デリバティブが組み込まれた契約を持つ場面や発行する場面で、会計処理の担当は、契約ごとに、次の条件で組込デリバティブを切り離すかを判定します。

組込デリバティブと主契約

組込デリバティブは、デリバティブではない契約(主契約)に組み込まれ、契約全体のキャッシュフローの一部を、金利、証券の価格、商品価格、為替相場、指数などの変数に応じて変える部分です1。

主契約と組込デリバティブを合わせた契約の呼び名は、基準で違います。国際財務報告基準(IFRS)第 9 号は混合契約(hybrid contract)、米国会計基準の ASC 815-15 はハイブリッド商品(hybrid instrument)、日本基準は複合金融商品です123。

契約に付いたデリバティブでも、その契約から独立して譲渡できるもの、または相手が違うものは、組込デリバティブではなく別の金融商品です1。

切り離す理由は、米国財務会計基準審議会(FASB)の考え方で説明できます。デリバティブを時価で測る定めがあっても、社債や持分のような契約の条件にデリバティブを組み込めば、その定めを避けられてしまいます。FASB は、一定の要件を満たすときは、組み込まれた部分を主契約から切り離してデリバティブとして会計処理することにしました2。

区分処理するかどうかの判定

組込デリバティブを切り離すことを、区分処理といいます。判定は、IFRS 第 9 号と ASC 815-15 で、主契約の種類によって入口が分かれます。

IFRS 第 9 号は、主契約が同基準の範囲の金融資産なら、組込デリバティブを切り離さず、金融資産の分類と測定の定めを契約全体に当てはめます4。ASC 815-15 は、主契約が債券、持分、リースなどのどれでも、同じ 3 条件で判定します5。

IFRS 第 9 号は主契約が金融資産でないとき、ASC 815-15 は主契約を問わず、次の 3 つの条件がすべて満たされるときに限って区分処理を求めます6。

  • 組み込まれた部分の経済的な特徴とリスクが、主契約の経済的な特徴とリスクと密接に関連していません(ASC 815-15 では「明らかに、かつ密接に関連していない」)。
  • 組み込まれた部分と同じ条件の独立した商品が、デリバティブの定義を満たします。定義の要素は、値が金利や価格などの指標に応じて変わること、当初に払う金額が小さいか不要であること、将来の日に決済することです(IFRS 第 9 号の定義の 3 要素)7。ASC 815-15 では、デリバティブの定義に加えて、範囲除外にあたらないことも要ります5。
  • 契約全体を、時価で測り、変動を損益に計上する扱いにはしていません。

3 つ目の条件は、契約全体がすでに時価で損益に計上されるなら、切り離す必要がないという意味です。例えば IFRS 第 9 号では、損益を通じた公正価値(FVTPL)で測る金融負債に組み込まれたデリバティブは切り離しません8。ASC 815-15 の 3 条件に検討の順序はなく、契約全体が時価で損益に計上されるなら、密接に関連するかの検討は要りません5。

判定の流れを、基準ごとに図で見ます。まず IFRS 第 9 号です。

はいいいえ主契約は、同基準の範囲の金融資産以外か区分せず契約全体を分類するはいいいえ組み込まれた部分は、主契約と密接に関連しない特徴か区分せず一体で処理するはいいいえ同じ条件の独立した商品は、デリバティブの定義を満たすか区分せず一体で処理するはいいいえ契約全体は、FVTPL で測る扱い以外か区分せず一体で処理する区分処理を求められる
図 1IFRS 第 9 号で組込デリバティブを区分処理するかの判定
図の説明

図は、IFRS 第 9 号で区分処理を求められるかを、4 つの質問で確かめます。入口は主契約が金融資産かで、金融資産なら区分せず、契約全体を金融資産として分類します。 残りの 3 つの質問は 3 条件にあたり、順序はありません。いずれかが「いいえ」なら区分せず一体で処理します。すべて「はい」のときに区分処理を求められます。

区分処理を求められても、組込デリバティブを区別して測れないときは、契約全体を FVTPL で測る指定をします9。区分処理の代わりに契約全体を FVTPL で測る選択もあります。

ASC 815-15 は、主契約の種類で入口が分かれず、3 つの条件がすべて満たされるかだけで決まります。

はいいいえ組み込まれた部分は、主契約と明らかに、かつ密接には関連しない特徴か区分せず一体で処理するはいいいえ同じ条件の独立した商品は、ASC 815 のデリバティブとして会計処理されるか区分せず一体で処理するはいいいえ契約全体は、時価で測り損益に計上する扱い以外か区分せず一体で処理する区分処理を求める
図 2ASC 815-15 で組込デリバティブを区分処理するかの判定
図の説明

