ルピーなどの借入や投資をヘッジする財務担当や、その取引の決済を担当する人は、NDF のほかに、期間中に何度も受け払いするスワップと、費用を払って片側の動きだけを守るオプションを見ることになります。

NDS の仕組みと NDIRS

ノンデリバラブル・スワップ(NDS)は、スワップの利息や元本を、通貨ごとに決まる決定日の為替相場で米ドルなどの決済通貨に換算して受け払いする取引です。NDS には、金利スワップの形のノンデリバラブル金利スワップ(NDIRS)と、通貨スワップの形のノンデリバラブル通貨スワップ(NDCCS)があります1。

NDIRS は、同じ想定元本について固定金利と変動金利の利息を交換する金利スワップで、差額をドルで払います2。想定元本と金利はルピーなどの通貨で決まりますが、ルピーを受け渡さないので、ルピーを持たずにルピーの金利を取引できます。差額だけを 1 つの通貨で払う点は、NDF と同じです。差額を 1 回払う取引の基本はNDFで扱います。

J 社と I 銀行が、想定元本 8 億 4,000 万インド・ルピー、期間 1 年の NDIRS を結ぶ架空の例で考えます。J 社は固定金利年 6.50% を払い、ルピーの変動金利を受け取ります。半年ごとの受け払いのうち 1 回分で、その期間の変動金利は年 6.00% とします3。

項目 計算 金額
J 社が払う固定の利息 8 億 4,000 万ルピー × 6.50% × 0.5 2,730 万ルピー
J 社が受け取る変動の利息 8 億 4,000 万ルピー × 6.00% × 0.5 2,520 万ルピー
J 社の払う差額 2,730 万 − 2,520 万 210 万ルピー

換算に使う相場を決める日(決定日)は、通貨ごとの定めによります。この 210 万ルピーを、決定日のフィキシング(換算に使う相場)でドルに換えて払います。フィキシングごとの J 社の支払は次のとおりです4。

フィキシング(1 ドル) ルピーの差額 J 社が払うドル
87.50 ルピー 210 万ルピー 24,000 ドル
84.00 ルピー 210 万ルピー 25,000 ドル
80.00 ルピー 210 万ルピー 26,250 ドル

ルピーの差額はフィキシングによらず同じで、ルピー安(フィキシングが大きい)になるほど、ドルでの支払は小さくなります。変動金利が年 7.00% なら、J 社が 210 万ルピーを受け取る側になり、同じフィキシングでドルに換えて受け取ります。金利の動きと為替の動きの両方が、受け払いの金額を決めます。

元本も換算する通貨スワップ(NDCCS)

NDCCS は、ルピーの側の利息と元本をフィキシングでドルに換算して受け払いする取引です5。元本を実際に交換する通貨スワップの基本は通貨スワップで扱います。NDCCS では、ルピーの元本は最終日の換算額で、ドルで受け払いします。

J 社と I 銀行が、ルピーの想定元本 8 億 4,000 万ルピー、ドルの想定元本 1,000 万ドル、期間 3 年の NDCCS を結ぶ架空の例で考えます。J 社は、ルピー建ての債務を負うドル基準の会社で、ルピーの受け取りで債務の支払に備えるとします。J 社はルピーの固定金利年 7.00% を受け取り、ドルの変動金利を払います。利息は年 1 回払い、元本は最終日にだけ受け払いし、すべてドルで決済します。取引時の相場は 1 ドル 84.00 ルピーとします。ルピーの金額は、1 ドルあたりのルピーのフィキシングで割ってドルに換算する形で考えます4。

↑ 受取 ↓ 支払ルピーの側を受け取る J 社から見た、ドルの受け払い1 年後2 年後3 年後未確定ルピーの利息(ドル換算)未確定ドルの利息未確定ルピーの利息(ドル換算)未確定ドルの利息未確定ルピーの元本と利息1,000 万ドル+ドルの元本と利息
図 1J 社から見た NDCCS の受け払い
図の説明

ルピーの側の金額は、それぞれの日のフィキシングで決まるため、取引を結んだ時点では決まりません。ドルの利息も変動金利で決まります。矢印の長さは金額の大きさの目安で、I 銀行の受け払いは、どの時点も J 社と向きが逆です。

1 年後の利息の受け払いは、ドルの変動金利がその期間に年 4.00% だったとして、次のとおりです。

フィキシング(1 ドル) 受け取るルピーの利息(5,880 万ルピー)をドルに換算 払うドルの利息(40 万ドル) J 社の受け払い
87.50 ルピー 67 万 2,000 ドル 40 万ドル +27 万 2,000 ドル
84.00 ルピー 70 万ドル 40 万ドル +30 万ドル
80.00 ルピー 73 万 5,000 ドル 40 万ドル +33 万 5,000 ドル

