英ポンドやユーロの契約で翌日物の金利を使って利息を計算するとき、その金利が何をもとに算出され、いつ公表されるかは、契約の条件を読む場面と日々の値を取り込む場面で必要になります。
€STR と SONIA は何の金利か
€STR(euro short-term rate)と SONIA(Sterling Overnight Index Average)は、どちらも担保を付けずに翌日まで資金を借りるときの金利から作る指標金利です。1 日だけの貸し借りの金利なので、翌日物金利と呼ばれます。
€STR は、ユーロ圏の銀行がユーロを担保なしで翌日まで借りるときの、ホールセール(金融機関どうしなどの大口の取引)での調達コストを表します1。SONIA は、信用リスクや流動性リスクがごく小さい条件で、英ポンドの短期のホールセールの資金に払われる金利を測るものです2。
算出して公表する運営者は、€STR が欧州中央銀行(ECB)3、SONIA がイングランド銀行です4。どちらも中央銀行が自分で運営しています。
TONA や SOFR を含む主な指標金利の違い(通貨、担保の有無、運営者)は、指標金利とはの表にまとめています。
算出の対象になる取引
€STR と SONIA は、どちらも銀行などが中央銀行に毎日報告する取引のデータから算出します。報告の仕組みと、対象にする取引の条件は次のとおりです。
| 項目 | €STR | SONIA |
|---|---|---|
| もとになるデータ | ユーロ圏の短期金融市場の統計(MMSR)で銀行が報告する取引5 | イングランド銀行の短期金融市場の日次のデータ収集(Form SMMD)で報告された取引6 |
| 取引の種類 | 金融機関を相手にした、担保のない固定金利の預金による借入5 | 担保のない英ポンドの預金取引6 |
| 期間 | 翌日物(取引した日に受け渡し、翌営業日が満期)1 | 1 営業日の満期で、英国時間の 0 時から 18 時までに約定し、同じ日に受け渡すもの6 |
| 金額 | 100 万ユーロを超えるもの5 | 2,500 万ポンド以上のもの6 |
€STR は、銀行が資金を借りる側に立つ取引だけを使います。借りた相手は、ほかの銀行に限らず、金融機関全般です5。SONIA も、銀行がほかの金融機関や機関投資家から翌日物の英ポンドを借りるときの金利の平均を表します7。
SONIA の対象は、2018 年 4 月の見直しで今の範囲になりました8。
取引量で加重した刈り込み平均の求め方
€STR と SONIA は、取引量で加重した刈り込み平均(trimmed mean)で求めます。取引を金利の低い順に並べ、取引量で見て下から 25% と上から 25% の取引を除き、残った真ん中の 50% の取引の金利を、取引量で加重して平均します56。
5 つの取引からなる架空の例で考えます。取引量の合計は 1,000 億ユーロなので、下から 250 億ユーロと、上から 250 億ユーロの取引を除きます。
| 順 | 金利(%) | 取引量(億ユーロ) | 足した取引量(億ユーロ) | 除く量(億ユーロ) | 残す量(億ユーロ) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1.80 | 100 | 100 | 100 | 0 |
| 2 | 1.85 | 200 | 300 | 150 | 50 |
| 3 | 1.88 | 300 | 600 | 0 | 300 |
| 4 | 1.90 | 250 | 850 | 100 | 150 |
| 5 | 1.95 | 150 | 1,000 | 150 | 0 |
下の 250 億ユーロは、1 番目の取引の 100 億ユーロと、2 番目の取引のうち 150 億ユーロです。上の 250 億ユーロは、5 番目の取引の 150 億ユーロと、4 番目の取引のうち 100 億ユーロです。2 番目と 4 番目の取引のように、除く範囲の境目にまたがる取引は、境目の内側の量だけを残します。€STR では、境目の取引の量は、除いた後にちょうど全体の 50% の量が残るように、比例で分けます5。
残った 500 億ユーロの金利を取引量で加重して平均します。
この例の値は 1.883% です。5 つの取引の全部を取引量で加重して平均すると 1.8815% になり、刈り込み平均とは値が違います。
刈り込み平均は、端にある取引の金利が、除く範囲の中で動くだけなら変わりません。この例で 5 番目の取引の金利が 1.95% から 3.00% に変わっても、除く取引は同じなので、値は 1.883% のままです。全部の取引の加重平均なら、同じ変化で 1.8815% から 2.039% に上がります。
公表する値の桁は、€STR が小数第 3 位まで5、SONIA が小数第 4 位までです6。米ドルの SOFR は、同じく取引量を使いますが、刈り込み平均ではなく中央値で求めます。
公表の時刻と日
€STR も SONIA も、ある営業日の取引の金利を、次の営業日の朝に公表します。
| 項目 | €STR | SONIA |
|---|---|---|
| 算出する日 | TARGET2 の営業日9 | ロンドンの営業日10 |
| 公表の時刻 | 翌営業日の午前 9 時(中央ヨーロッパ時間)まで9 | 翌営業日の午前 9 時(英国時間)10 |
| 一緒に公表する値 | 刈り込む前の取引の総額、報告した銀行の数、取引の件数、上位 5 行の取引の割合、算出の方法(通常か非常時か)、25% と 75% の位置の金利9 | 取引の総額、10%、25%、75%、90% の位置の金利10 |
| 公表の後に値を直す条件 | 誤りで値が 2bp(0.02%)を超えて変わるとき。同じ日の午前 11 時まで11 | 誤りで値が 2bp 以上変わるとき。同じ日の正午まで、1 日 1 回まで12 |
TARGET2 は、ユーロ圏の中央銀行が運営する大口の資金決済のシステムです。2023 年 3 月に、後継の T2 に代わりました13。€STR は、TARGET2 の営業日に算出します。
SONIA は、報告する銀行が前の営業日の取引のデータを午前 7 時までに送り7、イングランド銀行が確かめて14、午前 9 時に公表します。流れは図 1 のとおりです。
