仕組預金や仕組債の評価、ヘッジ、リスク管理では、金利スワップやキャップより複雑な条件を持つ金利の商品を扱う場面があります。

標準的な金利デリバティブとの違い

標準的な金利デリバティブは、FRA、金利先物、金利スワップ、キャップとフロア、ヨーロピアン・オプションの形のスワップションです。それより複雑な条件を持つ商品を、金利エキゾチックと呼びます。1998 年の米国連邦準備制度の手引では、エキゾチック・オプションの多くは店頭デリバティブとして取引され、標準的なオプションほど市場の流動性が高くないとされています1。

この章の 6 つの商品は、標準的な商品とどこが違うかで、次の表の 3 つに分けられます。

標準と違うところ 商品 近い標準の商品
権利を行使できる時点が満期の 1 回に限られない バミューダン・スワップション、コーラブル・スワップ ヨーロピアン型のスワップション
参照する金利が長期のスワップレート CMS、CMS スプレッド・オプション 金利スワップ、キャップとフロア
利息が条件や過去の利息で決まる レンジアクルーアル、スノーボール 変動利付の債券

表の分け方は説明のためのもので、実際の商品では複数の条件を組み合わせることがあります。例えば、短期金利が下がると利息が上がる債券に、発行体が利払日ごとに期限前に解約できる権利と、利息を 0% 以上に保つ保証を付けた商品があります2。

権利を行使できる時点が複数ある商品

バミューダン・スワップションは、あらかじめ決めた複数の日のどれかで金利スワップを始められる権利を売買する取引です。行使できる日が複数あるオプションをバミューダン・オプションといいます。バミューダン型のスワップションは、繰上満期日が複数ある仕組預金のヘッジなどに使えます3。

コーラブル・スワップは、当事者の一方が、プレミアムと引き換えに金利スワップを期限前に解約できる権利を持つスワップです。米国連邦準備制度の手引は、これをスワップションの一種に数えています4。

長期のスワップレートを参照する商品

CMS(コンスタント・マチュリティ・スワップ)は、変動金利としてスワップレートを参照する金利スワップです5。例えば、1 年物のような短期金利と、10 年スワップレートのような長期金利を定期的に交換します6。

CMS スプレッド・オプションは、期間の違う 2 つのスワップレートの差を対象にしたオプションです。2 つの原資産の価格の差と行使価格を比べて受け取りが決まるオプションをスプレッド・オプションといい、原資産の例には長短の金利が挙がります7。最初の 1 年は高めの利息を払い、その後はイールドカーブの傾き(長短の金利の差)で利息が決まる「スティープナー」債は、米国の金融取引業規制機構(FINRA)が複雑な商品の例に挙げています8。

利息が条件や過去の利息で決まる商品

レンジアクルーアルは、参照する金利があらかじめ決めた範囲の中にある日は高い利率、外にある日は低い利率(0% のこともある)で利息を積み上げる商品です。この形の債券を買った投資家は、範囲の上端と下端を行使価格にした一連のデジタル・オプションを売ったのと同じ立場になります9。

スノーボールは、前の期の利息と変動金利から、その期の利息が決まる商品です。スノーボール債は、受け取りが過去の金利に依る商品の例です10。1 回ごとの利息が、その時点の金利だけでなく、それまでの金利の動き方にも依るため、経路依存型の商品にあたります。

仕組商品に組み込まれる理由

金利エキゾチックは、仕組商品に組み込まれて取引されることがあります。仕組商品は、貸出、預金、債券にスワップやオプションを組み合わせた商品です。仕組商品には、投資家がオプションを売ってプレミアムを受け取ったり、利息にレバレッジを掛けたりして、高めの利回りを狙うものが多くあります11。米国の仕組債に組み込まれたオプションの多くは、投資家から発行体に売られたキャップ、フロア、期限前償還の権利です12。債券や預金をデリバティブに分けて考える方法は、仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。

投資家発行体相手方スワップの相手元本利息1 年 LIBOR + α10 年スワップレート
図 1CMS 債の発行体がスワップの相手とカバー取引をする流れ
図の説明

日本銀行の仕組商品の資料にある CMS 債の例をもとにした、投資家、発行体、スワップの相手の受け払いです。投資家は発行体に元本を払い、発行体から 10 年スワップレートから α を引いた利息を受け取ります。α は、市場の金利の水準や参加者の信用力などを映す調整の幅です。発行体はスワップの相手に 1 年 LIBOR に α を足した金利を払い、スワップの相手から 10 年スワップレートを受け取ります。発行体は、投資家に払う利息のうち 10 年スワップレートに連動する分を、スワップの相手から受け取る分で賄います。

図 1 のとおり、発行体は、投資家に払う利息のもとになる 10 年スワップレートを、スワップの相手から受け取ります。この発行体とスワップの相手との取引をカバー取引といいます。利息を 0% 以上に保つ保証(ゼロフロア)も、投資家が発行体から買い、発行体は同じ形のフロアをスワップの相手から買っています13。図の 1 年 LIBOR は資料の時点の例で、この例は資料の時点のものです。

投資家の側では、商品が前提にした方向に金利が動けば利回りが上がり、逆に動けば下がります。日本銀行の資料の CMS 債では、利息は長期金利が上がると増えます。一方で、イールドカーブが上がりながら平らになると、債券の価格が下がり、投資家が資金を調達するコストと比べた利鞘が縮むか逆鞘になることがあります14。米国連邦準備制度の手引によると、レンジアクルーアルの債券は、金利が範囲の中で安定していればほかの変動利付の債券より利回りが高く、金利の動きが大きく範囲を外れると低くなります15。

