融資にスワップなどを組み合わせた取引を銀行が行うとき、損失の試算額や解約清算金を顧客にどう説明するかが問われます。

貸出にデリバティブを組み合わせた商品

仕組ローンは、通常の貸出にスワップやオプションといったデリバティブ取引を組み合わせて作った商品です1。日本銀行の資料は、貸出にデリバティブを組み合わせた商品の区分を「仕組貸出」と呼び、クレジット・リンク・ローンなどをその例に挙げています。この記事で扱う仕組ローンは、その例にあたる商品を指します。

仕組貸出の例には、クレジット・リンク・ローン、リバース・フローター・ローン、CMS ローンがあります。3 つとも国内金利がリスク要因で、クレジット・リンク・ローンはこれに信用が加わります2。

  • クレジット・リンク・ローン: 表では、国内金利に加えて信用がリスク要因に挙がっています。債券(クレジット・リンク債)の設例では、参照企業が債務不履行になると元本の償還が免除されます3。
  • リバース・フローター・ローン: 債券の設例では、短期金利が下がるとクーポンが上がり、上がると下がります4。
  • CMS ローン: 債券の設例では、クーポンは 10 年のスワップレートから一定の幅を引いた値で、利払いの 1 年前に決まります5。

資料の設例は債券で、ローンの利息の計算式は示されていません。

債券や貸出を含めた仕組商品全体の分解の考え方は仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。

変動金利のローンに金利スワップを付ける

変動金利のローンに、固定金利を払い変動金利を受け取る金利スワップを組み合わせると、借り手の支払いの合計は固定されます。金利スワップは、一方が想定元本に対する固定金利を払い、もう一方が同額の想定元本に対する変動金利を払う取引です6。

F 社が銀行から 10 億円を、指標金利に 1.0% を足した変動金利で借りる架空の例で考えます。F 社は同じ銀行と、想定元本 10 億円、F 社が固定金利の年 1.5% を払い、指標金利を受け取る金利スワップを結びます。利息とスワップの受け払いの日は同じとし、1 年分の金額で比べます。

F 社借り手銀行貸し手、スワップの相手ローンの利息(指標金利 + 1.0%)スワップの固定金利(年 1.5%)スワップの変動金利(指標金利)
図 1F 社の利息と金利スワップの受け払い
図の説明

F 社は銀行に、10 億円のローンの利息として、指標金利に 1.0% を足した率の利息を払います。同じ銀行との金利スワップでは、F 社が想定元本 10 億円に対する年 1.5% を払い、銀行が同額の想定元本に対する指標金利を払います。ローンで払う指標金利のぶんと、スワップで受け取る指標金利は打ち消し合い、F 社の支払いは年 2.5%(1.0% + 1.5%)に固定されます。

指標金利 ローンの利息 スワップの受け払い(F 社から見て) F 社の支払い合計 スワップを付けなかった場合との差
0.5% 1,500 万円 1,000 万円の払い 2,500 万円 スワップの損 −1,000 万円
1.5% 2,500 万円 0 円 2,500 万円 0 円
3.0% 4,000 万円 1,500 万円の受け 2,500 万円 スワップの得 +1,500 万円

指標金利が 1.5% より低いと、F 社は、スワップを付けなかった場合より多く払います。1.5% より高いと、スワップを付けなかった場合より少なく払います。支払いの合計が年 2,500 万円に固定される点は、どの水準でも同じです。

リバース・フローター型

リバース・フローター型の仕組商品は、短期金利が下がるとクーポンが上がり、上がると下がります。日本銀行の資料の債券の設例は、クーポンを「固定 1.7% × 2 − 1 年 LIBOR」とし、クーポンが 0% を下回らない保証(ゼロフロア)を付けています4。

設例の形を借りて、F 社が 10 億円を、利息が「3.4% − 指標金利」(下限 0%)で決まるローンで借りる架空の例で考えます。固定金利の年 2.0%(利息 2,000 万円)のローンと、1 年分の利息を比べます。

指標金利 利息の率 リバース・フローター型の利息 固定金利 2.0% の利息との差
0.5% 2.9% 2,900 万円 +900 万円(多く払う)
1.0% 2.4% 2,400 万円 +400 万円(多く払う)
1.7% 1.7% 1,700 万円 −300 万円(少なく払う)
2.5% 0.9% 900 万円 −1,100 万円(少なく払う)

指標金利が下がると、リバース・フローター型の利息は、指標金利が 1% 下がるごとに 1%(この例では 10 億円に対して 1,000 万円)ずつ増えます。固定金利のローンと比べた損益の分かれ目は、指標金利が 1.4%(3.4% − 2.0%)のときです。それより金利が低いと F 社は固定金利のローンより多く払い、高いと少なく払います。

変動金利のローンの利息(指標金利 + 1.0%)と、この型の利息(3.4% − 指標金利)を足すと、指標金利の項が打ち消し合い、合計は 4.4% で一定になります。下限 0% が効かない、指標金利が 3.4% 以下の範囲の計算です。

途中で解約するとき

金融庁の監督指針は、銀行が顧客に、中途解約について次のことを説明する態勢を整えているかを検証する着眼点を挙げています。デリバティブ取引が原則として中途解約できないものであるときはその旨、中途解約すると解約清算金が生じるときはその旨と、最悪のシナリオを想定した試算額です7。

