CB は、企業が株式に換えられる権利を付けて資金を調達するときの債券で、ヘッジファンドなどが株価の動きのリスクを消しながら収益を狙う取引の対象にもなります。

社債と株式に換える権利の組み合わせ

転換社債(CB)は、正式な名前を転換社債型新株予約権付社債といい、発行した会社の株式に換えられる社債です。会社法では、新株予約権を付けた社債を新株予約権付社債といいます1。そのうち、新株予約権を行使するときに、金銭を払い込む代わりに、その社債の全額が償還されるものが CB です2。投資家から見ると、金銭を払わずに、社債を差し出して株式を受け取る形になります。CB は商法の改正前の転換社債にあたります。

新株予約権付社債では、社債と新株予約権のどちらか一方だけを譲り渡すことはできません3。そのため、CB の投資家は、社債と、発行した会社の株式を決めた価格で買うコール・オプション(コール)を、いつも一緒に持ちます4。株式に換えるときの 1 株あたりの価格を転換価額といい、受け取る株数は額面を転換価額で割った数です5。

F 社が次の条件の CB を発行し、投資家が額面 100 万円分を買った架空の例で考えます。F 社の発行のときの株価は 800 円です。

条件 この例での値
発行体 F 社
額面 100 万円
利率 0%(利息なし)
満期 5 年後
転換価額 1,000 円
株式に換えたときの株数 100 万円 ÷ 1,000 円 = 1,000 株

投資家は、決められた期間(転換できる期間)の中なら、いつでも CB を株式に換えるよう F 社に請求できます6。行使できる時期でいえば、アメリカン・オプションにあたります。

満期の価値と損益

満期の CB の価値は、株式に換えたときの株式の価値と、額面の高い方です。F 社の株価が転換価額の 1,000 円を上回れば、投資家は株式に換え、下回れば換えずに額面の償還を受けます7。株価がどこまで下がっても、F 社が払えなくならない限り、満期に額面 100 万円を受け取ります。

損益は買った価格で変わります。株価が上がった後に、投資家がこの CB を市場で額面 100 円あたり 110 円、額面 100 万円分を 110 万円で買ったとします。満期の F 社の株価ごとの受け取りと損益は次のとおりです。

満期の F 社の株価(円) 株式 1,000 株の価値(万円) 受け取るもの 受け取りの価値(万円) 損益(万円)
600 60 額面の償還 100 −10
1,000 100 額面の償還 100 −10
1,100 110 株式 110 0
1,300 130 株式 130 20
1,600 160 株式 160 50

株価が 1,100 円を上回ると利益になり、1,600 円なら 50 万円の利益です。株価が 1,000 円以下なら額面の 100 万円を受け取り、額面を上回って払った 10 万円が損失になります。株価が 1,000 円から 1,100 円の間では、株式に換えても 110 万円に届かず、損失は 10 万円より小さくなります。

−2000+200+400+600+8001,000損益(円)満期の F 社の株価(円)利益損失損益分岐点 1,100
図 1額面 100 円あたり 110 円で買った F 社の CB の満期の損益
図の説明

転換価額 1,000 円の F 社の CB を、額面 100 円あたり 110 円で買って満期まで持ったときの損益を、株式に換えたときの株式 1 株あたりで示した図です。1 株あたりでは 1,100 円を払い、満期に額面の 1,000 円か株式 1 株を受け取ります。株価が 1,000 円以下では損益は −100 円で一定です。1,000 円を上回ると株価が 1 円上がるごとに損益が 1 円増え、1,100 円で 0、1,600 円で 500 円の利益になります。額面 100 万円分(1,000 株分)の損益は、この 1,000 倍です。

この形は、行使価格 1,000 円のコールを買ったときの損益と同じです。CB の投資家はコールを買う側に立つため、株価が下がったときの損失は、額面を上回って払った分までです。ただし、発行体が払えなくなれば、額面も受け取れないことがあります。

パリティと乖離率で見る満期の前の価値

満期の前の CB の価格は、株式に換えたときの価値(パリティ)と、社債としての価値の両方を見て決まります。パリティは、額面 100 円あたりで表した、株式に換えたときの価値です8。

