PRDC は、払い手(多くは銀行)と受け手の投資家が取引する商品で、投資家は為替レートの水準ごとのクーポンと、取引が途中で終わる条件の効き方を確かめます。

為替で決まるクーポンと変動金利を交換する

PRDC スワップは、一方が為替レートで金額が決まる PRDC クーポンを払い、もう一方が円の変動金利を払う、為替と金利にまたがるスワップです1。金利スワップの固定金利の側を、為替に連動するクーポンに置き換えた形で、2 つの受け払いは同じ円の想定元本に掛かります。満期は 30 年以上になることもあり、通常の金利スワップの 5 年未満より長くなります1。通貨をまたぐスワップの基本は通貨スワップで扱います。

資料は、PRDC クーポンを払う側(多くは銀行)を発行体、受け取る側を投資家と呼びます1。この記事では、受け取る側を受け手、払う側を払い手と呼びます。想定元本 10 億円、期間 30 年、年 1 回の受け払いで、M 社が受け手として毎年 PRDC クーポンを受け取り、円の変動金利を払う架空の例で考えます。変動金利は、計算を追いやすいよう年 1% のまま変わらないと仮定します。

払い手はディーラーで、利払日ごとに、その日の為替レートで決まる PRDC クーポンを M 社に払います。M 社は、同じ想定元本に掛けた円の変動金利をディーラーに払います。

元本の償還が円建てでクーポンが外貨建ての債券に、クーポンスワップを数本組み込んでクーポンを高くしたものは、パワー・リバース・デュアル債(PRD 債)と呼ばれます2。

クーポン率を決める式

1 回分のクーポン率 CC は、利払日の為替レート(1 ドルあたりの円)から次の式で決まります3。

C=min⁡(max⁡(cf×Sf−cd, bf), bc)C = \min\left(\max\left(c_f \times \frac{S}{f} - c_d,\ b_f\right),\ b_c\right)

SS は利払日の為替レート、cfc_f は外貨(ドル)のクーポン率、cdc_d は円のクーポン率、ff は基準レート、bfb_f はクーポン率の下限(フロア)、bcb_c は上限(キャップ)です。これらの値は利払日ごとに変えられます。基準レートは、先渡しの為替レートに置くのが通常です。

フロアが 0 で、キャップがない標準的な形では、式は次のとおり書き直せます3。

C=h×max⁡(S−K,0),h=cff,K=f×cdcfC = h \times \max(S - K, 0), \quad h = \frac{c_f}{f}, \quad K = \frac{f \times c_d}{c_f}

KK は為替レートの水準で、SS が KK を上回った分に、hh を掛けた率がクーポンになります。各回のクーポンは、行使価格 KK の通貨オプションのコールの買いと同じ形で、スワップ全体のクーポンは、満期の違う長期の通貨オプションを並べたものと見なせます3。

KK が SS に比べて低いと、クーポンが正になる見込みは高くなりますが、hh も低く選ぶのが普通で、クーポンの水準は小さくなります。これは受け手から見てレバレッジが低い状況で、KK と hh がともに高いとレバレッジが高い状況です3。

KK の計算の例として、日本銀行の資料の債券の設例(cfc_f が 15%、ff が 123 円、cdc_d が 9.6%)では、KK は約 78.7 円です2。

1 回の受け払いと損益

M 社の取引は、cfc_f が 12%、cdc_d が 9%、ff が 150 円で、どの利払日でも同じとします(簡単にするため基準レートを一定にしています)。取引を結んだ時点の為替レートは 1 ドル 155 円と仮定し、基準レートの 150 円は、先渡しの為替レートに当たる値として置きます。フロアは 0、キャップはありません。KK は 150 × 9% ÷ 12% = 112.5 円、hh は 1 円あたり 0.08% です。利払日の為替レートごとの、1 回分の受け払いは次のとおりです。

利払日の為替レート(円) クーポン率(%) M 社が受け取るクーポン(万円) M 社が払う変動金利(万円) 差し引き(万円)
105 0.0 0 1,000 −1,000
120 0.6 600 1,000 −400
135 1.8 1,800 1,000 800
150 3.0 3,000 1,000 2,000
165 4.2 4,200 1,000 3,200
180 5.4 5,400 1,000 4,400

