレートのうち、最も高い 2 つと最も低い 2 つを除き、残りを単純平均した値を TIBOR として公表します。平均の値は小数第 6 位を四捨五入し、小数第 5 位までにします5。
15 の金融機関 A〜O が、3 か月物について次のレートを呈示した架空の例で考えます。
| 金融機関 | 呈示レート(%) | 扱い |
|---|---|---|
| A | 1.30 | 除く(高いほうの 2 つ) |
| B | 1.20 | 除く(高いほうの 2 つ) |
| C | 1.10 | 平均に使う |
| D | 1.10 | 平均に使う |
| E | 1.08 | 平均に使う |
| F | 1.07 | 平均に使う |
| G | 1.05 | 平均に使う |
| H | 1.05 | 平均に使う |
| I | 1.05 | 平均に使う |
| J | 1.03 | 平均に使う |
| K | 1.02 | 平均に使う |
| L | 1.00 | 平均に使う |
| M | 1.00 | 平均に使う |
| N | 0.95 | 除く(低いほうの 2 つ) |
| O | 0.90 | 除く(低いほうの 2 つ) |
平均に使う 11 のレートを足すと 11.55 になり、11 で割ると 1.05 です。この日の 3 か月物の TIBOR は 1.05000% になります。15 のレートをすべて平均すると 1.06% になり、端の 4 つを除いた値より 0.01% 高くなります。
呈示レートの決め方
リファレンス・バンクは、呈示するレートを、決められた優先順位でデータを見て決めます。上から順に見て、データがあるところで呈示レートを決めるため、滝の水が上から下に流れる様子になぞらえて、ウォーターフォール構造と呼びます。日本円 TIBOR の順位は次のとおりです6。
| 順位 | 見るデータ |
|---|---|
| 1 | 無担保コール市場のデータ(当日の実際の取引、気配値、過去の実際の取引の順) |
| 2 | 無担保コール市場に準じるインターバンク市場のデータ |
| 3 | ホールセール市場を含む関連市場のデータ |
| 4 | 専門家判断(順位 1〜3 のデータがすべてないときだけ) |
順位 2 は、本邦オフショア市場と銀行間の譲渡性預金(NCD)市場の当日の実際の取引、本邦オフショア市場の気配値、両市場の過去の実際の取引の順に見ます。順位 3 の関連市場は、NCD 取引(一部を除く)、大口定期預金取引、短期国債市場、GC レポ市場、OIS(Overnight Index Swap)市場です6。
ウォーターフォール構造は、2017 年 7 月の「全銀協TIBOR改革」で入りました。改革の前は、実際の取引のデータがないときに、取引以外の情報を加えた専門家判断でレートを決めていました。その決め方が具体的に公表されておらず、透明性が高くないとの懸念があったため、順位を定めて客観的に決めるようにしました7。運営機関によると、改革の後に順位 4 の専門家判断で呈示レートを決めたことはありません6。順位 4 は、大きな災害で市場が急に混乱したときのように、順位 1〜3 のデータがない場面に備えて残しています6。
金融商品取引法による規制
TIBOR は、金融商品取引法の特定金融指標です。特定金融指標は、信頼性が下がると日本の資本市場に重大な影響を及ぼすおそれがあるとして、内閣総理大臣が定める金融指標です8。内閣総理大臣は、特定金融指標を算出して公表する者を、特定金融指標算出者に指定できます9。指定された者は、算出の方法や、情報提供者(TIBOR ではリファレンス・バンク)の行動規範などを定めた業務規程について、内閣総理大臣の認可を受けなければなりません10。TIBOR は 2015 年 5 月に特定金融指標となり、金融庁の規制の対象になりました4。金融庁の一覧では、2024 年 7 月 8 日時点の特定金融指標算出者は、全銀協 TIBOR 運営機関と株式会社QUICKベンチマークスの 2 社です11。
運営機関は、証券監督者国際機構(IOSCO)が 2013 年 7 月に公表した「金融指標に関する原則の最終報告書」(IOSCO 原則)を遵守しているかを毎年見直し、その結果を公表しています。2026 年 3 月 31 日の公表では、IOSCO 原則を遵守しているとしています12。
日本円とユーロ円の TIBOR
TIBOR には、かつて日本円 TIBOR とユーロ円 TIBOR の 2 種類がありました。ユーロ円 TIBOR は 2024 年 12 月末で公表を恒久的に停止し、今は日本円 TIBOR だけが公表されています2。2 つの違いは次のとおりです14。
| 項目 | 日本円 TIBOR | ユーロ円 TIBOR |
