変動金利の貸出や金利スワップを扱う銀行の営業担当者、トレーディングや決済の担当者は、契約に書かれた指標金利と期間から利息の額を確かめます。
利息の額を決める指標金利
想定元本 50 億円で、3 か月ごとに変動金利の利息を受け払いする取引の架空の例で考えます。参照する指標金利が 3 か月物のターム物金利で、期間の初めに年 0.40% と公表されれば、その期間の利息は 50 億円 × 0.40% × 0.25 で 500 万円と、期間の初めに決まります2。公表された値が年 0.50% なら 625 万円です。同じ取引で、期間中の毎日の翌日物金利を複利でつないだ利率を参照する方式にすると、額が分かるのは期間の最後の日です1。この 2 つの違いは次の節で説明します。
図の説明
図は時間順に読みます。まず、両社が契約で参照金利と期間を合意します(点線。矢印の向きに意味はありません)。次に、期間の初めに運営機関が 3 か月物の値を公表します(点線。F 社も同じ値を参照します)。最後に、F 社が E 銀行に利息を払います(実線)。指標金利の値は、運営機関から取引の当事者へ渡る情報で、お金は F 社から E 銀行にだけ動きます。
取引の当事者は、参照する指標金利とその期間を契約で決めておき、利息を計算する期間ごとに公表された値を使います。全銀協 TIBOR 運営機関は、TIBOR(東京銀行間取引金利)を、貸出やデリバティブ取引などの幅広い取引で使われている円の指標金利の 1 つと説明しています3。
指標金利の値は、運営機関が決まった方法で算出して公表します。TIBOR のような銀行間の指標金利(IBOR)では、複数の銀行がそれぞれ運営機関にレートを出し、運営機関がそれらをまとめて値を決めます。レートを呈示する銀行(パネル銀行)は、TIBOR ではリファレンス・バンクと呼ばれます3。一方、日本円の TONA(無担保コール翌日物金利)は、日本銀行が実際の取引をもとに算出して公表しています45。
翌日物金利とターム物金利
翌日物金利は、資金を受け渡した日の翌営業日に返す条件の貸し借りの金利です。日本銀行のコール市場の統計では、当日に約定して当日に資金を受け渡し、翌営業日に返す取引のレートが翌日物(O/N 物)で、期間が 2 営業日以上の取引のレートは期日物・ターム物です6。TONA は、この翌日物の取引のうち、金融機関どうしが担保なしで貸し借りする取引の金利です7。
ターム物金利は、1 週間や 3 か月のように、1 日より長い期間について示す金利です。日本円 TIBOR と TORF(東京ターム物リスク・フリー・レート)は、1 か月物、3 か月物のような期間(テナー)ごとに値を公表するターム物金利です38。最初の節の例の 500 万円のように、3 か月物を参照する取引では、期間の初めに決まった 3 か月物の値で、その期間の利息がすべて決まります1。期間の初めに利率が決まるこの方式を前決めといいます。
翌日物金利を参照する取引では、期間の利息が期間の終わりまで決まりません。OIS は、一定期間の毎日の翌日物金利を複利で計算した変動金利と、固定金利を交換します。その変動金利の受け払いの額は、期間の最後の日に確定します1。期間の終わりに利率が決まるこの方式を後決めといいます。日本円の指標金利のうち、TIBOR と TORF は前決めの金利で、TONA は後決め複利で使う金利です9。複利の計算は後決め複利の計算で扱います。
無担保の金利と有担保の金利
指標金利は、元になる貸し借りに担保があるかどうかでも分かれます。日本円の TONA7、英ポンドの SONIA(Sterling Overnight Index Average)10、ユーロの €STR(euro short-term rate)は、担保のない(無担保の)貸し借りの金利から算出します。SONIA は翌日物で担保のないポンドの預金取引を対象にし11、€STR はユーロ圏の銀行が担保なしで翌日物のユーロを借りる費用を表します12。一方、米ドルの SOFR(Secured Overnight Financing Rate)は、米国債を担保にした翌日物のレポ取引(債券を担保にした資金の貸し借り)の金利から算出します。算出するのはニューヨーク連邦準備銀行(ニューヨーク連銀)です13。
無担保の金利には、資金の借り手の信用リスクが入ります。日本円の指標金利の検討では、ほかの通貨で有担保の指標金利が選ばれ、日本円が無担保の指標金利になった場合に、取引の実務で問題が起きないかも論点になりました。リスク・フリー・レートに関する勉強会の 2016 年の報告書は、TONA(報告書の言い方では無担保コール O/N 物レート)に含まれる信用リスクは限られていて、有担保の指標金利との差はわずかだとしています。そのうえで、通貨ごとの指標金利で担保の有無がそろっているのは望ましいものの、取引の実務で欠かせないことではない、と結論づけました14。
リスク・フリー・レート(RFR)の考え方
リスク・フリー・レート(RFR)は、銀行の信用リスクをほとんど含まない指標金利です。金融安定理事会(FSB)は 2014 年の報告書で、IBOR のような主要な指標金利をできるだけ実際の取引のデータに基づくものにすることと、RFR を作ることを提言しました4。
IBOR と RFR は性質が違います。IBOR は、銀行がほかの銀行に担保なしで貸すときのターム物の金利なので、銀行の信用リスクを含みます。一方、デリバティブ取引の多くは、当事者が取引で持ちたいリスクから見て、銀行の信用リスクまで含む金利を参照する必要がありません。そのため、日本円 OIS の資料は、デリバティブ取引には RFR や OIS レートが適しているとしています1。FSB の報告書も、RFR は主にデリバティブ取引で使うと想定していました4。
日本では、リスク・フリー・レートに関する勉強会が 2016 年 12 月に、日本銀行が算出・公表している無担保コール O/N 物レートを日本円の RFR に特定しました5。この金利が TONA です。RFR は翌日物の金利なので、3 か月のような期間の初めに利率を決めたい取引には、そのままでは使えません15。そのため日本では、TONA を元にした日本円 OIS の取引レートから、ターム物の RFR として TORF を算出しています8。
その後、2017 年 7 月に英国金融行為監督機構(FCA)の長官が、2021 年末より後は LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)を続けるための権限を使わないと表明しました16。LIBOR の公表の終了と移行の経緯はLIBOR からの移行で扱います。
主な指標金利の比較
主な指標金利を並べると、次の表になります。日本円の 3 つ(TONA、TORF、日本円 TIBOR)は、日本円金利指標に関する検討委員会が 2019 年の市中協議で、円 LIBOR の代わりの候補として選んだものです9。ユーロ円 TIBOR は、2024 年 12 月に全期間の公表を恒久的に停止しました17。そのため、表には日本円 TIBOR だけを載せています。
