OIS は、翌日物で資金を調達して固定金利の資産で運用する金融機関が、金利のずれを消したいときに使う取引です。
固定金利と翌日物金利の複利の交換
OIS は、金利スワップの一種で、固定金利と、一定期間の翌日物金利を複利で計算した変動金利を交換します1。翌日物金利は、今日借りて翌営業日に返す資金の金利です2。日本円の OIS は、日本銀行が公表する TONA(無担保コール翌日物金利)を参照します3。OIS の固定金利を OIS レートと呼びます1。固定金利と変動金利を交換する基本の仕組みは金利スワップで扱います。
A 銀行と G 証券が、想定元本 100 億円、期間 1 年の日本円の OIS を結ぶ架空の例で考えます。A 銀行は年 1% の固定金利を払い、TONA の複利で計算した変動金利を受け取ります。G 証券はその逆です。期間が 1 年なので、利息の受け払いは期間の終わりの 1 回だけです。想定元本は利息を計算するためだけに決める金額で、そのものは受け渡しません4。
変動金利の利率は、期間中の毎営業日の TONA を、期間の終わりにまとめて複利で積み上げて決まります。この決め方を後決め複利といいます。そのため、変動金利の利息の額は、期間の終わりの日になるまで分かりません5。複利の計算式、休日の扱い、日ごとの計算例は後決め複利の計算で扱います。
米ドルの OIS には、ニューヨーク連邦準備銀行(ニューヨーク連銀)が公表する SOFR(Secured Overnight Financing Rate)を参照するものがあります。米国の ARRC(Alternative Reference Rates Committee)は、OIS を含め SOFR を参照するデリバティブの市場では、複利で計算する方法がすでに慣行として根づいているとしています6。
1 年の OIS のキャッシュフロー
A 銀行から見ると、期間の終わりの支払は固定金利の利息 1 億円(100 億円 × 1%)で、約定のときに決まっています。受取は、期間中の TONA の複利の利率で決まります。利息は、想定元本 × 利率 × 期間の日数 ÷ 365 で求めます7。期間を 365 日とし、TONA の複利の利率が 1.1% になったと仮定すると、受取は 1.1 億円(100 億円 × 1.1% × 365 ÷ 365)です。
図の説明
TONA の複利の利率が 1.1% になったと仮定したときの、固定金利を払う A 銀行の受け払いです。開始日には、想定元本を含めて受け払いはありません。1 年後の期間の終わりに、A 銀行は固定金利の利息 1 億円を払い、TONA の複利で計算した変動金利の利息 1.1 億円を受け取ります。受け払いは期間の終わりの 1 回にまとまり、実際には差額の 0.1 億円だけを受け渡します。
同じ日の受け払いは、差額だけを受け渡します(差金決済)8。TONA の複利の利率を 3 通りに置くと、A 銀行の差し引きは次のとおりです。差し引きのプラスは A 銀行の受取、マイナスは A 銀行の支払です。
| TONA の複利の利率(仮定) | 受取:変動金利の利息(万円) | 支払:固定金利の利息(万円) | 差し引き(万円) |
|---|---|---|---|
| 0.9% | 9,000 | 10,000 | −1,000 |
| 1.0% | 10,000 | 10,000 | 0 |
| 1.1% | 11,000 | 10,000 | 1,000 |
差額を決済する日は、期間の終わりの日より後になります。日本銀行が事務局を務めるリスク・フリー・レートに関する勉強会(以下、勉強会)の資料の例では、期間の終わりの日(満期日)の午前 10 時ごろに前営業日の TONA の確報値が日本銀行から出てから、それを使って変動金利の額を計算します。差額の決済は満期日の 2 営業日後です9。
翌日物金利の見通しと損益
OIS で固定金利を払う側は、期間中の翌日物金利の複利の利率が OIS レートより高くなると得をし、低くなると損をします。前の節の例では、TONA の複利の利率が 1.1% なら A 銀行が 1,000 万円を受け取り、0.9% なら A 銀行が 1,000 万円を払います。固定金利を受け取る G 証券の損益は、A 銀行と符号が逆です。
OIS レートには、期間中の翌日物金利についての市場の見通しが強く表れます5。日本では、日本銀行が金融市場調節の方針を、「無担保コールレート(オーバーナイト物)」(TONA)がどの水準で推移するよう促すかという形で決めています10。そのため、金融政策の変更の見通しが変わると、日本円の OIS レートも動きます。日本銀行の金融システムレポートは、2025 年度の下期に 3 か月の OIS レートが上がった理由に、日本銀行の利上げが見込まれるようになったことを挙げています11。約定の後に市場の OIS レートが動くと、残りの期間の受け払いの見込みが変わり、取引の時価が動きます12。勉強会の資料は、金融政策決定会合(MPM)の 1 回ごとの結果を予想して組む OIS の取引を、MPM トレードとして紹介しています13。
OIS レートは、翌日物のリスク・フリー・レート(RFR)からターム物金利を作るもとにもなります。日本銀行の資料は、ターム物の RFR の例として、翌日物の RFR を後決め複利にしたものと引き換えに払う固定金利(OIS レート)と、金利先物の取引の価格から求める金利を挙げています14。日本円の OIS レートに基づくターム物金利には、TORF(東京ターム物リスク・フリー・レート)があります315。
金利のずれのヘッジと割引のカーブ
OIS の代表的な使い方は、翌日物金利に連動するコストで資金を調達し、固定金利の資産で運用している金融機関のヘッジです。固定金利を払い変動金利を受け取る OIS で、調達と運用の金利のずれを埋める使い方は、ALM(資産と負債の総合管理)スワップと呼びます1617。国債などの固定利付債を翌日物金利の資金で買う場合に、債券と同じ期間の OIS を組み合わせる使い方もあります。債券から受け取る固定金利を OIS で払い、代わりに翌日物金利の複利を受け取って、借入の金利と見合うようにする形を、アセット・スワップと呼びます16。
