デリバティブを公正価値で測る会計処理では、測定に使った入力のレベルを判定します。レベル 3 の測定には、期首から期末への調整表などの開示も用意します。この判定と開示の前提になるのが、公正価値の定義とレベルの考え方です。
公正価値は出口価格で決まる
時価(公正価値)は、測定日に市場参加者の間の秩序ある取引が成立するとしたとき、資産を売って受け取る価格、または負債を移して払う価格です。これを出口価格といいます1。
IFRS 第 13 号「公正価値測定」(国際会計基準審議会、IASB)と ASC 820 (Fair Value Measurement)(米国財務会計基準審議会、FASB)は、同じ定義を置いています2。
実際に払った取得価格は入口価格で、出口価格とは違う値になることがあります3。測定では、現在の市場の状況で市場参加者が価格を付けるときの仮定(リスクについての仮定を含む)を使います。そのため、企業が資産を持ち続ける意図や、負債を決済する意図は、測定に関係しません1。
IFRS 第 13 号ができる前は、公正価値の測り方と開示の要求が複数の基準に散らばっていました。IASB は 2005 年にこの作業を始め、要求を 1 つの基準にまとめて、2011 年 5 月に公表しました4。IFRS 第 13 号は、ほかの基準が公正価値での測定を求めるか認めるときに適用されます。何を公正価値で測るかは、この基準では変わりません5。
日次の損益の確定など、評価の記事で「時価」と書くのは、評価の結果として出した値のことです。会計上の公正価値は、基準が測定の目的と条件を定めた値で、同じ語でも定義が別です。日本の基準は日本の時価算定会計基準で扱います。
評価技法と、レベルを決める入力
公正価値は、評価技法で見積もります。監査法人 Deloitte の解説が引用する ASC 820 では、次の 3 つのアプローチに沿った技法を 1 つ以上使うことが求められます6。
| アプローチ | 考え方 | ASC 820 が挙げる技法の例 |
|---|---|---|
| マーケット・アプローチ | 同一または類似の資産・負債の市場取引から得た価格などを使う | 類似の証券との関係で価格を求めるマトリクス・プライシング |
| インカム・アプローチ | 将来のキャッシュフローや収益・費用を、現在の 1 つの(割り引いた)金額に換算する。現在の市場の期待を反映する | 現在価値技法、ブラック・ショールズ・マートン式や二項モデルなどのオプション価格モデル |
| コスト・アプローチ | 資産のサービス能力を置き換えるのに、今要る金額(再調達原価)を使う | 有形資産の再調達原価の方法 |
技法の目的は、現在の市場の状況で、測定日に秩序ある取引が成立する価格を見積もることです。状況に合い、十分なデータのある技法を選び、観測できる入力をできるだけ使い、観測できない入力はできるだけ減らします6。
次の節で説明するレベルが優先するのは、技法ではなく技法への入力です。たとえば現在価値技法で求めた公正価値は、測定全体にとって重要な入力がどのレベルかによって、レベル 2 にもレベル 3 にもなります7。IFRS 第 13 号も、評価技法への入力を 3 つのレベルに分け、調整しない相場を最優先、観測できない入力を最後にします8。
公正価値のレベル 1〜3(時価のレベル)
公正価値のレベルは、用語集では時価のレベルといい、公正価値の測定に使う入力を、観測できる度合いで 3 つに分けます。IFRS 第 13 号と ASC 820 のレベルの定義は、文言もそろっています910。
| レベル | 入力 | 使い方の決まり |
|---|---|---|
| 1 | 測定日に企業が参照できる、同一の資産・負債の活発な市場の相場 | 利用できるなら、調整せずに使う(ASC 820 の例外は表の下) |
| 2 | レベル 1 の相場以外で、資産・負債について直接または間接に観測できる入力 | 契約期間があるなら、ほぼ全期間にわたって観測できること |
| 3 | 観測できない入力 | 自社のデータを使ってよい。必要なら、市場参加者の仮定を反映するよう調整する |
ASC 820 は、レベル 1 の入力を調整してよい場合を限っています。たとえば、類似の資産・負債を多数持ち、個別の相場を入手しにくいときの、マトリクス・プライシングなどの実務上の便法や、市場の終了後の出来事で相場が測定日の公正価値を表さないときです。調整した測定は、より低いレベルになります10。
レベル 2 の入力には、類似の資産・負債の活発な市場の相場、活発でない市場の相場、観測できる金利と利回り曲線、インプライド・ボラティリティ、クレジット・スプレッドがあります11。活発な市場は、継続して価格の情報が得られるだけの頻度と量で、取引がある市場です12。
