販売会社が顧客に償還額とリスクを説明する場面や、金融機関が仕組商品への投資のリスクを把握し、管理する場面で出てきます。

償還額が株価指数で決まる債券

株価指数連動債は、株価指数の動きで満期の償還額やクーポンが変わる債券です。日本で販売されてきた日経平均リンク債は、基準の日からの日経平均株価の変動率などで、償還額や利率が変わります1。償還額は、額面に指数の変化を当てはめた計算式で決まり、現金で支払われます2。個別の会社の株価に連動し、株式で償還されることがあるEB 債(他社株転換債)とは、ここが違います。

株価指数連動債には、大きく 2 つの型があります。1 つは、満期まで持てば額面で償還されることを条件にする、いわゆる元本確保型です。額面で償還されるのは債券の建て通貨での金額で、発行体の信用のリスクと、外貨建てなら為替のリスクは残ります(後の「発行体の信用と途中の売却のリスク」の節)。元本確保型の多くは、割引債と、株価指数に連動したオプションなどのデリバティブを組み合わせています3。割引債は、クーポンがなく、額面より低い価格で発行される債券です4。米国で販売される仕組債の多くは、元本確保の仕組みを持ちません5。もう 1 つはノックイン付きの型です。指数があらかじめ決めた水準(ノックイン価格)まで下がる(ノックインする)と、償還額が指数に連動して変わり、満期の指数が当初価格を下回ると額面を下回ります1。

仕組債を債券とデリバティブに分けて見る考え方は、仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。条件を決めたときの日経平均株価を当初価格といいます。D 社が発行し日経平均株価に連動する 2 つの債券があり、当初価格が 10,000 円の架空の例で考えます。

元本確保型の満期の償還額

元本確保型では、指数が上がると、上昇分に応じた額が額面に上乗せされます。ここでは、満期の指数だけで上乗せが決まる簡単な形で考えます。D 社の元本確保型の債券は、額面 100 万円、期間 5 年、クーポンはなしとします。満期の償還額は、額面 100 万円に、100 万円 × 50% × 指数の上昇率を足した額です(指数が下がったときの上乗せは 0 円)。この 50% のように、指数の上昇率のうち債券の受け取りに反映される割合を参加率といいます6。

満期の日経平均株価(円) 指数の上昇率 償還額(万円)
8,000 −20% 100
10,000 0% 100
12,000 20% 110
14,000 40% 120

満期の指数が 14,000 円なら、上昇率 40% の半分の 20% が上乗せされ、償還額は 120 万円になります。満期の指数が 8,000 円でも、償還額は額面の 100 万円です。ただし、5 年間クーポンを受け取っていないため、同じ期間の普通の債券を持った場合より受け取りは少なくなります。満期の指数が当初価格を上回らなければ上乗せはなく、リターンは同じ期間の普通の固定利付債を下回ります。大きく下回ることもあります7。

0100,000200,000300,000400,00010,000満期の受け取り(円)満期の日経平均株価(円)受取
図 1元本確保型で額面に上乗せされる満期の受け取り
図の説明

D 社の元本確保型の株価指数連動債(額面 100 万円、参加率 50%、当初価格 10,000 円)で、満期に額面 100 万円に上乗せされる額です。横軸は満期の日経平均株価、縦軸は上乗せの額です。満期の指数が 10,000 円以下なら上乗せは 0 円で、償還額は額面の 100 万円です。10,000 円を超えると、指数が 1 円上がるごとに上乗せが 50 円増え、12,000 円で 10 万円、14,000 円で 20 万円、16,000 円で 30 万円になります。指数が当初価格を下回っても、上乗せが負になることはありません。

図 1 の上乗せの形は、行使価格を当初価格にした指数のコール・オプションの買いと同じです。そのため、元本確保型は、満期に額面 100 万円を返す割引債と、指数のコールの買いを組み合わせたものと見ることができます。D 社の 5 年の割引債の価格が 90 万円とします。投資家が払う 100 万円のうち残りの 10 万円が、コールの代金(オプション・プレミアム)と費用に充てられる計算です。元本確保型のなかには、上乗せに上限を付けて、受け取りを抑えるものもあります6。

ノックイン付きの型の満期の償還額

ノックイン付きの型は、期間中に指数が一度でもノックイン価格以下になり、かつ満期の指数が当初価格を下回ると、償還額が額面を下回ります2。D 社のノックイン付きの型の債券は、額面 100 万円、期間 3 年、クーポンは年 3%(毎年 3 万円)、ノックイン価格は 6,000 円とします。ノックインしたときの満期の償還額は、100 万円 × 満期の指数 ÷ 当初価格 10,000 円で、計算の結果が 100 万円を超えるときは 100 万円です。この例では、早期償還の条件は省きます。

場合 期間中の最安値(円) 満期の日経平均株価(円) 償還額(万円) クーポンとの合計(万円)
A 8,000 9,000 100 109
B 5,500 12,000 100 109
C 5,500 7,000 70 79

