デリバティブの取引では、トレーダーや営業担当者が取引を結び、リスク管理の担当者が限度を確かめ、事務の担当者が確認、決済、照合をします。取引が部署の間を渡るとき、記録を作る人と確かめる人が分かれます。
部署を分ける理由
デリバティブを扱う金融機関は、取引をする人と、その取引を記録し、確かめ、決済する人を別の部署に置きます。取引を結ぶ部署をフロント・オフィス(フロント。営業・トレーディング)、取引を記録して決済する部署をバック・オフィス(バック。事務・決済)といいます。取引から独立してリスクと価格を確かめる部署は、ミドル・オフィス(ミドル。リスク管理など)です。
部署を分けるのは、取引をする人が記録や支払いも受け持つと、損失を隠したり資産を着服したりしても、ほかの人が気づけないためです。同じ人や部署に、取引と、その記録・確認・決済を兼ねさせないことを職務の分離といいます。バーゼル銀行監督委員会は 1998 年の内部管理の原則で、利益の相反する職務(トレーディングの部署でのフロントとバックの両方の役割など)を、できるだけ別の人に分けるよう求めています1。
米国の連邦準備制度理事会(FRB)の検査の手引きは、分ける中身をもう少し細かく書いています。取引を執行する人には、取引確認書(コンファメーション)への署名、記録の照合、担保の支払いの管理をさせません2。資金の受け払いと資産の保管も、トレーダーから切り離します3。
日本の監督指針も、市場リスクの管理で部署の分担を見ています。主要行などの銀行では、フロント、ミドル、バックの管理者の役割と権限をはっきりさせているかが着眼点です4。証券会社などでは、役割と権限をはっきりさせて互いに牽制させる体制を築いているかが着眼点です5。
部署ごとの役割
3 つの部署のうち、取引を結んで持ち高を管理するのがフロントで、ミドルとバックはフロントから独立して取引を確かめます3。
| 部署 | 主な役割 |
|---|---|
| フロント | 顧客や取引相手と取引を結び、持ち高を管理します。トレーダーは、取引を結ぶ前に、取引相手の与信枠と自分の限度枠に収まるかを確かめます。営業の担当者は、トレーダーから受け取った価格をもとに顧客に取引を案内します6 |
| ミドル | フロントから独立して、市場リスクをつかみ、経営に報告します7。トレーダーも自分の損益とリスクを計算しますが、経営に出す公式の損益とリスクの報告は、取引の部署から独立して作ります8 |
| バック | フロントが結んだ取引を記録し、取引相手と条件を確かめ、資金や証券を受け渡します。持ち高の照合、会計システムへの記帳、当局への報告を受け持つこともあります3 |
3 つの部署のほかにも、取引と事務を支える部署があります。
| 部署 | 主な役割 |
|---|---|
| 審査部署 | 取引相手の信用力を審査します。監督指針は、営業を進める部門と審査の部門を分けることを、与信の管理の体制の例に挙げています9 |
| コンプライアンス部門 | 法令と社内の規則が守られているかを確かめます。情報の壁を越えて法人関係情報を共有するときは、事前に承認します10 |
| 経理部門 | 取引を会計の帳簿に載せ、損益を記録します。記帳は取引の部署の外でし、会計で使う時価は、トレーダーが入れた値ではなく、独立した出どころの価格と金利で求めます11。会計の方法や記帳の承認には、取引を執行する人を関わらせません2 |
| システム部門 | 取引と事務のシステムを開発し、運用します。開発のテストには、システムを使う業務の部門も加わります。システムの監査は、システム部門から独立した内部監査部門がします12 |
| 内部監査部門 | 監査を受ける部署から独立して、管理の仕組みが働いているかを確かめ、経営に報告します13 |
これらの部署の分担を、業務の部門、リスク管理の部門、内部監査の 3 つの線でとらえる考え方を、三線管理(スリー・ライン・モデル)といいます。三線管理とオペレーショナル・リスクの管理の道具は、デリバティブ取引のオペレーショナル・リスクで扱います。
1 つの取引が部署の間を渡る流れ
1 つの取引は、段ごとに担当の部署を替えながら、約定から決済と照合まで進みます。フロントが取引を始めた後の処理は、主にバックが受け持ちます14。下の表は、店頭デリバティブの取引 1 つについて、FRB の検査の手引きの説明をもとに段を並べたものです。
B 銀行が取引相手の A 社と、想定元本 100 億円の金利スワップを 1 件結んだ架空の例で考えます。図 1 は、下の表のうち、約定、入力、確認書、リスクと限度の確認、決済の段(表の段 1、2、3、6、8)を部署別に並べたものです。表の段 4、5、7、9、10(取引期間中のイベント、時価と損益、担保、照合、当局への報告)は省いています。ミドルの段は時間の順ではありません。矢印は、資料が前後を述べている段(約定から確認書、確認書から決済)だけに付けています。
図の説明
B 銀行のトレーダーが、与信枠と限度枠に収まることを確かめて、A 社と金利スワップを約定します。約定が決まると、バックは A 社に確認書を送ります。図では、取引の入力をバックが行う場合を置いています。入力の担当や、入力と確認書の前後は、システムの組み方で変わります(表の段 2)。ミドルは、フロントから独立して、リスクと限度の使い方を確かめます。バックは、確認書を送ったあとに、資金と証券を受け渡して決済します。約定したトレーダーは、確認書の送付と決済を自分では受け持ちません。これが職務の分離です。
| 段 | 主な担当 | すること | 詳しいページ |
|---|---|---|---|
| 1. 約定 | フロント | 与信枠と限度枠に収まるかを確かめ、取引相手と条件を合意する6 | 約定の管理 |
