通貨オプションの建値を受け取って行使価格やボラティリティ・スマイルを求める人や、建値のデータを管理する人は、デルタや ATM の種類を読み違えると数値が食い違います。

ボラティリティとデルタでの建値

店頭の通貨オプション市場では、オプションの価格を円や米ドルの金額ではなく、インプライド・ボラティリティで示します。インプライド・ボラティリティは、オプションのプレミアムを評価の式に入れて逆に解いたボラティリティです。通貨オプションでは、評価の式にガーマン・コールハーゲン・モデル(為替に当てはめたブラック・ショールズ・モデル)を使います。市場の参加者はこのモデルが正しいと考えているわけではなく、価格を伝えるための共通の物差しとして使っています1。ボラティリティを決めれば、式でプレミアムに換算できます。通貨オプションの呼び方、プレミアムの表し方、ガーマン・コールハーゲン・モデルの式は通貨オプションで扱います。

もう 1 つの特徴は、ボラティリティを行使価格ごとではなくデルタごとに示すことです1。デルタは、原資産の相場が少し動いたときにプレミアムがどれだけ動くかを表す量で、コール・オプション(コール)では 0 から 1、プット・オプション(プット)では −1 から 0 の値になります。市場では「25 デルタのコール」のように、行使価格の代わりにデルタで取引の対象を決めます。行使価格は、ボラティリティとデルタから式で逆算します。コールとプットのデルタの絶対値をそろえて行使価格を決めるため、今の相場から上と下の行使価格までの距離は同じになるとは限りません2。

建値されるのは、満期ごとに次の 3 種類です。ATM のボラティリティ、リスクリバーサル、バタフライ(ストラングル)で、リスクリバーサルとバタフライはふつう 25 デルタと 10 デルタについて示します3。どれもボラティリティの値(%)で示し、この 3 つから満期ごとのボラティリティ・スマイル(ボラティリティをデルタや行使価格ごとに並べた形)を組み立てます。

デルタの種類

通貨オプションのデルタには、スポット・デルタとフォワード・デルタがあり、それぞれにプレミアムを考えに入れないものと、プレミアム込みのものがあります4。同じオプションでもデルタの種類でデルタの値が違うため、「25 デルタ」が指す行使価格も変わります。どのデルタを標準にするかは、通貨の組によって違います5。

スポット・デルタは、オプションの価値の、直物相場に対する感応度です。ドル円のオプションなら、ガーマン・コールハーゲン・モデルのもとでオプションと同じ値動きを作るのに買う外国通貨(ドル)の額を表します。フォワード・デルタは、先物相場に対する感応度で、為替予約でヘッジすることを前提にします。満期までの年数を TT、外国通貨の金利(連続複利)を rfr_f とすると、スポット・デルタ ΔS\Delta_S とフォワード・デルタ ΔF\Delta_F は次の関係にあります4。

ΔS=e−rfTΔF\Delta_S = e^{-r_f T} \Delta_F

e−rfTe^{-r_f T} は外国通貨の割引係数で、フォワード・デルタにはこれが入りません。ドルの金利が 4.5%、満期が 3 か月の架空の例で考えます。e−0.045×0.25=0.988813e^{-0.045 \times 0.25} = 0.988813 で、フォワード・デルタ 0.25 のコールのスポット・デルタは 0.2472 です6。実務では、満期の長いオプションはフォワード・デルタで、満期の短いオプションはスポット・デルタで建値することが多くあります4。

プレミアム込みのデルタは、プレミアムを外国通貨で払ったことを考えに入れたデルタです。コールを買って外国通貨でプレミアムを払うと、オプションから外国通貨の買いの持ち高を持つ一方で、払ったプレミアムの分だけ外国通貨の売りの持ち高を持ちます。そのため、全体のデルタは買いのままですが、プレミアムを自国通貨で払ったときより小さくなります7。プレミアムを考えに入れないデルタは、プレミアムを自国通貨で払う通貨の組(ユーロドルのオプションを米ドルで払うなど)でふつう使います4。

ATM の決め方

通貨オプションの ATM には、いくつかの決め方があります。株式のオプションでは、行使価格が今の原資産の価格に等しいものを ATM と呼ぶのがふつうです。通貨オプションでは、次の決め方も使います8。

決め方 行使価格
ATM スポット 今の直物相場
ATM フォワード 満期と同じ期日の先物相場
デルタ・ニュートラルの ATM 同じ行使価格のコールのデルタとプットのデルタが打ち消し合う相場
価値が等しい ATM 同じ行使価格のコールとプットの価値が等しくなる相場