A は満期の指数が当初価格を下回っていますが、ノックインしていないため額面の 100 万円で償還されます。B はノックインしていますが、満期の指数が当初価格を上回ったため、償還額は額面の 100 万円にとどまります。指数が 20% 上がっても、償還額は額面を超えません。C はノックインし、満期の指数が 7,000 円なので、償還額は 70 万円です。3 年分のクーポン 9 万円を足しても 79 万円で、投資家は 21 万円の損失を負います。

C の償還額の減り方は、行使価格 10,000 円の指数のプット・オプションを額面 100 万円分売ったときの支払いと同じです。ノックインした後にだけ効くこのプットを、ノックイン・プットといいます。投資家は、債券を通じてノックイン・プットを売っていることになります。この分解とペイオフ図は、個別の株式に連動するEB 債(他社株転換債)で扱います。

日経平均リンク債の多くには、指数が早期償還判定水準以上になると満期の前に償還される早期償還条項が付いています1。早期償還されると、ノックインの可能性はなくなりますが、それ以降は当初に見込んだ利回りを得られません8。

クーポンの決まり方

元本確保型の投資家は、額面での償還を確保する代わりに、より高い利回りを手放していることがあります9。上の例の元本確保型ではクーポンをなしにしていて、5 年間の利息に当たる 10 万円(額面 100 万円と割引債の価格 90 万円の差)を、コールの代金と費用に充てる形です。満期の指数が当初価格以下なら上乗せは 0 円で、投資家はこの利息に当たる分を受け取れません。

ノックイン付きの型は、ノックインしなければ額面で償還され、同じ期間の普通の債券などより高い利回りが期待できます10。高めのクーポンは、投資家がオプションを売った対価のプレミアムに当たります11。ノックイン価格と今の指数の差が大きいほど、ノックインしにくいためクーポンは低く、差が小さいほどクーポンは高く設定されます12。上の例でノックイン価格を 6,000 円から 8,000 円に上げると、ノックインしやすくなるため、クーポンは年 3% より高く設定されることになります。

クーポン自体が指数で変わる型もあります。利率を決める日の指数が基準価格以上なら高い利率、未満なら低い利率が適用されます1。

発行体の信用と途中の売却のリスク

株価指数連動債には、発行体の財務の状況の変化で、元本や利息の支払いが滞ったり、債券の価格が下がったりするリスクがあります13。また、途中で売るのが難しく、売れたとしても、売却価格が額面を下回って損失が生じる可能性があります14。どちらも仕組商品に共通するリスクです。

元本確保型では、この 2 つのリスクが元本確保そのものに関わります。額面で償還するという約束は発行体の信用力の範囲にとどまり、発行体が破綻すると投資額の多くを失うことがあります15。また、元本確保は、多くの場合、満期まで持ったときにだけ当てはまります16。発行体には途中で買い取る義務がなく、買い取りに応じたときも、価格が額面を大きく下回ることがあります17。

このほかに、外貨建ての株価指数連動債では、円に換算して受け取る額が、為替相場の動きで投資額より少なくなり、損をすることがあります18。また、元本確保型が守るのは額面の金額で、物価の上昇から購買力を守るものではありません19。

注

  1. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 1 ページ、「1.そもそも日経平均リンク債とは?」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 5〜6 ページ、「3.日経平均リンク債の償還について」の【条件例】。 ↩ ↩2 ↩3

  3. FINRA「Regulatory Notice 09-73」(2009 年 12 月)の 1 ページ、「Background and Discussion」。 ↩

  4. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 4045.1「Corporate Notes and Bonds」の 2 ページ、「Zero-Coupon Bonds」。 ↩

  5. FINRA「Understanding Structured Notes With Principal Protection」(2023 年 4 月 12 日)の「How Do These Notes Protect My Investment?」。 ↩

  6. FINRA「Understanding Structured Notes With Principal Protection」(2023 年 4 月 12 日)の「How Do These Notes Calculate the Return on My Investment?」と「Can I Get My Money When I Need It?」の最後から 2 つ目の段落。 ↩ ↩2 ↩3

  7. 同じ資料の「Performance and Cost Considerations」の 1 段落目。 ↩

  8. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 2 ページ、「注意すべき事項」。 ↩

  9. FINRA「Regulatory Notice 09-73」(2009 年 12 月)の 6 ページ。 ↩

  10. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 1 ページ、「魅力」。 ↩

  11. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 3 ページ、「1.仕組商品とは」。 ↩

  12. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 3 ページ、「利率(クーポン)」の注。 ↩

  13. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 3 ページ、「発行者の信用リスク」。 ↩

  14. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 7 ページ。 ↩

  15. FINRA「Understanding Structured Notes With Principal Protection」(2023 年 4 月 12 日)の「How Do These Notes Protect My Investment?」の最後の段落。 ↩

  16. FINRA「Regulatory Notice 09-73」(2009 年 12 月)の 2 ページ。 ↩

  17. FINRA「Understanding Structured Notes With Principal Protection」(2023 年 4 月 12 日)の「Can I Get My Money When I Need It?」。 ↩

  18. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 6 ページ、「日経平均リンク債に特有のリスク」。 ↩

  19. FINRA「Regulatory Notice 09-73」(2009 年 12 月)の 6 ページ。 ↩