図は、ASC 815-15 で区分処理を求めるかを、3 つの質問で確かめます。3 つの質問は 3 条件にあたり、検討の順序はありません。 2 つ目の質問は、デリバティブの定義に加えて、範囲除外にあたらないかも含みます。いずれかが「いいえ」なら区分せず一体で処理し、3 つとも「はい」なら区分処理を求めます。主契約が債券でも持分でもリースでも、同じ質問で判定します。

図は 2 つとも、3 条件を中心にした骨格です。

判定の例

組み込まれた部分と同じ条件の独立した商品が、どの契約でもデリバティブの定義を満たす架空の例で考えます。

  • 例 1: C 社が、償還額が株価指数に連動する債券を保有する。 IFRS 第 9 号では、主契約が同基準の範囲の金融資産なので、区分せず、契約全体に金融資産の分類と測定の定めを当てはめます4。ASC 815-15 では、株式の価値の変動は債券の金利と密接に関連しない例とされ、契約全体を時価で損益に計上する扱いでなければ、3 条件がすべて満たされて区分処理を求めます510。この債券を保有する側から見ても、基準によって、区分するかの入口が違います。
  • 例 2: C 社が、償還額が株価指数に連動する債券を発行し、契約全体を FVTPL で測る。 株価指数への連動は、IFRS 第 9 号の付録 B で債務の主契約と密接に関連しない例にあたります11。それでも、契約全体を FVTPL で測るので、3 つ目の条件を満たさず、組込デリバティブは切り離しません8。ASC 815-15 でも、契約全体が時価で損益に計上されるなら、密接に関連するかの検討は要りません5。
  • 例 3: 例 2 の債券を、契約全体を FVTPL で測る扱いにしない。 発行する側から見て、主契約は金融負債で、株価指数への連動は密接に関連しません11。3 条件がすべて満たされるので、IFRS 第 9 号も ASC 815-15 も、組込デリバティブの区分処理を求めます10。区分すると、組込デリバティブは時価で測り、変動は損益に計上します。主契約は、それに当てはまる基準で測ります12。

例 2 と例 3 は、契約の経済的な中身が同じでも、契約全体を時価で損益に計上する扱いにするかで、区分処理の有無が変わることを示します。区分処理しない例 2 では、契約全体を時価で測る扱いになります。区分処理する例 3 では、組込デリバティブの変動だけが時価で損益に出て、主契約は別の基準で測られます。

密接に関連するかの例

次の表は、IFRS 第 9 号の付録 B が示す例のうち、主契約が債務(債券を発行する側から見た金融負債など)の場合です。組込デリバティブを切り離すかは、3 条件のうち残り 2 つも満たすかで決まります。

組み込まれた特徴 主契約と密接に関連するか
株価指数や商品価格に連動して、利息や元本が決まる 関連しない(リスクの性質が違う)11
償還額が株価指数や商品価格で変わる売戻し権 関連しない11
信用リスクを移す信用デリバティブ 関連しない11
期限前償還やコール・オプションなどのオプション 行使価格が償却原価にほぼ等しいときなどを除き、関連しない11
金利や金利指数で利息の金額が変わる 関連する。ただし、例外が 2 つある13
利付債の金利の上限(キャップ)と下限(フロア) 発行時に上限が市場金利以上、下限が市場金利以下で、レバレッジが掛かっていなければ関連する13
元利払いが外貨建てになる(デュアル・カレンシー債) 関連する13

次の 2 つの場合は、この例の「関連する」に当てはまりません。1 つは、保有者が投資額の大部分を回収できなくなる場合です。もう 1 つは、組込デリバティブが保有者の当初の収益率を 2 倍以上にでき、同じ条件の契約の市場の収益率の 2 倍以上の収益率になりうる場合です13。

3 つの基準の違い

論点 IFRS 第 9 号 ASC 815-15 日本基準(2006 年 3 月の解説)
経済的な特徴の関連を表す語 closely related(密接に関連) clearly and closely related(明らかに、かつ密接に関連) 経済的性格及びリスクが密接な関係14
区分に代えて、全体を時価で測る選択 主契約が金融資産でない契約では、全体を FVTPL で測るよう指定できる15 区分が必要な金融商品を、取消不能の選択で全体を時価で測れる16 全体を時価評価する処理がある14
組込デリバティブを区別して測れないとき 全体を FVTPL で測るよう指定する9 全体を時価で測り、損益に計上する17 全体を時価評価する14