ATM の決め方も、デルタの種類と同じく通貨の組によって違います8。たとえば、Muck(2022 年)の研究が分析に使ったユーロドルのオプションの建値では、ATM のボラティリティをデルタ・ニュートラルの ATM で示しています9。デルタ・ニュートラルの ATM は、同じ行使価格のコールとプットを 1 つずつ買うストラドルの、全体のデルタが 0 になる行使価格です。プレミアムを考えに入れないデルタでは、デルタ・ニュートラルの ATM の行使価格 KATMK_{ATM} は、先物相場 FF、ATM のボラティリティ σATM\sigma_{ATM}、満期までの年数 TT から次の式で求めます10。

KATM=FeσATM2T/2K_{ATM} = F e^{\sigma_{ATM}^2 T / 2}

先物相場 140 円、ATM のボラティリティ 10%、満期 3 か月の架空の例で考えます。KATM=140×e0.01×0.25/2=140.18K_{ATM} = 140 \times e^{0.01 \times 0.25 / 2} = 140.18 円です。ATM フォワードの行使価格 140 円より、少し高くなります6。この式はスポット・デルタでもフォワード・デルタでも同じです10。

リスクリバーサルとバタフライの建値

リスクリバーサルは、デルタの絶対値が同じコールとプットのボラティリティの差です。25 デルタのリスクリバーサル RR25RR_{25} は、25 デルタのコールのボラティリティ σ25C\sigma_{25C} から、25 デルタのプット(デルタ −0.25)のボラティリティ σ25P\sigma_{25P} を引いた値です11。

RR25=σ25C−σ25PRR_{25} = \sigma_{25C} - \sigma_{25P}

取引としては、デルタの絶対値が同じコールの買いとプットの売りを組み合わせたものです。コールは行使価格が今の相場より高く、プットは低い、アウト・オブ・ザ・マネーのオプションです12。コールとプットのプレミアムの差をそのまま示す代わりに、ボラティリティの差を価格として示すのが取引の慣行です。ボラティリティとプレミアムは 1 対 1 に対応するため、ボラティリティの差はプレミアムの差に対応します13。リスクリバーサルは、ボラティリティ・スマイルの傾き(左右の偏り)を表します11。

バタフライは、デルタの絶対値が同じコールとプットのボラティリティの平均から、ATM のボラティリティを引いた値です11。

BF25=σ25C+σ25P2−σATMBF_{25} = \frac{\sigma_{25C} + \sigma_{25P}}{2} - \sigma_{ATM}

市場ではこの建値をバタフライと呼びますが、取引としては、25 デルタのコールとプットを両方買うストラングルのうち、全体のデルタが 0 になるものを指します14。バタフライは、ボラティリティ・スマイルの曲がり方(ATM から離れるほどボラティリティがどれだけ上がるか)を表します11。

25 デルタのボラティリティの求め方

ATM、リスクリバーサル、バタフライの 3 つの建値から、25 デルタのコールとプットのボラティリティが決まります。上の 2 つの式を σ25C\sigma_{25C} と σ25P\sigma_{25P} について解くと、次の式になります14。

σ25C=σATM+BF25+RR252\sigma_{25C} = \sigma_{ATM} + BF_{25} + \frac{RR_{25}}{2} σ25P=σATM+BF25−RR252\sigma_{25P} = \sigma_{ATM} + BF_{25} - \frac{RR_{25}}{2}

同じ条件に、25 デルタのリスクリバーサル −1.0% と 25 デルタのバタフライ 0.3% を足した、満期 3 か月のドル円のオプションの架空の例で考えます。計算を簡単にするため、デルタはフォワード・デルタ(プレミアムを考えに入れないもの)とします。

項目 計算 値
25 デルタのコールのボラティリティ 10.0 + 0.3 + (−1.0) ÷ 2 9.8%
25 デルタのプットのボラティリティ 10.0 + 0.3 − (−1.0) ÷ 2 10.8%
確かめ: リスクリバーサル 9.8 − 10.8 −1.0%
確かめ: バタフライ (9.8 + 10.8) ÷ 2 − 10.0 0.3%

リスクリバーサルがマイナスなので、プット(ドル・プット)のボラティリティがコール(ドル・コール)より 1.0% ポイント高くなります。反対に、リスクリバーサルが +1.0% なら、コールが 10.8%、プットが 9.8% と入れ替わります。バタフライが 0.3% なので、2 つの平均の 10.3% は ATM の 10.0% より 0.3% ポイント高くなります。