為替レートが 112.5 円を下回ると、クーポンはゼロになり、M 社は変動金利の 1,000 万円を払うだけになります。差し引きがちょうど 0 になるのは、クーポン率が変動金利の 1% に等しい 125 円のときです。円安が進むほどクーポンは増え、180 円では 5,400 万円になります。この例の 1 回の差し引きで、M 社の最大の支払いは変動金利の 1,000 万円です。ただし、変動金利を一定と置いたためで、実際には円の金利の動きで変わります。

0246112.5クーポン率(%)利払日の為替レート(円)受取
図 1利払日の為替レートとクーポン率
図の説明

クーポン率は、通貨オプションのコールの買いと同じ形です。行使価格にあたる水準までは 0 のまま横ばいで、それを超える円安の側で右上がりに増えます。上限(キャップ)がないため、円安の側に頭打ちはありません。縦軸は想定元本に対するクーポン率で、変動金利の支払いは含みません。

レバレッジの高い形と低い形の比べ方

M 社の形(A)は cfc_f が 12%、cdc_d が 9% で、KK は 112.5 円です。比べる形(B)は、cfc_f が 8%、cdc_d が 5%(KK は 93.75 円)の架空の例で考えます。ff は A も B も 150 円です。KK と hh がともに高い A がレバレッジの高い形、B が低い形で、為替レートへの反応を比べます。

利払日の為替レート(円) A のクーポン率(%) B のクーポン率(%)
105 0.0 0.6
120 0.6 1.4
150 3.0 3.0
180 5.4 4.6

基準レートの 150 円では、2 つの形のクーポン率は同じ 3.0% です。A は円安では B より増え、円高では B より先にゼロになります。受け手にとって、為替レートが動いたときの得も損も、A のほうが大きくなります。

為替と 2 つの金利で変わる価値

PRDC の価値は、為替レートと、円と外貨の 2 つの金利で変わります4。基準レートは取引の開始時点の先渡しの為替レートに置くのが通常で、先渡しの為替レートには 2 つの通貨の金利の差が入ります。満期 TT の先渡しの為替レート F(t,T)F(t, T) は、次の式で表せます5。

F(t,T)=Pf(t,T)Pd(t,T)×S(t)F(t, T) = \frac{P_f(t, T)}{P_d(t, T)} \times S(t)

Pd(t,T)P_d(t, T) と Pf(t,T)P_f(t, T) は、時点 tt での満期 TT の円と外貨のゼロ・クーポン債の価格(それぞれの通貨建て)です6。円の金利が外貨の金利より低いと、先渡しのレートは満期が長いほど急に下がり、大きな円高を示します7。

受け手は、円が先渡しの示すほどには強くならない側に立ちます。クーポンは、為替レートが高い(円安)ほど増えるためです7。逆に、為替レートが基準レートまで円高になると、クーポン率は cf−cdc_f - c_d に下がります。M 社の形(cfc_f が 12%、cdc_d が 9%)では 3.0% です。

早く終わる 3 つの条件

PRDC には、期間の途中で終わる条件が付くことが多く、代表的な形は次の 3 つです。いずれも、最初のクーポンの前の期間(ノーコール期間。この間は取引を終わらせない)が終わった後に、取引を終わらせます8。

条件 取引が終わるとき 誰が終わりを決めるか
期限前の解約 払い手が選んだ利払日。その日の受け払いのあとに終わる 払い手
ノックアウト 為替レートが決めた水準を超えた最初の利払日。多くはその日の受け払いのあとに終わる 条件に達すると自動
目標額で終わる条件(資料では FX-TARN) 受け取ったクーポンの累計が目標額に届いた最初の利払日 条件に達すると自動

目標額の典型は、レバレッジに応じて想定元本の 10% から 50% です8。利益の累計が目標に届くと終わる点は、TARF と似ています。目標の数え方と評価はTARFで扱います。

