仕組債を購入する金融機関では、購入前に PRDC 債のクーポンの式、ゼロフロア、期限前解約を確かめ、為替や金利が動いたときの損益と評価額を見る場面があります。

円償還と為替連動クーポンの債券

PRDC 債は、日本銀行の資料では PRD 債と呼ばれる債券の形で、リバースデュアル債(元本の償還が円建て、クーポンが外貨建ての債券)に、クーポンスワップを数本組み込んで、クーポンを高くした仕組債です。日本銀行の資料はこれをパワー・リバース・デュアル債(PRD 債)と呼び、クーポンの率が利払日の為替レートに応じて変わると説明します1。デリバティブとしての PRDC の受け払いと評価はパワーリバースデュアル(PRDC)で扱います。

額面 100 円、期間 15 年で、発行体を C 社とする架空の例で考えます。条件と数値は日本銀行の資料の設例の値です。

項目 条件
発行体 架空の C 社
発行価格と償還価格 どちらも額面の 100 円
期間 15 年
クーポン ドル 15% × 利払時の為替レート ÷ 123 円 − 円 9.6%
ゼロフロア クーポンが 0% を下回らない。投資家が保証を買い、対価としてプレミアムを払う
期限前解約 発行体が、利払いごと(半期)に債券を解約できる(コーラブル債の形)。投資家は権利を売り、対価としてプレミアムを受け取る

スワップを扱うパワーリバースデュアル(PRDC)のページは、PRDC のクーポンを受け取る側を「受け手」、払う側を「払い手」と書きます。この債券では、債券の発行体が受け手に当たり、スワップの相手方(ディーラー)が払い手に当たります。以下では、債券の発行体、投資家、スワップの相手方と呼びます。

投資家C 社債券の発行体相手方スワップのディーラー円の元本円 4.8%×2ドル 5%×3円 4.8%×3ドル 5%×3
図 1PRD 債の設例の受け払い
図の説明

日本銀行の資料の図を、アレンジャーとカバー取引の表示を省いて描いたものです。投資家は C 社に円の元本を払い、C 社は投資家に「ドル 5%×3」を払い、投資家は C 社に「円 4.8%×2」を払います。C 社はスワップの相手方(図では「相手方」)から「ドル 5%×3」を受け取り、「円 4.8%×3」を払います。満期に C 社が投資家へ円の元本を償還する流れと、プレミアムの受け払いは省かれています(償還は表の償還価格のとおりです)。

図の「ドル 5%×3」は 5% の 3 本分で 15%、「円 4.8%×2」は 4.8% の 2 本分で 9.6% です。設例のクーポンの式の 15% と 9.6% に当たります2。

クーポン率の決まり方

クーポン率は、利払日の為替レート(1 ドルあたりの円)を SS として、次の式で決まります1。

C=max⁡(15%×S123−9.6%, 0)C = \max\left(15\% \times \frac{S}{123} - 9.6\%,\ 0\right)

この式は、額面 100 円を 123 円で換算した約 0.81 ドルに、15% のドル建てのクーポンを掛け、利払日の為替レートで円に直した額から、円の 9.6% を引く形と同じです3。外貨建ての率に為替レートを掛けるため、円安になるほどクーポンが増えます。SS が 78.7 円(KK とします)以下のあいだは、式の値が 0 以下になり、ゼロフロアでクーポン率は 0% になります3。

利払日の為替レート(円) クーポン率(%)(額面 100 万円なら同じ数字の万円)
70 0.0
90 1.4
100 2.6
123 5.4
140 7.5
160 9.9

設例の式で為替レートを動かした架空の例で考えます。123 円では、ドルの 15% と円の 9.6% の差の 5.4% になります。為替レートが 1 円円安になるごとに、クーポン率は約 0.122% ずつ増えます3。

02468101278.7クーポン率(%)利払日の為替レート(円)受取
図 2利払日の為替レートとクーポン率
図の説明

利払日の為替レートが 78.7 円以下のあいだは、クーポン率は 0% のまま横ばいです。78.7 円を超えると、1 円の円安ごとに約 0.122% ずつ増えます。100 円で約 2.6%、123 円で約 5.4%、160 円で約 9.9% です。縦軸は額面に対するクーポン率です。

スワップとオプションの受け払い

日本銀行の資料の図では、C 社は、スワップの相手方から外貨建ての「ドル 5%×3」を受け取り、円の「円 4.8%×3」を払います2。投資家に払うクーポンが為替レートで決まるため、C 社は、その受け払いをスワップの相手方と交換する形です。ゼロフロアは、投資家が C 社から買う保証です。日本銀行の資料の図は、これと向かい合う形で、C 社が通貨オプションをスワップの相手方から買う矢印を描いています2。

期限前解約権は反対向きです。投資家が C 社に権利を売り、C 社が買います。投資家は、その対価としてプレミアムを受け取ります1。

為替が動いたときの受け取り

クーポンが円安で増え、円高で減るため、投資家の受け取りは為替の動きで大きく変わります。日本銀行の資料は、金融機関が額面 100 億円分を持つ設例で、残存 5 年の試算を示しています。メインシナリオは、資料の作成時点の先渡しの為替レートが実現する場合です。ストレスシナリオは、円高が現在の約 2 倍のペース(年 4% 程度)で進む場合です4。