日本基準の欄は、適用指針第 12 号の公表時(2006 年 3 月)の解説にもとづきます。IFRS 第 9 号の欄は、2014 年 12 月版の本文にもとづきます。

日本基準の扱い

この節は、1999 年の企業会計審議会の意見書と、2006 年 3 月の大和総研の解説にもとづきます。その後の改正を反映しておらず、現在の基準の内容と同じとは言い切れません。

日本基準での区分処理は、債券などからデリバティブ部分を区分し、時価で評価して評価損益を損益に計上する処理です14。

1999 年の意見書は、払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品(新株引受権付社債や転換社債など)と、それ以外の複合金融商品を分けて扱っていました。後者には、金利オプション付借入金のように、現物の資産や負債にデリバティブが組み合わされたものがあります3。意見書は、後者を原則として区分せず一体で処理するとしました。ただし、現物の金融資産や金融負債にリスクが及ぶ可能性があり、複合金融商品の評価差額が損益に反映されない場合は、区分して処理するとしていました3。

2006 年 3 月の解説は、企業会計基準委員会(ASBJ)が同月に公表した企業会計基準適用指針第 12 号を扱っています。解説によると、改正前の基準と実務指針で区分処理が要った複合金融商品は、次の 3 つをすべて満たすものでした14。

  1. 組み込まれた部分のリスクが、元の金融資産や金融負債にも波及しうる。
  2. 同じ条件で単独の契約にしたとき、その部分がデリバティブの特徴を備える。
  3. 複合金融商品全体の評価差額が、損益に出ない扱いになっている。

適用指針第 12 号は、1 つ目の条件の扱いを見直しました。組み込まれたデリバティブの経済的性格とリスクが現物と密接な関係にあり、リスクが当初元本に及ぶ可能性が低ければ、1 つ目の条件に当たらないとしています14。解説は物価連動国債を例に、区分処理は要らず 1 つの債券として会計処理するとしています14。

区分処理したあとの会計処理

IFRS 第 9 号では、区分した組込デリバティブは、当初から時価で測り、以後の変動を損益に計上します。主契約は、それに当てはまる基準で会計処理します12。主契約の当初の帳簿価額は、組込デリバティブを切り離した残りの金額です。切り離すときは、フォワードやスワップのような非オプションは、当初の時価がゼロになるように条件を決めます。キャップ、フロア、コールなどのオプションは、契約に書かれた条件で切り離します18。切り離した部分を財政状態計算書で別に表示するかどうかは、IFRS 第 9 号は定めていません19。

ASC 815-15 でも、区分した組込デリバティブは時価で測り、変動を損益に計上します。主契約は、それに当てはまる基準で会計処理し、時価で継続して測るわけではありません。区分した組込デリバティブを、要件を満たすキャッシュ・フロー・ヘッジか在外営業活動体への純投資のヘッジのヘッジ手段に指定したときだけ、変動をその他の包括利益に計上します20。ヘッジ会計の中身はヘッジ会計の基本で扱います。

組込デリバティブの時価の測り方は時価評価(IFRS 第13号、ASC 820、時価のレベル)で扱います。

典型の商品

ASC 815-15 では、転換社債の株式への転換権は、債券の主契約の金利と密接に関連しない例に当たります。解説は、転換権のような株式の価値の変動を、この例に挙げています5。日本基準は、転換社債のように払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品を、それ以外の複合金融商品と分けて定めています3。会社法の施行日以降に発行を決議した新株予約権付社債は、企業会計基準適用指針第 17 号に従います22。

仕組債のうち、償還時の平均株価や為替相場で償還元本が増減する株価リンク債と為替リンク債は、日本の実務指針で、リスクが元本に及ぶ仕組債の例とされます。満期保有目的の債券に当たるかは、組込デリバティブを区分処理するかとは別の問いです23。

注

  1. AASB 9「Financial Instruments」(2014 年 12 月。冒頭の「COMPARISON WITH IFRS 9」に、AASB 9 に従う企業は同時に IFRS 第 9 号にも従うとある)第 4.3.1 項、第 4.3.2 項。以下、IFRS 第 9 号の項番号はこの文書による。 ↩ ↩2 ↩3

