借入の利息を元本に加えて満期にまとめて払う取引のヘッジを考えるときや、市場の金利から取引の時価を求める評価の場面で出てきます。通常の金利スワップとは受け払いの時点が違うため、支払額の計算と時価の式が変わります。

満期にまとめて払う仕組み

ゼロクーポン・スワップは、固定金利の利息を途中で払わず、複利で積み上げて満期に 1 回だけ払う金利スワップです1。利息は想定元本をもとに、取引で決めた複利の回数で積み上げます2。もう一方の側の受け払いは、通常の金利スワップと同じ支払日に従います。その側が変動金利のときは、複利で積み上げて満期に 1 回だけ払う形にすることもできます1。固定金利と変動金利を交換する通常の仕組みは金利スワップで扱います。

P 社と Q 銀行が、想定元本 100 億円、期間 5 年のゼロクーポン・スワップを結ぶ架空の例で考えます。P 社は固定金利を払う側で、固定金利は年 1.10%、複利は年 1 回です。変動金利の側は、年 1 回の定期払いとします。P 社は、途中の 4 年間は固定金利の側の支払いがなく、5 年後に次の金額をまとめて払います。

N((1+K)n−1)N\left((1+K)^{n}-1\right)

NN は想定元本、KK は固定金利、nn は年数です。100 億円 × (1.011 を 5 回掛けた値 − 1) = 562,233,834 円で、約 5 億 6,223 万円です。同じ年 1.10% の利息を毎年払う形なら、毎年 1 億 1,000 万円で、5 年の合計は 5 億 5,000 万円です。ゼロクーポン・スワップの支払額が 1,223 万円多いのは、積み上げた利息にも利息が付くためです。

5 年の受け払いの例

変動金利の側の受け払いは、市場のスポットレート(年 1 回複利)が 1 年 0.60%、2 年 0.75%、3 年 0.90%、4 年 1.00%、5 年 1.10% のカーブから予想します。このカーブからフォワードレートを求めて毎年の変動金利を予想すると、P 社から見た受け払いは次の表になります。受け取りを正、支払いを負にしています3。

時点 予想する変動金利(%) 変動の受け取り(予想、円) 固定の支払い(円)
1 年 0.6000 60,000,000 0
2 年 0.9002 90,022,366 0
3 年 1.2007 120,067,031 0
4 年 1.3006 130,059,504 0
5 年 1.5010 150,099,108 −562,233,834

5 年間の変動金利の受け取りの予想は合計 550,248,009 円で、固定金利の支払い 562,233,834 円より 11,985,825 円少なくなります。それでも約定の時点の時価が 0 になるのは、固定金利の支払いが 5 年後にまとめて来るため、現在価値に直すと小さくなるからです。受け払いを描くと、次の図 1 になります。

↑ 受取 ↓ 支払固定金利を払う P 社から見た受け払い(割り引く前)1 年後2 年後3 年後4 年後5 年後+0.6 億円+0.9 億円+1.2 億円+1.3 億円+1.5 億円−5.62 億円
図 1P 社から見た、ゼロクーポン・スワップの受け払い
図の説明

想定元本 100 億円、固定金利 年 1.10%(年 1 回の複利)、期間 5 年のゼロクーポン・スワップについて、固定金利を払う P 社から見た、割り引く前の受け払いを描いた図です。変動金利の受け取りは毎年あり、金額は予想です。4 年後までは固定金利の支払いがなく、5 年後だけ固定金利の払いがあります。固定の一括払いは、毎年の変動の受け取りのどれより大きい矢印になります。

時価はスポットレートで決まる

スポットレートは、途中に利息の受け払いがない割引債の複利の利回りとして定義され、ゼロ・クーポン・レートとも呼ばれます4。n 年後の金額を現在価値に直す割引係数 DF(n)DF(n) は、n 年のスポットレート rnr_n から次の式で求めます5。

DF(n)=1(1+rn)nDF(n) = \frac{1}{(1+r_n)^{n}}

ゼロクーポン・スワップの固定金利の側は、満期に 1 回払うだけなので、現在価値は支払額に満期の割引係数を掛けた 1 つの値です。変動金利の側は、予想にも割引にも同じカーブを使うと、定期払いでも満期の一括払いでも、現在価値が N(1−DF(n))N(1-DF(n)) になります6。固定払いの側の時価 VV は、変動の現在価値から固定の現在価値を引いた値で、次の式になります。

V=N(1−DF(n))−N((1+K)n−1)DF(n)=N(1−(1+K1+rn)n)V = N\bigl(1-DF(n)\bigr) - N\left((1+K)^{n}-1\right)DF(n) = N\left(1-\left(\frac{1+K}{1+r_n}\right)^{n}\right)

約定の時点は時価が 0 です。上の式で V=0V=0 になるのは K=rnK=r_n のときなので、年 1 回の複利なら、約定時の固定金利は同じ満期のスポットレートに一致します。ICE のシステムの説明も、固定金利(システム上の名前は Zero Rate)の初期値を、スワップの NPV が 0 になる率としています2。計算例のカーブでは、5 年の割引係数は 0.946769 です。変動金利の側の現在価値は 100 億円 × (1 − 0.946769) = 532,305,801 円、固定金利の側の現在価値は 562,233,834 円 × 0.946769 = 532,305,801 円で、一致します。

約定の直後に 5 年のスポットレートが動くと、時価は次の表のようになります。固定払いは P 社、固定受けは Q 銀行です。時価の求め方は金利スワップの時価評価で扱います。

5 年のスポットレート 変動の現在価値(円) 固定の現在価値(円) 固定払いの時価(円) 固定受けの時価(円)
1.60%(0.50% 上がる) 762,989,012 519,336,010 243,653,002 −243,653,002
1.10%(動かない) 532,305,801 532,305,801 0 0
0.60%(0.50% 下がる) 294,674,703 545,666,225 −250,991,522 250,991,522