銀行取引約定書などに定める期限の利益を失う事由に当たると、ローンだけでなくデリバティブ取引も期限の利益を失い、解約清算金を払う義務が生じることがあります7。

F 社が金利スワップを途中で解約するときも、解約清算金が生じることがあります。

監督指針が銀行に求めること

金融庁の監督指針は、融資取引にオプションやスワップなどのデリバティブ取引が含まれる場合を、デリバティブ取引だけを行う場合を含めて、銀行の説明態勢の着眼点の対象にしています8。銀行法は、顧客の知識、経験、財産の状況、取引を行う目的を踏まえた重要事項の説明などの措置を、社内規則と体制として整えることを銀行に義務づけています。顧客に虚偽のことを告げたり、不確実な事項について断定的な判断を示したりすることも禁じられています9。

融資取引にデリバティブ取引が含まれるとき、監督指針が銀行の説明態勢の着眼点に挙げることのうち、主なものを次の表に示します10。

着眼点 銀行の説明の内容
最悪のシナリオの損失 例を入れた書面で、過去のストレス時のデータなどを踏まえた最悪のシナリオの想定最大損失額を示しているか
前提との違い 前提と異なる状況になれば損失がさらに拡大する可能性があることを説明しているか
許容額との関係 最悪のシナリオに至らない場合でも、顧客が許容できる損失額を超える損失が生じる可能性があることを説明しているか
経営への影響 金融指標がどの水準になると、顧客の経営や財務の状況に重大な影響が生じる可能性があるかを説明しているか
例の限界 説明のために実際の取引と違う例を使うとき、その旨を説明しているか
解約 「途中で解約するとき」のとおり
ヘッジとしての有効性 ヘッジ目的の取引について、顧客の仕入、販売、財務の状況や競争関係を踏まえた有効性を確認しているか
ヘッジの継続 契約終期までの継続と、今後の経営の見通しをかえって立てにくくしないことを確認しているか
融資への影響 勧誘した取引に応じなくても今後の融資に影響しない旨を説明しているか
意思決定 経営に大きな影響を与えるおそれがあるとき、中小企業などの取締役会などで意思決定されたうえでの契約かを確認しているか

説明を受けた旨を顧客から確認し、記録を書面(確認書など)で残す態勢も、着眼点の 1 つです11。説明義務と適合性原則は適合性原則と説明義務で扱います。

仕組ローンのリスク

借り手のリスクは、組み合わせたデリバティブの指標の動きで利息の負担が増えることと、中途解約に解約清算金がかかることです。F 社の 2 つの例のとおり、金利が動く向きによって負担が減る場合も増える場合もあります。

貸し手の側については、日本銀行の資料が、仕組商品を保有する金融機関の購入前の検討と審査の手続きを取り上げています。資料は、仕組商品を保有する金融機関に、購入の前に、金利などのリスク要因が動いたときの期間損益(利回り、利鞘)への影響をシナリオで確かめることを挙げています13。債券、預け金、貸出という会計科目で審査の手続きが違うとき、金融機関によっては仕組貸出(CMS ローンなど)を審査部だけが事前に審査する例があるとしています。科目によらずリスク管理の部署や ALM 委員会などへの協議を義務づけるのも一案としています14。

この資料は貸出を実行する銀行のリスクの全体を述べたものではなく、借り手の信用リスクやスワップの相手方リスクは扱っていません。

注

  1. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 3 ページ「1.仕組商品とは」(PDF の 3 ページ目)。 ↩

  2. 同資料の 3 ページの表。仕組貸出の欄に、クレジット・リンク・ローン(国内金利と信用)、リバース・フローター・ローン(国内金利)、CMS ローン(国内金利)が載っています。 ↩

  3. 同資料の 13〜14 ページ(4)の CLN の節。設例は、参照企業(A 社)がデフォルトしたときは元本償還を免除する条件です。 ↩

  4. 同資料の 6 ページ「(2)リバース・フローター債」。短期金利の低下(上昇)時にクーポンが上昇(低下)するフローター債と説明し、設例を「固定 1.7% × 2 − 1 年 LIBOR」、ゼロフロア付きとしています。 ↩ ↩2

  5. 同資料の 8 ページ「(3)CMS(constant maturity swap)債」。設例のクーポンは「10 年スワップレート − α」で、利払いの 1 年前に決まります。 ↩

  6. 日本取引所グループ「スワップ(用語集)」の本文。 ↩

  7. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.b(217〜218 ページ)。 ↩ ↩2

  8. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(令和 8 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ(217 ページ)。 ↩

  9. 同指針のⅢ-3-3-1-1(1)(215 ページ)。銀行法第 12 条の 2 第 2 項、第 13 条の 3 を挙げており、本文はこの記述によります。 ↩

  10. 同指針のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.a〜c、g(217〜219 ページ)と、同(2)③イ(223 ページ)。cはヘッジ目的の場合、gは融資取引への影響の懸念への説明、③イは契約の意思確認です。 ↩

  11. 同指針のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.d(219 ページ)。 ↩

  12. 同指針のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.h(219〜220 ページ)。 ↩

  13. 日本銀行「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 15〜16 ページ「3.シナリオ分析」。 ↩

  14. 同資料の 32 ページ「(2)購入時の決裁手続き(続き)」。 ↩