  2. Deloitte & Touche LLP "Deloitte's Roadmap: Derivatives" 1.3 "Concept of Embedded Derivatives"(ASC 815-15-05-1 の引用と、ホスト契約(host contract)とハイブリッド商品(hybrid instrument)の説明、FASB が回避を防ぐと考えた経緯)。監査法人の解説。 ↩ ↩2

  3. 企業会計審議会「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(1999 年 1 月 22 日)の「七 複合金融商品」。金融商品に複数種類の金融資産または金融負債が組み合わされたもの(複合金融商品)が含まれることは、同意見書の金融資産・金融負債の範囲を述べた段落にある。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  4. AASB 9 第 4.3.2 項。主契約が同基準の範囲の資産のときは、第 4.1.1〜4.1.5 項を契約全体に当てはめる。 ↩ ↩2

  5. Deloitte's Roadmap: Derivatives 4.3.1 "Overall Framework"(3 条件の順序、契約全体が時価で損益に計上されるときの扱い、株式の価値の変動の例)、4.3.2.1 "Background"(主契約の種類)。監査法人の解説。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  6. AASB 9 第 4.3.3 項(IFRS 第 9 号)。Deloitte's Roadmap: Derivatives 4.3.1 "Overall Framework" の ASC 815-15-25-1 の引用(ASC 815-15 の 3 条件)。 ↩

  7. AASB 9 付録 A の「derivative」の定義((a) 指標に応じて価値が変わる、(b) 当初の正味の投資が不要か、同様の市場要因への反応を持つ他の契約より小さい、(c) 将来の日に決済する)。 ↩

  8. AASB 9 第 4.3.3 項(a)〜(c)。(c)に「損益を通じて公正価値で測る金融負債に組み込まれたデリバティブは切り離さない」とある。 ↩ ↩2

  9. AASB 9 第 4.3.6 項、第 4.3.7 項。組込デリバティブを単独で測れないときは全体を指定する。 ↩ ↩2

  10. Deloitte's Roadmap: Derivatives 6.2.2.4 "Equity-Indexed Payment Features"(株価指数に連動する支払の特徴は、契約全体を時価で測り変動を損益に計上する扱いでなければ、通常は区分処理が要ること。債券の主契約に組み込まれた株価指数連動の支払の特徴には、個別の範囲除外がないこと)。監査法人の解説。 ↩ ↩2

  11. AASB 9 第 B4.3.5 項(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)。付録 B の例のうち、「関連しない」とされるもの。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  12. AASB 9 第 B4.3.1 項、第 4.3.4 項。 ↩ ↩2

  13. AASB 9 第 B4.3.8 項(a)、(b)、(c)。付録 B の例のうち、「関連する」とされるもの。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  14. 大和総研「物価連動国債、区分処理は不要に(確定版)」(2006 年 3 月 31 日)の 1〜3 ページ(区分処理の定義、改正前の 3 条件、全体の時価評価、適用指針第 12 号)。民間の調査機関の解説。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  15. AASB 9 第 4.3.5 項。主契約が同基準の範囲の資産でない契約について、全体を損益を通じた公正価値の測定に指定できる。ただし、組込デリバティブがキャッシュフローを大きく変えない場合と、切り離しが禁じられることが分析なしで明らかな場合を除く。 ↩

  16. Deloitte's Roadmap: Derivatives 4.4.6.1 "Eligibility" の ASC 815-15-25-4 の引用。監査法人の解説の中の基準の引用。 ↩

  17. Deloitte's Roadmap: Derivatives 4.4.5.1 "Recognition and Measurement" の ASC 815-15-30-1、35-2 の引用。 ↩

  18. AASB 9 第 B4.3.3 項。 ↩

  19. AASB 9 第 4.3.4 項。 ↩

  20. Deloitte's Roadmap: Derivatives 4.4.3.2 "Subsequent Measurement"(ASC 815-10-35-1 の引用を含む)。 ↩

  21. AASB 9 第 B4.3.11 項。 ↩

  22. 日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」(廃止前の版。jicpa-68 の注を参照)第 185-2 項。会社法施行日以降に発行決議があった新株予約権付社債の会計処理は、適用指針第 17 号を適用して行う。 ↩

  23. 日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」(最終改正 2015 年 4 月 14 日。同報告は 2024 年 7 月 1 日付で廃止され、企業会計基準委員会の移管指針に移管されている。この記事の項番号は廃止前の版のもの)第 68 項の満期保有目的の債券の条件のうち、額面金額による償還の条件を述べた段落。 ↩