輸出入企業が為替のヘッジでプレミアムを抑える場面と、金融機関が売ったバリア付きの取引の価格とヘッジを管理する場面で出てくる商品です。

ダブル・ノックアウト

ダブル・ノックアウトは、今の相場の上と下にバリアを 1 つずつ置き、どちらかに触れると権利が消えるバリア・オプションです1。バリアの 4 種類とイン・アウト・パリティの一般論は、バリア・オプションで扱います。為替の取引の約定書の条項も、バリアを上下 2 つ持つ型を単独のバリアの型と並べて扱います2。逆に、どちらかに触れて初めて権利が生まれるものがダブル・ノックインで、同じ行使価格、満期、バリアの組なら、ノックインとノックアウトの価格を足すとバニラ・オプションの価格になります3。

ダブル・ノックアウトの受け取りは、片側のバリアしか持たない同じ条件のノックアウトより増えません。バリアが 1 つ増えた分だけ、権利が消える経路が増えるためです。権利が消える分だけプレミアムが小さくなる点は、片側のバリアと同じです4。ブラック・ショールズ・モデルの前提では、バリアが 1 つのノックアウトに解析解がある一方、ダブル・ノックアウトの解は無限級数の形で、ほとんどの項はすぐに 0 に近づきます1。

輸入企業の K 社が 6 か月後に 100 万ドルを買う予定の、架空の例で考えます。K 社は、ドルのコール(円のプット)を行使価格 148 円、下のバリア 140 円、上のバリア 160 円で買います。今の直物相場は 1 ドル = 150 円で、プレミアムは除いて受け取りだけを比べます。

経路 権利 満期の受け取り
140〜160 円の間で動き、満期に 155 円 残る (155 − 148) × 100 万ドル = 700 万円
140〜160 円の間で動き、満期に 145 円 残る 行使せず 0 円
期間中に 160 円に触れ、満期に 165 円 消える 0 円。165 円で買う
期間中に 140 円に触れ、満期に 155 円 消える 0 円。155 円で買う

3 行目と 4 行目は、バニラのコールなら 1,700 万円と 700 万円を受け取れる経路です。バリアに触れたあとは権利がないため、K 社は円安の損失に備えられません。同じ行使価格のバニラ・コールより安く買える代わりに、この経路の受け取りを手放しています。

ノックアウト付きフォワード

ノックアウト付きフォワードは、為替予約と同じく決めた日に決めた相場で通貨を売買する取引に、相場がバリアに一度でも触れると取引が消える条件を付けた取引です。バリアに触れなければ予約の相場で売買し、触れれば決済はありません。

プレミアムの受け払いをなくす考え方は、ゼロ・コスト・オプションと同じです5。ノックアウト付きのオプションを使った具体的な組み方は、ゼロ・コストの定義とバリア・オプションの式からの筆者の組み立てです。

組み方は、同じ行使価格、バリア、満期のノックアウト付きのコールを買い、ノックアウト付きのプットを売り、2 つのプレミアムが等しくなる行使価格を選ぶ形です。K 社が 6 か月後のドル買いを例にすると、次の条件で、バリアを上の 160 円に置いたとき、行使価格は約 143.2 円になります6。

条件 値
今の直物相場 1 ドル = 150 円
満期 6 か月
円の金利、ドルの金利 年 0.5%、年 4%
ボラティリティ 年 10% で一定
バリア 160 円。常に見る
通常のフォワードの相場 約 147.4 円
ゼロ・コストになる行使価格 約 143.18 円

行使価格を 143.2 円にすると、1 ドルあたりのプレミアムは、ノックアウト付きのコールが 2.29 円、ノックアウト付きのプットが 2.30 円で、ほぼ相殺します6。K 社が買う価格は、通常のフォワードより約 4.2 円、100 万ドルで約 420 万円有利です。この有利さは、バリアに触れたときに手放す価値に当たります。同じ行使価格のバニラ・コールは 6.52 円、バニラ・プットは 2.33 円です。バリアに触れて権利が消える分は、コールが 4.23 円、プットが 0.03 円です6。その差の約 4.2 円が、行使価格の改善分とほぼ同じです。

この有利さは、この条件でバリアを上の 160 円に置いたときのものです。バリアを今の相場より下の 140 円に置くと、ゼロ・コストの行使価格は約 153.74 円になり、通常のフォワードより不利です6。また、ここで示した値は、連続監視の解析解による理論値で、実際の取引の価格ではありません。

−20−100+10+20143.2損益(円)満期の直物相場(円)利益損失損益分岐点 143.2
図 1バリアに触れなかったときのノックアウト付きフォワードの満期の損益
図の説明

