日本基準で、デリバティブをヘッジ会計の対象にするかを判断し、繰延ヘッジ損益などを処理する経理の場面で、ヘッジ取引の開始時から決算まで出てきます。要件のうち文書による確認は開始時に、有効性の評価は決算日に行います。

何のためにあるか

企業がヘッジのためにデリバティブを使うと、ヘッジ対象とヘッジ手段で、損益が出る時期がずれることがあります。たとえば、変動金利の借入金の利払いを固定する金利スワップを持つとします。ヘッジ会計を使わない場合、金利スワップは基本原則どおり時価で評価されます1。ヘッジ会計は、両方の損益を同じ期間に対応させて、ヘッジの効果を決算に映す会計処理です2。

日本基準のヘッジ会計の基準は、企業会計基準委員会(ASBJ)の企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」で、日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」が運用を定めていました3。同報告は廃止されたため、以下の項番号は、廃止前の最終版(2019 年改正)のものです4。

ヘッジ会計の考え方と 3 つの型(公正価値ヘッジ、キャッシュ・フロー・ヘッジなど)はヘッジ会計の基本で扱います。

繰延ヘッジと時価ヘッジ

日本基準のヘッジ会計の原則的な方法は、繰延ヘッジです。例外として、時価ヘッジも認められます5。

繰延ヘッジは、ヘッジ手段の損益や評価差額を、ヘッジ対象の損益が純損益として認識されるまで繰り延べる方法で、繰り延べた額を繰延ヘッジ損益といいます67。時価ヘッジは、ヘッジ対象の相場変動を損益に反映させて、その損益とヘッジ手段の損益を同じ会計期間に認識する方法です5。

時価ヘッジを使えるのは、ヘッジ対象の時価を貸借対照表価額にできるものです。2019 年の改正時点の実務指針は、金融商品会計基準との関係から、その他有価証券だけと解釈しています5。その他有価証券をヘッジ対象にする場合は、繰延ヘッジと時価ヘッジのどちらかを選びます6。

ヘッジ会計を使うための要件

ヘッジ会計を使うには、ヘッジ取引時の要件と、ヘッジ取引時以降の要件を満たす必要があります8。

  1. ヘッジ取引の開始時に、企業は、ヘッジ手段とヘッジ対象、ヘッジ有効性の評価方法を、正式な文書で明確にします9。
  2. 企業は、ヘッジ取引が自社のリスク管理方針に従っていることを、客観的に示します。そのためには、文書で確認できるか、明確な内部規定と内部統制の組織があって、取引がそれに従って処理されると期待できる必要があります10。
  3. 企業は、ヘッジ取引時以降も、ヘッジの指定期間を通して高い有効性が保たれているかを確かめます。決算日には必ず評価し、少なくとも 6 か月に 1 回程度は評価します11。

有効性の判定は、原則として、ヘッジ開始時から判定時点までの、ヘッジ対象とヘッジ手段の変動の累計を比べます。変動額の比率がおおむね 80% から 125% の範囲内なら、高い相関関係があると認められます12。たとえば、ヘッジ手段の損失が 80、ヘッジ対象の利益が 100 なら 80%、ヘッジ手段の利益が 100、ヘッジ対象の損失が 80 なら 125% で、どちらも範囲内です12。

繰延ヘッジの処理と繰延ヘッジ損益

繰延ヘッジでは、企業は、ヘッジ手段を時価評価して、評価差額を繰延ヘッジ損益に計上します。繰延ヘッジ損益は、純資産の部に計上します。繰延税金資産または繰延税金負債の額を控除した金額で計上し、連結財務諸表では、その当期の変動額をその他の包括利益として表示します17。

変動金利の借入金 10 億円の利払いを固定するために金利スワップを結ぶ架空の例で考えます。ヘッジ会計の要件は満たし、特例処理の条件は満たさないものとし、税効果は考えません。

期末のスワップの時価 仕訳の内容 繰延ヘッジ損益
3,000 万円のプラス(受け取る側が有利) 金利スワップ(資産)3,000 万円を計上し、繰延ヘッジ損益を貸方に計上 貸方 3,000 万円
2,000 万円のマイナス(支払う側が不利) 金利スワップ(負債)2,000 万円を計上し、繰延ヘッジ損益を借方に計上 借方 2,000 万円