評価とリスク管理が難しい理由

デリバティブの多くは価格を式で表せないため、モンテカルロ法などの数値計算で価格を求めるのが一般的です。ただし、計算の正確さと速さは、一般には両立しません16。2010 年の日本銀行金融研究所の論文は、実務では金利のオプションの価格を、イールドカーブの動きを表す金利の期間構造モデルで求めることが多いとしています。この論文は、取引の件数が増え、商品の期間が長くなるにつれて、そのモデルに基づく計算の負荷を軽くし、計算を安定させることが望まれているとしています。期間構造モデルのうち、論文の時点で実務でも多く使われていた LIBOR マーケット・モデル(LMM)には、次の課題があります17。

  • モンテカルロ法で実装することが多く、計算の負荷が比較的大きくなります。
  • 満期の前に行使できる権利を評価するには、最小二乗モンテカルロ法などの計算の工夫が要ります。負荷がさらに増えるうえ、計算の過程で置く回帰式によっては、計算した価格に偏り(バイアス)が出やすくなります。
  • 市場のボラティリティが行使価格によって違う(スマイルがある)と、モデルを市場の価格に合わせる作業が複雑になります。

同じ論文の検証では、対数正規型の LIBOR マーケット・モデルとシングルファクターのマルコフ関数モデルを同じ市場のデータに合わせても、バミューダン・スワップションの算出価格は必ずしも等しくなりませんでした。ただし、両モデルの評価の差は、実務上許容できる程度に小さいとされています。スマイルがある設定では、算出価格の水準が正確かを厳密に評価するのは容易ではないとしています18。

CMS には、コンベキシティ調整と呼ばれる調整が要ります。受け取る時点の期待値として見たスワップレートが、今の市場から求めた先のスワップレートと一般には一致しないためです19。CMS スプレッド・オプションのように複数の原資産を持つ商品は、原資産どうしの相関の影響を受けます。この相関のリスクは、原資産が 1 つの商品にはないリスクです20。

売買の面でも、仕組商品には市場の流動性がかなり低いものが少なくありません。売却が常に成り立つとは限らず、実際の売却価格が理論価格をかなり下回ることもあります21。

この章のページを読む順番

この章の各ページは、金利スワップ、金利スワップの時価評価、キャップとフロア、スワップションを前提にしています。そのあとは、表の分け方ごとに次の順に読むと、前のページの説明を土台にできます。権利を行使できる時点が複数ある商品では、バミューダン・スワップションを先に、コーラブル・スワップを後に読みます。参照する金利が長期のスワップレートである商品では、CMS を先に、CMS スプレッド・オプションを後に読みます。レンジアクルーアルとスノーボールは、どちらから読んでもかまいません。各ページへは、下の関連ページから移れます。

注

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4330.1「Options」の 2 ページ、「Exotic Options」。 ↩

  2. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 6 ページ、「(2)リバース・フローター債」の設例(ゼロフロアとマルチコーラブル)。 ↩

  3. 日本銀行金融研究所 太田晴康「マルコフ関数モデルによる金利オプションの価格付けの実用化」(「金融研究」2010 年 10 月)の 133 ページ、脚注 3。 ↩

  4. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4340.1「Swaptions」の 1 ページ、「Cancelable Swaps」。 ↩

  5. 日本銀行金融研究所 田中敬一・山田健・渡部敏明「金利派生商品の効率的な価格付け:確率密度関数の近似を用いて」(「金融研究」2006 年 10 月)の 9 ページ、「(1)CMS」。 ↩

  6. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 8 ページ、「(3)CMS(constant maturity swap*)債」。 ↩

  7. 日本銀行金融研究所 中村一岳「相関デリバティブのリスク特性やリスク管理手法に関する考察」(ディスカッション・ペーパー No. 2003-J-7)の 3 ページ、「スプレッド・オプション」。 ↩

  8. FINRA「Regulatory Notice 12-03」(2012 年 1 月)の 4 ページ、複雑な商品の例。 ↩

  9. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 4〜5 ページ、「Range Notes」。 ↩

  10. 日本銀行金融研究所 太田晴康「マルコフ関数モデルによる金利オプションの価格付けの実用化」(「金融研究」2010 年 10 月)の 136 ページ、脚注 9。 ↩

  11. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 3 ページ、「1.仕組商品とは」。 ↩

  12. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1999 年 3 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 1 ページ、「General Description」。 ↩

  13. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 9 ページ、「基本的な仕組み[CMS債]」。 ↩

  14. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 8 ページと 10 ページ、「CMS債のリスク特性」。 ↩

  15. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4040.1「Structured Notes」の 5 ページ、「Range Notes」。 ↩

  16. 日本銀行金融研究所 田中敬一・山田健・渡部敏明「金利派生商品の効率的な価格付け:確率密度関数の近似を用いて」(「金融研究」2006 年 10 月)の 2 ページ、「1.はじめに」。 ↩

  17. 日本銀行金融研究所 太田晴康「マルコフ関数モデルによる金利オプションの価格付けの実用化」(「金融研究」2010 年 10 月)の 132 ページ、「1. はじめに」。 ↩

  18. 同じ論文の 163〜164 ページ、「イ. キャプレットにフィッティングした場合」と表 10・表 11 の後の説明。 ↩

  19. 日本銀行金融研究所 田中敬一・山田健・渡部敏明「金利派生商品の効率的な価格付け:確率密度関数の近似を用いて」(「金融研究」2006 年 10 月)の 2 ページと 10 ページ。 ↩

  20. 日本銀行金融研究所 中村一岳「相関デリバティブのリスク特性やリスク管理手法に関する考察」(ディスカッション・ペーパー No. 2003-J-7)の 1 ページ、「1.はじめに」。 ↩

  21. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 30 ページ、「(1)購入前の検討(続き)」。 ↩

  22. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 29 ページと 34 ページ、「4.リスク管理のポイント」。 ↩