入力の観測できる度合いからレベルが決まる順序を、次の図に示します。
図の説明
図では、重要な入力がすべて観測できるか、測定が調整しない同一の資産・負債の活発な市場の相場そのものか、の 2 つの質問でレベルを並べます。質問は入力の観測できる度合いだけで、評価技法の種類は入っていません。
図が表さないのは、レベル 2 の入力に求める条件と、判断の部分です。レベル 2 は、契約期間があるなら、ほぼ全期間にわたって観測できる入力が条件です。どの入力が重要か、市場が活発かは判断で、この図は判断の結果を並べるだけです。ASC 820 のレベル 1 の調整の例外は質問 2 の中で、レベル 2 の入力への調整が重要なときは質問 1 の中で扱います。
デリバティブはどのレベルに入るか
デリバティブのレベルは、商品の種類ではなく、測定に使う入力で決まります。Deloitte の解説に、ASC 820 の考え方に沿った次の例があります1415。
| 例 | 評価の根拠 | レベル |
|---|---|---|
| 活発な先物市場で取引される先物 | 取引所の相場 | レベル 1 になり得ます |
| 取引相手が、類似の先物の相場で決済する店頭の先渡し | 類似の先物の相場 | レベル 2 かレベル 3 |
| 店頭の金利スワップ | 観測できる利回り曲線による割引計算、または類似のスワップの取引価格 | レベル 2。重要な入力に観測できないものがあればレベル 3 |
| 上場株式に対する 3 年のオプション | 1 年と 2 年のオプションの価格から外挿したインプライド・ボラティリティ | そのボラティリティは、満期のほぼ全期間で市場データの裏付けがあればレベル 2 の入力 |
先渡しが先物と同一にならないのは、取引相手が違い、取引所で転売できないためです。この例では、取引相手のリスクと流動性のリスクが、先物より大きいとされています。金利スワップの例でも、そのスワップは、類似のスワップが取引されていても同一ではなく、レベル 1 にはなりません14。
レベル 2 の入力への調整が重要で、観測できない入力を使うときは、測定全体がレベル 3 になり得ます16。
ある銀行が 3 件のデリバティブを分類する架空の例で考えます。公正価値がマイナスの取引(負債)も、同じ基準で分類します。
| 取引 | 公正価値 | レベル |
|---|---|---|
| 上場の株式オプション(活発な市場の相場がある) | +3 億円 | 1 |
| 店頭の金利スワップ(観測できる金利カーブで割り引く) | +12 億円 | 2 |
| 店頭の仕組取引(重要な入力のボラティリティが観測できない) | −2 億円 | 3 |
レベル 3 の −2 億円は、観測できない入力の置き方で、見積りが変わります。
上の例は、ある時点の分類を並べたものです。1 つの取引のレベルが、入力の観測できる度合いに応じて変わる場面を、H 銀行が持つ店頭の金利スワップの架空の例で考えます。金額は使いません。
| 場面 | 割引計算に使う入力 | 本文の条件に当てはめたレベル |
|---|---|---|
| 1. 利回り曲線を観測できる | 契約期間のほぼ全期間にわたり、観測できる利回り曲線 | レベル 2 |
| 2. 一部の期間で観測できなくなり、その部分を自社の見積りで置く | 観測できる入力に、自社の見積りによる調整が加わる | レベル 3 になり得る(調整が重要なとき) |
スワップの商品や評価技法は、2 つの場面で同じです。変わったのは入力の観測できる度合いで、それがレベルを動かします。場面 2 では、調整が重要かどうかの判断が入ります。
レベル 3 では開示が増える
IFRS 第 13 号では、公正価値の測定に使った評価技法と入力、測定の不確かさの情報、レベルの区分の開示が求められます。レベル 3 の測定には、さらに次の 4 つが求められます17。
- 期首から期末への残高の調整表
- 評価技法に使った重要な入力の定量的な情報
- 企業が使う評価のプロセス
- 観測できない重要な入力が変わったときの感応度(すべての測定について文章で。金融商品には定量的な分析も)
レベル 3 の開示を厚くしたのは、レベル 3 の測定に固有の主観性があり、財務諸表の利用者から追加の情報を求める声が強かったためです18。2018 年 12 月に IFRS 財団が公表した見直しの報告では、関係者が、レベル 3 の調整表と、金融商品の定量的な感応度分析を、作成に最も費用がかかる開示に挙げました。IASB は、こうした費用を基準の公表時に承知しており、利用者の便益のほうが大きいと結論しています19。