どちらの場合も、評価差額はその期の損益には出ません。同じ形の仕訳は、実務指針の設例 24(借入金 1 億円、期間 3 年)にあります18。

繰延ヘッジ損益が置かれてから損益に戻るまでの流れは、図 1 のとおりです。

ヘッジ開始時ヘッジ手段、対象、有効性の評価方法を文書で明確にする各決算日ヘッジ手段を時価評価し、評価差額を繰延ヘッジ損益に計上する。その期の損益には出さない決算日貸借対照表繰延ヘッジ損益は純資産の部に置く(税効果を控除した額)ヘッジ対象の損益が出る時繰延ヘッジ損益を損益に戻す。原則としてヘッジ対象と同じ区分で表示する
図 1繰延ヘッジ損益が置かれて損益に戻るまでの流れ
図の説明

繰延ヘッジの流れを古い順に並べた年表です。ヘッジの開始時に、ヘッジ手段とヘッジ対象、有効性の評価方法を文書で明確にします。決算日ごとに、ヘッジ手段を時価評価し、評価差額が利益でも損失でも、繰延ヘッジ損益に計上して、その期の損益には出しません。繰延ヘッジ損益は、税効果を控除した額で純資産の部に置きます。ヘッジ対象の損益が出る時に、繰延ヘッジ損益を損益に戻し、原則としてヘッジ対象と同じ区分で表示します。図の間隔は、時間の長さを表しません。塗りの丸は、損益に戻る時点です。

繰延ヘッジ損益が損益に戻る時期は、ヘッジ対象で決まります。ヘッジ対象が商品なら売上原価、株式なら有価証券売却損益、利付資産・負債なら利息の調整に戻します19。予定取引のヘッジでは、次のようになります20。

予定取引 繰延ヘッジ損益の処理
売上や金利など、純損益がすぐ出る取引 取引の実行時に、当期の純損益にする
棚卸資産や有形固定資産の購入 資産の取得価額に加減し、資産が費用になる期の損益に反映する
社債や借入金など、利付負債の発生 引き続き純資産の部に置き、償却原価法で利息費用に合わせて各期へ配分する

金利スワップの特例処理

金利スワップは、資産または負債の金利の受払条件を変換するために使われます。ヘッジ会計の要件を満たし、想定元本、利息の受払条件、契約期間が対象とほぼ同じなら、スワップを時価評価せず、金銭の受払の純額を、対象の資産または負債の利息に加減して処理できます。これを特例処理といいます21。

特例処理には、次の条件をすべて満たす必要があります22。

  • スワップの想定元本と、対象の資産または負債の元本がほぼ一致している。
  • スワップの契約期間が、対象の満期とほぼ一致している。
  • 対象が変動金利なら、基礎の指標がスワップの変動金利の指標とほぼ一致している。
  • スワップの金利改定の間隔と改定日が、対象とほぼ一致している。
  • スワップの受払条件が、期間を通して一定である。
  • スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー、受取金利のキャップがあるなら、対象に含まれた同等の条件を打ち消すためのものである。

特例処理にできるかの判定の順は、図 2 のとおりです。図の「特例処理の条件」は、上の 6 つの条件です。

はいいいえヘッジ手段は金利スワップかこの図の対象外(振当処理は次の節)はいいいえヘッジ会計の要件を満たすかヘッジ会計は使えないはいいいえ特例処理の条件をすべて満たすか原則として繰延ヘッジ原則として特例処理にできる
図 2金利スワップの特例処理にできるかの判定
図の説明

金利スワップの特例処理にできるかを、3 つの質問で順に確かめる判定フローです。最初に、ヘッジ手段が金利スワップかを確かめ、いいえなら図の対象外で、為替予約等の扱いは次の節に進みます(金利スワップ以外でも、キャップとフロアーは特例処理にできる場合があり、後の段落で述べます)。次に、ヘッジ会計の要件を満たすかを確かめ、いいえならヘッジ会計は使えません。最後に、上の 6 つの条件をすべて満たすかを確かめ、いいえなら原則として繰延ヘッジで、はいなら原則として特例処理にできます。条件を満たさなくても、ヘッジ会計の要件を満たせば繰延ヘッジを使えるため、特例処理に当たらないことは、ヘッジ会計をやめることではありません。ただし、対象が売買目的有価証券かその他有価証券なら、特例処理の対象外です。

想定元本と元本は、どちらかの 5% 以内の差なら、ほぼ同一とみなせます22。特例処理の条件に当たると判定できれば、その判定で有効性の判定に代えられます23。

変動金利の借入金 10 億円の利払いを固定するために、同じ元本、期間、利払日のスワップを結び、固定金利 1.5% を支払って変動金利を受け取る架空の例で考えます。利払いは年 1 回の後払いで、簡単にしています。

