期限前に返済できる借入の金利を固定に換えたい会社が、返済と同じ日にスワップも終えたいときに出てくる商品です。権利を誰が持つかで、スワップの固定金利は通常より高くも低くもなります。
解約の権利を付けたスワップ
コーラブル・スワップは、通常の金利スワップに、一方の当事者が将来の受け払いをすべて終える権利を付けたものです1。固定金利の払い手が権利を持つものをコーラブル、受け手が持つものをプッタブルと呼びます。1998 年の FRB の手引では、まとめてキャンセラブル・スワップとしてスワップションの一種に数えます2。権利を持つ側(権利の買い手)は対価としてプレミアムを払い2、コーラブル・スワップではその対価が固定金利の差に表れます3。
「3x5 のキャンセラブル・スワップ」は、3 年後から当事者の一方が終えられる 5 年のスワップです2。権利が使えるようになるまでの年数と、スワップ全体の年数を並べた呼び方です。
権利がない通常のスワップは、満期の前に終えるとき、残りの受け払いの時価に基づく額を精算します。たとえば、時価がマイナスの側が、買い戻しでは相手に、譲渡では引き受け手に払います4。解約の権利を持つ側は、この残りの受け払いの現在価値を払う義務をなくして終えられます2。この違いの対価が、権利の価格にあたります。通常のスワップを終えるときの精算の金額を、用語集では解約清算金といいます。
解約できる日と、スワップションとの関係
解約できる日が 1 回だけのものをヨーロピアン型、あらかじめ決めた複数の日のどれかで解約できるものをバミューダン型と呼びます1。複数の日のどれかで行使できる権利はバミューダン・オプションです。スワップションでは権利を使うことを「行使」、スワップでは「解約」と呼びます。
固定金利の払い手が持つコーラブルは、通常のスワップとレシーバーズ・スワップションを組み合わせたものにあたります1。固定金利の受け手が持つプッタブルは、通常のスワップとペイヤーズ・スワップションの組み合わせです1。レシーバーズとペイヤーズの意味は、スワップションで扱います。
深掘り払い手の解約が受け手のスワップションにあたる理由
固定金利 を払い、変動金利を受け取るスワップが、解約日の後も残っているとします。解約日に、同じ期間で固定金利 を受け取り、変動金利を払うスワップを新しく結ぶと、固定金利の受け払いと変動金利の受け払いは互いに打ち消し合い、解約日の後の受け払いはなくなります。
払い手が解約する場合の受け払いは、この新しいスワップを結ぶ場合と同じです。解約しない場合は、新しいスワップを結ばず、元のスワップが残ります。そのため、払い手の解約の権利は、行使金利を 、期間を残りの期間とするレシーバーズ・スワップションと同じ結果になります5。ここでは受け払いが打ち消し合うことだけを見ています。
解約の権利の価値は、組み合わせたスワップションの価値にあたります。
債務のヘッジに使う例
キャンセラブル・スワップは、期限前に元本を返せる債務(コーラブル債など)を持つ機関が使います。債務と、それをヘッジするスワップの期間のずれを避けるためです2。発行体が固定金利を受け取る形の流れは早期償還条項付き債券とコーラブル債で扱います。ここでは、固定金利を払う側が権利を持つ形を例にします。
想定元本 100 億円、期間 5 年の変動金利の借入を持ち、3 年後から期限前に返せる H 社の架空の例で考えます。H 社は、変動金利を固定金利に換えるため、ディーラーとのスワップで固定金利を払い、変動金利を受け取ります。受け取る変動金利は借入の変動金利と同じ指標とするので、H 社の負担は固定金利になります。通常の 5 年のスワップの固定金利は年 2.0% です。3 年後から H 社が解約できる 3x5 のコーラブル・スワップの固定金利は、年 2.3% とします。権利の対価が固定金利に上乗せされるためです。
3 年後に市場の金利が変わったとして、2 つの場合を比べます。解約後も借入が続くため、H 社は市場の固定金利で残り 2 年のスワップを結び直すとします。変動金利の受け払いは借入の利息と打ち消すので、表には固定金利の支払だけを書き、割り引かない単純な合計にしています。差は「権利付き − 通常」です。
| 3 年後の状況(仮定) | 2 年物レート(%) | H 社の判断 | 権利付き合計(億円) | 通常合計(億円) | 差(億円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 金利が下がった | 1.0 | 解約して 1.0% で結び直す | 8.9 | 10.0 | −1.1 |
| 金利が上がった | 3.0 | 解約しない | 11.5 | 10.0 | 1.5 |
金利が下がった場合は、H 社は 2.3% のスワップを解約し、1.0% で結び直します。支払は 2.3 億円を 3 年と 1.0 億円を 2 年で 8.9 億円になり、通常のスワップの 10.0 億円より 1.1 億円少なくなります。金利が上がった場合は、市場の固定金利が 2.3% を上回るので解約せず、5 年間 2.3% を払い続けます。支払は 11.5 億円で、通常のスワップより 1.5 億円多くなります。この差は、2.3% と 2.0% の差 0.3% に想定元本 100 億円と 5 年を掛けた額で、使わなかった権利の対価です。
図の説明
金利が下がった場合に、H 社が 3 年後にスワップを解約して残り 2 年を結び直したときの、固定金利の支払です。支払の金額は本文の表の「金利が下がった」の行と同じです。解約までは権利付きの固定金利を払い、解約のあとは結び直した低い固定金利に変わります。変動金利の受け払いは借入の利息と打ち消すので描いていません。
借入を 3 年後に返す場合は、解約の権利があれば、返済と同じ日にスワップも終えられます。H 社の払いは 2.3% の 3 年分、2.3 億円 × 3 年 = 6.9 億円で終わります。権利がない通常のスワップだと、2.0% の 3 年分、2.0 億円 × 3 年 = 6.0 億円を払った後も、残り 2 年のスワップが残ります。終えるには、残りの受け払いの時価を精算します24。権利付きは、返済までの 3 年間は通常より 0.9 億円多く払う代わりに、返済後にスワップが残りません(単純な合計で、割り引いていません)。通常のスワップに残る 2 年分の時価は、そのときの金利によって、H 社が受け取る側にも払う側にもなります。