|---|---|---|
| 実勢を反映する市場 | 無担保コール市場 | 本邦オフショア市場 |
| 期間 | 1 週間物、1 か月物、3 か月物、6 か月物、12 か月物 | 同じ 5 つ |
| 金利の日数 | 365 日ベース | 360 日ベース |
| 公表の期間 | 1995 年 11 月から | 1998 年 3 月から 2024 年 12 月末まで |
ユーロ円 TIBOR を止めたのは、呈示レートを、反映するはずの本邦オフショア市場のデータで決める割合が低かったためです。2024 年 7 月末時点で、本邦オフショア市場の円建ての預け金とコールの取引残高は約 0.4 兆円で、日本円 TIBOR が反映する無担保コール市場の約 31.7 兆円より小さい状態が続いていました15。運営機関は、2018 年 10 月からの市中協議を経て、2024 年 3 月に公表の停止を決め16、全 5 期間の最後の公表は 2024 年 12 月 30 日でした17。
公表の停止に合わせて、清算の仕組みも変わりました。日本証券クリアリング機構(JSCC)は、ユーロ円 TIBOR を参照する金利スワップを、2024 年 11 月 25 日に TONA を参照する OIS へ一括して変換しました。金融庁は 2025 年 2 月に、3 か月物と 6 か月物のユーロ円 TIBOR を変動金利にする取引を、清算集中義務の対象から外しました18。清算集中義務は、一定の店頭デリバティブ取引について、金融商品取引業者等が清算機関に債務を負担させなければならないとする義務です19。
日本円 TIBOR については、運営機関は公表を続ける指標と位置付けており、公表の停止は検討しておらず、検討する予定もないとしています20。
貸出と金利スワップでの使われ方
日本円 TIBOR は、貸出とデリバティブで多く使われています。運営機関が約 280 の金融機関を対象にした調査では、2021 年 12 月末に日本円 TIBOR を参照していた貸出の残高は 119.8 兆円、デリバティブの想定元本は 180.4 兆円でした21。清算機関の JSCC は、日本円 TIBOR の 1 か月物、3 か月物、6 か月物を変動金利にする円の金利スワップを清算しています22。
TIBOR を変動金利にする取引では、計算期間が始まる前に決まった TIBOR から、その期間の利息を計算します。想定元本 100 億円の金利スワップで、変動金利が 3 か月物の日本円 TIBOR、計算期間が 90 日の回の架空の例で考えます。金利の日数は 365 日ベースで数えます(日数計算の慣行)23。その期間に使う TIBOR が 1.05% なら、変動金利の利息は次のとおりです。
次の回の TIBOR が 1.25% に上がると、同じ 90 日の利息は 30,821,918 円になり、変動金利を払う側の支払いは 4,931,507 円増え、受け取る側の受け取りは同じ額だけ増えます。反対に TIBOR が 0.85% に下がると利息は 20,958,904 円になり、払う側の支払いと受け取る側の受け取りは 4,931,507 円ずつ減ります。
円 LIBOR(London Interbank Offered Rate)の代わりの候補には、2019 年の市中協議で、TIBOR、TORF(東京ターム物リスク・フリー・レート)、TONA の後決め複利の 3 つが選ばれました24。
運営機関は、日本円 TIBOR を参照する契約の当事者が、フォールバック条項を入れることを検討すべきとしています。フォールバック条項は、万一の公表停止に備えて、代わりに使う金利を前もって契約で決めておく条項です。運営機関は、代わりの金利の候補に、TONA の後決め複利と、ターム物のリスク・フリー・レート(RFR。TORF を想定)を挙げています25。フォールバックの仕組みとスプレッドの調整は、フォールバックとスプレッド調整で扱います。
注
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日本銀行金融市場局・金融機構局、金融庁総合政策局・監督局「円LIBOR移行対応の振り返りと今後の取り組み」(日銀レビュー 2022-J-8、2022 年 5 月)の 3 ページ(本文と【図表 2】「代替金利指標の3つの選択肢」)。 ↩ ↩2
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」詳細説明資料(2026 年 6 月)の 1 ページ(「全銀協TIBORとは」と<日本円TIBORについて>の表と注)。 ↩ ↩2