年 変動金利 借入金の利息 スワップの純受払 利息の負担
1 年目 1.0% 1,000 万円 500 万円を支払う 1,500 万円
2 年目 2.0% 2,000 万円 500 万円を受け取る 1,500 万円

スワップの純受払を借入金の利息に加減するので、利息の負担はどちらの年も 10 億円の 1.5% の 1,500 万円に固定されます。変動金利が下がった年はスワップの受払が支払に、上がった年は受取になります。固定にしなかった場合と比べると、変動金利が下がる年は利息の負担が重く(1 年目は 1,500 万円と 1,000 万円)、上がる年は軽くなります(2 年目は 1,500 万円と 2,000 万円)。同じ形の例は、実務指針の設例 23 にあります24。

支払金利のキャップと受取金利のフロアーも、同じ条件を満たせば、金利スワップに準じて特例処理にできます25。

為替予約等の振当処理

外貨建ての金銭債権債務を、為替予約等でヘッジするときは、次のどちらかで処理します26。

  1. 為替予約等を金融商品会計基準に従って時価評価し、外貨建ての債権債務を決算日のレートで換算する。
  2. 為替予約等を外貨建ての債権債務に振り当てる(振当処理)。

1 は、ヘッジ手段とヘッジ対象に通常の処理を使うだけで、ヘッジの効果が損益に出る時期がそろうため、ヘッジ会計の対象ではなく、要件を満たすかの判定は要りません27。2 の振当処理が認められるのは「当分の間」で、ヘッジ会計の要件を満たすことが適用の条件です26。

振当処理では、ヘッジ対象を為替予約のレートで換算し、ヘッジ手段とヘッジ対象の評価差額と換算差額は計上しません。為替予約のレートと直物レートの差額は期間に配分するので、一般には、為替予約等を時価評価した場合と、純損益の計算上、重要な差異は出ないと考えられています28。

100 万ドルの外貨建て売掛金を 1 ドル 150 円の為替予約で売る場合の架空の例で考えます。売掛金を 1 億 5,000 万円で換算します。取引時の直物レートが 1 ドル 148 円なら、1 ドルあたり 2 円、100 万ドルで 200 万円の差額が、期間に配分する対象です。予約レートが 1 ドル 146 円なら、直物より 1 ドルあたり 2 円低く、100 万ドルで 200 万円の差額が、売る側に不利な向きで、同じく期間に配分する対象になります。

ヘッジ会計をやめるとき

ヘッジ関係が企業の有効性の評価基準を満たさなくなったとき、またはヘッジ手段が満期、売却、終了、行使のいずれかで消滅したときは、ヘッジ会計の適用を中止します7。

中止の時点までのヘッジ手段の損益は、ヘッジ対象の損益が純損益として認識されるまで繰り延べます7。有効性の基準を満たさなくなった場合は、中止の後のヘッジ手段の損益は、発生した期の純損益にします7。

ヘッジ手段が利付金融商品の金利リスクをヘッジしていた場合は、繰り延べた損益を、ヘッジ対象の満期までの期間にわたって金利の調整として配分します7。

ヘッジ対象が消滅したとき、または予定取引が実行されないと明らかになったときは、繰り延べていた損益を当期の純損益にします29。ヘッジ会計を中止した後で、ヘッジ対象の含み益が減り、重要な損失が出るおそれがあるときは、その損失を見積もって当期の損失にします30。

注

  1. 会計制度委員会報告第 14 号の第 346 項(結論の背景。金融商品会計基準の基本原則はデリバティブの時価評価で、金利スワップの特例処理はその例外という記述)。 ↩

  2. 会計制度委員会報告第 14 号の第 338 項(結論の背景。ヘッジ会計は、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を当期純損益の計算に反映させるための会計処理)。 ↩

  3. 会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」(日本公認会計士協会、2019 年 7 月 4 日最終改正)の第 1 項(企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」を「金融商品会計基準」とする)。表紙の改正の履歴。 ↩

  4. 日本公認会計士協会「移管に伴う会計制度委員会が公表した実務指針等の廃止について」。2024 年 7 月 1 日付で会計制度委員会報告第 14 号を廃止し、企業会計基準委員会の移管指針に移管された。 ↩

