金融機関が仕組商品を買う前にリスクを検討する場面や、販売会社が仕組債の理論価格と販売価格の差を確かめる場面で、商品を債券とデリバティブに分けて見ます。

デリバティブを組み込んだ商品

仕組商品は、通常の債券、預金、貸出に、スワップやオプションなどのデリバティブを組み込んだ商品です。債券に組み合わせたものを仕組債、預金に組み合わせたものを仕組預金、貸出に組み合わせたものを仕組ローン(仕組貸出)といいます。例えば、仕組債には日経平均リンク債、仕組預金にはコーラブル定期預金があります1。

債券などの契約に組み込まれたデリバティブを、組込デリバティブといいます。仕組債では、組み込んだデリバティブによって、利息の額が金利のほか株価指数や為替相場などの指標で決まったり、償還の金額や満期の日が変わったりします2。

投資家、発行体、ディーラーの間で渡すもの

仕組債では、投資家が発行体に元本を払い、発行体から利息(クーポン)と償還金を受け取ります。組み込んだデリバティブについては、投資家は発行体とデリバティブの取引をしたのと同じ立場になります。多くの仕組債では、投資家がオプションを発行体に売っています2。

発行体は、組み込んだデリバティブと同じ形の取引を、スワップの相手方と反対の向きに結ぶことがあります。例えば、クレジット・リンク債(CLN。ある会社の信用リスクを組み込んだ債券)では、発行体は、投資家から買ったその会社の信用リスクのプロテクションを、同じ形でスワップの相手方に売ります。その対価として、プレミアムを受け取ります3。ゼロフロアが付いた金利の仕組債では、発行体は、クーポンが 0% を下回らない保証(ゼロフロア)を投資家に売り、同じ形のフロアをスワップの相手方から買います4。

A 社が発行し、組成する金融機関(ディーラー)がスワップの相手方を兼ねる仕組債の架空の例で考えます。

投資家A 社発行体ディーラースワップの相手方元本クーポンと償還金オプションオプションプレミアム
図 1仕組債で投資家、A 社、ディーラーの間で渡すもの
図の説明

投資家は A 社に元本を払い、A 社から高めのクーポンと償還金を受け取ります。投資家は仕組債を通じて A 社にオプションを売っています。A 社は、同じオプションをディーラーに売り、ディーラーから対価のプレミアムを受け取ります。A 社が投資家に上乗せするクーポンは、このプレミアムから手数料を差し引いた残りで払われます。

債券とオプションの売りか買いに分ける

仕組商品は、通常の債券と組み込んだデリバティブに分けると、損益の形が分かります。例えば、転換社債(転換社債型新株予約権付社債)の価値は、社債の価値と株式のオプションの価値の和として考えられます5。オプションを買う側と売る側で損益がどう違うかは、オプションの基本(コールとプット)で扱います。

この章の主な商品を分けると、次の表のとおりです。表のEB 債(他社株転換債)は、株価の動きによって、満期に金銭の代わりに発行体とは別の会社の株式で償還されることがある債券です6。

商品 分けたときの形 投資家の立場
EB 債7 債券と、対象株式のプット・オプション プットの売り
コーラブル債(発行体が満期の前に償還できる債券)8 債券と、発行体が期限前償還する権利 権利の売り
CLN3 債券と、参照組織の信用リスクのプロテクション(クレジット・デフォルト・スワップ) プロテクションの売り
転換社債(CB)5 社債と、株式のコール・オプション コールの買い
クーポンのゼロフロアが付いた金利の仕組債9 債券と、クーポンが 0% を下回らないようにするフロア フロアの買い

投資家がオプションを売る形では、受け取るプレミアムを元に、クーポンが高くなります(差し引かれる手数料は次の節)。その代わりに、市場の値が不利に動くと、その分を投資家が負担します7。投資家がオプションを買う形(転換社債、ゼロフロア)では、投資家がプレミアムを払う側になります9。転換社債の利率は、普通社債より低いのが一般的です10。

利回りが高くなる理由と差し引かれるコスト

多くの仕組商品では、投資家がオプションを売って受け取る対価(プレミアム)や、指標の動きを何倍にもしてクーポンに映す仕組み(レバレッジ)で、利回りを高めにしています1。

プレミアムは、全額が投資家に届くわけではありません。オプションを組み込むときに、プレミアムから組成する金融機関の収益になる手数料(仕組段階の手数料)が引かれ、販売会社が顧客に売るときの手数料(販売段階の手数料)も掛かります11。CLN の例でも、発行体が投資家に上乗せするクーポンは、発行体が受け取るプレミアムより小さくなっています3。金融庁は、EB 債について、こうした手数料を理由の 1 つに、顧客がリスクに見合うリターンを得られていないと指摘しています11。