年 メインの為替レート(円) メインのクーポン率(%) ストレスの為替レート(円) ストレスのクーポン率(%)
1 96 2.11 93 1.74
2 94 1.86 89 1.25
3 92 1.62 86 0.89
4 89 1.25 82 0.40
5 86 0.89 79 0.03

この表は 2019 年の資料の試算で、現在の市場の値ではありません。クーポン率は、設例の式に為替レートを入れた値です4。資料の式の分母は一部の表で 113 円と書かれていますが、示された値は 123 円で計算した値と合います5。

資料は、投資した金融機関の目線で、資金の調達コスト(1 年物の LIBOR の先渡しレート)との差を「利鞘」として見ます。LIBOR は 2024 年 9 月末に公表が終わった指標金利で、この試算は当時の指標を使っています。クーポンの低下に加えて、金利が上がると調達コストが増え、債券の評価額も下がります4。

シナリオ(額面 100 億円、残存 5 年) 5 年のクーポンの合計(億円) 現在価値(億円) 5 年目の利鞘(%)
メイン 7.7 103.3 −0.20
金利が 1 ポイント上がる 7.7 98.4 −1.21
金利が 1 ポイント上がり、円高が進む 4.3 95.2 −2.06

得になるのは、為替がメインシナリオのとおりに動き、金利も変わらない場合で、評価額は 100 億円を上回ります。損になるのは、金利の上昇や円高が重なる場合で、評価額は 100 億円を下回り、5 年目の利鞘はマイナスになります。「5 年のクーポンの合計」は、資料の累計のキャッシュフローから元本の 100 億円を引いた値です4。

投資家に残るリスク

PRDC 債の投資家に残るリスクは 5 つあります。1 つ目は、円高が続くことです。為替レートが 78.7 円以下になると、クーポンはゼロです。ストレスシナリオ(円高が現在の約 2 倍のペースで進む場合)では、5 年目のクーポン率は 0.03% まで下がります。期間が 15 年と長いため、円高の局面が長引くと、低いクーポンを受け取る期間も長くなります1。

2 つ目は、発行体が期限前に解約できることです。設例では、発行体が半期ごとに解約でき、解約されると、その後のクーポンは受け取れません。投資家は、この権利を売った対価としてプレミアムを受け取ります1。

3 つ目は、発行体の信用リスクです。設例は、償還価格を 100 円としています。為替が動いても元本の円での額は変わりませんが、償還は発行体が払えることが前提です。発行体の経営や財務の状況が悪くなると、元本や利息の支払いが滞ったり、払えなくなったりする可能性があります7。

4 つ目は、途中で売りにくいことです。仕組商品には市場の流動性がかなり低いものが少なくなく、販売業者への売却が常に成立するとは限りません。資料は、実際の売却価格が理論価格よりかなり低くなることも想定するよう求めています8。

5 つ目は、評価の下落です。為替が動いたときの受け取りの表のとおり、金利の上昇だけでも、現在価値は 103.3 億円から 98.4 億円へ下がります4。

買う前に確かめること

日本銀行の資料は、金融機関が仕組商品を買う前に、仕組みを分析してストレスの事象を洗い出し、シナリオを置いて経営への影響をつかむよう求めます。販売業者の示す価額は、理論価格を自分で計算するか、複数の販売業者から価額を取って、妥当かを確かめます9。リスクが顕在化したときに、売却やヘッジの手段があるかも確かめる項目です8。

個人への販売や勧誘の規則は、この記事では扱いません。日本の仕組債の販売のルールは仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。

注

  1. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」(2019 年 7 月 31 日公表)の 4 ページ「(1)PRD(power reverse dual)債」。設例の条件(クーポンの式、償還価格、期間、ゼロフロア、マルチコーラブル)も同じ箇所です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  2. 同じ資料の 5 ページ「基本的な仕組み[PRD 債]」の図。15% と 9.6% への対応は、図の本数からの計算です。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 設例の式からの計算です。KK は 123 × 9.6 ÷ 15 ≒ 78.7 円、1 円あたりは 15 ÷ 123 ≒ 0.122% です。0.81 ドルは式の読み替えで、資料の説明ではありません。 ↩ ↩2 ↩3

  4. 同じ資料の 25 ページ(メインシナリオ)、27 ページ(金利が 1 ポイント上がる場合)、28 ページ(金利が 1 ポイント上がり、円高が進む場合)の「③PRD債(残存5年の例)」の表と、26 ページの為替シナリオ。クーポンの合計は、表の累計のキャッシュフローから元本 100 億円を引いた値です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  5. 同じ資料の 5 ページ、25 ページ、27 ページの式は 113 円、28 ページの式は 123 円と書かれています。25 ページの 1 年目は、15% × 96 ÷ 123 − 9.6% ≒ 2.11% で、表の値と一致します。113 円で計算すると約 3.14% になり、一致しません。 ↩

  6. 同じ資料の 15 ページ「(1)シナリオ分析の重要性」。 ↩

  7. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 3 ページ、「発行者の信用リスク」。資料は日経平均リンク債の説明で、債券の発行者の財務状況の変化により元本や利息の支払いが滞ったり、支払不能となったりするリスクがあるとします。 ↩

  8. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 30 ページ「(1)購入前の検討(続き)」。 ↩ ↩2

  9. 同じ資料の 29 ページ「(1)購入前の検討」。 ↩