輸出入企業で為替のヘッジを検討する人は、ノックアウト付きの通貨オプションを、銀行の提案や契約書の条件と照らして読む場面があります。TARF やパワー・リバース・デュアル債を契約する投資家は、損益の形を、契約の条件と照らして読む場面があります。

為替エキゾチックの 5 つの型

為替エキゾチックは、仕組みと使い手で次の 5 つの型に分かれます。通貨オプションに条件を足したもの、オプションを組み合わせたもの、為替予約を連ねたものは店頭デリバティブとして取引し、債券に組み込んだものは仕組債として投資家に販売します。

型 仕組みの要点 主な使い手
ノックアウト付きの通貨オプション 相場が決めた水準に触れると権利が消える 輸出入企業のヘッジ
デジタルとワンタッチ 相場が水準を超えたか、期間中に触れたかで決まった額を受け取る 相場の見方に沿った取引
ゼロ・コスト・オプション オプションの買いと売りを組み合わせ、プレミアムの受け払いをなくす 相場の見方に沿った取引
TARF(ターゲット・リデンプション・フォワード) 何回かの予約を連ね、利益の累計が目標に届くと終わる 投資家
パワー・リバース・デュアル債 利息が為替相場で変わる債券 投資家

バリアやデジタルを付けた通貨オプション

ノックアウト付きの通貨オプションは、相場が決めた水準(ノックアウトの水準)に一度でも達すると権利が消える通貨オプションで、バリア・オプションの一種です1。権利が消える分だけプレミアムが小さくなり、買いやすくなります2。通貨オプションの呼び方とプレミアムの表し方は通貨オプションで扱います。行使価格 94 円、ノックアウトの水準 97 円の架空の例で考えます。輸出企業が、ドルを売る権利(ドル・プット(円・コール))を買ったとします。満期までに相場が 97 円に達すると権利は消えますが、そのときは市場で 97 円でドルを売れます。97 円に達しないまま満期の相場が 94 円を下回れば、権利を行使して 94 円でドルを売ります2。

バリアの種類、監視の方法、売り手のヘッジの難しさはバリア・オプションで扱います。

デジタル・オプションは、満期の相場が決めた水準を上回るか下回るかだけで、決まった額を受け取るオプションです。為替では、期間中に相場が一度でも水準に触れれば決まった額を受け取るワンタッチもあります3。ワンタッチは、水準に初めて触れた時点で受け取りが決まり、それより後の値動きで受け取りは増えません4。

ゼロ・コスト・オプション

ゼロ・コスト・オプションは、複数のオプションを組み合わせ、売るオプションで受け取るプレミアムと、買うオプションで払うプレミアムを相殺して、プレミアムの受け払いをなくした取引です。組み合わせるオプションは、想定元本、行使価格、期間、コールとプットの別が違ってよく、店頭で取引されます5。

ドルの値上がり(円安)を見込む取引では、ドルのコール・オプションの買いと、ドルのプット・オプションの売りを組み合わせます。2 つのプレミアムが同じ額なら、プレミアムの負担なしに値上がりに備えられます6。どちらも行使価格 1 ドル 140 円、額 10 万ドルの架空の例で考えます。満期の相場が 150 円なら、コールを行使して 140 円でドルを買え、直物で買うのと比べて (150 − 140) × 10 万ドル = 100 万円の得です。満期の相場が 130 円なら、売ったプットが行使されて 140 円でドルを買うことになり、100 万円の損です。損失は円高が進むほど広がり、相場が下がり続けるかぎり止まりません6。

−30−20−100+10+20+30140損益(円)満期のドル円相場(円)利益損失損益分岐点 140
図 1ゼロ・コスト・オプション(コールの買いとプットの売り)の満期の損益
図の説明

行使価格が同じ 140 円のドルのコールの買いとプットの売りを合わせた、1 ドルあたりの満期の損益です。プレミアムの受け払いはないものとして描いています。満期の相場が 140 円のとき損益は 0 で、140 円より円安なら相場が 1 円上がるごとに損益が 1 円増え、140 円より円高なら 1 円下がるごとに 1 円減ります。たとえば相場が 150 円なら 10 円の利益、130 円なら 10 円の損失で、10 万ドルでは本文の 100 万円の得と損に当たります。円安の側にも円高の側にも、損益の上限と下限は描かれていません。