図の説明
SONIA の算出の日の流れを、時刻の順に示した図です。報告する銀行が前の営業日の取引のデータを送り、イングランド銀行が確かめて誤りが疑われる取引を問い合わせたあと、SONIA を公表します。節目は公表です。公表の後に値を直すのは、誤りで値が大きく変わるときだけで、直す時刻にも期限があります。時刻は上の表と同じです。
取引の日と公表の日の関係を、曜日で見ます。たとえば、金曜日の取引から求めた SONIA は、土曜日と日曜日が営業日でなければ、次の営業日の月曜日の朝に公表されます。€STR も、取引の翌営業日に公表する点は同じです。
SONIA も €STR も、データが足りない日は、あらかじめ決めた非常時の方法で算出します。
深掘りデータが足りない日の算出の方法
€STR は、報告した銀行が 20 行より少ないとき、または上位 5 行の取引が全体の 75% 以上を占めるときに、非常時の方法に切り替えます。その日の少ない取引から求めた値と前の営業日の値を、取引量で加重して平均します。その日に ECB の政策金利が変わったときは、前の営業日の値を政策金利の変化に合わせて調整してから使います15。
SONIA は、有効なデータを送らなかった報告者が 5 以上で、かつ対象の取引量が直近 5 営業日の平均の 70% 未満のときなどに、非常時の方法を使います。そのときは、直近 5 公表日の SONIA とイングランド銀行の政策金利(Bank Rate)の差を平均します。差が最も大きい日と最も小さい日は除きます。この平均をその日の政策金利に足した値を SONIA にします16。
複利の平均と指数
€STR と SONIA は 1 日ごとの金利です。たとえば SONIA は、スワップの取引や、英ポンドの変動金利の債券(変動利付債)の利息の計算に使われています7。日々の金利から利息の期間の金利を求める計算は、後決め複利の計算で扱います。
イングランド銀行は、2020 年 8 月 3 日から SONIA Compounded Index を公表しています。日々の金利を複利で積み上げた金利の計算を簡単にするためです17。この指数は、SONIA を見直した 2018 年 4 月 23 日の値を 100.00000000 とし、その後の SONIA を複利で積み上げた値です。ある営業日の指数は、その日の午前 9 時に公表します。期間の始めの日と終わりの日の指数から、その期間の SONIA の複利の金利を求められます18。
ECB は、2021 年 4 月 15 日から、€STR を複利で積み上げた平均の金利と、複利の指数を公表しています。平均の金利は、決まったいくつかの期間ごとに出しています19。
経緯と、後継の金利としての位置
SONIA は 1997 年 3 月に始まりました。イングランド銀行が運営を引き受けたのは 2016 年です7。イングランド銀行は、2015 年 7 月、2016 年 10 月、2017 年 2 月に、SONIA の見直しについて意見を募りました8。英ポンドの LIBOR に代わる金利は、作業部会(Working Group on Sterling Risk-Free Reference Rates)が検討しました。この部会は、2017 年 4 月に、見直した後の形の SONIA を英ポンドのリスク・フリー・レート(RFR)に勧めました20。
イングランド銀行は、2018 年 4 月 23 日に SONIA を見直しました。それまでの SONIA はブローカー(仲介業者)を通した取引だけを対象にしていました。見直しでは、取引の当事者どうしが直接に交渉した取引も対象に加え、平均の求め方を取引量で加重した刈り込み平均に変えました8。
€STR は、ECB が 2017 年 9 月に作ると決めた金利です21。ECB、欧州証券市場監督機構(ESMA)、欧州委員会、ベルギーの金融サービス市場庁は、民間の作業部会(working group on euro risk-free rates)を立ち上げました。この部会は、2018 年 9 月 13 日に、€STR をユーロ圏の RFR に勧めました。ECB は 2019 年 10 月 2 日に、10 月 1 日の取引を反映した最初の €STR を公表しました22。
それまでユーロの翌日物の指標金利だった EONIA(euro overnight index average)は、€STR に置き換わりました。EONIA を運営していた European Money Markets Institute(EMMI)は、€STR の公表が始まった 2019 年 10 月 2 日から、算出の方法を「€STR に 8.5bp を足した値」にしました。市場参加者が €STR に移るための時間を取るためで、EONIA は 2022 年 1 月 3 日に終わりました23。
ユーロには、EURIBOR(euro interbank offered rate)という別の指標金利もあります。ユーロ圏の作業部会は 2021 年 5 月 11 日に、EURIBOR が恒久的に公表されなくなる場合に備えて、契約のフォールバック(代わりに使う金利)に €STR をもとにした金利を使うことを勧めました22。
英ポンドとユーロの LIBOR は、算出のもとになる銀行の呈示が 2021 年末に終わりました。英ポンドの一部の期間は、既存の契約のために算出の方法を変えた合成 LIBOR として 2024 年 3 月まで公表されました24。英国金融行為監督機構(FCA)は、LIBOR に代わる RFR の一覧に、英ポンドの SONIA とユーロの €STR を挙げています25。
注
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」(2021 年 3 月)の 3.1「Statement of underlying interest」。 ↩ ↩2
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Definition of SONIA」の (i)「Statement of underlying interest」。 ↩
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」の 2「€STR administrator」。 ↩
