約定したデリバティブの取引は、バックが勘定経理として元帳に記入し、決済や評価し直しのたびに更新します。フロントの持ち高や損益との突き合わせと、決算の数字づくりで、元帳の記録を使います。
帳簿に記録する理由
取引を帳簿に記録するのは、持ち高と損益を確かめ、決算の数字のもとにするためです。米国の連邦準備制度理事会の検査の手引き(以下「手引き」)によると、未決済の取引を記録しておくと、ディーラーの持ち高の確認、リスクの管理、損益の記録ができます1。バック(事務・決済)は、取引内容の確認と決済、勘定経理を受け持ち、それによって持ち高と損益を確定します2。
記録が不十分だと、あとから取引をたどる監査証跡が使えなくなることがあります。公認会計士(米国の手引きの語)の意見が、限定付きや不適正になる原因にもなります3。
取引の処理、会計のシステムへの契約の記録、誤りを防ぐための照合は、取引をする部署の外で行う業務です4。
取引から総勘定元帳までの流れ
総勘定元帳は、すべての取引を勘定科目の種類別に分類して整理し、計算する帳簿です。取引を借方と貸方に分けて記録することを仕訳といい、仕訳を記録する帳簿を仕訳帳といいます。法人税法施行規則は、青色申告法人にこの 2 つの帳簿を備えるよう定めています5。
図の説明
約定の記録を入力すると、取引の契約書の写しを裏付けにして元帳へ記入します。決済日には元帳を更新します。
- 約定の入力で、約定の条件をシステムに記録します。入力と確かめは約定の管理で扱います。
- 元帳に記入します。偶発債務、総勘定元帳、補助元帳への記入は、どれも取引の契約書の写しで裏付けます。写しには、記入した箇所に印を付けます6。検査では、記入が金融機関の勘定科目表と手続きに沿っているかを確かめます7。
- 決済日に元帳を更新します。決済日には資金や証券を受け払いし、あわせて元帳の記入を更新します8。
- 取引を定期的に評価し直します。独立した評価し直しは、トレーダーから独立した管理部署が行います9。バックは、評価に使う価格の見積もりを独立して確かめます。バックが価格を確かめる評価し直しが、補助元帳と総勘定元帳の維持につながります10。評価の方法と損益の確定は日次の時価と損益の確定で扱います。
- 取引が終わったら帳簿から外します。満期、売却、解約、行使、無価値での消滅のどれかで取引が終わると、帳簿から外れます。関係する繰延勘定は、そのあとの経理の手続きに回ります11。
持ち高と損益の突き合わせ
手引きの 1998 年 2 月付けの節が挙げる、元帳に関する典型的な照合は次の組です12。
| 突き合わせる記録 | 突き合わせる相手 | 確かめること |
|---|---|---|
| トレーダーの持ち高の表 | 総勘定元帳 | フロント(営業・トレーディング)の持ち高が元帳と合うか |
| 総勘定元帳 | 規制当局への報告 | 報告の数字が元帳と合うか |
| ブローカーの取引明細 | 総勘定元帳 | 外部の明細が元帳と合うか |
損益計算書も照合の対象です。
照合の頻度は、取引の量と複雑さに合わせて決めます。照合する担当者は、取引のデータを入力した担当者から独立させます12。検査では、未決済の取引、持ち高、損益を、フロントの記録と元帳の両方と照合する手続きが、十分で時宜を得ているかを確かめます13。
トレーダーの側からも突き合わせます。トレーダーは、取引の票をバックに渡したあと、日々の持ち高をバックが別に作った記録と照らすことと、バックが作る定期的な報告を確かめることを除いて、処理に関わりません14。
食い違いが出たときの調べ方
検査では、持ち高と元帳の突き合わせで、珍しい項目と、長く残っている項目を調べているかを確かめます。あわせて、照合の記録が、残高と勘定を正しく突き合わせたことを示せるかを確かめます15。
手引きが評価し直しの値の差について挙げる対応は、次のとおりです。
- トレーダーの入力と独立した市場の値の差は、解消して記録します。差の理由と損益への影響を残す差異の記録を作り、大きな差は経営陣に報告します16。
- 独立した評価し直しの結果が帳簿の価値と大きく違うときは、調べる基準の金額を書面の方針に定めておきます。理由が分かったら、財務報告を直す必要があるかを判断します9。
- 評価の見積もりを変えて元帳を直すときは、修正をはっきり記録し、経営陣に報告します16。
持ち高と元帳の食い違いの記録の書式は、手引きにありません。手引きの差異の記録を参考にした架空の例で考えます。あるデスクの金利スワップの持ち高を、トレーダーの持ち高の表と元帳で突き合わせます。想定元本の合計は、持ち高の表が 500 億円、元帳が 490 億円で、差は 10 億円でした。取引ごとに調べると、想定元本 10 億円の取引 1 件が元帳に記入されていませんでした。食い違いの記録(例)は次のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 突き合わせた記録 | 持ち高の表(想定元本 500 億円)と元帳(490 億円) |
| 差の理由 | 想定元本 10 億円の取引 1 件の、元帳への記入漏れ |