次に、それぞれのボラティリティとデルタから行使価格を求めます。行使価格は、フォワード・デルタ Δ\Delta とボラティリティ σ\sigma から次の式で逆算します。ω\omega はコールで 1、プットで −1、N−1N^{-1} は標準正規分布の累積分布関数の逆関数です15。

K=Fexp⁡(−ωσT N−1(ωΔ)+σ2T2)K = F \exp\left(-\omega \sigma \sqrt{T}\, N^{-1}(\omega \Delta) + \frac{\sigma^2 T}{2}\right)

N−1(0.25)=−0.674490N^{-1}(0.25) = -0.674490 を使うと、3 つの行使価格は次のとおりです6。

オプション フォワード・デルタ ボラティリティ 行使価格(円)
25 デルタのプット −0.25 10.8% 135.19
デルタ・ニュートラルの ATM コール 0.50、プット −0.50 10.0% 140.18
25 デルタのコール 0.25 9.8% 144.88

25 デルタのプットの行使価格は ATM より 4.99 円低く、コールの行使価格は 4.70 円高く、ATM からの距離は上と下で違います。

建値コールプットATM 10.0%RR −1.0%BF 0.3%ボラティリティ9.8%ボラティリティ10.8%行使価格144.88 円行使価格135.19 円
図 1建値から 25 デルタの行使価格までの流れ
図の説明

RR はリスクリバーサル、BF はバタフライを指します。ATM 10.0%、RR −1.0%、BF 0.3% の建値から、コールは 10.0 + 0.3 − 0.5 = 9.8%、プットは 10.0 + 0.3 + 0.5 = 10.8% のボラティリティを求めます。それぞれのボラティリティとデルタから、コールは 144.88 円、プットは 135.19 円の行使価格を逆算します。建値はボラティリティの差や平均で示され、行使価格はその後で決まることが読み取れます。

深掘りスマイル・ストラングルとブローカー・ストラングル

上の式は、バタフライのコールとプットが、リスクリバーサルと同じ 25 デルタのコールとプットだと考えています。この形のストラングルを「スマイル・ストラングル」といいます。これに対して「ブローカー・ストラングル」(マーケット・ストラングル)と呼ぶ形では、ストラングルのコールとプットの行使価格が、リスクリバーサルのコールとプットの行使価格と一致しません。Muck(2022 年)が分析に使ったユーロドルの建値では、バタフライはブローカー・ストラングルの価格でした16。

そのため、ブローカー・ストラングルのバタフライの値をそのまま上の式に入れて求めた 25 デルタのボラティリティは近似です。ボラティリティ・スマイルの左右の偏りが大きくなければ、その誤差は小さくなります16。実務では、建値のボラティリティと指定したデルタから、行使価格を数値計算で求めます。そのうえで、求めた行使価格とボラティリティの点に曲線を当てはめ、ボラティリティの面(満期と行使価格ごとのボラティリティ)全体を組み立てます1718。

ボラティリティ・スマイルの読み方

25 デルタのプット、ATM、25 デルタのコールのボラティリティを、デルタの順に並べたものがボラティリティ・スマイルの骨組みです。上の例なら、左からプット 10.8%、ATM 10.0%、コール 9.8% です。リスクリバーサルがマイナスなので、プットの側からコールの側へ下がる向きに傾き、バタフライがプラスなので、ATM から離れるほど上に曲がる分が加わります。10 デルタのリスクリバーサルとバタフライも建値されていれば、同じ計算で 10 デルタの点を足し、点の間を補間してほかのデルタや行使価格のボラティリティを求めます11。

建値 25 デルタのプット ATM 25 デルタのコール
リスクリバーサル −1.0%、バタフライ 0.3% 10.8% 10.0% 9.8%
リスクリバーサル +1.0%、バタフライ 0.3% 9.8% 10.0% 10.8%
リスクリバーサル 0%、バタフライ 0% 10.0% 10.0% 10.0%

もしガーマン・コールハーゲン・モデルが前提どおりなら、ボラティリティはどのデルタでも同じになり、ボラティリティ・スマイルは平らです。実際の市場では平らにならず、その形がモデルの前提と合わないことを示しています1。為替市場では、相場が動いても、デルタごとに見たボラティリティの形は動かない(sticky by delta)と考えるのがふつうです19。