パリティ=株価転換価額×100\text{パリティ} = \frac{\text{株価}}{\text{転換価額}} \times 100

実際の CB の価格がパリティからどれだけ離れているかを、乖離率で表します8。

乖離率(%)=CB の時価−パリティパリティ×100\text{乖離率(\%)} = \frac{\text{CB の時価} - \text{パリティ}}{\text{パリティ}} \times 100

F 社の CB の株価と時価が次の 2 つの場合の架空の例で考えます。

場面 F 社の株価(円) パリティ(円) CB の時価(円) 乖離率(%)
株価が高い 1,500 150 153 2
株価が低い 600 60 90 50

株価が転換価額を大きく上回ると、CB の価値はパリティに近づき、乖離率は小さくなります。株価が転換価額を大きく下回ると、株式に換える権利の価値は 0 に近づき、CB の価値は社債としての価値に近づきます4。そのため、株価が低いときは、CB の価格はパリティより社債の価値で支えられ、乖離率が大きくなります。CB の価格がパリティを下回り、乖離率がマイナスになることもあり、これを逆乖離といいます6。

この関係は、CB の価値を社債の価値とオプションの価値に分けて考えると分かります4。

CB の価値=社債の価値+株式に換えるオプションの価値\text{CB の価値} = \text{社債の価値} + \text{株式に換えるオプションの価値}

社債の価値は、将来の受け取りを、金利に発行体の信用に応じた上乗せ(スプレッド)を加えた割引の率で現在価値にして求めます。オプションの価値は、パリティを原資産の価格、額面を行使価格とするコールとして求めます4。

ただし、実際には 2 つを切り離して取引できず、互いに影響し合うため、この分け方は考えるための近似です。株式に換えるときに差し出す社債の価値は金利とスプレッドで変わり、株価が下がると発行体の信用のスプレッドが広がって社債の価値も下がりやすくなります9。いつでも株式に換えられることを評価に入れるため、実務では二項ツリーなどの格子の方法を使います10。

発行体にとっての利点と費用

発行体は、株式に換えられる権利を付ける代わりに、利率を低く抑えられます。CB の利率は普通社債より低いのが一般的で5、日本企業がこれまでに発行した CB は、利息が 0 のものが多くありました12。株価が転換価額を上回らず株式に換えられなければ、発行体は利息をほとんど払わずに満期に額面を返すだけで済み、普通社債より調達の費用が小さくなります12。

一方で、株式に換えられると、発行体の費用は大きくなることがあります。F 社の例で満期の株価が 1,500 円なら、投資家は株式に換え、F 社は 100 万円しか調達していないのに、時価 150 万円分の 1,000 株を渡します。市場で同じ株式を発行していれば得られた 150 万円との差の 50 万円が、F 社の実質の費用とみることができます12。新しく株式を発行して渡すと株式の数が増え、1 株あたりの価値が薄まります(希薄化)。株式に換えられるのは株価が転換価額を上回るときなので、時価より低い価格で株式を発行するのと同じになります。そのため、換えられる見込みが高まると、株価を押し下げる力が働きます13。

発行の条件は、主に転換価額の水準で、発行体と投資家の折り合いを付けます。ほかの条件が同じなら、転換価額が高いほど株式に換えられにくくなり、発行体に有利で、投資家に不利になります。発行のときの株価に対して転換価額をどれだけ高くしたかを、アップ率といいます14。

アップ率=転換価額転換価額を決めるときの株価−1\text{アップ率} = \frac{\text{転換価額}}{\text{転換価額を決めるときの株価}} - 1

F 社の例では、株価 800 円のときに転換価額を 1,000 円に決めたので、アップ率は 1,000 ÷ 800 − 1 = 25% です。2025 年の時点で、日本企業の円建ての CB の多くはロンドンなどの海外で発行されるユーロ円 CB です。主な投資家は海外の CB ファンドやヘッジファンドとされ、条件は日本時間の夕方から数時間のうちにアップ率を決めて定まります1514。

CB には、株式に換える権利のほかの条項を付けることもあります。発行の後の一定の時期に、あらかじめ決めた方法で転換価額を引き下げる下方修正条項(引き上げる上方修正条項)がその一つです5。株価が転換価額の 125% や 130% などの水準に達したときに、発行体が額面で期限前償還できるソフトコール・オプションも使われます。投資家は額面で償還されるより株式に換えた方が得になるため、株式への転換が進みます16。

