株式を対象にしたオプションやスワップの管理では、対象の会社が株式分割や合併を公表すると、取引の記録と評価、担保の計算に使う条件を見直す場面があります。取引所の公表や契約のどこを見れば調整後の条件が分かるかを知っていると、見直しの漏れを防げます。
調整の目的と対象の事象
コーポレートアクションは、株式の発行会社が実施する、株式分割や売買単位の変更のように、証券の価値や取引条件に影響を与える出来事です。取引所がオプションの条件を調整するのは、こうした事象によって保有者の立場が大きく悪くなるのを避けるためです1。
大阪取引所の有価証券オプションで調整の対象になるのは、株式分割と株式の無償割当、有償割当と新株予約権の無償割当、株式併合、売買単位の変更、会社分割(人的分割)、合併・株式交換・株式移転、上場廃止、スピンオフ(現物配当)です2。米国の上場オプションを清算する OCC(Options Clearing Corporation)の細則も、株式配当、株式分割、併合、権利の割当、再編、合併、解散などを調整が起きる事象に挙げています3。
事象ごとの取引条件への影響
大阪取引所は、有価証券オプションの行使価格、建玉(持っているオプションの数量)、受渡単位(オプション 1 単位を行使したときに売買する株数)のうち、事象ごとに決めた項目を変えます2。株式分割の調整は個別株オプションで扱います。分割以外の主な事象は、次のとおりです。
| 事象 | 行使価格 | 建玉と受渡単位 |
|---|---|---|
| 株式併合(A 株を 1 株にする) | A 倍にする | 建玉は変えず、受渡単位を A 分の 1 にする |
| 有償割当、新株予約権の無償割当 | 元の行使価格と払込金額などを割当率で平均した価格に下げる | 割当率に応じて建玉か受渡単位を増やす |
| 会社分割(人的分割) | 権利落ちの前後の原資産値段の比で下げる | 同じ比で建玉か受渡単位を増やす |
| スピンオフ(現物配当) | 元の会社と分配される会社の時価総額の比で下げる | 同じ比で建玉か受渡単位を増やす |
| 合併、株式交換、株式移転で建玉を引き継ぐとき | 合併などの比率で変える | 同じ比で建玉か受渡単位を変える |
| 売買単位の変更 | 資料は触れていない | 受渡単位を売買単位と同じ比率で変え、建玉を逆の比率で変える |
この表で「建玉か受渡単位」としたものは、比率が整数倍なら建玉を、整数倍でなければ受渡単位を変えます2。売買単位の変更は、受渡単位を売買単位に合わせて変えるので、建玉が逆の比率で変わります。資料の例では、売買単位が 100 口から 10 口に変わると、受渡単位は 100 口から 10 口になり、建玉は 25 単位から 250 単位になります。行使したときに受け渡す口数の合計は、どちらも 2,500 口のままです4。
上場オプションの調整
大阪取引所と日本証券クリアリング機構
大阪取引所は、調整が要る事象ごとに有価証券オプションの取扱いを公表し、事象の一覧のページにまとめています5。日本証券クリアリング機構(JSCC)も、同じ事象について清算・決済の留意事項を知らせることがあります。
権利落日は、その株式を買っても配当や株式分割などの権利を受けられなくなる最初の日で、東京証券取引所が原資産について定めます6。大阪取引所は、この日に調整を行うのを原則とします(売買単位の変更は、受渡単位と建玉を変える調整で、調整日は効力発生日の前営業日)7。
2025 年 9 月 8 日の JSCC のお知らせは、上場会社が子会社の株式を株主に分配するスピンオフ(子会社株式の現物配当)の例で、次の 3 点を示しています8。これは大阪取引所の一般の調整日とは別に、この事象について個別に示された取扱いです。
- 権利落日の前営業日に設定されていたオプションは、権利落日の翌営業日から、比率を使って行使価格と受渡単位が調整されます。このため、建玉は調整しません。
- 権利落日には、その株式を対象にしたオプションの取引が停止されます。
- 権利落日の清算価格の算出に使う原資産の値段は、その日の最終値段を比率で調整した値段にします。比率は、権利落日の最終値段と発行済株式数から求めた時価総額で、スピンオフ元の会社が占める割合です。
大阪取引所は調整にあわせて、建玉制限数量、大口建玉報告基準値、J-NET 取引のハードブロック設定値も見直します。調整は、原則としてフレックス限月を含む全限月の取引について行います7。
合併などで対象の株式が上場廃止になるとき、上場廃止日の前日以降が取引最終日の限月は、取引最終日が上場廃止日の前々日に繰り上がります。取引最終日が合併の期日以降になる新しい限月は設定しません9。
上場が続く会社の株式がオプションの対象なら、大阪取引所は上場廃止になる株式のオプションの建玉を、上場が続く側のオプションに引き継ぐことがあります。表の合併などの行は、この引継ぎをするときの調整です7。