リスクリバーサルの符号は、どちらの向きへの急な変動に備えるオプションが高いかを表します。ドル円でリスクリバーサルがマイナス(ドル・プットが高い)なら、円高ドル安の向きの急な変動に備える需要が強く、市場の参加者がそちらの向きをより警戒していることを示します。リスクリバーサルは、必ずしも先行きの相場を予測する指標ではありませんが、市場の参加者のリスクの認識を通じて、相場の変動の背景を探る手がかりの 1 つになります20。たとえば 2020 年 3 月の市場の混乱の後、ドル円が円安の向きに戻る中でも、ドル円の 3 か月の 25 デルタのリスクリバーサルは、平時より強い円高への警戒を示していました21。

注

  1. Matthias Muck "Arbitrage-free smile construction on FX option markets using Garman-Kohlhagen deltas and implied volatilities"(Review of Derivatives Research、2022 年。以下 Muck(2022 年))の 2.1 節。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 日本銀行「リスク・リバーサルからみた為替変動へのリスク認識」(日銀レビュー 2012-J-14、2012 年 8 月。以下 日銀(2012 年))の 8 ページの注 7。 ↩

  3. OpenGamma "Vanilla Forex Options: Garman-Kohlhagen and Risk Reversal/Strangle"(2012 年 5 月。以下 OpenGamma(2012 年))の 3 節 "Smile"。 ↩

  4. Muck(2022 年)の 2.1 節、式 (4)、(5) と注 3。資料の記号 Bf(t,T)B_f(t,T)(外国通貨の割引債の価格)は、このページの e−rfTe^{-r_f T} に当たります。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  5. Martin Haugh "Foreign Exchange, ADR's and Quanto-Securities"(Columbia University、2013 年。以下 Haugh(FX))の 3〜4 ページ "Other Deltas"。 ↩ ↩2

  6. e−0.045×0.25=0.988813e^{-0.045 \times 0.25} = 0.988813、0.25 × 0.988813 = 0.2472。行使価格と ATM からの距離は、小数第 3 位を四捨五入した値です。 ↩ ↩2 ↩3

  7. Haugh(FX)の 3 ページ "Delta and the Option Premium"。資料の premium-adjusted delta を、このページでは「プレミアム込みのデルタ」と書きます。 ↩

  8. Haugh(FX)の 4 ページ "What Does At-the-Money (ATM) Mean?"。 ↩ ↩2

  9. Muck(2022 年)の 5 節 "Data"。ATM のボラティリティは ATM-DNS の慣行で示されています。 ↩

  10. Muck(2022 年)の 2.2 節 "At-the-money volatilities, risk reversals, and butterflies"、式 (6) と直後の番号のない式。資料の XATMX_{ATM} は KATMK_{ATM}、T−tT - t は TT に当たります。 ↩ ↩2

  11. OpenGamma(2012 年)の 3 節 "Smile"。ATM はデルタ・ニュートラルのストラドルで、リスクリバーサルはスマイルの傾き(skew)、ストラングルは曲がり方(curvature)を表します。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  12. 日銀(2012 年)の 1〜2 ページ「リスク・リバーサルとは」と、8 ページの注 6。 ↩

  13. 日銀(2012 年)の 2〜3 ページと、8 ページの注 9。ボラティリティの差が「取引上の慣行で価格として参照されている」としています。 ↩

  14. Muck(2022 年)の 2.2 節と、5 節、式 (21)。 ↩ ↩2

  15. OpenGamma(2012 年)の 3 節、式 (2)。資料の tt はこのページの TT に当たり、式を展開して書いています。 ↩

  16. Muck(2022 年)の 2.2 節(スマイル・ストラングルとブローカー・ストラングルの区別)と、5 節、式 (21) の後の段落。 ↩ ↩2

  17. Haugh(FX)の 4〜5 ページ "Building an FX Volatility Surface"。 ↩

  18. Martin Haugh "Black-Scholes and the Volatility Surface"(Columbia University、2013 年)の 4 ページ、3 節 "The Volatility Surface"。ボラティリティの面は行使価格と満期までの期間の関数だとしています。 ↩

  19. Haugh(FX)の 3 ページ、"Delta and the Option Premium" の 2 つ前の、sticky-by-delta を述べた段落。 ↩

  20. 日銀(2012 年)の 1 ページの要旨、2 ページ、3 ページの図表 4 の注 1。「必ずしも先行きの為替変動自体を予測するための指標ではない」としています。 ↩

  21. 日本銀行「店頭デリバティブ取引データからみた通貨オプション市場 ―新型コロナウイルス感染症下での取引動向―」(日銀レビュー 2022-J-10、2022 年 6 月)の 3 ページの本文と図表 4「ドル/円のリスクリバーサル」(3 か月 25 デルタリスクリバーサル、週次、資料は Bloomberg)。 ↩