| 2. 約定の入力 | フロントとバック | フロントとバックのシステムが別なら、トレーダーの約定票をもとにバックが入力する。自動でつながるシステムなら、フロントが入力し、バックが確かめてから受け付ける15 | 同上 |
| 3. 取引の確認 | バック | 取引相手に確認書を送り、相手の返事で条件の違いを見つける16 | 約定の入力ミスと確認書の不一致 |
| 4. 取引期間中のイベント | バック | 満期には受け払いの指図を出す。満期、途中での解約、行使などで、取引を帳簿から外す17 | 取引期間中のイベント処理 |
| 5. 時価と損益 | フロントと、フロントから独立した管理の担当 | トレーダーは日中に自分の持ち高を評価し、管理の担当は損益への影響を毎日確かめる18 | 日次の時価と損益の確定 |
| 6. リスクと限度の監視 | ミドル(リスク管理部門) | リスクの量と限度の使い方をつかみ、限度を超えたときは決めた手続きで報告する19 | リスク管理の日次業務 |
| 7. 担保の受け渡し | 取引から独立した部署(ミドルかバック。金融機関によって違う) | 取引相手と担保を受け渡す。支払いの管理はトレーダーにさせない2 | 担保管理 |
| 8. 決済 | バック | 資金と証券を受け渡す。決済額のネッティングの契約のもとで支払う額と向きを確かめる14 | 決済 |
| 9. 照合 | バック | トレーダーの持ち高表と会計の帳簿などを照合する。照合する人は、取引のデータを入力した人と別にする20 | 会計処理の業務 |
| 10. 当局への報告 | バックなど | 会計の帳簿などの記録をもとに当局に出す報告を作り、帳簿と照らし合わせる320 | 規制当局への報告 |
表の担当は 1 つの例です。時価と損益の確かめ、リスクの監視、担保の受け渡しをミドルとバックのどちらが受け持つかは、金融機関によって違います(「分け方と呼び方の違い」の節)。
部署の間で渡す記録とデータ
部署の間で受け渡すもとになるのは、フロントが作る約定の記録です。FRB の検査の手引きは、約定の記録に、約定日、約定の時刻、決済日、取引相手、商品、金額、価格か金利と、商品によっては決済の方法と場所を入れるものとしています21。この記録から、バックは確認書を作り、会計の帳簿に記帳し、満期には受け払いの指図を出します17。
フロントとバックは、同じ取引の記録を別々に持ちます。トレーダーは、取引を時刻の順に記録して持ち高を追う帳簿(ブロッター)を自分で持ちます21。バックは、フロントとは別に持ち高の記録を作り、トレーダーは日々の持ち高をその記録と照らし合わせます14。
| 記録 | 作る部署 | 使う部署と使い方 |
|---|---|---|
| 約定の記録(約定票、入力の画面) | フロント | バックが確かめ、確認書、記帳、決済に使う |
| ブロッター | フロント | フロントが取引と自分の持ち高を追う |
| 取引確認書 | バック | 取引相手の返事と照らし合わせる |
| 持ち高の記録 | バック | フロントが自分の持ち高と照らし合わせる |
| 会計の帳簿(総勘定元帳) | バックか経理部門 | 持ち高の表や当局への報告と照合する |
表は、FRB の検査の手引きの説明をもとにしています211420。
分け方と呼び方の違い
部署の分け方に 1 つの決まった形はありません。FRB の検査の手引き(1998 年)は、取引の業務が金融機関によって大きく違うとしています。その理由には、取引の規模、担当者の専門性、組織の形、コンピューター・システムの高度さ、事業の方針、扱う商品の種類と複雑さを挙げています。そのため、ある金融機関に求められるやり方が、ほかの金融機関には要らないこともあります22。
分け方の違いは、バックとミドルの境目にも出ます。この手引きのいうバックは、1 つの部署のこともあれば、財務管理、リスク管理、経理、証券の保管のような複数の単位のこともあります。バックの仕事の一部を、取引から独立したミドルにまとめる金融機関もあります。限度に照らした取引の監視とリスクの報告も、バックがすることもあれば、独立したリスク管理の部署がすることもあります3。フロントの中の組織も、受け持つ役割と取引の幅で変わります。いくつもの商品の値付けをする金融機関は、取引と営業のデスクを多く置き、事業ごとに管理します23。
呼び方も資料によって違います。主要行等向けの監督指針は、フロント、ミドル、バックを、市場部門、リスク管理部門、事務管理部門と呼んでいます4。
分担が崩れたときに起きること
職務の分離が働かないと、損失や不正な取引が、見つからないまま大きくなることがあります。バーゼル銀行監督委員会の 1998 年の原則は、内部管理の不備で大きな損失が出た銀行の事例では、職務の分離の不備が主な原因の 1 つであることが多いとしています24。銀行の海外の拠点についても、内外の金融機関の巨額の損失の事例と原因を踏まえて、内部の牽制が働く体制にしているかが監督の着眼点になっています25。
分けるべき職務は、フロントとバックの間だけではありません。バーゼル銀行監督委員会の原則は、支払いの承認と実際の支払い、顧客の勘定と自己の勘定のように、1 人が受け持つと問題になりうる組み合わせを挙げています。利益の相反が生じうるところは、業務から独立した人が注意して見るよう求めています26。
不正取引の事例と、当局や会社の報告が指摘した管理の不備は、不正取引の事例(ベアリングス、ソシエテ・ジェネラルなど)で扱います。
注
-
