クレジット・リンク債は、スワップを取引できない投資家が債券の形で信用リスクを取るときに使われる場合があります。銀行が貸出などの信用リスクを移し、損失の支払いの資金を前もって確保するときにも使われます。
債券とプロテクションの売りの組み合わせ
クレジット・リンク債(CLN)は、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を債券に組み込んだ仕組債です。CLN の投資家は、特定の会社(参照組織)の信用リスクを保証するプロテクションの売り手の立場になり、その対価のプレミアムを受け取ることで、利息が高くなります1。参照組織にクレジット・イベントが起きると、元本は全額では償還されません2。CDS そのものの受け払いは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で扱います。
CLN の発行の形には、主に次の 2 つがあります。1 つは、CLN を発行するために設けた特別目的会社(SPC)などが発行する形です。SPC は、投資家が払い込んだ資金で国債や社債を買い、それを担保(資料によっては裏付資産)にして CLN を発行します。同時に、SPC は参照組織を対象とする CDS でプロテクションを売ります2。もう 1 つは、金融機関などの発行体が、CDS を組み込んだ自らの債券として発行する形です31。次の例は、SPC が発行する形にします。
SPC が発行する CLN の架空の例で考えます。G 社は CLN を発行するための SPC で、H 社を参照組織とする額面 10 億円、期間 5 年の CLN を投資家に発行します。G 社は払い込まれた 10 億円で、利率が年 0.5% の国債を額面 10 億円分買い、担保にします。G 社は組成する金融機関(ディーラー)と、H 社を参照組織とする想定元本 10 億円、期間 5 年の CDS を結び、プロテクションを売ります。プレミアムは年 1% です。利息と CDS のプレミアムは年に 1 回受け払いし、組成の費用はないものとします。
図の説明
投資家は、SPC の G 社に CLN の購入代金 10 億円を払い、G 社から年 1.5% の利息と償還金を受け取ります。G 社は、払い込まれた 10 億円で国債を買って担保として持ちます。ディーラーは、H 社を参照組織とする CDS のプレミアムとして年 1% を G 社に払い、H 社にクレジット・イベントが起きたときは G 社から支払いを受けます。投資家は CDS の当事者ではありませんが、CLN を通じてプロテクションの売り手の立場になります。
利息と償還の受け払い
クレジット・イベントが起きなければ、投資家は毎年の利息を受け取り、満期に額面で償還されます。例の利息の年 1.5% は、担保の国債の利息の年 0.5% と、CDS のプレミアムの年 1% を合わせたものです。毎年の利息は 10 億円 × 1.5% = 1,500 万円で、5 年間で 7,500 万円になります。日本銀行の研修資料の設例では、投資家の利息に上乗せされる分(α)は、CDS のプレミアム(β)より小さくなっています1。
クレジット・イベントが起きると、CLN は参照組織の債務の時価などで決めた額で償還されます2。担保の債券は、プロテクションの買い手への支払いの財源になります4。例で、2 年後の利払いの後に H 社にクレジット・イベントが起き、H 社の債務の価格が額面の 40% と決まったとします。G 社は担保の国債を売り、ディーラーに 10 億円 ×(100% − 40%)= 6 億円を払います。国債は額面の 10 億円で売れるものとすると、残りの 4 億円が投資家への償還金になります。償還の時期は CLN の条件で決まります。2001 年 9 月の FRB の手引が示す例では、イベントが起きた CLN をその都度償還する形と、イベントの時期によらず損失の受け払いを満期まで待つ形の両方が挙がっています4。債務の価格を決める手順(オークション)は、クレジット・イベントと決済で扱います。
図の説明
CLN を買った投資家から見た受け払いです。投資家は発行日に購入代金 10 億円を払い、1 年後と 2 年後に利息を 1,500 万円ずつ受け取ります。2 年後の利払いの後に H 社にクレジット・イベントが起き、H 社の債務の価格が額面の 40% と決まると、投資家は 4 億円で償還されます。その後の利息はありません。矢印の長さは金額の大きさの目安です。
投資家の損益は、イベントの有無で次のように分かれます。比べるために、同じ 10 億円で国債だけを 5 年間持った場合の損益も並べます。
| 場合 | 投資家の受け取りの合計(万円) | 投資家の損益(万円) | 国債だけを持った場合の損益(万円) |
|---|---|---|---|
| 5 年間イベントなし | 107,500 | +7,500 | +2,500 |
| 2 年後の利払いの後にイベント(価格 40%) | 43,000 | −57,000 | +2,500 |
イベントがなければ、投資家は国債だけを持つより 5,000 万円多く受け取ります。この 5,000 万円は、H 社の信用リスクを引き受けた対価のプレミアムです。イベントが起きると、投資家は利息の 3,000 万円と償還金の 4 億円しか受け取れず、5 億 7,000 万円を失います。