M 社の例(A)に、目標額 20% の条件を付けます。為替レートが 150 円のままなら、クーポンは毎年 3.0% で、累計は 6 回目までで 18% です。7 回目は、3.0% のうち目標に届く 2.0% だけを受け取って累計が 20% になり、取引は 7 年で終わります。最後の回のクーポンは、目標を超えない分に切り詰められます9。M 社が受け取るクーポンは 2 億円(最後の回は 2,000 万円)、払う変動金利は 7,000 万円で、差し引きは 1 億 3,000 万円の受け取りです。実際の契約では、最後の回の扱いが異なることもあります。

一方、為替レートが 105 円のまま続くと、クーポンはゼロで累計は増えず、取引は 30 年続きます。M 社は 30 年間、毎年 1,000 万円、合わせて 3 億円の変動金利を払います(金利の割引は考えない単純な合計です)。円安が進むほど、クーポンの累計は早く目標に届き、取引は短く終わります。高いクーポンを受け取れる期間も、その分短くなります。

ノックアウトも同じで、水準を 170 円とすると、為替レートが 170 円を超えた最初の利払日(その日のクーポン率は 4.6%)で取引が終わり、それ以降の高いクーポンは受け取れません。

払い手が解約する権利を持つ形では、受け手はその権利を払い手に売った対価として、最初の固定クーポンを高く受け取ります7。ノックアウトと目標額で終わる条件も、受け手から見ると利回りを上げる仕組みとして働きます7。

受け手が負うリスクと似た商品との違い

受け手のリスクは、おもに 3 つです。1 つ目は、円高が続く場合です。クーポンがゼロのまま、満期(M 社の例では 30 年)まで、変動金利を払い続けます(前の節の 105 円の例)。2 つ目は、高いクーポンが続く場面で取引が終わる場合です。ノックアウトや目標額で終わる条件を受け入れる分、円安で得をする局面が途中で切れます。3 つ目は、評価がモデルとスキューの扱いに左右されることです。同じ取引でも、前提の置き方で価格が変わります(次の節)。

似た商品との違いは、次のとおりです。クーポンは通貨オプションのコールを並べたものと同じ形ですが、PRDC は円の変動金利と受け払いを交換するスワップで、その 2 つの受け払いは同じ想定元本に掛かります。TARF は、決めた相場で通貨を売買する予約を連ね、利益の累計が目標に届くと残りが消える為替の契約です。PRDC との違いは、受け払いが為替で決まるクーポンと円の変動金利の交換である点です。

評価モデルと実務の難しさ

PRDC は、為替と、円と外貨の 2 つの金利のすべてに左右されるため、評価には少なくとも 3 つの要素を同時に動かすモデルが要ります4。標準的な組み合わせは、2 つの金利にそれぞれ短期金利モデル(ハル・ホワイト型)を置き、為替に対数正規分布か、スキューを表すローカル・ボラティリティを置くものです4。3 つの動きの間の相関は、過去のデータから推定するのが通常です10。

為替は、長期の通貨オプションに大きなスキュー(行使価格によるボラティリティの違い。ボラティリティ・スマイルの一形)が出るため、対数正規分布では捉えきれません4。ノックアウトなどの条件が付いた PRDC は、クーポンの行使価格と条件の水準の置き方から、特にスキューの影響を受けます4。このため、為替のスキューの扱いで、価格は変わります(モデル・リスク)。博士論文は、スキューが PRDC の価格に与える影響を分析しています。

モデルの値は、市場の価格に合わせて決めます(キャリブレーション)。金利の側は、スワップションの値段から決められます。為替の側は、PRDC の満期が長く、行使価格も広いため、さまざまな満期と行使価格の通貨オプションを使う必要があり、手間がかかります10。

価格は、モデルの方程式を数値で解いて求めます。3 つの変数を持つ偏微分方程式を解く方法があり、利払日ごとに累計などの状態を更新します。目標額で終わる条件は、過去の経路で受け払いが決まるため、モンテカルロ法のような順方向の方法が自然だとされます11。

深掘り期限前の解約の見方

PRDC スワップを利払日 TαT_\alpha で解約することは、元のスワップを続けたうえで、同じ日に、受け払いの向きが逆の同じスワップを結ぶことと同じです12。後の利払日の受け払いは打ち消し合ってゼロになり、解約したのと同じ結果になります。そのため、払い手の解約権は、各利払日で逆向きのスワップに入る権利を持つバミューダン型のスワップション(権利を行使できる日が複数ある)と同じ形で、価値を評価できます12。

