ヘッジ会計は、デリバティブでヘッジをしている会社が、決算の損益にヘッジの効果をどう表すかを決める場面で出てきます。ヘッジ会計には、損益のずれの理由、3 つの型、指定の書類、やめる場面があります。
ヘッジ会計が解消する損益の計上時期のずれ
ヘッジ手段のデリバティブは、原則として毎期末に時価(IFRS では公正価値)で評価され、評価損益が損益計算書に計上されます。ヘッジ対象はそうとは限りません1。たとえば変動金利の借入金を償却原価で測るなら、将来の利息は、ヘッジ手段のように期末に評価して損益に出すものではなく、実効金利法で各期に配分されます2。
そのままでは、相殺するはずの 2 つの損益が別の期間に現れます。このずれを「会計上の不一致」と呼びます。ヘッジ会計は、ヘッジ手段の損益とヘッジ対象の損益を同じ期間に認識することで、ヘッジの効果を会計に反映する処理です1。IFRS 第 9 号では、金融商品を使ったリスク管理活動の効果を財務諸表に表すことが、ヘッジ会計の目的です3。米国基準の ASC 815 も、ヘッジ手段とヘッジ対象の会計処理の違いに対応する特別な会計を定めています4。
デリバティブを時価で測る考え方は時価評価(IFRS 第13号、ASC 820、時価のレベル)で扱います。
3 つの型と、基準ごとの呼び名
IFRS 第 9 号は、ヘッジ関係を 3 つの型に分けます5。ASC 815 も、公正価値ヘッジ、キャッシュ・フロー・ヘッジ、純投資ヘッジ(net investment hedge)の 3 つを区別します6。
| 型(IFRS 第 9 号) | ヘッジされるもの | ヘッジ手段の損益の扱い |
|---|---|---|
| 公正価値ヘッジ | 認識済みの資産・負債、または未認識の確定約定の公正価値の変動 | 損益に計上します。ヘッジ対象にもヘッジされたリスクによる損益が生じ、帳簿価額を調整して損益に計上します |
| キャッシュ・フロー・ヘッジ | 認識済みの資産・負債の将来のキャッシュフローの変動と、実行の可能性が非常に高い予定取引 | 有効な部分をその他の包括利益に置き、ヘッジ対象のキャッシュフローが損益に出る期に損益へ振り替えます。非有効な部分は損益に計上します |
| 在外営業活動体に対する純投資のヘッジ | 在外営業活動体に対する純投資 | キャッシュ・フロー・ヘッジと同様に処理します。有効な部分を累積した額は、在外営業活動体の処分時に損益へ振り替えます |
その他の包括利益で公正価値の変動を表示すると選択した資本性金融商品が対象のときは、表と扱いが異なります5。
ASC 815 の 2017 年の改正(ASU 2017-12)は、公正価値ヘッジのヘッジ手段の公正価値の変動を、ヘッジ対象の損益と同じ損益計算書の行に表示するよう求めています。キャッシュ・フロー・ヘッジと純投資ヘッジでは、変動をその他の包括利益(純投資ヘッジでは換算調整の区分)に記録し、ヘッジ対象が損益に影響するときに損益へ振り替えます7。
日本基準8の記述は、監査法人の解説にもとづきます。解説は、日本基準のヘッジ会計の方法を、繰延ヘッジ、時価ヘッジ、振当処理、特例処理という処理の名前で説明します1。繰延ヘッジ(原則)は、ヘッジ手段の損益や評価差額を、ヘッジ対象の損益が計上される時まで貸借対照表に残す方法です。繰延ヘッジでは、決算期末のヘッジ手段の評価差額を、損益ではなく純資産の部に繰延ヘッジ損益として計上します9。時価ヘッジ(例外)は、ヘッジ対象の時価の変動も損益に含め、ヘッジ手段との損益を同じ期間に出す方法です9。例外にはこのほか、金利スワップの特例処理と為替予約等の振当処理があります1。
つまり、IFRS 第 9 号と ASC 815 の名前はヘッジされるものの種類を指し、日本基準の名前は処理の方法を指します。繰延ヘッジとキャッシュ・フロー・ヘッジは、どちらもヘッジ手段の損益を繰り延べますが、別々の基準が定めた処理で、同じものとして扱えません。日本基準の処理は、日本基準の繰延ヘッジで扱います。
借入金の利息を固定する数値例
事業会社が、変動金利の借入金 10 億円(2 年後に返済、利息は年 1 回払い)の利息を固定するために金利スワップを結ぶ、架空の例で考えます。変動金利は各年の初めに決まります。割引、税、非有効部分は無視します。この例は、IFRS 第 9 号のキャッシュ・フロー・ヘッジとして書きます。その他の包括利益に置いた額は、純資産の部に累積します。