参照組織の信用力と満期の前の売却
CLN の価値は、組み込んだプロテクションの売りを通じて、参照組織の信用力で変わります。CDS の時価は、約定したときのプレミアムの率と、今の同じ条件の CDS のスプレッドの差に応じて変わります5。例で、H 社の業績が悪化し、約定したときのプレミアムの年 1% に対して、同じ条件の CDS のスプレッドが年 3% に上がると、組み込んだ CDS の価値が下がり、CLN の価格は額面を下回ります。満期の前に売ると、イベントが起きていなくても損失が出ます。H 社の信用力が良くなってスプレッドが下がれば、CLN の価格は上がります。
仕組商品には、流動性が低く、買った後の売却に制約があるものもあります6。この売りにくさは仕組商品に共通するリスクで、仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。
何に使われるか
投資家にとって CLN は、社債に似た形で信用リスクを取り、利息の上乗せを得る手段です。CLN は CDS を組み込んで社債を合成したもので、スワップを取引できない投資家に使われる場合もあります7。投資家は、参照組織の債務を直接買わなくても、参照組織の信用リスクを取れます8。一方で、上の例のとおり、参照組織にイベントが起きると元本の大半を失うことがあります。
プロテクションの買い手にとって CLN は、信用リスクを移し、その支払いを前もって確保する手段です。FRB の手引は、銀行が貸出などの信用リスクを SPC に CDS で移し、SPC が CLN を発行して得た資金で米国債を買う例を挙げています。米国債は、損失の支払いに充てるために銀行に差し入れられます4。
投資家が負う 3 つの信用リスク
CLN の投資家は、参照組織の信用リスクに加えて、元利金の支払いを支える者の信用リスクを負います。JCR の格付方法は、SPC が発行する CLN の元利金を、担保の債券、参照組織、CDS の相手方の 3 つが支えるとしています10。
参照組織にクレジット・イベントが起きると、投資家に元本は全額では償還されません11。これは投資家がプレミアムを受け取る対価として引き受けるリスクで、例の 5 億 7,000 万円の損失がこれに当たります。
担保の債券の発行体が払えなくなると、CLN の利息と償還の財源が減ります。SPC が発行する CLN の利息、償還、仕組みを保つための費用は、まず担保の債券から生じるキャッシュフローで賄うためです12。金融機関などが自ら発行する形では、担保の債券の代わりに、その発行体の信用リスクを負います3。
CDS の相手方が債務不履行になると、通常は CDS の契約が早期に解約され、CLN は元本を下回る額で期限前に償還される、と JCR は想定しています13。参照組織にイベントが起きていなくても、投資家の利益は損なわれるという想定です。
SPC と担保の管理
JCR の格付方法によると、CDS などで信用リスクを別の会社の信用に結びつけた商品(資料の語で「クレジットリンク商品」)の発行には、信託、会社法に基づいて日本に設立した合同会社、日本の外に設立した特別目的会社などを使います。クレジットリンク商品は、社債(CLN)、信託受益権、貸出の形で投資家に販売されます2。債券の発行体としては、ケイマン諸島の SPC がよく使われます9。
SPC には、CLN の発行に関わるリスクのほかは負わせず、予期しない倒産の手続きを避けます。これを倒産隔離といいます。SPC の事業は、担保の債券の購入、CLN の発行と利払いと償還、スワップなどの契約の締結だけに限ります14。1 つの SPC が複数の商品を発行するときは、商品のシリーズごとにキャッシュフローを分けます。ほかのシリーズが債務不履行になっても、そのシリーズの債権者の請求がこの CLN のキャッシュフローに及ばないようにします。この仕組みをリング・フェンシングといいます9。
CDS のプロテクションの売りとの違い
CLN を買うことと CDS でプロテクションを売ることは、どちらも参照組織の信用リスクを取る点で同じですが、次の点が違います。
| 項目 | CLN を買う | CDS でプロテクションを売る |
|---|---|---|
| 取引の形と始めるときの資金 | CDS を組み込んだ債券。投資家が額面の代金を払い込む(資金を出す形、funded)7 | デリバティブの契約。額面の払い込みのない形(資金を出さない形、unfunded)16 |
| プロテクションの買い手が支払いを受けられるか | 投資家の払い込みで買った担保で確保する4 | 相対の取引で担保がなければ、売り手が破綻すると受けられないおそれがある(2008 年の金融危機のころの資料)1718 |
プロテクションの買い手から見ると、CLN では支払いの資金が先に確保されている分、担保のない相対の CDS と比べて売り手の信用リスクが小さくなります。一方で、投資家が負う信用リスクは、上の「投資家が負う 3 つの信用リスク」の節のとおりです。
注
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日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 13〜14 ページ、CLN の設例と「基本的な仕組み」の図(「※α<β」)。 ↩ ↩2 ↩3