仕組商品に共通するリスク

多くの仕組商品に共通するのは、発行体の信用リスクと、途中で換金しにくいリスクです。仕組債の償還は、組み込んだデリバティブの指標のほかに、発行体の信用にも依ります。発行体の経営や財務の状況が悪くなると、元本や利息の支払いが滞ったり、払えなくなったりすることがあります。発行体の信用が下がって債券の価格が下がれば、途中で売るときに元本を下回ることもあります12。

仕組商品には、途中で売りにくいものが多くあります。市場で売買される量が少ないものが多く、販売会社に売ろうとしても、いつも売れるとは限りません。売れても、実際の売却価格が理論価格(市場の値からモデルで計算した価格)よりかなり低くなることがあります13。米国の仕組債でも、ほかの多くの証券より流動性のリスクが大きいことが多く、1 回に売る額が小さいものほど売りにくくなります(1998 年の時点)14。仕組預金は、満期まで原則として中途解約ができず、解約できても受取額が元本を大きく下回ることがあります15。

元本を下回って戻るリスクは、組み込んだデリバティブの形で決まります。ノックインの条件が付いた日経平均リンク債では、株価指数が、あらかじめ決めた水準(ノックイン価格)以下になる(ノックインする)と、償還の金額が株価指数に連動します。その後も株価指数が下がり続けると、投資額を大きく下回る額で償還され、仕組みによっては元本がゼロになることもあります16。

一方、いわゆる元本確保型の仕組債は、満期まで持てば、指標がどう動いても額面の全額が戻るように作られています17。満期に発行価格と同じ額で償還される例には、ゼロフロアが付いた金利の仕組債で、発行価格と償還価格をどちらも 100 円と決めたものがあります9。ただし、額面で戻るのは、債券の建て通貨(米ドル建てなら米ドル)での金額です。発行体の信用リスクは残り18、外貨建てなら、為替リスクによって円での受取額が投資額を下回ることがあります19。2023 年に改正された日本証券業協会の「広告等に関する指針」は、複雑な仕組債について、償還が建て通貨で 100% であることだけで「元本確保型」と表示しないよう求めています20。

日本の仕組債の販売のルール

日本証券業協会は、2023 年 4 月 18 日に、複雑な仕組債などの販売勧誘について「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」と関係するガイドラインなどを改正し、7 月 1 日から施行しました22。金融庁は、販売会社がこの改正と、日本証券業協会が公表した Q&A を最低限の基準として対応する必要があるとしています23。

勧誘開始基準のガイドラインは、販売会社に、一定の投資の経験がない顧客を勧誘の対象に含めない基準(勧誘開始基準)を設けることを求めています。ガイドラインは、安定した運用を目的にしているなど、大きな損失が出ると生活の維持が難しくなる顧客も、勧誘の対象にすべきでない例に挙げています24。

合理的根拠適合性のガイドラインは、販売会社に、組成する金融機関から理論価格を入手し、販売価格との差が妥当かを検証することを求めています。そのうえで、販売の対象になる顧客がいるか、どの範囲かを商品ごとに検証することも求めています25。

重要事項説明のガイドラインは、その仕組債を買うことが顧客に適していると考えられる理由などを、説明する重要な事項に含めています。高い金利や高い格付けを過度に強調する説明もすべきではないとしています26。

銀行が扱う仕組預金は、銀行法で特定預金等に位置付けられ、提供する銀行に契約締結前の情報提供義務などの規制が課されています27。

この章で扱う商品

この章は、仕組債、仕組預金と仕組ローンの順に商品を扱います。最初に、株式に連動する仕組債のうち、投資家がプットを売る典型的な形であるEB 債(他社株転換債)を読むと、ほかのページの分け方を追いやすくなります。

株価指数連動債は、株価指数に連動する仕組債で、元本確保型とノックイン付きの型の違いも扱います。早期償還条項付き債券とコーラブル債は、条件で自動に早期償還される債券と、発行体が満期の前に償還できる債券を、それぞれ扱います。転換社債(CB)は、投資家がオプションを買う側になる商品の例です。クレジット・リンク債(CLN)は、参照組織のプロテクションを売る商品です。PRDC 債は為替に連動する仕組債で、デジタル・クーポン債も、この章に含まれます。仕組預金は預金に組み合わせた商品、仕組ローンは貸出に組み合わせた商品です。

注

  1. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 3 ページ、「1.仕組商品とは」。 ↩ ↩2

  2. Board of Governors of the Federal Reserve System(FRB)「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 4040.1 の 1 ページと、3 ページの "tied to indexes other than interest rates" を含む段落。 ↩ ↩2