ヘッジする投資家とガンマ・トレーディング

CB の投資家には、株価や発行体の信用のリスクをヘッジせずに持つ投資家と、ヘッジして持つ投資家がいます。ヘッジする投資家は、主にヘッジファンドなどで、CB を買い、オプションの部分のデルタに見合う数の株式を売ります17。デルタは、株価が動いたときにオプションの価値がどれだけ動くかを表します。株価が動くとデルタも変わり、この変わり方をガンマといいます。株価の動きのリスクを消したうえで、株価が動くたびにデルタを 0 に戻すよう株式を売り買いし、その売買から収益を狙います(ガンマ・トレーディング)18。

額面 100 万円分(1,000 株分)の CB を持つ投資家のデルタが 0.5 の架空の例で考えます。500 株を売ってデルタを 0 にします。株価が 1,100 円から 1,000 円に下がり、デルタが 0.4 になったとします。投資家は売りすぎた 100 株を 1,000 円で買い戻します。株価が 1,100 円に戻ってデルタが 0.5 に戻れば、100 株を 1,100 円で売り直し、売買で差の 100 円 × 100 株 = 1 万円を得ます19。同じ期間にオプションの価値が時間の経過で減った額がこれより小さければ、差し引きで利益になります。逆に、株価が 1,100 円からほとんど動かなければ、この売買はほとんど起きません。同じ期間にオプションの価値が時間の経過で 1 万円減れば、差し引きで 1 万円の損失になります。

得になるか損になるかは、株価がどれだけ動くかで決まります。オプションの価値のうち時間的価値は時間とともに減るため、株価があまり動かなければ売買で得る額がその減り方に届かず、損失になります。株価の実際の変動が、CB の価格に含まれるインプライド・ボラティリティより大きければ、利益になります18。株価の動きのリスクを消しても、発行体の信用や金利のリスクは残ります19。

CB の発行のときには、オプションの部分をヘッジファンドなどの海外の投資家が買い、残る社債の部分を CB リパッケージ債という債券にして銀行などに売ることも少なくありません20。

リスク

発行体の信用のリスクと、満期の前に売りにくいことの一般の説明は、仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。CB でも、株価がどこまで下がっても満期に額面を受け取れるのは、発行体が払えることが前提で、発行体が倒産すると利息も額面も受け取れないことがあります21。

CB に固有なのは、満期の前の価格が、発行体の株価の影響を大きく受けることがあるうえに、満期までの期間や金利の動きにも左右されることです21。株価が下がると、パリティに加えて社債の価値も下がりやすくなります9。満期の損益の表の例のように、額面を上回る価格で買うと、株価が転換価額を下回ったまま満期を迎えたときに、上回って払った分が損失になります。

株式への転換が進むと、残る CB の額が減り、売りにくくなることがあります(流動性のリスク)21。

EB 債との違い

CB とEB 債は、どちらも株式に換わることがある債券ですが、オプションの向きが逆です22。CB の投資家はコールを買う側で、株式に換えるかを投資家が選びます。EB 債では、対象株式の価格が決めた価格を下回ると、額面の代わりに、発行体とは別の会社の株式が交付されます23。EB 債の投資家がオプションを売る側に立つ仕組みは、EB 債(他社株転換債)で扱います。

項目 CB EB 債
受け取ることがある株式 発行した会社の株式 発行体とは別の会社の株式(対象株式)
株式に換わるかを決めるもの 投資家の選択 対象株式の価格(決めた価格を下回ると株式で償還)
利息 低いのが一般的(普通社債と比べて) 多いことがある(定期預金などと比べて)
満期に株価が大きく下がっていたとき 株式に換えずに額面の償還を受ける 株式で償還され、元本を下回ることがある

注

  1. 「会社法」第 2 条第 22 号(新株予約権付社債)。 ↩

  2. 日本取引所グループ「転換社債型新株予約権付社債」(用語集)。 ↩

  3. 「会社法」第 254 条第 2 項、第 3 項。 ↩

  4. 大嶽文伸、小田信之、吉羽要直「転換社債の市場価格分析とリスク管理」(日本銀行金融研究所 ディスカッション・ペーパー No. 98-J-15、1998 年 8 月)の「2.(2)プライシング理論」の「イ.シンプル・モデル」(5〜6 ページ)と脚注 7。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  5. 日本取引所グループ「転換社債型新株予約権付社債(CB)とは」(概要(CB))の本文と注 2(転換価額)、「特徴」。 ↩ ↩2 ↩3