この記事が書いていないこと

ヘッジの手順、取引相手の信用リスク、市場での売買のしやすさは、この記事では扱いません。

注

  1. Duy Minh Dang の博士論文(University of Toronto、2011 年)の 2.2.1「Description of PRDC Swaps」(22〜23 ページ)。受け払いの想定元本、満期、issuer と investor の呼び方は 22 ページ。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」(2019 年)の 4 ページ「(1)PRD(power reverse dual)債」。リバースデュアル債、クーポンスワップの組み込み、設例の数値(ドル 15%、123 円、円 9.6%。期間 15 年、ゼロフロア)。KK の約 78.7 円は、設例の数値からの計算(123 × 9.6 ÷ 15)です。 ↩ ↩2

  3. Duy Minh Dang の博士論文の 2.2.1 の式 (2.8)(23 ページ)と式 (2.9) の前後(24 ページ)。クーポンの式、基準レート ff が通常は先渡しの為替レートであること、標準の形(フロアが 0、キャップなし)、記号 hh と KK(資料では eαe_\alpha)、レバレッジの高低の説明。式の記号は資料の cfc_f、cdc_d、bfb_f、bcb_c と同じです。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  4. Duy Minh Dang の博士論文の 2.2.2「The Model」(27〜28 ページ)。標準的なモデル、長期の通貨オプションのスキュー、条件付きの PRDC への影響。ハル・ホワイト型は 28 ページの式 (2.10b)、(2.10c)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  5. Duy Minh Dang の博士論文の 2.1.1「Definitions and Notation」の「Forward FX Rate」の式 (2.5)(17 ページ)。 ↩

  6. Duy Minh Dang の博士論文の 2.1.1 の「Tenor Structure」の続き(17 ページ)。Pi(t,T)P_i(t, T) が円(domestic)と外貨(foreign)のゼロ・クーポン債の価格であること。 ↩

  7. Duy Minh Dang の博士論文の 2.2.1 の「Economics of PRDC Swaps」(26〜27 ページ)。円の金利が外貨の金利より低いと先渡しの為替レートが満期とともに急に下がること、受け手が円が先渡しの示すほど強くならない側に立つこと、解約権やノックアウトなどが受け手の最初のクーポンを高くすること。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  8. Duy Minh Dang の博士論文の 2.2.1 の「Exotic Variations」(25〜26 ページ)。3 つの条件、ノーコール期間、ノックアウトが通常は受け払いのあとに終わること、水準が時間とともに動く形があること、目標額の典型が想定元本の 10% から 50% であること。表の「誰が終わりを決めるか」は、資料の説明(解約は発行体、ほかは条件による自動)から整理しました。 ↩ ↩2 ↩3

  9. Duy Minh Dang の博士論文の 3.6.1(式 3.12、3.13)。累計の更新は「累計 + min(目標額 − 累計, その回のクーポン)」で、最後の回のクーポンは目標を超えない分になり、累計が目標に届くと取引が終わること。 ↩

  10. Duy Minh Dang の博士論文の 2.2.3「Calibration Overview」(29〜30 ページ)。金利のモデルをスワップションで合わせること、為替のローカル・ボラティリティの調整が、PRDC の長い満期と行使価格の選び方から広い範囲の通貨オプションを必要とし、手間がかかること、相関を過去のデータから推定すること。 ↩ ↩2

  11. Duy Minh Dang の博士論文の 1 章の「Introduction」(2 ページ)と、8 章「Summary and Future Work」(164 ページ)。5 次元未満の問題で偏微分方程式の方法が広く使われること、FX-TARN PRDC では順方向の方法(モンテカルロ法など)が自然だと書かれています。 ↩

  12. Duy Minh Dang の博士論文の 3.4.1「Key Observation」(42〜43 ページ)と、2.1 の「Bermudan Swaption」(20〜21 ページ)、2.2.1 の「Economics of PRDC Swaps」(27 ページ)。 ↩ ↩2