米国の OCC
米国の上場オプションでは、OCC が、調整するかどうかと調整の中身を決めます。OCC は、細則(By-Laws)の Article VI の Section 11 に沿って、買い手と売り手への公平、公正で秩序ある市場の維持、解釈と運用の一貫性、行使の決済の効率などを考えて、事象ごとに判断します。各オプション市場の代表と OCC の代表からなる証券委員会(Securities Committee)は、事象の種類についての一般的な方針を定めます10。
配当の扱いは、OCC の細則に具体的な定めがあります。2024 年の届け出の説明では、OCC は四半期などの定期的な現金配当を調整しません。定期的でない特別な現金配当も、1 株あたり 0.125 米ドル(単位が 100 株より大きい契約では 1 契約あたり 12.50 米ドル)に満たなければ調整しません11。
店頭取引の調整
店頭のエクイティ・オプションとエクイティ・スワップ(トータル・リターン・スワップを含む)の調整について、取引データの規格 FIX には、調整の方法を取引ごとに指定する項目があります。コーポレートアクションなどの異例の事由があったときの方法です。値は、計算代理人が取引条件を調整する方法と、原資産を対象にしたオプションが上場する取引所の調整に従う方法の 2 つです。計算代理人は、FIX の資料では、事象のあとに取引条件を調整する権利を持つ者とされています12。
| 項目 | 上場オプション(大阪取引所) | 店頭取引 |
|---|---|---|
| 調整を決める者 | 取引所 | FIX の項目の値で、計算代理人か、取引所の調整かが分かれる |
| 調整の根拠 | 取引所の資料と、事象ごとの公表 | 取引ごとに指定された調整の方法 |
業務の流れ
上場オプションの調整から、金融機関の記録への反映までの流れの例です。
図の説明
大阪取引所は銘柄調整を行う場合、原則として 2 週間前までに調整方法を公表します(手順 2)7。店頭取引は、手順 2 と 3 の代わりに、取引ごとに指定された調整の方法に従います。
手順 4〜6 で確かめるとよい項目の例は、次のとおりです。
- 手順 4(影響の判定)は、その株式を対象にした上場オプション、店頭取引、スワップがあるかと、事象の種類です。
- 手順 5 と 6(反映と照合)は、行使価格、建玉、受渡単位が、公表された調整後の値と一致しているかです。
確認項目と反映漏れの影響
調整後の条件は、次の項目を公表や取引の条件と照らして確かめます。
| 確認項目 | 照らす先 | 間違えやすい点 |
|---|---|---|
| 事象と調整する日 | 取引所の公表、取引の条件 | 売買単位の変更だけは、権利落日でなく効力発生日の前営業日に調整します7 |
| 行使価格、建玉、受渡単位の組 | 取引所の公表 | 建玉が変わる事象と、建玉は変わらず行使価格と受渡単位だけが変わる事象を取り違えます |
| 店頭取引の調整 | 取引ごとの調整の方法の指定 | 計算代理人が調整するか、取引所の調整に従うかを取り違えます |
評価や担保の計算に使う値は、調整後の条件から求めます。記録の条件がずれていれば、評価と担保にも影響します。担保の計算は担保管理で扱います。
反映が漏れた場合の影響を、2 株を 1 株にする株式併合の架空の例で考えます。差額はプレミアムを除いて見ます。併合の前に、行使価格 1,000 円、受渡単位 100 株のコールの建玉が 1 単位あり、株価は 1,200 円でした。併合の後も会社の価値は変わらず、株価は 2,400 円になったとします。表の式で調整すると、行使価格は 2,000 円、受渡単位は 50 株になり、建玉は 1 単位のままです。
| 項目 | 併合の前 | 併合の後(調整あり) | 併合の後(調整の漏れ) |
|---|---|---|---|
| 行使価格 | 1,000 円 | 2,000 円 | 1,000 円 |
| 受渡単位 | 100 株 | 50 株 | 100 株 |
| 株価 | 1,200 円 | 2,400 円 | 2,400 円 |
| 行使で買う金額 | 10 万円 | 10 万円 | 10 万円 |
| 受け取る株式の価値 | 12 万円 | 12 万円 | 24 万円 |
| 買い手の行使の差額 | 2 万円 | 2 万円 | 14 万円 |
| 売り手の行使の差額 | −2 万円 | −2 万円 | −14 万円 |
調整が記録に入っていれば、行使の差額は併合の前と同じ 2 万円です。調整の漏れがあると、買い手の記録は実態より 12 万円多い利益、売り手の記録は 12 万円多い損失を示します。株式分割で調整が漏れた場合は、方向が逆になり、買い手の記録が実態より不利に見えます。