  6. 大嶽文伸、小田信之、吉羽要直「転換社債の市場価格分析とリスク管理」(日本銀行金融研究所 ディスカッション・ペーパー No. 98-J-15、1998 年 8 月)の「2.(1)転換社債の商品性」(2〜3 ページ)。 ↩ ↩2

  7. 服部孝洋「転換社債(CB)入門―発展編―」(財務省『ファイナンス』2025 年 4 月号)の「2.1 投資家の立場から」(19 ページ)。意見に係る部分は筆者の個人的な見解で、筆者の所属する組織の見解ではないと資料に注記がある。 ↩

  8. 日本取引所グループ「CBの価格(パリティと乖離率)」(概要(CB))の「パリティ(理論価格)」と「かい離率」。 ↩ ↩2

  9. 大嶽文伸、小田信之、吉羽要直「転換社債の市場価格分析とリスク管理」(日本銀行金融研究所 ディスカッション・ペーパー No. 98-J-15、1998 年 8 月)の「2.(2)」の、シンプル・モデルの限界の①(7 ページ)。 ↩ ↩2

  10. 同じ資料の、シンプル・モデルの限界の②と「ロ.二項ツリー法による計算方法」(7〜8 ページ)。 ↩

  11. 大嶽文伸、小田信之、吉羽要直「転換社債の市場価格分析とリスク管理」(日本銀行金融研究所 ディスカッション・ペーパー No. 98-J-15、1998 年 8 月)の要旨と、「2.」の市場リスクの計測の結果の②と簡便法の特徴の①②(21 ページ)。 ↩

  12. 服部孝洋「転換社債(CB)入門―発展編―」(財務省『ファイナンス』2025 年 4 月号)の「2.1 投資家の立場から」と脚注 6(19 ページ)、「2.2 発行体の立場から」(20 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  13. 大嶽文伸、小田信之、吉羽要直「転換社債の市場価格分析とリスク管理」(日本銀行金融研究所 ディスカッション・ペーパー No. 98-J-15、1998 年 8 月)の脚注 13(8 ページ)。 ↩

  14. 服部孝洋「転換社債(CB)入門―発展編―」(財務省『ファイナンス』2025 年 4 月号)の「2.3 CBのプライシングのイメージ:アップ率」と「アップ率が決められるプロセス」(20〜21 ページ)。 ↩ ↩2

  15. 服部孝洋「転換社債(CB)入門―投資家編―」(財務省『ファイナンス』2025 年 5 月号)の「1.はじめに」と「2.1 ユーロ円CBとは」(66 ページ)。意見に係る部分は筆者の個人的な見解で、筆者の所属する組織の見解ではないと資料に注記がある。 ↩

  16. 服部孝洋「転換社債(CB)入門―発展編―」(財務省『ファイナンス』2025 年 4 月号)の「3.2 各種オプション」の「(1)ソフトコール・オプション」(22〜23 ページ)。 ↩

  17. 服部孝洋「転換社債(CB)入門―投資家編―」(財務省『ファイナンス』2025 年 5 月号)の「2.2 CBの投資家の分類」(67 ページ)。 ↩

  18. 同じ資料の「2.4 ガンマ・トレーディング」(68〜69 ページ)。 ↩ ↩2

  19. 同じ資料の「BOX1 ガンマ・トレーディングの具体例」(69〜70 ページ)。数値は架空の例に置き換えた。 ↩ ↩2

  20. 同じ資料の「2.3 CBに含まれるオプションの性質」(67〜68 ページ)。 ↩

  21. 日本取引所グループ「リスク」(概要(CB))の「信用のリスク」「価格変動リスク」「流動性リスク」。 ↩ ↩2 ↩3

  22. 金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 29 ページ、本文の「こうした EB 債の商品性は」の段落と脚注 27。 ↩

  23. 日本証券業協会「EB債(他社株転換可能債券)の特徴やリスクとは?」の「1.そもそもEB債とは?」(1 ページ)。 ↩