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の 7 ページ「(1)IBOR とOIS レートの性質の違い」。 ↩ ↩2
-
日本銀行金融市場局・金融機構局、金融庁総合政策局・監督局「円LIBOR移行対応の振り返りと今後の取り組み」(日銀レビュー 2022-J-8、2022 年 5 月)の 8 ページ、脚注 28。 ↩ ↩2
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」詳細説明資料(2026 年 6 月)の 2 ページ(「全銀協TIBORの算出・公表手続き」「リファレンス・バンクとは?」「TIBORの算出方法」と注)。 ↩ ↩2 ↩3
-
同じ資料の 13 ページ(FAQ①「全銀協TIBORのレートは、客観性が保たれていますか?」)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 2 条第 40 項。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 85 第 1 項。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 87 第 1 項(業務規程の認可)、第 2 項第 1 号(算出の方法)、第 3 号(情報提供者の行動規範)。 ↩ ↩2
-
金融庁「特定金融指標算出者一覧」(令和 6 年 7 月 8 日現在)。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「全銀協TIBOR改革」の「IOSCO原則の遵守状況」(「『金融指標に関する原則の最終報告書』(IOSCO原則)の遵守状況について(2026年3月31日公表)」)と、冒頭の「全銀協TIBOR改革」の説明。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」詳細説明資料(2026 年 6 月)の 1 ページの<日本円TIBORについて>の表。ユーロ円 TIBOR の列は、同じ運営機関の 2024 年 6 月の版の 1 ページの<日本円TIBORとユーロ円TIBOR>の表による(2026 年 6 月の版はユーロ円 TIBOR の列を載せていない)。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」詳細説明資料(2026 年 6 月)の 8 ページ(原則 7 の対応状況と注の※1)。 ↩
-
同じ資料の 10 ページ(「ユーロ円TIBORに係る主な実施事項」の表)。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「全銀協TIBOR改革」の「全銀協TIBOR改革Next」の説明(「最終公表日は12月30日」)。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「全銀協TIBOR改革」の「国内外の動向」の 2024 年 11 月(日本証券クリアリング機構)と 2025 年 2 月(金融庁)の行。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 62。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」詳細説明資料(2026 年 6 月)の 15 ページ(FAQ③)。 ↩
-
同じ資料の 3 ページ(「全銀協TIBORエクスポージャー調査の結果概要について」の日本円TIBOR の表。全業態合計、2021 年 12 月末基準)。 ↩
-
日本証券クリアリング機構「清算対象取引(金利スワップ)」の条件の 11(変動金利の日数計算式は Actual/365(Fixed))。日本円 TIBOR が 365 日ベースであることは、全銀協 TIBOR 運営機関の詳細説明資料(2026 年 6 月)の 1 ページの表。 ↩
-
日本銀行金融市場局・金融機構局、金融庁総合政策局・監督局「円LIBOR移行対応の振り返りと今後の取り組み」(日銀レビュー 2022-J-8、2022 年 5 月)の 3 ページ(本文と【図表 2】)。市中協議を行ったのは日本円金利指標に関する検討委員会で、正式名は 2 ページに出る。 ↩
-
一般社団法人全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」詳細説明資料(2026 年 6 月)の 9 ページ(日本円 TIBOR からのフォールバックの場合の「当運営機関の見解」)、14 ページ(FAQ②)、17 ページ(「日本円TIBOR参照契約へのフォールバック条項の導入について」)。 ↩