-
Bank of England「SONIA interest rate benchmark」の「Overview」("We are the administrator for SONIA")。 ↩
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」の 3.2「Statement of methodology」。MMSR は Regulation (EU) No 1333/2014(短期金融市場の統計に関する ECB の規則)に基づく報告です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Definition of SONIA」の (ii)「Statement of methodology」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
-
Bank of England「SONIA interest rate benchmark」の「Overview」と「How we produce SONIA」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Bank of England「Administration of SONIA」の「Reform of SONIA in 2018」。 ↩ ↩2 ↩3
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」(2021 年 3 月)の 3.1 と 5.1「Standard daily publication arrangements」。算出する日の語は文書のとおり TARGET2 です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Daily publication arrangements」と「Definition of SONIA」の (ii)。 ↩ ↩2 ↩3
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」の 7.1「Republication policy」。 ↩
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Republication policy」。 ↩ ↩2
-
European Central Bank「What is T2?」の冒頭と「TARGET and TARGET2: the forerunners of T2」。 ↩
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Data quality」("The daily production of SONIA involves data validation and plausibility checking … from 07:00 each morning")。 ↩
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」の 6.1 と 6.2。 ↩
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Short-term contingency arrangements」。 ↩ ↩2
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Background」と、「SONIA interest rate benchmark」の「Overview」。 ↩
-
Bank of England「SONIA key features and policies」の「Definition of SONIA Compounded Index」、「Daily publication arrangements」と「Calculating compounded SONIA rates from the SONIA Compounded Index」。 ↩
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」の 5.2 と注 5、「Euro short-term rate (€STR)」の「Compounded €STR average rates and index」。 ↩
-
Financial Conduct Authority「About LIBOR transition」の「Transition to alternative risk-free rates」。 ↩
-
European Central Bank「The euro short-term rate (€STR) methodology and policies」の 1「Background」。 ↩
-
European Central Bank「Working group on euro risk-free rates」の冒頭の説明と「€STR-based fallbacks for EURIBOR」。最初の €STR の公表日は「Euro short-term rate (€STR)」のページにも同じ記載があります。 ↩ ↩2
-
European Central Bank「How should the market transition from EONIA to the €STR?」の本文("modified EONIA’s methodology to become the €STR plus a fixed spread of 8.5 basis points")。 ↩
-
Financial Conduct Authority「About LIBOR transition」の冒頭と「Background to LIBOR being wound down」。 ↩
-
Financial Conduct Authority「About LIBOR transition」の「RFRs recommended as alternatives to LIBOR」の表。 ↩