固定払いの P 社は、スポットレートが上がると、変動の受け取りの現在価値が増えて得になります。下がると、固定の支払いが変わらないまま変動の受け取りが減るため、損になります。固定受けの Q 銀行は、同じ動きで損益が逆になります。

深掘り変動金利を一括払いにしても現在価値が変わらない理由

変動金利の側を、毎年の変動金利を複利で積み上げて満期に 1 回払う形にしたとします。各年の期間の長さは 1 年で、ii 年目のフォワードレートを FiF_i とすると、満期の支払額は次の式です。

N(∏i=1n(1+Fi)−1)N\left(\prod_{i=1}^{n}(1+F_i)-1\right)

フォワードレートは割引係数の比から 1+Fi=DF(i−1)/DF(i)1+F_i = DF(i-1)/DF(i) と求められます7。積では隣り合う項が打ち消し合い、∏(1+Fi)=DF(0)/DF(n)=1/DF(n)\prod(1+F_i) = DF(0)/DF(n) = 1/DF(n) です。満期の支払額は N(1/DF(n)−1)N(1/DF(n)-1)、これに DF(n)DF(n) を掛けた現在価値は N(1−DF(n))N(1-DF(n)) で、定期払いのときと同じです。計算例のカーブでは、積は 1.0562234 で、100 億円 × 0.0562234 = 約 5 億 6,223 万円です。固定金利 1.10% の一括払いと同じ金額になるのは、固定金利が 5 年のスポットレートに等しいためです。

何に使われるか

企業は、利息を元本に加えて満期に払う借入や債券のヘッジに使います8。銀行は、債券の発行や企業のヘッジを顧客のために行うときに使います。

P 社が、想定元本と同じ 100 億円を変動金利で 5 年借り、利息を元本に加えて満期にまとめて払う架空の例で考えます。借入の変動金利とスワップの変動金利は同じ指標で、変動金利の側は複利で積み上げて満期に払う形とします。P 社は、先の例と同じ固定金利の一括払いをし、変動金利の一括払いを受け取ります。変動金利が 5 年間、毎年同じ水準だった場合の結果は次の表です。

変動金利(5 年間、毎年) 借入の利息(円) スワップの受け払い(円) 実質の利息(円)
2.00% 1,040,808,032 478,574,198 562,233,834
0.50% 252,512,531 −309,721,302 562,233,834

変動金利が 2.00% なら、P 社は借入の利息の一部をスワップの受け取りで賄い、スワップがない場合より 4 億 7,857 万円少ない 5 億 6,223 万円で済みます。0.50% なら、借入の利息は 2 億 5,251 万円まで下がりますが、スワップで 3 億 972 万円を払うため、スワップがない場合より 3 億 972 万円多い 5 億 6,223 万円になります。借入とスワップを合わせた利息は、どちらの場合も固定金利の一括払いの金額に固定されます。

通常の金利スワップとの違い

同じ 5 年のスワップでも、固定金利の側の受け払いと、固定金利の決まり方が違います。計算例のカーブでの値も並べます。

項目 通常の金利スワップ ゼロクーポン・スワップ
固定金利の側の受け払い 支払日ごとに、その期間の利息 満期に 1 回、複利で積み上げた利息
約定時の固定金利 パーレート。支払日ごとの割引係数から求める 年 1 回の複利なら、同じ満期のスポットレート
計算例のカーブでの 5 年の固定金利 1.0952%9 1.10%
固定金利の側の現在価値 支払日ごとの金額の現在価値の合計 満期の金額 1 つの現在価値

注

  1. ICE "SDX Interest Rates Help: Zero Coupon Swap"(外部サイト)の冒頭の説明。固定金利のキャッシュフローは定期的に払わず、複利で積み上げて満期に 1 回払うこと、もう一方の側が変動金利のときは複利にして満期に 1 回払う形にできることを説明しています。 ↩ ↩2

  2. ICE "SDX Interest Rates Help: Zero Rate"(外部サイト)。ゼロクーポン・スワップの固定金利は複利の回数に従って積み上げ、利息を満期に 1 回払うこと、初期値はスワップの NPV が 0 になる率であることを説明しています。 ↩ ↩2

  3. 表の金額は、割引係数とフォワードレートを丸めずに計算してから円未満を四捨五入しています。変動金利は表示を小数第 4 位で丸めています。合計は丸める前の値を足してから四捨五入しています。 ↩

  4. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「【補足資料】スポットレートとその応用」(外部サイト)(2012 年 8 月)の「2.スポットレート」(6 ページ)。 ↩

  5. 同じ資料(外部サイト)の「3.ディスカウント・ファクター」(11 ページ)。 ↩

  6. Society of Actuaries "Interest Rate Swaps"(外部サイト)(2017 年 5 月)の 4 章 "Special Formula" の式 (4.2)(12 ページ)。資料の PnP_n はこのページの DF(n)DF(n) にあたります。 ↩

  7. 同じ資料(外部サイト)の Example 1(5 ページ)。今のスポットレートから、1 年後から 2 年後までの金利を計算し、フォワードレートと呼んでいます。 ↩

  8. ICE "SDX Interest Rates Help: Zero Coupon Swap"(外部サイト)の "Advantages of a Zero Coupon Swap"。企業と銀行の用途を挙げています。 ↩

  9. 計算例のカーブの割引係数から、年 1 回払いの通常の 5 年の金利スワップの固定金利を、(1 − 5 年の割引係数) ÷ 割引係数の和(4.860431)として求めた値です。式は同じ資料(外部サイト)の式 (4.2)(12 ページ)です。 ↩