輸入の代金を払うためにドルを買う企業が、代金と同じ額でこの組み合わせを持つと、代金と合わせたドルの買値は、円安でも円高でも 140 円に決まります。円安のときは直物より安くドルを買え、円高のときは、直物で買えば安く済んだ分を得られません。代金より大きい額のプットを売ったときは、代金を超える分の損失が円高とともに膨らみます。

利益の累計が目標に届くと終わる TARF

TARF は、決まった日ごとに決めた相場で通貨を売買する予約を何回か連ね、利益の累計があらかじめ決めた目標(ターゲット)に届くと、残りの予約がすべて消える取引です7。各回の受け払いが、その日の相場だけでなく、それまでの利益の累計で変わるため、経路依存型のオプションと同じく、相場のたどった経路で結果が変わります8。多くの TARF では、相場が不利な側にあるときに受け渡す額が、有利な側の 1 倍か 2 倍に決められています7。

毎月 10 万ドルの輸入の代金を払う Q 社が、R 銀行と TARF を結ぶ架空の例で考えます。観測は月に 1 回で計 4 回、行使価格は 1 ドル 140 円です。観測日の直物相場が 140 円より円安なら、Q 社は 10 万ドルを 140 円で買います。140 円より円高なら、Q 社は 20 万ドルを 140 円で買います。Q 社の利益の累計は、円安の回の「直物相場 − 140 円」を 1 ドルあたりで足したもので、10 円に届いたら取引は終わります。

届いていない届いた利益の累計は、目標の 10 円に届いたか取引は終わり残りの予約は消えるはい円高観測日の直物相場は、140 円より円安か20 万ドルを140 円で買う(累計は増えない)10 万ドルを140 円で買い差を累計に足す
図 2例の TARF の各回の判定
図の説明

図は、例の TARF の各観測日に、Q 社の受け渡しがどう決まるかを 2 つの質問で順に確かめます。最初に、利益の累計が目標の 10 円に届いたかを確かめます。届いたなら、取引は終わり、残りの予約は消えます。届いていなければ、観測日の直物相場が 140 円より円安かを確かめます。円高なら、Q 社は 20 万ドルを 140 円で買い、利益の累計は増えません。円安なら、10 万ドルを 140 円で買い、直物相場と 140 円の差(1 ドルあたり)を利益の累計に足します。円安の側は目標で終わり、円高の側は取引が続いて受け渡す額が 2 倍になる、という非対称が読み取れます。

円安が進むと、Q 社は 2 回目で目標に届き、取引は終わります。直物で買うのと比べた差は、1 回目が (144 − 140) × 10 万ドル = 40 万円、2 回目が 60 万円の得です。

回 直物相場(円) Q 社が 140 円で買うドル(万ドル) 直物で買うのとの差(万円) 利益の累計(円)
1 144 10 40 4
2 146 10 60 10
3 150 0 0 終了
4 152 0 0 終了

目標に届くと、3 回目と 4 回目の予約は消えます。Q 社は、3 回目と 4 回目の代金のドルを、150 円や 152 円の直物相場で買うことになります。円安が進んだ場面ほど、代金のドルを決めた相場で買える回が早くなくなります。

円高が進むと、利益の累計は 0 のままで、取引は 4 回とも続きます。Q 社は毎回 20 万ドルを 140 円で買い、直物で買うのと比べた差は、1 回目が (136 − 140) × 20 万ドル = −80 万円です。

回 直物相場(円) Q 社が 140 円で買うドル(万ドル) 直物で買うのとの差(万円) 利益の累計(円)
1 136 20 −80 0
2 132 20 −160 0
3 130 20 −200 0
4 134 20 −120 0

4 回の差の合計は −560 万円で、Q 社は、代金に要る 40 万ドルの 2 倍の 80 万ドルを買います。この例では、円安の側の得は利益の累計が目標の 10 円に届いたところで止まる一方、円高の側の損失は、円高が進むほど広がり、上限がありません。香港では、投資家向けに販売された為替の TARF で、利益が目標で限られる一方で損失に上限がなく、受け渡す額を変える条件(レバレッジ)で損失が大きくなるものが、当局の検査で取り上げられました9。

投資家向けのパワー・リバース・デュアル債

パワー・リバース・デュアル債(PRD 債)は、元本を円で払い戻し、利息を利払いのときの為替相場に応じて変える債券です。利息は円安なら高く、円高なら低くなり、0% を下回らない条件を付けます。発行体は利払いごとに期限前に償還する権利を持ち、投資家はこの権利を売った対価を利回りの上乗せとして受け取ります11。