| 指標金利 | 通貨 | 期間 | 担保 | 元になる金利や取引 | 算出・公表 |
|---|---|---|---|---|---|
| TONA | 円 | 翌日物 | 無担保 | 無担保コール市場の翌日物の取引 | 日本銀行 |
| TORF | 円 | 1 か月、3 か月、6 か月 | 元の TONA が無担保 | 日本円 OIS の約定レートと気配レート | QUICK ベンチマークス |
| 日本円 TIBOR | 円 | 1 週間〜12 か月の 5 つ | 無担保 | リファレンス・バンクが呈示する、無担保コール市場の実勢を表すレート | 全銀協 TIBOR 運営機関 |
| SOFR | 米ドル | 翌日物 | 有担保(米国債) | 米国債を担保にした翌日物のレポ取引 | ニューヨーク連銀 |
| €STR | ユーロ | 翌日物 | 無担保 | ユーロ圏の銀行の翌日物の無担保の借入 | 欧州中央銀行 |
| SONIA | 英ポンド | 翌日物 | 無担保 | 翌日物の無担保のポンドの預金取引 | イングランド銀行 |
TORF と TONA は銀行の信用リスクをほとんど含まず、TIBOR は含みます9。TORF は、パネル銀行の呈示レートではなく日本円 OIS の市場の取引レートを使う点が特徴で、取引が成立しないときは気配レートを使います8。
注
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の 7〜8 ページ、「(1)IBOR とOIS レートの性質の違い」の「①IBOR の性質」と「②OIS レートの性質」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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計算を簡単にするため、3 か月を 0.25 年とします。実際の取引では、実日数を 365 日などで割って期間の長さを数えます(リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の 5 ページ、「変動金利の計算方法」)。 ↩
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全銀協 TIBOR 運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望(2024年6月)詳細説明資料」の 1 ページ(PDF の 2 ページ目)、「①全銀協TIBORとは」、「(ご参考)IBOR(アイボー)とは?」と「〇リファレンス・バンクとは?」。 ↩ ↩2 ↩3
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の 1 ページ、「1.はじめに」と「(わが国における取組みの内容)」。 ↩ ↩2 ↩3
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円のリスク・フリー・レートの特定に関する報告書」(2016 年 12 月)の 1 ページ、「Ⅰ.概要」。 ↩ ↩2
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日本銀行金融市場局「「コール市場関連統計」の解説」の 1 ページ、「1.公表内容」の(1)の表。 ↩
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QUICK ベンチマークス「TORF概要書」(2021 年 4 月 21 日制定、2021 年 10 月 13 日改定)の 4 ページ、「1.1 概要」と「1.3 TORFの説明」。 ↩ ↩2 ↩3
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日本銀行金融市場局・金融機構局、金融庁総合政策局・監督局「円LIBOR移行対応の振り返りと今後の取り組み」(日銀レビュー 2022-J-8、2022 年 5 月)の 3 ページの本文と図表 2「代替金利指標の3つの選択肢」。 ↩ ↩2 ↩3
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円のリスク・フリー・レートの特定に関する報告書」(2016 年 12 月)の 6 ページ、「(参考1)他の主要通貨圏におけるリスク・フリー・レートの候補」の英国の説明(SONIA の正式名称)。 ↩
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Bank of England「SONIA key features and policies」の "(ii) Statement of methodology"(対象になる取引の条件)。 ↩
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European Central Bank「Overview of the euro short-term rate (€STR)」の冒頭の説明。 ↩
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Federal Reserve Bank of New York「Additional Information about Reference Rates Administered by the New York Fed」の "Primary Data Inputs"(SOFR の説明。見出しの冒頭)と "Data Contingencies"(算出する主体)。 ↩
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円のリスク・フリー・レートの特定に関する報告書」(2016 年 12 月)の 4 ページ、「② 他通貨圏におけるリスク・フリー・レートとの関係性」。 ↩
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の 1〜2 ページ、「(わが国における取組みの内容)」(ターム物レートに代わる参照金利にするには期間構造が必要)。 ↩
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の 2 ページ、「(金利指標の存続に関する不透明感の高まり)」。 ↩
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全銀協 TIBOR 運営機関「全銀協TIBOR改革」の「全銀協TIBOR改革Next」の説明。 ↩