架空の例で考えます。C 銀行は、年 1.3% の利息を受け取る期間 1 年の固定利付債 100 億円を持ち、その資金を翌日物で借りて毎日借り換えています。借入の利率は、期間中の TONA の複利と同じとします。C 銀行が、想定元本 100 億円、固定金利 1% の OIS で固定金利を払い TONA の複利を受け取ると、1 年間の利ざやは次のとおりです。
| TONA の複利の利率(仮定) | OIS なしの利ざや(万円) | OIS の差し引き(万円) | OIS ありの利ざや(万円) |
|---|---|---|---|
| 0.9% | 4,000 | −1,000 | 3,000 |
| 1.0% | 3,000 | 0 | 3,000 |
| 1.1% | 2,000 | 1,000 | 3,000 |
OIS がなければ、TONA が上がると借入の利息が増え、利ざやは 1.1% のとき 2,000 万円に減ります。OIS を組み合わせると、借入の利息の増えた分を OIS の受取でまかなえるため、利ざやは TONA の水準によらず 3,000 万円(100 億円 × (1.3% − 1%))になります。反対に、TONA が 0.9% に下がると、OIS がなければ 4,000 万円だった利ざやが 3,000 万円にとどまります。OIS は利ざやを固定しますが、金利が下がったときに利ざやが増える分は手放すことになります。
OIS レートは、デリバティブの時価を求めるときの割引率にも使われます。現金の担保をやりとりする取引では、将来のキャッシュフローを OIS レートで割り引いて評価するようになっています18。担保付きのデリバティブを OIS レートによる割引のカーブで評価している場合は、同じ年限の OIS でその割引のカーブが動くリスクをヘッジできます19。
カウンターパーティ・リスクと清算
OIS の変動金利が参照する翌日物金利は、1 日だけの貸し借りの金利なので、含まれる銀行の信用リスクはごく限られています20。そのため OIS レートも、リスク・フリーに近い性質を持ちます21。ただし、OIS の取引そのものには、取引の相手が差額を払えなくなるカウンターパーティ・リスクがあります。
日本円の OIS は店頭デリバティブです。勉強会が 2018 年 3 月時点の情報でまとめた資料では、ほぼすべての取引を清算機関の日本証券クリアリング機構(JSCC)で清算していました22。清算機関が当事者の間に入って両方の相手方になるため、当事者どうしのカウンターパーティ・リスクを減らせます23。JSCC が清算するのは、TONA を参照する円の OIS のうち、JSCC の清算参加者どうしの取引で、期間や想定元本などの条件を満たすものです24。
日本円の OIS の取引の条件
勉強会の資料は、日本円の OIS の基本的な取引方式として、参照するのは TONA の確報値、想定元本は 10 億円単位、固定金利は 8 分の 1bp(1bp は 0.01%)刻み、休日は東京の休日としています825。利払いは、資料の時点では、期間が 1 年以上なら 1 年ごと、1 年未満なら満期の 1 回だけでした。JSCC は 2018 年 3 月 26 日から、清算できる OIS の利払いの頻度に 6 か月、3 か月、1 か月を足しました26。
金利スワップ(TIBOR)との違い
OIS と、TIBOR(東京銀行間取引金利)を参照する固定金利と変動金利の金利スワップは、どちらも固定金利と変動金利を交換しますが、変動金利の決まる時期と、含まれる銀行の信用リスクが違います28。
| 取引 | 変動金利 | 変動金利の利率が決まる時期 | 銀行の信用リスク |
|---|---|---|---|
| OIS | TONA の後決め複利 | 利息の期間の終わり | ごく限られる |
| 金利スワップ(TIBOR) | TIBOR | 利息の期間の前 | 含む |
TIBOR は銀行が無担保でほかの銀行に貸すときのターム物の金利なので、銀行の信用リスクを含みます。TIBOR や LIBOR(London Interbank Offered Rate)のような銀行間の無担保の貸し借りの金利を、まとめて IBOR と呼びます。勉強会の資料は、銀行の信用リスクが金利に表れてほしい商品には IBOR が向き、参照する金利に信用リスクが入っている必要のない多くのデリバティブには RFR や OIS レートが向くとしています28。JSCC は、OIS と TIBOR の変動金利どうしを交換するベーシス・スワップも清算しています24。
注
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「2.OIS とは何か」と「(OIS の定義)」(3 ページ。PDF の 5 ページ目)。 ↩ ↩2
-
日本銀行「コール市場」(教えて!にちぎん)。無担保コール市場の取引の中心は、約定した日に資金を渡し、翌営業日に返す翌日物だとしています。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「基本的な取引方式」の「参照指数」(5 ページ)と、日本銀行「金融システムレポート」(2024 年 4 月)の「BOX4 最近の金利動向」(92 ページ。PDF の 97 ページ目。TORF は 3 か月物の OIS 金利として登場する)。 ↩ ↩2
-
金融広報中央委員会「4-2 金利スワップの仕組み(やさしいデリバティブ)」。金利スワップでは元本を交換せず、利息の計算のために元本を決めておくとしています。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「②OIS レートの性質」の「(変動金利の受払額が金利計算期間の満期日に確定)」(8 ページ)と、「3.OIS の活用事例」の冒頭(7 ページ)。冒頭では、OIS レートが「翌日物金利に対する市場見通しを強く反映する」としています。 ↩ ↩2