信用リスクと、正味のポジションでの測定
IFRS 第 13 号では、デリバティブの公正価値に、自己と取引相手の信用リスクを加味することが求められます21。負債の公正価値は、自己の信用リスクを含む非履行リスクの影響を反映します22。取引相手と自己の信用リスクをデリバティブの評価に反映する調整が、CVAとDVAで、XVAの一部です。計算はXVA の全体像で扱います。
金融機関は、市場リスクや取引相手の信用リスクが相殺されるポジションを組み合わせて管理します。そうした金融資産と金融負債の組は、例外として、特定のリスクの正味のロング(資産)を売る価格、または正味のショート(負債)を移す価格で測ることが認められます。例外を使うには、次の条件を満たします。公正価値で継続して測る金融商品が対象です23。
- 正味のエクスポージャーに基づいて管理していることを、継続して示せること
- 相殺する市場リスクが、実質的に同じであること
- 信用リスクを正味で測るなら、債務不履行のときにエクスポージャーを減らす取り決めが、取引相手とあること
保有する数量が、相場の日々の取引量より多いことを理由にした調整(ブロッケージ・ファクター)は認められません。一方、市場参加者が取引で考慮する特性を反映したプレミアムや割引は、公正価値に入ります24。
IFRS と ASC 820 の違い
定義(出口価格)と 3 つのレベルは、2 つの基準で同じです。IASB と FASB は共同で作業し、2011 年に測定と開示の要求をそろえました25。次の表は、Deloitte の解説が挙げる、IFRS と ASC 820 の違いです。表の 1 行目の IFRS 側は、IFRS 第 13 号ではなく IFRS 第 9 号の規定です。
| 項目 | IFRS | ASC 820 |
|---|---|---|
| 当初の差益・差損 | 公正価値が観測できる市場データだけで裏付けられるときに限り、取引価格との差を認識できます26 | 当初から公正価値で測る資産・負債の取引価格が公正価値と違うとき、ほかの基準に定めがなければ、その差を損益で認識します26 |
| 純資産価値(NAV)の実務上の便法 | 投資企業(investment entities)への投資に、この便法は設けられていません26 | 投資会社への投資に、一定の状況で、報告された純資産価値を調整せずに公正価値として使えます26 |
2011 年の公表時点では、レベル 3 の定量的な感応度の開示を、IFRS は公正価値で測りレベル 3 に分類する金融商品に求め、米国基準は求めていませんでした25。
注
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IFRS 財団「IFRS 13 Fair Value Measurement」のページの概要(定義、出口価格、市場参加者の仮定、保有や決済の意図が関係しないこと)。定義と出口価格は、IASB「IFRS 13 Fair Value Measurement Project Summary and Feedback Statement」(2011 年 5 月)の 16 ページにも書かれています。 ↩ ↩2
-
IASB「IFRS 13 Fair Value Measurement Project Summary and Feedback Statement」(2011 年 5 月)の 2 ページと 9 ページ。IFRS と米国基準は、公正価値の同じ定義と、測定と開示の同じ要求を持つようになったと書いています。 ↩
-
同じ資料の 17 ページ。取得価格を入口価格、売却するときに受け取る仮定の価格を出口価格としています。 ↩
-
同じ資料の 2 ページ(2011 年 5 月公表、2005 年に作業を開始)と 4 ページ(要求が複数の基準に散らばっていたこと、単一の要求にまとめること)。 ↩
-
同じ資料の 2 ページ。ほかの IFRS が公正価値での測定を求めるか認めるときに適用され、何を公正価値で測るかは変えないと書いています。 ↩
-
Deloitte の Roadmap「Fair Value Measurements and Disclosures」(以下 Roadmap)の 10.3 が引用する ASC 820-10-35-24、35-24A、55-3A から 55-3G。技法の例は 55-3C(マトリクス・プライシング)から 55-3G(現在価値技法、オプション価格モデル)。 ↩ ↩2
-
同じ節が引用する ASC 820-10-35-38。階層が優先するのは評価技法ではなく技法への入力で、現在価値技法で求めた測定は、全体にとって重要な入力のレベルによって、レベル 2 にもレベル 3 にもなるとしています。 ↩