中小企業向けの為替デリバティブの問題

銀行が中小企業に販売した為替デリバティブでは、円高で企業の損失が膨らみました。金融庁は、2004 年度以降に販売された中小企業向けの為替デリバティブ(米ドル/円)について、121 の銀行に聞き取り調査をし、2011 年 3 月に速報値を公表しました。2004 年度から 2007 年度までは毎年度約 12,000 件が販売され、2010 年 9 月末に契約を持つ企業は約 1 万 9 千社でした。輸入企業の典型的な契約は、円安なら利益、円高なら損失になり、主要行等の集計できた契約の通算の損益は約 1,400 億円の損失(1 契約あたり約 600 万円の損失)でした。2010 年 1 月以降に銀行に寄せられた苦情は 548 件、約 300 社からでした12。

銀行との取引のトラブルは、全国銀行協会などが運営する金融 ADR 機関(裁判の外で紛争を解決する機関)に持ち込め、弁護士など中立の専門家が解決の手続きを進めます13。

注

  1. 日本銀行金融市場局「通貨オプション取引の増加と市場取引への影響」(日銀レビュー、2007 年 11 月)の 6 ページ(ノックアウト・オプションが失効するノックアウト・レートを「バリア・ポイント」と併記)。 ↩

  2. 金融先物取引業協会「金融先物取引の知識」(2015 年 4 月)の 118 ページ、Part 2「金融オプション取引」の「e.ノックアウト・オプション」。例の行使価格 94 円とノックアウトの水準 97 円は、資料の例と同じ値です。 ↩ ↩2

  3. 金融先物取引業協会「金融先物取引の知識」の 116 ページ、「c.バイナリーオプション」の条件の①(一定時期に目標価格を上回るか下回るか)と②(一定期間内に一度でも目標価格を上回るか下回るか)。 ↩

  4. New York University Courant Institute の講義資料 "American Options"(Lecture 8)の 1.9.1 節 "One-touch options"(22 ページ)。 ↩

  5. 金融先物取引業協会「金融先物取引の知識」の 117 ページ「d.ゼロコスト・オプション」と、88 ページの「店頭においては、複数のオプションの売付と買付を組み合わせることによりオプション料授受の伴わないゼロ・コスト・オプションも取引されています」。 ↩

  6. 金融広報中央委員会「3-5 オプション取引活用の例」の「値上がり予想のとき」。資料は、コールの買いとプットの売りを同時に持つ組み合わせを「ゼロ・コスト・オプション」と呼び、値下がりしたときの損失は「無制限に拡大します」としています。 ↩ ↩2

  7. Shouvanik Chakrabarti ほか "A Threshold for Quantum Advantage in Derivative Pricing"(Quantum、2021 年)の付録 A.5(25 ページ)。不利な側の受け払いに掛ける定数 α は「1 か 2 のことが多い」と書かれています。 ↩ ↩2

  8. Xiaolin Luo、Pavel V. Shevchenko "Pricing TARN Using a Finite Difference Method"(2013 年)の 1 章(2 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  9. Securities and Futures Commission "Findings of concurrent SFC-HKMA thematic review of the distribution of non-exchange traded investment products"(2024 年 4 月 18 日)の Annex 1、4 ページの (ii) と脚注 3。 ↩

  10. Xiaolin Luo、Pavel V. Shevchenko "Pricing TARN Using a Finite Difference Method" の 2 章(3〜4 ページ)。資料は 3 つの型を full gain、no gain、part gain と呼んでいます。 ↩

  11. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」(2019 年)の 4 ページ「(1)PRD(power reverse dual)債」と 5 ページの「基本的な仕組み」。 ↩

  12. 金融庁「中小企業向け為替デリバティブ取引状況(米ドル/円)に関する調査の結果について(速報値)」(2011 年 3 月 11 日)の 1〜3。損益は、主要行等の集計できた契約の通算値で、1 契約あたりは、資料が示す契約数(約 2 万 5 千件)あたりの値です。 ↩

  13. 金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」の裏面、「金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)について」。 ↩

  14. 金融先物取引業協会「金融先物取引の知識」の 256 ページ、用語「不招請勧誘」。 ↩

  15. 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅡ-3-2-1-2(2)①イの f とその(注)(87 ページ)。例外の根拠は、金融商品取引業等に関する内閣府令第 116 条第 2 号です。 ↩