  3. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 13〜14 ページ、CLN の項と「基本的な仕組み」の図(「A社の信用保証」「プレミアム(β)」「※α<β」)。 ↩ ↩2 ↩3

  4. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 7 ページと 9 ページ、「基本的な仕組み」の図(リバース・フローター債、CMS 債)の「ゼロフロア保証」と「フロア*」。 ↩

  5. 大嶽文伸、小田信之、吉羽要直「転換社債の市場価格分析とリスク管理」(日本銀行金融研究所 ディスカッション・ペーパー No. 98-J-15、1998 年 8 月)の 5 ページ、「転換社債価値(CB)=社債価値(B)+株式オプション価値(OP)」の式と「シンプル・モデル」。 ↩ ↩2

  6. 金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 28 ページ、脚注 25。 ↩

  7. 金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 29 ページ、「① 商品性に関する問題点」と脚注 27。 ↩ ↩2

  8. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 4 ページと 6 ページの「マルチコーラブル」と、FRB「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 4040.1 の 1〜2 ページ、「Step-Ups/Multi-Steps」。 ↩

  9. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 4 ページ、6 ページ、8 ページの「ゼロフロア」と、設例の「発行・償還価格:100円」。 ↩ ↩2 ↩3

  10. 日本取引所グループ「転換社債型新株予約権付社債(CB)とは」(概要(CB))の「特徴」。 ↩

  11. 金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 30 ページ、「① 商品性に関する問題点」の「また、オプションを組み込む際」で始まる段落。 ↩ ↩2

  12. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 3 ページ、「発行者の信用リスク」。 ↩

  13. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 15 ページと 30 ページ、「(1)シナリオ分析の重要性」と「4.リスク管理のポイント」の「(1)購入前の検討」。 ↩

  14. FRB「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 4040.1「Structured Notes」の 7 ページ(1998 年 2 月の版)、流動性リスクの段落。 ↩

  15. 全国銀行協会「仕組預金」の「『仕組預金』にもリスクがあります。」の項。 ↩

  16. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 1〜2 ページ、「○償還金額が変動する日経平均リンク債」と「〇 注意すべき事項」。 ↩

  17. Financial Industry Regulatory Authority(FINRA)「Understanding Structured Notes With Principal Protection」(2023 年 4 月 12 日)の冒頭の段落と、「How Do These Notes Protect My Investment?」の 1 段落目。 ↩

  18. FINRA「Understanding Structured Notes With Principal Protection」(2023 年 4 月 12 日)の「How Do These Notes Protect My Investment?」の最後の段落。 ↩

  19. 日本証券業協会「日経平均リンク債の特徴やリスクとは?」の 6 ページ、「〇日経平均リンク債に特有のリスク」。 ↩

  20. 日本証券業協会「複雑な仕組債等の販売勧誘に係る『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則』等の一部改正について」(2023 年 4 月 18 日)の別紙「『広告等に関する指針』の一部改正について」の 5 ページ(PDF の 44 ページ)、第 2 部「Ⅲ.債券」の「4.個別銘柄の広告等」の「(10) 仕組債」の⑥(改正後)。 ↩

  21. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 29〜34 ページ、「4.リスク管理のポイント」の「(1)購入前の検討」「(2)購入時の決裁手続き」「(3)購入後のモニタリング」。 ↩

  22. 日本証券業協会「複雑な仕組債等の販売勧誘に係る『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則』等の一部改正について」(2023 年 4 月 18 日)の 1〜2 ページ、「Ⅰ.改正の趣旨」「Ⅱ.改正の骨子」と、8 ページ、「Ⅲ.施行の時期」。 ↩

  23. 金融庁「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果」(2023 年 6 月)の 8 ページ、「① 仕組債」の「(イ)商品導入・販売に際して販売会社に求められる事項」。 ↩

  24. 日本証券業協会「複雑な仕組債等の販売勧誘に係る『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則』等の一部改正について」(2023 年 4 月 18 日)の 5〜6 ページ、「3.『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則第5条第2項の考え方』(勧誘開始基準ガイドライン)」の (2)。 ↩

  25. 日本証券業協会「複雑な仕組債等の販売勧誘に係る『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則』等の一部改正について」(2023 年 4 月 18 日)の 3 ページ、「2.『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則第3条第3項の考え方』(合理的根拠適合性ガイドライン)」の (5) と (6)。 ↩

  26. 日本証券業協会「複雑な仕組債等の販売勧誘に係る『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則』等の一部改正について」(2023 年 4 月 18 日)の 7 ページ、「5.『協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則第3条第4項の考え方』(重要事項説明ガイドライン)」の (1) と (2)。 ↩

  27. 金融庁「仕組預金の説明態勢等に係る監督指針の改正(概要)」(2026 年 7 月)の「概要」とその注。 ↩