-
IFRS 財団「Post-implementation Review of IFRS 13 Fair Value Measurement」(2018 年 12 月)の 4 ページ。IFRS 第 13 号の要点として、評価技法への入力を 3 つのレベルに分け、調整しない相場に最も高い優先順位を、観測できない入力に最も低い優先順位を与えることを挙げています。 ↩
-
IASB「IFRS 13 Fair Value Measurement Project Summary and Feedback Statement」(2011 年 5 月)の 6 ページ(Fair value hierarchy)。レベル 1 の入力は、利用できるなら調整せずに使います。IFRS と米国基準の文言がそろっていることは、2 ページ。 ↩
-
Roadmap の 8.2 が引用する ASC 820-10-35-40、35-41、35-41C。8.3 が引用する ASC 820-10-35-47 と 35-48。 ↩ ↩2
-
同じ Roadmap の 8.3 節が引用する ASC 820-10-35-48。契約期間があるときに、ほぼ全期間で観測できる必要があることも同じ項に書かれています。 ↩
-
同じ Roadmap の 8.2 節が引用する ASC 820-10 の用語集(Active Market)。 ↩
-
IFRS 財団「Post-implementation Review of IFRS 13 Fair Value Measurement」(2018 年 12 月)の 7 ページ(Implementation challenges and inconsistent application)と、見直しの結論を書いた 3 ページ。 ↩
-
Roadmap の 8.2 の Example 8-6(店頭の先渡し)と Example 8-7(店頭の金利スワップ)。先物がレベル 1 になり得ることは Example 8-6 に書かれています。 ↩ ↩2
-
同じ Roadmap の 8.3 節が引用する ASC 820-10-55-21(金利スワップと、上場株式に対する 3 年のオプションの例)。 ↩
-
同じ節が引用する ASC 820-10-35-51。 ↩
-
「IFRS 13 Fair Value Measurement Project Summary and Feedback Statement」(2011 年 5 月)の 6 ページ(開示)、8 ページ(評価プロセス、感応度)、27 ページ(レベル 3 の開示の主な項目)。 ↩
-
同じ資料の 26 ページ。レベル 3 の測定の主観性が、追加の開示を求める声の理由だったとしています。 ↩
-
IFRS 財団「Post-implementation Review of IFRS 13 Fair Value Measurement」(2018 年 12 月)の 7 ページ(Unexpected costs)。費用を挙げたのは関係者(stakeholders)で、IASB の結論は同じ箇所にあります。 ↩
-
「IFRS 13 Fair Value Measurement Project Summary and Feedback Statement」(2011 年 5 月)の 7 ページ。 ↩
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 1 節(120 ページ)。IFRS 第 13 号が、デリバティブの公正価値に自己と取引相手の信用リスクを加味し、信用評価調整を反映させることを求めると書いています。 ↩
-
「IFRS 13 Fair Value Measurement Project Summary and Feedback Statement」(2011 年 5 月)の 20 ページ。負債の公正価値は、非履行リスクの影響を反映します。 ↩
-
同じ資料の 22 ページ。例外を使うための条件と、公正価値で継続して測る金融商品が対象であることを書いています。 ↩
-
同じ資料の 23 ページ。ブロッケージ・ファクターの禁止と、市場参加者が考慮する特性を反映するプレミアムや割引の扱いを書いています。 ↩
-
Roadmap(2026 年 10 月に確認)の Appendix B の Table B-1。IFRS 側の当初の差益・差損は IFRS 第 9 号の B5.1.2A の規定で、同付録の B.1 にあります。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4