最終日には、J 社はルピーの元本 8 億 4,000 万ルピーをフィキシングで割ったドルの額を受け取り、ドルの元本 1,000 万ドルを払います6。フィキシングが 87.50 ルピーなら、受け取る額は 960 万ドルで、払う額は 1,000 万ドルです。80.00 ルピーなら、受け取る額は 1,050 万ドルで、払う額は 1,000 万ドルです。2 つの流れの差は、ルピーを買う側の NDF の決済と同じ額です。

差額を受け取るオプション(NDO)

ノンデリバラブル・オプション(NDO)は、通貨オプションのうち、通貨を受け渡さず、権利が価値を持つときの差額だけを、ドルなどの決済通貨で受け取るものです。業界団体 EMTA の雛形では、権利を行使できるのは満期だけのヨーロピアン・オプションで、プレミアムとプレミアム支払日、買い手と売り手を書く欄があります7。権利行使の期限は、フィキシングが決まる時刻で、決済日はフィキシングが決まった日から遅くとも 2 営業日後です。

別の例として、M 社が、3 か月後にルピーを 8 億 4,000 万ルピー受け取る予定で、I 銀行からルピーを売ってドルを買う権利を買う架空の例で考えます。想定元本は 1,000 万ドル、行使価格は 1 ドル 84.00 ルピー、プレミアムは 15 万ドルです。受取額は次の形で考えます8。満期のフィキシングが 84.00 ルピーを超えたとき、M 社は、想定元本にフィキシングと行使価格の差を掛けてルピーの差額を求め、フィキシングでドルに換えた額を受け取ります。

M 社の受取額(ドル)=N×max⁡(S−K,0)S\text{M 社の受取額(ドル)} = N \times \frac{\max(S - K, 0)}{S}

NN は想定元本(ドル)、KK は行使価格、SS はフィキシング(どちらも 1 ドルあたりのルピー)です。この式では、フィキシングが行使価格以下なら受取額は 0 で、M 社が失うのはプレミアムだけです。ルピーを売った代金をフィキシングと同じ相場でドルに換えられるとして、ルピーを換えたドルと NDO の損益を合わせると、次のとおりです。

フィキシング(1 ドル) NDO の受取額 プレミアム ルピーを換えたドル 合計
87.50 ルピー 40 万ドル −15 万ドル 960 万ドル 985 万ドル
84.00 ルピー 0 ドル −15 万ドル 1,000 万ドル 985 万ドル
80.00 ルピー 0 ドル −15 万ドル 1,050 万ドル 1,035 万ドル

ルピー安になっても、M 社の合計は 985 万ドルを下回りません。ルピー高になれば、オプションの買い手として負担するプレミアムの 15 万ドルを差し引いても、ルピーを換えたドルの増加を受け取れます。NDF なら増加を手放す代わりに、プレミアムがかかりません。

プレミアムを含む M 社の損益(万ドル)−20020406078808284868890行使価格フィキシング(1 ドルあたりのルピー)
図 2フィキシングごとの M 社の NDO の損益
図の説明

プレミアム 15 万ドルを含めた、NDO の買い手 M 社の損益を、満期のフィキシングごとに描いています。フィキシングが行使価格 84.00 ルピー以下の左の側では、損失はプレミアムの 15 万ドルで一定です。行使価格を超えると、右へ行くほど損益が増えます。線は、右へ行くほど傾きが緩やかになります。ルピーの差額をフィキシングで割ってドルに換えるためです。損益が 0 になるのは、フィキシングが約 85.28 ルピーのときです。

フィキシングと決済通貨の決め方

NDS の換算と NDO の権利行使に使うフィキシングは、通貨ごとの雛形や標準条件で定まります。スワップ執行ファシリティの tpSEF が 2017 年に示した契約条件は、通貨を 2 つに分けています。フィキシングに NDF の雛形を使う通貨(ブラジル・レアルなど)と、ISDA の NDS の標準条件(Asian terms)に従う通貨(インド・ルピー、マレーシア・リンギット、タイ・バーツ)です。ブラジル・レアルなどの決定日は、支払日の 2 営業日前とされています9。

インド・ルピーの NDO の雛形(2018 年 7 月 10 日発効)では、フィキシングは INR FBIL(INR01)で、ムンバイ時間の午後 1 時 30 分ごろに公表されます。NDF の雛形も同じ INR FBIL(INR01)を使います710。

評価日が営業日でなければ前の営業日にずらし、急に決まった休日があれば次の営業日にずらします。営業日を決める都市は、評価日がムンバイ、決済日がニューヨークです7。フィキシングが公表されないときは、評価の延期、業界の調査による相場、計算代理人(当事者が取引で定める、相場を決める役)の決定の順に、代わりの決め方を当てはめます7。