K 社が 1 ドル 143.2 円でドルを買う予約について、バリアの 160 円に期間中一度も触れなかったときの、満期の損益を 1 ドルあたりで表した図です。横軸は満期の直物相場で、直物でドルを買う場合と比べた損益は、相場が上がるほど同じ幅で増える直線です。143.2 円で 0 になり、それより円安なら利益、円高なら損失です。期間中に 160 円に触れると取引は消えるため、この図は当てはまりません。

K 社の 100 万ドルの買いで、満期の直物相場と、バリアに触れたかどうかによる支払いは次のとおりです。通常のフォワードは約 147.4 円で、1 億 4,740 万円を払います。

経路 ノックアウト付きフォワード K 社が払う円 通常のフォワードと比べた得と損
160 円に触れず、満期に 155 円 143.2 円で買う 1 億 4,320 万円 +420 万円
160 円に触れず、満期に 140 円 143.2 円で買う 1 億 4,320 万円 +420 万円
160 円に触れ、満期に 165 円 取引は消え、直物で買う 1 億 6,500 万円 −1,760 万円
160 円に触れ、満期に 150 円 取引は消え、直物で買う 1 億 5,000 万円 −260 万円

触れなかった経路では、満期の相場が円高に進んでも 143.2 円で買う義務が残り、円高が進むほど、直物で買う場合との差の損失が広がります。触れた経路では、K 社は取引が消えたあとに、為替の手当てをやり直す必要が出ることがあります7。

ノックインを使う似た組み方に、バニラ・オプションの買いと、ノックイン・オプションの売りを組み合わせたフォワード・エキストラがあります。こちらは、バリアに触れたときに売ったオプションが生まれ、行使価格で通貨を買う義務を負います8。触れると消えるか、触れると生まれるかで、義務や権利が残る場面が入れ替わります。利益の累計が目標に届くと終わる TARF は、TARFで扱います。

リバース型

リバース・ノックアウトは、コールならバリアを行使価格より上に置く、アップ・アンド・アウトのコールです1。日本銀行の解説の注 5 は、バリアを権利が行使できる側(イン・ザ・マネー側)に置いたリバース・ノックアウトを扱っています9。ノックアウト付きフォワードの買いのコールは、行使価格 143.2 円に対してバリアが 160 円にあるため、この型です。

この型は、相場が有利な方向に進むほど受け取りが増えながら、バリアに触れた瞬間に 0 になります。K 社の例で、行使価格 148 円のコールにバリア 160 円のリバース型を持つと、満期の相場が 159.9 円なら 1 ドルあたり 11.9 円を受け取れますが、期間中に 160 円に触れたあとは 0 です。バリアがなければ、159.9 円から相場がさらに上がるほど受け取りは増え続けます。

プレミアムは返さないことが原則です。約定書でリバース・ノックアウトのプレミアムを割り戻す形にする例があります10。

バリアの監視の方法

外国為替委員会(FXC)の 2005 年の解説では、為替のバリア・オプションの約定書に使う条項が 2 つの型に分かれます。常に監視する型(non-discrete、spot market の型)は、特定のレート提供元を決めず、世界の直物市場の実際の取引から求めた相場で、バリアに触れたかを判定します。判定の対象になるのは、直物市場が続けて開いている時間で、週の初めはシドニーの月曜の午前 5 時、終わりはニューヨークの金曜の午後 5 時です11。

もう 1 つの離散型(discrete)は、約定書にレートの提供元(Barrier Event Rate Source)を決め、そのレートが公表される日にだけ判定します。主要通貨ならその通貨の参照レート、新興国の通貨なら、ノンデリバラブルの取引の決済に使うレートを提供元にする例があります。レートが出るはずの日に出なかったときは、市場の慣行として、その日も判定の日として扱い、流動性のある直物市場で相場を探します12。どちらの型でも、判定の日を週の特定の曜日に限ることができます12。

ワンタッチの受け取り

ワンタッチは、期間中に相場があらかじめ決めた水準に一度でも触れると、決めた額を受け取るオプションです。行使価格を持たず、受け取りの額が固定のため、為替の一世代目のエキゾチックでは、行使価格を持つバリア・オプションとは別の型に分けられます14。上下 2 つの水準のどちらかに触れれば払うダブル・ワンタッチは、ダブル・ノックインのコール・スプレッドとプット・スプレッドの買いから求められます14。

為替のバリアとデジタル(ワンタッチとノータッチ)は、約定書の条項が共通で、バリアに触れたかを判定する決まり(連続か離散か、レートの提供元、向き)は同じです2。ノータッチは、期間中に一度も触れなければ決めた額を払うオプションで、ノックアウトのバリア・オプションが消えない条件と同じ条件です。

ノックアウトの権利が残る確率にあたる、バリアに触れない確率は、そのノータッチの価格を割引係数で割った値に等しくなります15。スマイルの補正は、この確率を使って弱められます。