バーゼル銀行監督委員会「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」(1998 年 9 月、金融庁による仮訳)の原則 6 と本文の 27。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System(FRB)「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(2003 年 4 月)の 2 ページ、"INTERNAL CONTROLS"。 ↩ ↩2 ↩3
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(2003 年 4 月)の 1 ページ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-3-2(1)②(123 ページ)。 ↩ ↩2
-
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-2-3(1)(118 ページ)。 ↩
-
FRB の検査の手引きの Section 2050.1(1998 年 2 月)の 1 ページ("ROLE AND STRUCTURE OF THE FRONT OFFICE"。営業の担当者)と 2 ページ("TRADE CONSUMMATION"。与信枠と限度枠)。 ↩ ↩2
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-3-2(1)⑦と⑧(124 ページ)。 ↩
-
FRB の検査の手引きの Section 2050.1「Operations and Systems Risk (Front-Office Operations)」(1998 年 2 月)の 3 ページ、"Transaction Reporting"。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-2-1-2(2)(108 ページ)。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-3-2(3)①〜③(238〜239 ページ)。 ↩
-
FRB の検査の手引きの Section 2050.1(1998 年 2 月)の 4 ページ("SOUND PRACTICES" の 3 つ目の項目。会計の時価と損益の記録)と、Section 2060.1(2003 年 4 月)の 1 ページ(会計の帳簿への記帳とその場所)。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-7-1-2(6)⑤と(7)①(266 ページ)。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-1-2-1(5)①と③(51 ページ)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(2003 年 4 月)の 2 ページ、"TICKET FLOW"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ、"Transaction Flow"。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1 の 2 ページ(2003 年 4 月、"TICKET FLOW")と 3 ページ(1998 年 2 月、"TICKET FLOW" の続き)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 3 ページ("TICKET FLOW" の続き)。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 6 ページ("REVALUATION" の続き)。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-3-2(1)⑦と(2)⑧(124〜125 ページ)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 5 ページ、"Reconciliations"。 ↩ ↩2 ↩3
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2〜3 ページ、"Transaction Flow"。 ↩ ↩2 ↩3
-
FRB の検査の手引きの Section 2050.1(1998 年 2 月)の 4 ページ("SOUND PRACTICES")。Section 2060.1 の 7 ページ("SOUND PRACTICES FOR BACK-OFFICE OPERATIONS")にも同じ説明があります。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ("Organizational Structure")。 ↩
-
バーゼル銀行監督委員会「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」(1998 年 9 月、金融庁による仮訳)の本文の 2 と 27。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-11-2(2)⑤(294 ページ)。 ↩
-
バーゼル銀行監督委員会「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」(1998 年 9 月、金融庁による仮訳)の本文の 28 と 29。 ↩