-
Alternative Reference Rates Committee「SOFR Floating Rate Notes Conventions Matrix」(2019 年 8 月)の複利と単利の比較の項。OIS を含む SOFR 参照のデリバティブで複利が慣行として定着しているとしています。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「基本的な取引方式」の「変動金利の計算方法」(5 ページ)と、「例2」の固定金利の支払金額の計算(6 ページ)。資料は、変動金利の複利の利率を期間の実日数と 365 日で年率に直しています。 ↩
-
日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026 年 6 月 16 日)の 1.(1 ページ)。 ↩
-
日本銀行「金融システムレポート」(2026 年 4 月)の「Ⅱ.金融資本市場から観察されるリスク」の「2.2025 年度下期の国内金融市場」(11 ページ。PDF の 16 ページ目)。 ↩
-
Society of Actuaries「Interest Rate Swaps」(Financial Mathematics Study Note)の「6 Market Value」(15 ページ)。スワップの時価は将来の受け払いの見込みの現在価値で、その時点の金利で計算するため、固定金利を決めたときの金利と違えば時価も変わるとしています。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「(MPM トレード)」(10 ページ)。資料は、活用事例は特定の取引を勧めるものではないとしています(7 ページ)。 ↩
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日本銀行「LIBOR 公表停止後のドル調達プレミアムのモニタリングにおける留意点について」(日銀レビュー、2022 年 2 月)の脚注 4(PDF の 7 ページ目)。 ↩
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株式会社QUICKベンチマークスのホームページ。TORF を「TORF(東京ターム物リスク・フリー・レート)」と書いています。 ↩
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「①基本的な活用事例」の「(アセット・スワップ)」と「(ALM スワップ)」(9 ページ)。 ↩ ↩2
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日本銀行金融機構局「企業年金の運用戦略からみた金融安定への含意 ―英国債市場の混乱からの教訓―」(日銀レビュー、2023 年 1 月)の脚注 2(7 ページ)。ALM を「資産と負債を総合管理する」ものとしています。 ↩
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 123 ページ(PDF の 5 ページ目)。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「(デリバティブのディスカウント・リスクのヘッジ)」(10 ページ)。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円のリスク・フリー・レートの特定に関する報告書」(2016 年 12 月)の「② 他通貨圏におけるリスク・フリー・レートとの関係性」(4 ページ。PDF の 6 ページ目)。 ↩
-
リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「②OIS レートの性質」の「(信用リスクはごく限定的)」(8 ページ)。 ↩
-
同じ資料の「(OIS の定義)」(3 ページ)と「(OIS の取引形態)」(4 ページ)。資料は 2018 年 3 月時点の情報をもとにまとめたものです。 ↩
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日本証券クリアリング機構「金利スワップ 債務負担」と、リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「(清算適格取引の拡充)」(12 ページ)。勉強会の資料は、中央清算機関を使う取引が増えれば、金利スワップの相手方の信用リスクを減らすことなどに役立つとしています。 ↩
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株式会社日本証券クリアリング機構「清算対象取引(金利スワップ)」(2026 年 9 月に確かめたページ)の対象の表と、「3.スワップの種類」の各項目の条件(2.4.5.8.9.10.11.13.。本文が使うのは、清算参加者、契約期間、残存期間、想定元本、日数計算、カレンダー)。ベーシス・スワップは表の No.5 と 3.の b です。 ↩ ↩2 ↩3
-
Society of Actuaries「Interest Rate Swaps」(Financial Mathematics Study Note)の「1 Background」(3 ページ。PDF の 4 ページ目)。"A basis point is 1/100 of 1%." としています。 ↩
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「例1」「例2」(6 ページ)と、「(清算適格取引の拡充)」の図表 5「JSCC における金利支払頻度の追加」(12 ページ)。 ↩
-
同じ資料の「4.OIS 利用に当たっての留意事項」の「(事務・システム面の対応)」と「(会計面の対応)」(11 ページ)。 ↩ ↩2