スマイルとバリアの価格

ブラック・ショールズ・モデルは、ボラティリティが満期まで一定と仮定しますが、実際の相場では変わります。2010 年に改訂された Bossens らの論文によると、為替の市場でこのモデルの価格は、参照の気配として使われます。取引する当事者が同じオプションの話をしていることを確かめるためです16。バリア・オプションの価格には、ブラック・ショールズの価格にスマイルの補正を足す方法が広く使われます17。補正の方法で、バリアの価格は変わります。

その方法の 1 つがバナ・ボルガ法です。ATM のオプション、リスクリバーサル、バタフライという、流動性の高い組み合わせの市場価格を使います。バリア・オプションのベガ、バナ、ボルガを打ち消す組み合わせについて、スマイルを含めた市場の価格とブラック・ショールズの価格との差を求めます。その差を、ブラック・ショールズの価格に足します18。バナは相場が動いたときのベガの変化、ボルガはボラティリティが動いたときのベガの変化です。リスクリバーサルは主にバナを、バタフライは主にボルガを持ちます18。

バリアが今の相場に近いと、バナは大きく、ボルガは小さくなります19。補正は、リスクリバーサルとバタフライの建値から求めた差に、そのオプション自身のバナとボルガ、弱め方の係数を掛けて足します。補正をそのまま足すと大きくなりすぎるため、市場の慣行として、バリアに触れない確率や、バリアの外へ最初に出るまでの期待時間で補正を弱めます20。この弱め方の強さを、ワンタッチの価格だけに合わせて決める簡単な方法は、ほかの商品も含めて合わせて決めた結果ともよく合いました21。

評価の方法でバリアの価格は変わります。同じ論文で、ワンタッチの価格を比べた図では、ローカル・ボラティリティと、ヘストンの確率ボラティリティのどちらのモデルも、満足できる結果になりませんでした。商品ごとにどちらが近いかを数えた単純な比較もあります。論文が使った市場データでは、スキューが大きいドル円はローカル・ボラティリティが近い商品が多くなりました。スキューが小さいドル・スイスフランは、確率ボラティリティが近い商品が多くなりました22。バニラ・オプションの市場に合わせたモデルでも、バリアの価格が合うとは限りません。バニラの市場には、スマイルがこれからどう動くかの情報がないためです。

ノックアウト前後のヘッジ

為替では、ヘッジの売買が直物市場の取引そのものになります。日本銀行の 2007 年の解説では、顧客に円売りドル買いのリバース型のノックアウト付きオプションを売った金融機関は、バリアに近づくと直物のヘッジの方向を変えます。触れて権利が消えると、その持ち高を急いで解消します7。

権利が消えた後の顧客の動きも、相場に影響します。権利を失った顧客が新たに為替の手当て(オプションの購入や為替予約)をすると、再び相場の変動を大きくする方向に働きます7。K 社のように、バリアに触れたあとで取引をやり直す必要がある顧客が同じ水準に多いと、その水準の周りの相場の動きを短い間だけ大きくするおそれがあります。

影響の大きさは満期までの長さで変わります。満期までの期間が長いほど、金融機関のヘッジの直物取引の振れ幅が小さく、権利が消えた後の顧客の手当ても緩やかに進むため、相場への影響は小さいとみられます24。同じ資料は、2007 年前半に、円安方向のバリアに触れて権利が消えた円売りドル買いのオプションが、ある程度あったとみられると伝えています。直物の取引への影響はあまり見られなかったという市場関係者の声も伝えています25。

注

  1. Frédéric Bossens ほか "Vanna-Volga methods applied to FX derivatives: from theory to market practice"(arXiv:0904.1074、第 3 版、2010 年 5 月)の 2 章(3 ページ)。リバース・ノックアウトとダブル・ノックアウトの定義、ダブルの解(無限級数)。 ↩ ↩2 ↩3

  2. Foreign Exchange Committee(FXC)"Practice Notes to the 2005 Barrier Option Supplement"(2005 Annual Report)161・165 ページ、Section 3.9(e)(f)(k)(q)。二重のバリアの型と、上下のバリアの定義。 ↩ ↩2

  3. Bossens ほかの 2 章(3 ページ)と 5 章(12 ページ)。ノックアウトとノックインを足すとバニラに等しい関係と、ダブルのバリアの場合。 ↩

  4. 日本銀行「通貨オプション取引の増加と市場取引への影響」(日銀レビュー、2007 年 11 月)の 2 ページ。権利を失うことを引き受ける見返りに、オプション料が安くなる説明。 ↩

  5. 金融先物取引業協会「金融先物取引の知識」(2015 年 4 月)の 117 ページ「d.ゼロコスト・オプション」と 88 ページ。オプション料の授受を伴わなくした取引の定義。 ↩

