イールドカーブの傾きの変化に見方を持つ投資家や、傾きに連動する利息を受け取る債券の保有者が、傾きの変化に見方を持つ場面で出てくる商品です。値付けをする側では、2 つのスワップレートの相関の扱いが評価の中心になります。

2 つのレートの差のオプション

CMS スプレッド・オプションは、10 年と 2 年のように期間の違う 2 つのスワップレートの差を、行使価格と比べるオプションです。2 つの原資産の価格の差と行使価格の大小で受け取りが決まるオプションをスプレッド・オプションといい、原資産の例には、異なる企業の株価や長短の金利が挙がります1。CMS スプレッド・オプションは、原資産がCMSで参照するスワップレートのスプレッド・オプションです。

差は、長期のスワップレートから短期のスワップレートを引いた値です。例えば「10 年スワップレート − 2 年スワップレート」で、イールドカーブの傾きを表します。スワップレートの参照の仕方はCMSで扱います。

コールの受け取りは、観測日の長期のスワップレートを SlongS_{\text{long}}、短期のスワップレートを SshortS_{\text{short}}、行使価格を KK として、次の値に想定元本を掛けて決まります2。

max⁡(Slong−Sshort−K, 0)\max\left(S_{\text{long}} - S_{\text{short}} - K,\ 0\right)

プットの受け取りは、差と行使価格の大小を逆にした max⁡(K−Slong+Sshort, 0)\max(K - S_{\text{long}} + S_{\text{short}},\ 0) です。

0.00.20.40.60.81.01.20.5満期の受け取り(%)観測日の 10 年スワップレートと 2 年スワップレートの差(%)受取
図 1CMS スプレッド・オプションのコールの観測日の受け取り
図の説明

行使価格 0.5% のコールを買った側の、観測日の受け取りを、想定元本に対する割合で表した図です。プレミアムは含めていません。横軸は 10 年スワップレートと 2 年スワップレートの差です。差が 0.5% 以下では受け取りは 0% で、0.5% を超えると超えた分だけ増えます。差が 1.5% なら 1.0% を受け取ります。

受け取りの決め方と数値の例

コールは差が行使価格を上回った分を、プットは下回った分を受け取ります。想定元本 100 億円、期間 1 年、行使価格 0.50% の架空の例で考えます。F 社がコールを買い、同じ行使価格のプットの受け取りも並べます。受け取りは「想定元本 × 差と行使価格の開き」です(期間は 1 年なので、期間の掛け算は 1 になります)。コールのプレミアムは想定元本の 0.20%(2,000 万円)とし、利息の時間価値は考えません。

観測日の差(%) コールの受け取り(万円) コールの損益(プレミアム込み、万円) プットの受け取り(万円)
−0.50 0 −2,000 10,000
0.00 0 −2,000 5,000
0.50 0 −2,000 0
1.00 5,000 3,000 0
1.50 10,000 8,000 0

差が 0.50% 以下だと、F 社はコールから何も受け取れず、プレミアムの 2,000 万円がそのまま損になります。差が 0.50% を超えると受け取りが増え、0.70%(行使価格にプレミアムの 0.20% を足した値)を超えたところから、プレミアムを引いても利益になります。差が 1.00% なら受け取りは 5,000 万円で、損益は 3,000 万円の利益です。プットは逆に、差が 0.50% を下回るほど受け取りが増え、差が 0.00% なら 5,000 万円、−0.50%(カーブの逆転)なら 1 億円です。

売り手の立場は逆です。コールの売り手が受け取れるのはプレミアムだけで、差が行使価格を超えると、超えた分を買い手に払います。差が広がるほど払う額が増えるため、損失は差の広がりに応じて大きくなります。

コールをキャプレット、プットをフロアレットといいます。Belomestny ほかの論文の数値実験にも、10 年と 2 年のスワップレートの差に対するキャプレットとフロアレットが使われています3。標準的なキャップとフロアは 1 つの金利を対象にし、このオプションは 2 つのレートの差を対象にします。

カーブの傾きと受け取りの関係

受け取りを動かすのは、各スワップレートの水準ではなく、差です。長期のレートと短期のレートの差が広がる(カーブが急になる)ほど、差は大きくなり、差が行使価格を超えた分だけコールの受け取りは増えます。長期と短期の差が縮む(カーブが平らになる)と、差は 0 に近づきます。短期のレートが長期のレートを上回る(カーブが逆転する)と、差は負になります。

行使価格が 0.50% のコールは、差が 0.50% 以下になると受け取りが 0 です。カーブが平らになるか逆転すると、差はこの水準を下回りやすくなります。行使価格が 0% のコールは、カーブが逆転していなければ(差が正なら)受け取ります。プットは、傾きが小さくなるほど受け取りが増えます。10 年と 2 年のレートが同じ向きに同じ幅で動くと、差は変わりません。そのため、金利の水準が大きく動いても、受け取りが変わらないことがあります。