| 損益への影響 | この取引の時価が 2,000 万円のプラスなら、元帳の利益が 2,000 万円少なくなります。マイナスなら、元帳の損失が 2,000 万円少なく見えます |
| 対応 | 元帳に記入し、記入漏れの理由を記録します。差が方針の基準を超えるなら、経営陣に報告します |
評価し直しの頻度と決算への記録
米国の手引きの 1998 年 2 月付けの節は、損益を記録するための評価し直しを、すべての金融機関で少なくとも月に 1 回、取引が活発な部署では毎日行うべきだとしています。会計上の評価し直しには、トレーダーの入力から独立した出どころの価格を使うとされています18。
月末の独立した評価し直しの結果は、あとから経緯をたどれるよう十分に詳しく文書にし、要約を経営と管理の部署に伝えます(2003 年 4 月付けの手引き)19。
決算は、帳簿に記録した取引に基づいて行います。法人税法施行規則は、青色申告法人に、資産、負債、資本に影響を及ぼす一切の取引を複式簿記の原則に従って記録し、その記録に基づいて決算を行うよう定めています20。
使う書類とデータ
会計処理の業務では、取引の書類、帳簿、突き合わせの記録を扱います。次の表の名前は、金融機関によって違います。
| 書類・データ | 中身 | 使い方 |
|---|---|---|
| 取引の契約書の写し | 取引の条件を書いた書類 | 元帳と補助元帳への記入の裏付けにし、満期の受け払いの指図のもとにする |
| 総勘定元帳と補助元帳 | 取引を勘定科目の種類別に整理した帳簿(総勘定元帳)と、その補助元帳 | トレーダーの持ち高の表、当局への報告、ブローカーの明細と突き合わせる |
| トレーダーの持ち高の表 | フロントが持つ持ち高の記録 | 元帳と突き合わせる |
| 差異の記録 | 評価し直しの値の差の理由と損益への影響 | 評価し直しの値の差を調べて報告する |
| 勘定科目表と記帳の方針 | 勘定の一覧と、内部取引などの記帳の方針 | 検査で、記入が勘定科目表と手続きに沿っているかを確かめる対象になる |
表は手引きの説明をもとにしています612167。ただし、総勘定元帳の説明(取引を勘定科目の種類別に整理した帳簿)は、法人税法施行規則をもとにしています5。
日本では、第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者(証券会社など)の場合、業務に関する帳簿書類を作成し、保存しなければなりません21。作る帳簿書類には、取引日記帳とトレーディング商品勘定元帳が含まれます。トレーディング商品勘定元帳は、オプション取引、先物取引、先渡取引などを、銘柄ごとに取引の経過を個別に記載し、作成の日から 10 年間保存します22。
関わる部署と役割
バックは、1 つの部署のことも、財務管理、リスク管理、経理、証券保管などの単位に分かれることもあり、金融機関の組織によって違います。バックの責任の一部をミドル(リスク管理など)に移した金融機関もあります24。
| 部署 | 会計処理での役割 |
|---|---|
| フロント(営業・トレーディング) | 約定の記録を入力し、日々の持ち高をバックの別の記録と照らす(会計の方法や元帳の記入の承認には就かない) |
| バック(事務・決済) | 取引内容の確認、決済、勘定経理で持ち高と損益を確定する(記入と受け払いは別の担当者が行う。職務の分離) |
表の分担は、手引きと日本銀行の資料をもとにしています2526214。内部監査は、取引内容の確認作業にフロントが関わっていないかを確かめます27。
この記事が書いていないこと
会計基準の中身(時価評価の区分、ヘッジ会計の要件、開示)は、この記事では扱いません。
注
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1「Operations and Systems Risk (Back-Office Operations)」(1998 年 2 月)の 6 ページ、"ACCOUNTING"。 ↩
-
日本銀行金融機構局 金融高度化センター「市場リスク管理態勢の整備」(2019 年 9 月)の 6 ページ(バック部門の「取引内容の確認と勘定経理」)と 32 ページ「5.バック部門の役割」。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 7 ページ、"DOCUMENTATION AND RECORDKEEPING"。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(2003 年 4 月)の 1 ページの冒頭。 ↩
-