決済の通貨は、INR の NDO の雛形でも、tpSEF の契約条件でも、清算機関の NDIRS でも、ドルです712。

決済通貨がドルでないときは、EMTA の 2011 年のガイドが、ルピーなど非デリバラブルの通貨のドルに対する相場と、決済通貨のドルに対する相場から、決済に使う相場を作る方法を示しています。ブラジル・レアルとユーロの組を例に、取引条件の雛形も付けています11。

清算の実務

清算機関 LCH の SwapClear は、NDIRS を清算します。2023 年の説明資料では、ブラジル・レアル、チリ・ペソ、人民元、コロンビア・ペソ、インド・ルピー、韓国ウォン、タイ・バーツ、台湾ドルの 8 通貨が対象です12。清算する NDIRS では、変動証拠金や利息、前払いの手数料を含む受け払いが、すべてドルで指図されます12。

NDF との違い

NDF は決済日に 1 回の差額を受け払いし、NDS はスワップの支払日ごとに、NDO は満期に、フィキシングで換算した額を受け払いします。

項目 NDF NDIRS NDCCS NDO
受け払いの回数 決済日に 1 回 利息の支払日ごと 利息の支払日ごと、最終日に元本 満期に 1 回(プレミアムは別)
約定する条件 約定相場 固定金利 固定金利と、ルピーとドルの元本 行使価格とプレミアム
換算の相場 評価日のフィキシング 1 回 決定日のフィキシング(支払日ごと) 決定日のフィキシング(支払日ごと、最終日) 満期のフィキシング
損益の向き ルピーの上げ下げのどちらでも損益が出る 金利とルピーの動きの両方で変わる 金利とルピーの動きの両方で変わる 買い手の損失はプレミアムまで
決済の通貨 ドルなど 1 つの通貨 ドル ドル ドルなど決済通貨

NDF が固定するのは、決済日 1 回の換算だけです。ルピーの金利を何度も受け払いする取引では、NDS のように、支払日ごとにルピーの金額をドルに換算します。NDO は、ルピー安の損失だけを守り、ルピー高の利益を残す代わりに、買い手はプレミアムを負担します。

注

  1. tpSEF Inc.「Regulation 40.2 Certification of Non-Deliverable Swaps – INR-MITOR-OIS-COMPOUND」(外部サイト)(2017 年 10 月 26 日)の Exhibit B の Summary と Settlement Currency(4、5 ページ)。 ↩ ↩2

  2. LCH Limited「Self Certification: Rule Changes on the addition of Non-Deliverable Swaps as eligible SwapClear products」(外部サイト)(2018 年 4 月 13 日)の Part I(1 ページ)と、手続の 1.7.6、1.8.15(25、29 ページ)。 ↩ ↩2

  3. 半年を 0.5 として、日数計算を単純にしています。 ↩

  4. 同じ契約条件(外部サイト)の Fixed Amount、Floating Amount(6〜7 ページ)と Applicability of Asian Terms(10 ページ)。インド・ルピーは Asian Terms に従って計算し、契約条件に式はない。本文の換算は、Asian Terms 以外の通貨の形を当てはめた例。 ↩ ↩2

  5. 同じ契約条件(外部サイト)の Currency Amount、Fixed Amount、Floating Amount(6〜7 ページ)。ルピーの側は Index Currency、ドルの側は Settlement Currency。 ↩

  6. 同じ契約条件(外部サイト)の Final Exchange(8〜9 ページ)。この式は Asian Terms の通貨以外が対象で、インド・ルピーは Asian Terms に従う(10 ページ)。本文の換算は、式の FX Rate を 1 ドルあたりのルピーとして割る形に当てはめた例。 ↩

  7. EMTA, Inc.「EMTA Template Terms for INR / USD Non-Deliverable Currency Option Transactions」(外部サイト)(2018 年 7 月 10 日発効)の General Terms、Other Terms と注 2。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  8. EMTA, Inc.「User's Guide to Documenting Non-Deliverable Cross Currency FX and Currency Option Transactions」(外部サイト)(2011 年 5 月 31 日)の Appendix A(A-2)の In-the-Money Amount。本文の式は、ドル決済に当てはめた例。 ↩

  9. 同じ契約条件(外部サイト)の FX Rate(6 ページ)と、Applicability of Asian Terms の表(10 ページ)。 ↩

  10. EMTA, Inc.「SFEMC & EMTA Template Terms for INR / USD Non-Deliverable FX Forward Transactions」(外部サイト)(2018 年 7 月 10 日発効)の Settlement Rate Option。 ↩

  11. EMTA, Inc.「User's Guide to Documenting Non-Deliverable Cross Currency FX and Currency Option Transactions」(外部サイト)(2011 年 5 月 31 日)の I(2〜3 ページ)、Market Practice No. 58(4 ページ)。 ↩

  12. LCH Limited「Non-deliverable interest rate swaps」(外部サイト)(2023 年)の 1、2 ページ。 ↩ ↩2