相関がプレミアムに与える影響

2 つのスワップレートの相関が低いほど、差のばらつきが大きくなり、オプションのプレミアムは高くなります。差の標準偏差 σdiff\sigma_{\text{diff}} は、2 つのスワップレートの標準偏差 σ1\sigma_1、σ2\sigma_2 と相関係数 ρ\rho から、次の式で決まります。

σdiff2=σ12+σ22−2ρ σ1σ2\sigma_{\text{diff}}^2 = \sigma_1^2 + \sigma_2^2 - 2\rho\,\sigma_1\sigma_2

相関係数が 1 に近いと、2 つのレートは同じように動き、差はあまり動きません。相関係数が下がると、差の動きは大きくなります。各スワップレートの標準偏差を年 100bp、期間を 1 年、行使価格を差の期待値と同じにした架空の例で考えます。差のばらつきが大きいほど、コールもプットも価値が上がります。この前提では、価格は差の標準偏差に √(T/(2π)) を掛けた値です(T は 1 年)4。

相関係数 差の標準偏差(bp) オプションの価格(想定元本比、bp)
0.9 44.7 17.8
0.5 100.0 39.9
0.1 134.2 53.5

想定元本 100 億円なら 1bp は 100 万円なので、相関係数 0.9 の価格は約 1,780 万円、0.1 では約 5,350 万円です。この比較では、各スワップレートのボラティリティを一定にしています。

評価で使うスワップレートの対数の相関は、推定が要ります5。複数の原資産を持つ商品の価格は、原資産の間の相関の影響を受け、この相関のリスクは単一の原資産の商品にはないリスクです6。

評価の方法とモデルによる違い

受け取りは 2 つのスワップレートに依るため、評価には 2 つの同時の分布が要ります。実務者の発表資料(Ramesh、2022 年)では、個々のスワップレートの分布を、スワップションの価格に合わせたモデル(SABR モデルなど)で決めます7。実務の方法は一つとは限らず、Belomestny ほかの論文(2008 年)の近似式は、対数正規分布で近似しています。2 つの分布から同時の分布を作る関数を、コピュラといいます8。

コピュラの一つであるガウシアン・コピュラは、相関係数 1 つで 2 つの分布をつなぎます。ガウシアン・コピュラである価格を再現するのに必要な相関を、インプライド相関と呼びます。ガウシアン・コピュラを使えば、インプライド相関は行使価格によらず一定です。インプライド相関が行使価格によって違う(スマイルがある)価格を表すには、べき乗ガウシアン・コピュラのように、パラメータを足したコピュラを使います9。同じ個々の分布でも、コピュラの形を変えると、インプライド相関のスマイルの形が変わります。選ぶモデルで価格が変わるため、モデル・リスクの対象になります。

深掘りガウシアン・コピュラの式

2 つのスワップレートの累積分布関数を FXF_X、FYF_Y とすると、同時の分布関数は、コピュラ CC を使って FX,Y(x,y)=C(FX(x),FY(y))F_{X,Y}(x, y) = C(F_X(x), F_Y(y)) と表せます。ガウシアン・コピュラは次の式です10。

Cρ(u,v)=Φρ(Φ−1(u), Φ−1(v))C_{\rho}(u, v) = \Phi_{\rho}\left(\Phi^{-1}(u),\ \Phi^{-1}(v)\right)

Φρ\Phi_{\rho} は相関係数 ρ\rho の 2 変数の標準正規分布の累積分布関数、Φ\Phi は標準正規分布の累積分布関数です。

価格を式で近似する方法もあります。2 つのスワップレートを対数正規分布で近似できれば、行使価格が 0 のスプレッド・オプションは、マルグレーブの式で近似できます11。この論文は、価格を、支払日に合わせた割引で受け取りを測る方法(フォワード測度)で計算しています12。受け取る時点の期待値として見たスワップレートは、今の市場から求めた先のスワップレートと一般には一致せず、コンベキシティ調整が要ります13。調整の中身はCMSで扱います。

モンテカルロ法は、価格の計算にも、近似式の精度を確かめる基準にも使われます。近似式は対数正規分布の仮定の下で求めたものです。論文の数値実験では、近似式の価格とモンテカルロ法の価格との差は、満期 20 年の例で数 bp でした14。

使われ方とリスク

2 つのスワップレートの差に連動する利息を払う債券は、将来のカーブの傾きの変化について見方を持つ当事者が取引します。カーブが急になるほど利息が増える一部の商品は、スティープナーと呼ばれます。同論文は、2006 年の初めから米国と欧州のイールドカーブが大きく平らになり、CMS スプレッド(2 つのスワップレートの差)が縮んだと述べています。利息が下がり、この種の商品を持つ投資家は大きな損失を出し、商品の流動性も下がっていたといいます15。