行使価格 × 受渡単位 × 建玉は、調整が正しくても漏れていても 10 万円で、併合の前と変わりません。この積の照合では、漏れに気づけません。漏れは、記録の行使価格と受渡単位が、公表された調整後の値(2,000 円と 50 株)かどうかで気づけます。こうした記録の誤りは、業務の過程の不備による損失につながるので、オペレーショナル・リスクの一例です。
注
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大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」(外部サイト)の「1 コーポレートアクション時のオプション調整」(資料の 2 ページ)。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」(外部サイト)の「2.1 調整対象となるコーポレートアクションとその調整方法」の表(資料の 3〜4 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
Federal Register の OCC の解釈指針の告示(外部サイト)(2024 年 3 月 6 日。89 FR 16043)の "II. (A)" の冒頭。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」(外部サイト)の「3.2 受渡し単位の変更」(資料の 15〜16 ページ)。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプションの取扱い(2025年9月30日調整分)」(外部サイト)(2025 年 9 月 8 日)。取扱いを知らせる文と、「コーポレートアクション一覧」へのリンクがあります。 ↩
-
日本取引所グループ「用語集 権利落」(外部サイト)。権利を受ける株主を確定する日の翌日以降に決済される売買では、買い方が権利を受けられず、これを権利落というとしています。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」(外部サイト)の「2.2 銘柄調整に係る留意事項」(資料の 4 ページ)。権利落日、調整方法の公表の時期、全限月の調整、建玉制限数量の見直し、建玉引継ぎとその通知の項目です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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日本証券クリアリング機構「ソニーグループ(株) 株式に係る有価証券オプション取引の取扱いに関する留意事項について」(外部サイト)(2025 年 9 月 8 日)の「1.建玉の取扱いについて」と「2.権利落日の清算価格について」。 ↩
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大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」(外部サイト)の上場廃止の節(資料の 16〜17 ページ。本文の見出しは「3.3 上場廃止」、目次では「3.4」)。 ↩
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Federal Register 告示(外部サイト)(89 FR 16043〜16044)の "II. (A)" と "Background"。資料は、証券委員会の構成を「each of the U.S. options markets and a representative of OCC」としています。 ↩
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Federal Register 告示(外部サイト)の "Background"(89 FR 16044)。資料は、定期的な配当は発行会社の方針が公表されていれば、オプションのプレミアムに織り込めるためとしています。 ↩
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FIX Dictionary の LegExtraordinaryEventAdjustmentMethod(外部サイト)(タグ 2606。FIX 5.0 SP2 EP312)。値 0 は「Calculation agent」(調整する権利を持つ)、値 1 は「Options exchange」(原資産を対象にしたオプションが上場する取引所の調整に従う)です。 ↩