プレミアムの払い方
スワップションでは、買い手がプレミアムを一時金(up-front fee)で払います6。コーラブル・スワップでは、Intercontinental Exchange(ICE)のヘルプによれば、最初に払うプレミアムはなく、権利の対価は固定金利の差に表れます。払い手が権利を持つと固定金利は同じ条件の通常のスワップより高く、受け手が持つと低くなります3。H 社の例の 2.3% と 2.0% の差が、これにあたります。
差の大きさは、権利が使えるようになるまでの期間と、金利のボラティリティで決まります。ボラティリティが高いほど、通常のスワップとの差は大きくなります3。解約できる日が複数のバミューダン型は、権利の価値が高いため、ヨーロピアン型より固定金利の差が大きくなります7。
価値が何で変わるか
払い手が権利を持つ H 社の価値は、解約日の市場の固定金利で変わります。金利が下がるほど権利の価値は上がり、上がれば上乗せ分が残ります。具体的な数値は上の表の 2 つの行のとおりです。
権利を与えた側(権利の売り手)から見ると、損得は反対になります。払い手が権利を持つとき、ディーラーは固定金利の受け手です。金利が下がって権利が使われると、ディーラーは、市場より高い固定金利を受け取る残りの契約を失います。金利が上がって権利が使われなければ、上乗せ分を受け取り続けます。
受け手が権利を持つ形では、権利を売った払い手は、金利が上がると不利になり、上がらなければ下がった固定金利の分が得になります。
ICE のヘルプの例では、固定金利を払う側が、受け手に解約の権利を与える代わりに、固定金利を通常の 4.5% から 4.2% に下げてもらいます。金利が上がると、受け手が権利を使い、払い手は金利上昇を防ぐスワップの保護を失います。金利が上がらず権利が使われなければ、払い手は低い 4.2% の固定金利で払い続けます8。
リスクと評価
米国の連邦準備制度理事会(FRB)の検査官向けの手引(2001 年 4 月版)は、スワップションが持つ 2 つのリスクとして、行使される確率と、スワップから生じる信用リスクを挙げています。行使される確率のリスクは、市場の金利の水準と、金利のボラティリティによって決まります。
信用リスクは、一方の当事者が約束を果たせないとき、もう一方が同じ取引を組み直す費用です9。キャンセラブル・スワップはスワップションの一種なので、この 2 つはコーラブル・スワップにも当てはまります2。
払い手が権利を持つ場合、上の表のとおり、持つ側のリスクは金利の上昇、売る側のディーラーのリスクは金利の下落です。
評価は、使うモデルで値が変わります。スワップションの価格はモデルで決まり、その手引の時点では、ディーラーによって使うモデルが大きく異なりました。簡単に反対売買できない複雑な構造ほど、買値と売値の幅のばらつきが大きくなります10。モデルに由来するリスクの一般的な説明は、用語集のモデル・リスクにあります。
同じ時点で、スワップションのヘッジには、ユーロドル先物、米国債、金利スワップが使われていました11。
注
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Intercontinental Exchange(ICE)「SDX Interest Rates Help」の「Callable Swap」の冒頭の説明。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 1 ページ、「Cancelable Swaps」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
同ヘルプの「Callable Swap」の、権利の持ち手による固定金利の違いと、損益分岐の金利(breakeven rate)の説明。最初にプレミアムを払わないことは「Advantages of a Callable Swap」。 ↩ ↩2 ↩3
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同マニュアル(1998 年 2 月)の Section 4325.1「Interest-Rate Swaps」の 5〜6 ページ、「Secondary Market」。買い戻し(buy-back)と譲渡(assignment)の例。 ↩ ↩2
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受け払いを打ち消し合わせる計算による説明で、組み合わせの対応は ICE「SDX Interest Rates Help」の「Callable Swap」の冒頭と合う。 ↩
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同マニュアル(1998 年 2 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 1 ページ、「General Description」。 ↩
-
同ヘルプの「Advantages of a Callable Swap」。バミューダン型の売り手が受け取る利率が高い理由の説明。 ↩
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同ヘルプの「Example of a European Callable Swap」。相手が解約できる 3 年後以降の 5 年の固定払いのスワップで、固定金利は通常の 4.5% に対し 4.2%。 ↩
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同マニュアル(2001 年 4 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 4 ページ、「Risks」。 ↩
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同マニュアル(2001 年 4 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 3 ページ、「Pricing」。 ↩
-
同マニュアル(2001 年 4 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 3 ページ、「Hedging」。 ↩