想定元本 100 億円の債券を持つ F 社が、差に連動する利息を受け取る側として、オプションでヘッジする架空の例で考えます。利息は「想定元本 × 差」(差が 0% 以上の範囲で考える)とします。F 社は行使価格 0.50% のプットを、プレミアム 1,500 万円で買います。プットは、差が 0.50% を下回った分を受け取ります。

観測日の差(%) 債券の利息(万円) プットの受け取り(万円) プレミアム(万円) 合計(万円)
0.00 0 5,000 −1,500 3,500
0.50 5,000 0 −1,500 3,500
1.00 10,000 0 −1,500 8,500

差が 0.50% 以下に下がると、合計は 3,500 万円で止まり、利息の減り方を抑えられます。差が 0.50% を超えると、プットは何も受け取れず、プレミアム 1,500 万円の分だけ利息の受け取りが減ります。この例は、プレミアムを払う代わりに、差が下がったときの受け取りに下限を置く形です。

リスクは、売り手の損失、流動性、評価の不確かさに分けて見られます。コールの売り手の損失は差の広がりに応じて増え、流動性は、2006 年のカーブの平坦化のあとのように商品の人気が下がると低くなることがあります。評価では、モデルによって価格が変わります。

ほかの商品との違い

商品 対象 相関の影響
CMS 1 つのスワップレート 2 つのレートの間の相関はない
CMS スプレッド・オプション 2 つのスワップレートの差 差のばらつきが相関で変わる
バスケット・オプション 複数の資産の価格 資産の間の相関の影響を受ける

CMS は、変動金利としてスワップレートを参照する金利スワップで、参照するレートは 1 つです。CMS スプレッド・オプションは、2 つのレートの差にオプションの形を付けた商品で、相関の影響を受ける点でバスケット・オプションに近くなります。

注

  1. 日本銀行金融研究所 中村一岳「相関デリバティブのリスク特性やリスク管理手法に関する考察」(ディスカッション・ペーパー No. 2003-J-7)の 3 ページ、「スプレッド・オプション」。 ↩

  2. Belomestny, Kolodko, Schoenmakers「Pricing CMS spreads in the Libor market model」(WIAS Preprint No. 1386、2008 年 12 月)の 3 ページ、「2 Main setup」の式(3)。 ↩

  3. 同じ論文の 11 ページ、「Tables 2-4」の前の説明と「Table 2. CMS spread caplet, strike 0.5%」。 ↩

  4. このページの計算。各スワップレートが正規分布に従い、行使価格は差の期待値と同じ、割引は考えない前提です。 ↩

  5. Belomestny, Kolodko, Schoenmakers「Pricing CMS spreads in the Libor market model」の 4 ページ、式(6)の後の説明((ii) 2 つのスワップレートの対数の相関の推定)。 ↩

  6. 日本銀行金融研究所 中村一岳「相関デリバティブのリスク特性やリスク管理手法に関する考察」の 1 ページ、「1.はじめに」。 ↩

  7. Prithvi Ramesh「Generalized Power-Gaussian Copula & CMS Spread Option Smiles」(UBS Quantitative Analytics、2022 年 5 月)のスライド 3、「Marginal-distributions in the T-forward measure」。 ↩

  8. 同じ資料のスライド 3、「Copula function」と「Joint-distribution」。 ↩

  9. 同じ資料のスライド 4(ガウシアン・コピュラとインプライド相関)、スライド 5 と 6(べき乗ガウシアン・コピュラとインプライド相関のスマイル)。 ↩

  10. 同じ資料のスライド 4、「Gaussian Copula & Implied Correlations」。 ↩

  11. Belomestny, Kolodko, Schoenmakers「Pricing CMS spreads in the Libor market model」の 3 ページ、「2 Main setup」の式(4)と(5)。 ↩

  12. 同じ論文の 1 ページ、「1 Introduction」。 ↩

  13. 日本銀行金融研究所 田中敬一・山田健・渡部敏明「金利派生商品の効率的な価格付け:確率密度関数の近似を用いて」(「金融研究」2006 年 10 月)の 2 ページと 10 ページ。 ↩

  14. Belomestny, Kolodko, Schoenmakers「Pricing CMS spreads in the Libor market model」の 11 ページ、「Tables 2-4」の前の説明と 12 ページの Table 4。 ↩

  15. Belomestny, Kolodko, Schoenmakers「Pricing CMS spreads in the Libor market model」の 1 ページ、「1 Introduction」。 ↩

  16. Prithvi Ramesh「Generalized Power-Gaussian Copula & CMS Spread Option Smiles」のスライド 3 から 5。 ↩