「法人税法施行規則」第 54 条(取引に関する帳簿及び記載事項)。仕訳帳は「全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿」、総勘定元帳は「全ての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する帳簿」。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 3 ページ、"TICKET FLOW" の続き。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.2(1998 年 2 月)の 1 ページの 13 と、Section 2060.3 の 1 ページの項目 m。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 4 ページ、"Settlement Process"。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2100.1「Financial Performance」(1998 年 2 月)の 2 ページ、"Independent Price Testing and Revaluation"。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(2003 年 4 月)の 1 ページ(バックの役割の段落)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 3 ページ、"TICKET FLOW" の続き。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 5 ページ、"Reconciliations"。 ↩ ↩2 ↩3
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.2(1998 年 2 月)の 1 ページの 8。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1「TICKET FLOW」の 2 ページ末から 3 ページ冒頭(2003 年 4 月と 1998 年 2 月の境)。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.3(1998 年 2 月)の 4 ページ、"RECONCILIATION PROCEDURES" の 1。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 6 ページ、"REVALUATION" の続き。 ↩ ↩2 ↩3
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 3010.3(1998 年 2 月)の 3 ページ、"3. Review the integrity of data inputs"。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 7 ページ、"SOUND PRACTICES FOR BACK-OFFICE OPERATIONS" の 3 つ目の項目。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2100.1(2003 年 4 月)の 3 ページ(月末の評価の結果の文書化)。 ↩
-
「法人税法施行規則」第 53 条(青色申告法人の決算)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 46 条の 2、「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 157 条第 1 項第 4 号(取引日記帳)と第 13 号(トレーディング商品勘定元帳)。 ↩
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 167 条第 2 項第 1 号(銘柄ごとに取引の経過を個別に記載)、第 157 条第 2 項(保存期間)。 ↩
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 167 条第 1 項第 2 号(オプション取引)、第 3 号(先物取引と先渡取引)、第 4 号(スワップ取引。金融商品取引法第 2 条第 21 項第 4 号、第 22 項第 5 号などの取引)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(2003 年 4 月)の 1 ページ("Back office, for the purposes of this manual" の段落)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(2003 年 4 月)の 2 ページ、"INTERNAL CONTROLS" の separation of duties の項目。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.3(1998 年 2 月)の 2 ページ、"SEGREGATION OF DUTIES" の 2。 ↩
-
日本銀行金融機構局 金融高度化センター「市場リスク管理態勢の整備」(2019 年 9 月)の 42 ページ「内部監査のポイント(続き)」。 ↩