  5. 会計制度委員会報告第 14 号の第 185 項(金融商品会計基準第 32 項ただし書の方法。適用対象は、2019 年の改正時点ではその他有価証券のみと解釈される)。 ↩ ↩2 ↩3

  6. 会計制度委員会報告第 14 号の第 160 項(その他有価証券をヘッジ対象とするヘッジ取引で、繰延ヘッジと時価ヘッジのどちらかを選べる)。 ↩ ↩2

  7. 会計制度委員会報告第 14 号の第 180 項(ヘッジ手段に係る損益または評価差額は、ヘッジ対象に係る損益が純損益として認識されるまで繰り延べる)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  8. 会計制度委員会報告第 14 号の第 142 項(ヘッジ会計の要件。ヘッジ取引時の要件とヘッジ取引時以降の要件)。 ↩

  9. 会計制度委員会報告第 14 号の第 143 項(ヘッジ取引開始時に正式な文書で明確にする事項)。 ↩

  10. 会計制度委員会報告第 14 号の第 144 項(金融商品会計基準第 31 項のヘッジ取引時の要件)。 ↩

  11. 会計制度委員会報告第 14 号の第 146 項(ヘッジ取引時以降の有効性の確認。決算日には必ず、少なくとも 6 か月に 1 回程度)。 ↩ ↩2

  12. 会計制度委員会報告第 14 号の第 156 項(有効性の判定基準。おおむね 80% から 125% の範囲内、80 と 100 の例)。 ↩ ↩2

  13. 会計制度委員会報告第 14 号の第 147 項(リスク管理方針文書の記載事項)。 ↩

  14. 会計制度委員会報告第 14 号の第 155 項(有効性の評価方法を変更した場合)。 ↩

  15. 会計制度委員会報告第 14 号の第 150 項(ヘッジ指定で確認できる事項)。 ↩

  16. 会計制度委員会報告第 14 号の第 153 項(ヘッジ取引とヘッジ対象の紐付け、区分管理)。 ↩

  17. 会計制度委員会報告第 14 号の第 174 項(繰延ヘッジ損益は純資産の部に計上し、繰延税金資産または繰延税金負債の額を控除した金額で計上する。連結ではその他の包括利益として表示する)。 ↩

  18. 会計制度委員会報告第 14 号の設例 24「金利スワップによるヘッジ会計の適用」(PDF の 149〜150 ページ。借入金 100,000,000、期間 3 年の変動借入れで、決算日に金利スワップと繰延ヘッジ損益を計上する仕訳)。 ↩

  19. 会計制度委員会報告第 14 号の第 176 項(繰延ヘッジ損益を純損益に計上する時の処理科目)。 ↩

  20. 会計制度委員会報告第 14 号の第 170 項(予定取引実行時の処理)。 ↩

  21. 会計制度委員会報告第 14 号の第 177 項(金融商品会計基準(注 14)の特例処理)。 ↩

  22. 会計制度委員会報告第 14 号の第 178 項(特例処理の条件、5% 以内の差、対象外の有価証券、繰延ヘッジによるヘッジ会計)。 ↩ ↩2

  23. 会計制度委員会報告第 14 号の第 158 項の末尾(特例処理の要件に該当する場合、その判定で有効性の判定に代えられる)。 ↩

  24. 会計制度委員会報告第 14 号の設例 23「金利スワップの特例処理の対象」(PDF の 148〜149 ページ。借入金 100,000、5 年、特例処理による仕訳と、利息の合計が固定金利で決まるという結論)。 ↩

  25. 会計制度委員会報告第 14 号の第 179 項(キャップとフロアーの特例処理)。 ↩

  26. 会計制度委員会報告第 14 号の第 167 項(外貨建金銭債権債務のヘッジ。振当処理は「当分の間」でヘッジ会計の要件が条件)。 ↩ ↩2

  27. 会計制度委員会報告第 14 号の第 168 項(原則的な処理はヘッジ会計の対象外)。 ↩

  28. 会計制度委員会報告第 14 号の第 336 項の(4)(結論の背景。振当処理の取扱い。予約レートと直物レートの差額の期間配分は外貨建取引等会計処理基準の注解(注 7))。 ↩

  29. 会計制度委員会報告第 14 号の第 181 項(ヘッジ会計の終了)。 ↩

  30. 会計制度委員会報告第 14 号の第 182 項と第 183 項(ヘッジ会計終了時点の損失の見積り。金融商品会計基準第 33 項)。 ↩