  6. ブラック・ショールズ・モデルの為替の形で、ボラティリティ 10%、円の金利 0.5%、ドルの金利 4%、満期 0.5 年、連続監視の解析解(リベートなし)により計算し、小数第 2 位に丸めた値。金利は連続複利で、通常のフォワードは 150 × e^((0.005 − 0.04) × 0.5) = 約 147.40 円。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  7. 日本銀行「通貨オプション取引の増加と市場取引への影響」の 3〜4 ページと BOX(4 ページ)。売り手の金融機関のヘッジの方向の変更と、権利を失った顧客の手当てによる変動の増幅。 ↩ ↩2 ↩3

  8. John Mark Caruana ほか "Built-in Premium Effects within Exotic FX Options"(2017 年)の 40 ページ "Constructing a Forward Extra" と 41 ページ。買うバニラと売るノックインの組み合わせ。 ↩

  9. 日本銀行「通貨オプション取引の増加と市場取引への影響」(日銀レビュー、2007 年 11 月)6 ページの注 5。イン・ザ・マネー側にノックアウト・レートを設定するリバース・ノックアウトの扱い。 ↩

  10. FXC "Practice Notes to the 2005 Barrier Option Supplement"(Foreign Exchange Committee、2005 年)163 ページ、Section 3.4(c)。プレミアムを返さない原則と、リバース・ノックアウトで割り戻す形を約定書に書く例。 ↩

  11. FXC の同解説の 164〜165 ページ、Section 3.9(c)(ii)、3.9(n)(ii)、3.9(p)。非離散型の判定の相場と、直物市場が続けて開いている時間(月曜のシドニー午前 5 時から金曜のニューヨーク午後 5 時)。 ↩

  12. FXC の同解説の 163〜165 ページ、Section 3.9(c)(i)、3.9(d)、3.9(n)(i)。離散型の提供元と判定の日、レートが出なかった日の扱い、判定の日を曜日に限る例(毎週水曜)。 ↩ ↩2

  13. FXC の同解説の 162〜166 ページ。Section 3.1(h)(Barrier Determination Agent)、3.9(e)(k)(q)(バリアの水準)、3.9(o)(向き)、3.9(l)(通知の方法)。 ↩

  14. Bossens ほかの 2 章(3 ページ)。為替の一世代目のエキゾチックの分類と、ワンタッチ、ダブル・ワンタッチの定義、ダブル・ワンタッチの価格をダブル・ノックインのスプレッドから求める方法。 ↩ ↩2

  15. Bossens ほかの 5.1 節(13 ページ)の式(37)と(38)。バリアに触れない確率と、ノータッチの価格を割引係数で割った値の関係。 ↩

  16. Bossens ほかの 1 章(1 ページ)。論文の時点で、ブラック・ショールズの理論価格は参照の気配としてだけ使われるという記述。 ↩

  17. Bossens ほかの 7 章(23 ページ)。バナ・ボルガ法を、為替のエキゾチックの評価で広く使われる方法("a popular pricing tool")とする記述。 ↩

  18. Bossens ほかの 1 章(2 ページ)と 4 章(8〜10 ページ)。バナ・ボルガ法の補正の求め方と、バナ、ボルガの定義。 ↩ ↩2

  19. Bossens ほかの 5 章(12 ページ)。バリアが今の相場に近づくときの、バナ(大きい)とボルガ(小さい)の関係。 ↩

  20. Bossens ほかの 4.1 節(10 ページ)と 5 章(12〜14 ページ)。バリアに触れない確率か、バリアの外へ最初に出るまでの期待時間を使う減衰の係数。 ↩

  21. Bossens ほかの 6.3 節(22〜24 ページ)。ワンタッチだけに合わせた設定と、すべての商品に合わせた結果がよく合うこと("good agreement")。図 5 の網掛けの外のダブル・ノックアウト。 ↩

  22. Bossens ほかの 6.2 節(20〜21 ページ)。図 4 のモデルの比較、表 2 の商品ごとの近さ、バニラの市場にスマイルの動き方の情報がないという指摘。 ↩

  23. Bossens ほかの 5.5 節(16〜17 ページ)。1 年のドル・スイスフランのワンタッチ(理論価格が約 4%、バリア 1.55)で、σBF25 の 0.5% の誤りが価格を 3% 変える例。 ↩

  24. 日本銀行「通貨オプション取引の増加と市場取引への影響」の 4〜5 ページ。残存期間が長いほど、ヘッジの直物取引の振幅が小さく、顧客の持ち高の再構築も緩やかになるとの見方。 ↩

  25. 日本銀行の同資料の 4 ページ「2007 年前半におけるノックアウト・オプションの影響」と 6 ページ。円安方向のバリアで失効したとみられるオプションと、直物への影響があまり見られなかったという市場関係者の声。 ↩