- スワップは想定元本 10 億円で、会社が固定金利 1.5% を払い、変動金利を受け取ります。割引を無視すると、固定金利は 2 年の変動金利(1.0% と 2.0%)の平均と同じで、結んだ時点の時価は 0 です。
- 変動金利は、1 年目が 1.0%、2 年目が 2.0% です。結んだ時点で市場が見込んでいたとおりに推移します。
- ヘッジ対象は、借入金の将来の変動金利の利息です。この例のスワップは、変動金利の借入金を固定金利に換える、キャッシュ・フロー・ヘッジの例の 1 つです10。
| 項目(単位は万円) | 1 年目 | 2 年目 |
|---|---|---|
| 借入金の利息(ヘッジ対象) | −1,000 | −2,000 |
| スワップの受払い(固定を払い、変動を受け取る) | −500 | +500 |
| スワップの時価の変動 | +500 | −500 |
| 年末のスワップの時価 | +500 | 0 |
| 損益(スワップあり、ヘッジ会計なし) | −1,000 | −2,000 |
| 損益(ヘッジ会計あり) | −1,500 | −1,500 |
| その他の包括利益の年末残高(ヘッジ会計あり) | +500 | 0 |
スワップありでヘッジ会計なしの損益は、利息、スワップの受払い、スワップの時価の変動の合計です。1 年目は −1,000 + (−500) + 500 = −1,000、2 年目は −2,000 + 500 + (−500) = −2,000 です。損益は変動金利の動きのまま出て、金利を固定した効果は見えません。
ヘッジ会計ありでは、スワップの時価の変動を、ヘッジ対象の利息が損益に出るまでその他の包括利益に置きます。損益に入るのは、利息とスワップの受払いだけです。1 年目は −1,000 + (−500) = −1,500、2 年目は −2,000 + 500 = −1,500 で、固定金利 1.5% × 10 億円 = 1,500 万円の負担が両年に出ます11。
図の説明
受け払いではなく、各年の損益を描いた図です。どちらもスワップを結んだ場合で、「会計なし」「会計あり」はヘッジ会計を使わない場合と使う場合を指します。スワップを結んだうえでヘッジ会計を使わない場合の損失は、1 年目が 1,000 万円、2 年目が 2,000 万円で、変動金利の動きのまま出ます。ヘッジ会計を使う場合の損失は、どちらの年も 1,500 万円です。矢印の長さは金額の大きさの目安です。2 年の合計はどちらも 3,000 万円の損失で、年ごとの出方だけが変わります。
この例では、スワップは 1 年目に 500 万円の払い(損)、2 年目に 500 万円の受け取り(得)になります。2 年を通した損益の合計は、ヘッジ会計の有無によらず −3,000 万円です。ヘッジ会計は合計を変えず、期ごとの出方を変えます。
ヘッジ指定の書類と有効性の確認
ヘッジ会計を使うには、ヘッジを始める時点で、ヘッジ関係をあらかじめ指定して文書にします。続けて使うには、ヘッジが有効であることを確かめ続けます。
| 項目 | IFRS 第 9 号 | ASC 815 | 日本基準(監査法人の解説) |
|---|---|---|---|
| 開始時の書類 | ヘッジ関係とリスク管理の目的・方針を文書にします。ヘッジ手段、ヘッジ対象、ヘッジするリスク、有効性の評価の方法を特定します12 | IFRS 第 9 号と同じ項目を、開始時に文書にします6 | ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従っていることを、文書か、明確な内部規定と内部統制組織で客観的に認めます13 |
| 有効性の要件 | ヘッジ対象とヘッジ手段の間に経済的関係があること、信用リスクの影響が支配的でないこと、ヘッジ比率が実際の数量と同じであること。数値の範囲は示されていません14 | 開始時の評価は、一定の場合を除き定量的に行います。その後の評価は、条件を満たせば定性的にできます615 | 変動額の累計の比率が、おおむね 80% から 125% なら、高い相関関係と認められます13 |
ヘッジ比率は、ヘッジ対象の量に対してヘッジ手段をどれだけ使うかの割合です。IFRS 第 9 号では、実際に使う量から決まる比率を指定することが求められます14。