-
株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」(最終更新日 2012 年 12 月 3 日)の 1 ページ、「1. クレジットリンク商品」と図表 1、図表 2。資料の語は「参照体」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 2 ページ、「(1) 格付の枠組み」の「金融法人が発行体になる場合」。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 4353.1 "Collateralized Loan Obligations"(2001 年 9 月、ページ 4、PDF の 74 ページ目)。合成型の CLO の例です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
OpenGamma Quantitative Research "The Pricing and Risk Management of Credit Default Swaps, with a Focus on the ISDA Model"(2013 年 10 月)の 2.2 節と 4.5 節(3 ページと 10 ページ)。式 (28) は買い手の時価で、売り手は符号が逆です。 ↩
-
日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 15 ページ、「(1)シナリオ分析の重要性」。 ↩
-
IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 13 ページ、"Credit Linked Notes"。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 4350.1 "Credit Derivatives" の "Uses"(2003 年 4 月、ページ 4、PDF の 64 ページ目)。 ↩
-
株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 4 ページ、「(5) 投資家へのキャッシュフローの確保」と、6 ページ、「(7) その他のポイント」の「① キャッシュフローのマッチング」。 ↩ ↩2 ↩3
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株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 2 ページ、「2. 格付のポイント」の「(1) 格付の枠組み」。資料の語は「スワップカウンターパーティ」。 ↩ ↩2 ↩3
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株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 3 ページ、「(3) 参照体の格付」。 ↩
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株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 3 ページ、「(2) 裏付資産の格付(信用力)」。 ↩
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株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 3 ページ、「(4) スワップカウンターパーティの格付(契約履行能力)」。 ↩
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株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 5 ページ、「(6) SPC の倒産隔離」と図表 3。 ↩
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株式会社日本格付研究所「クレジットリンク商品」の 5 ページ、「(5) 投資家へのキャッシュフローの確保」の②。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 8 ページ、注 8("CDS are unfunded")。 ↩
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吉井一洋「クレジット市場における検討課題」(金融庁金融研究研修センター、2009 年 7 月)の「5.2.1 2008 年金融危機と集中清算機関設立の提言」(47 ページ)。資料の注記は、筆者の個人的な見解で金融庁の公式見解ではないというもの。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 4350.1 "Credit Derivatives" の "Credit Risk"(2003 年 4 月、ページ 7、PDF の 67 ページ目)。 ↩