日本基準では、有効性を決算日に加え、少なくとも 6 か月に 1 回程度評価します13。
ヘッジ会計をやめる場面
IFRS 第 9 号は、ヘッジ関係が要件を満たさなくなったときだけ、将来に向かってヘッジ会計をやめます。要件を満たさなくなるときには、ヘッジ手段が満期になる、売却される、解約される、行使される場合も含みます16。
ただし、文書化したリスク管理の目的に沿って、ヘッジ手段を別のヘッジ手段に置き換えたり、ロールオーバーしたりすることは、満期や解約に当たりません。法令などによって、清算機関への更改(ノベーション)に合意する場合も、一定の条件を満たせば満期や解約に当たりません16。
リスク管理の目的が変わらず、ほかの要件も満たしている関係は、企業の判断では取り消せません16。比率が合わなくなっても目的が同じなら、ヘッジ比率を調整して続けます17。
キャッシュ・フロー・ヘッジをやめるとき、その他の包括利益に累積した額の扱いは、ヘッジ対象の将来のキャッシュフローが今も発生すると見込まれるかで変わります。見込まれるなら、キャッシュフローが発生するまで、そのまま置きます。見込まれなくなったなら、ただちに損益へ振り替えます18。
ASC 815 の公正価値ヘッジでは、要件を満たさなくなったとき、ヘッジ手段が満期、売却、解約、行使されたとき、企業が指定を取り消したときに、将来に向かってヘッジ会計をやめます19。ヘッジ関係は、いつでも取り消せます20。この点は IFRS 第 9 号と異なります。
日本基準では、ヘッジ会計の終わり方を「中止」と「終了」に分けます。中止は、ヘッジ関係が有効性の評価基準を満たさなくなったとき、またはヘッジ手段が満期、売却、終了、行使で消滅したときです。その時点までのヘッジ手段の損益または評価差額は、ヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べます。終了は、ヘッジ対象が消滅したとき、またはヘッジ対象の予定取引が実行されないことが明らかになったときです。繰り延べていた損益は、その期の損益として処理します21。
注
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EY新日本有限責任監査法人「わかりやすい解説シリーズ『ヘッジ会計』 第1回:ヘッジ取引とヘッジ会計の必要性」(2018 年 4 月 19 日)。ヘッジ手段の時価評価とヘッジ対象の扱い、同一期間の認識による効果の反映、日本基準の方法(繰延ヘッジ、時価ヘッジ、振当処理、特例処理)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 4.2.1 項(金融負債は、損益を通じて公正価値で測るものなどを除き、実効金利法による償却原価で測る)。付録 A の定義は、実効金利法を、償却原価の計算と、利息費用を損益に各期へ配分して認識する方法としています。 ↩
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.1.1 項。 ↩
-
FASB「Accounting Standards Update No. 2017-12, Derivatives and Hedging (Topic 815): Targeted Improvements to Accounting for Hedging Activities, In Focus」(2017 年 8 月)の 1 ページ。 ↩
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IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.5.2 項、第 6.5.8 項、第 6.5.11 項、第 6.5.13〜6.5.14 項。表の「確定約定」「実行の可能性が非常に高い予定取引」は第 6.5.2 項の訳で、資本性金融商品の例外は第 6.5.3 項、第 6.5.8 項です。 ↩ ↩2
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FASB「Accounting Standards Update No. 2017-12, Derivatives and Hedging (Topic 815)」の 815-20-25-3(33〜34 ページ)。開始時の文書の要件、開始時の評価を定量的に行う原則(例外あり)、指定と文書の同時の実施。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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FASB「Accounting Standards Update No. 2017-12, Derivatives and Hedging (Topic 815)」の Summary(4 ページ)。 ↩
-
日本基準のうち、金融商品の会計処理を定めるのは ASBJ「企業会計基準第 10 号『金融商品に関する会計基準』」です。EY の解説は、この基準に加えて実務指針の項も挙げています。 ↩
-
EY新日本有限責任監査法人「わかりやすい解説シリーズ『ヘッジ会計』 第2回:ヘッジ会計の方法①」(2018 年 4 月 19 日)。繰延ヘッジと時価ヘッジの定義、繰延ヘッジ損益の計上先。繰延ヘッジを原則、時価ヘッジを例外とする位置づけは、同シリーズの第 1 回。 ↩ ↩2
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」の B6.5.2。変動金利の債務を固定金利に換えるスワップを、キャッシュ・フロー・ヘッジの例として挙げています。 ↩
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.5.11 項。第 6.5.11 項は、ヘッジ手段の損益のうち有効な部分をその他の包括利益に置き、ヘッジ対象のキャッシュフローが損益に影響する期に損益へ振り替えると定めています。表は年ごとの合計額で、スワップの受払いを損益に入れる形の簡略な示し方です。振り替えの仕訳の細部は示していません。 ↩
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.4.1 項(b)(開始時の正式な指定と文書)。有効性の評価の方法には、非有効の発生源の分析とヘッジ比率の決め方も含みます。 ↩ ↩2
-
EY新日本有限責任監査法人「わかりやすい解説シリーズ『ヘッジ会計』 第4回:ヘッジ会計の適用要件」(2018 年 4 月 26 日)。事前テスト(リスク管理方針との整合)、事後テスト(評価の頻度、80% から 125% の範囲)。 ↩ ↩2 ↩3
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.4.1 項(c)(i)〜(iii)。 ↩ ↩2
-
FASB「Accounting Standards Update No. 2017-12, Derivatives and Hedging (Topic 815): Targeted Improvements to Accounting for Hedging Activities, In Focus」(2017 年 8 月)の 3 ページ(効果性の評価の簡素化)。 ↩
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.5.6 項と B6.5.23。入れ替えと清算機関への更改の例外は第 6.5.6 項本文と (a)(b) です。 ↩ ↩2 ↩3
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.5.5 項(ヘッジ比率の調整)。 ↩ ↩2
-
IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」第 6.5.12 項。 ↩
-
FASB「Accounting Standards Update No. 2017-12, Derivatives and Hedging (Topic 815)」の 815-25-40-1(194 ページ)。公正価値ヘッジの項です。 ↩
-
FASB「Accounting Standards Update No. 2017-12, Derivatives and Hedging (Topic 815)」の 815-20-55-56(120 ページ)。 ↩ ↩2
-
EY新日本有限責任監査法人「ヘッジ会計の中止と終了」(2022 年 5 月 31 日)。基準の 33 項と 34 項、実務指針の 180 項と 181 項に当たる内容として説明されています。 ↩