事業会社が、外貨建ての代金や変動金利の借入、原材料の仕入れで生じる相場の変動の損失を抑える方法を考えるときに関わります。有価証券報告書を出す会社が、決算の財務諸表の注記にデリバティブ取引を書くときにも関わります。金融機関は、損失を抑える目的で契約する顧客に、リスクと、その契約で損失を抑えられるかを説明する立場で関わります。

本業の取引から生じる 3 つのリスク

事業会社は、外貨建ての輸出入、変動金利の借入、原材料の仕入れで、相場の変動による損失を負うおそれがあります。3 か月後に 100 万ドルを払う予定の輸入企業の架空の例で考えます。1 ドルが 150 円なら 1 億 5,000 万円ですが、160 円の円安になると 1 億 6,000 万円を払うことになり、1,000 万円増えます。

2026 年上半期の日本の貿易では、金額で見て、輸出でも輸入でも円建て以外の取引が半分を超えました。輸出は米ドル建てが 51.1%、円建てが 34.7% で、輸入は米ドル建てが 67.5%、円建てが 24.7% でした1。

このような損失を抑えるために、事業会社は、手元の取引と反対の向きのデリバティブを取引します。これをヘッジといいます。ヘッジ取引とは、持っている現物か、これから持つ予定の現物の価格の変動に備えて、先物やオプションで現物と反対の立場をとる取引です2。外貨建ての売掛金を為替予約で、変動金利の借入金を金利スワップでヘッジする例は、企業会計基準委員会(ASBJ)の開示例にもあります3。デリバティブそのものの考え方は、デリバティブとはで説明します。

リスク どこから生じるか 例で使うデリバティブ
為替リスク 外貨建ての売掛金、買掛金 為替予約
金利リスク 変動金利の借入 金利スワップ
原材料の価格のリスク 原材料の仕入れ、製品の販売 商品先物

デリバティブには、ヘッジのほかに、投機と裁定取引という使い方もあります。

輸出入の為替リスクを為替予約でヘッジする

為替予約を結ぶと、将来の外貨の受け払いを円に換える相場を、今のうちに決めておけます。3 か月後に輸出の代金 100 万ドルを受け取る X 社が、銀行と 1 ドル 150 円で 100 万ドルを売る為替予約を結ぶ架空の例で考えます。3 か月後の相場がいくらでも、X 社は 100 万ドルを 1 億 5,000 万円に換えられます。3 者の間のドルと円の受け渡しは図 1 のとおりです。

輸出先X 社銀行代金 100 万ドル100 万ドル1 億 5,000 万円
図 1X 社の為替予約でのドルと円の受け渡し
図の説明

図 1 は、X 社が輸出の代金と為替予約でドルと円を受け渡す 3 者の流れです。輸出先から受け取ったドルは、為替予約に従って銀行へ渡し、代わりに円を受け取ります。相場が動いても、この流れは変わりません。

3 か月後の相場(1 ドル) 為替予約がないときの受取額 為替予約による得と損 為替予約があるときの受取額
160 円 1 億 6,000 万円 −1,000 万円 1 億 5,000 万円
150 円 1 億 5,000 万円 0 円 1 億 5,000 万円
140 円 1 億 4,000 万円 +1,000 万円 1 億 5,000 万円

円高の 140 円になると、為替予約がなければ受取額が 1,000 万円減りますが、為替予約のおかげで 1 億 5,000 万円を受け取れます。一方で、円安の 160 円になると、為替予約がなければ 1 億 6,000 万円を受け取れたところを、1 億 5,000 万円しか受け取れません。輸入する会社は向きが逆で、ドルを買う為替予約を結び、円安で支払いが増えるのを防ぎます。デリバティブ商品は、為替相場や金利の先々の変動に備えて、外貨や金利などを決まった価格などで取引する権利や義務を前もって契約しておく商品です4。

ASBJ の開示例では、外貨建ての売掛金から同じ通貨の買掛金を差し引いた残りの額を、為替予約でヘッジしています。輸出の予定から確実に生じると見込まれる売掛金についても、為替相場の状況に応じて、半年先までを上限に為替予約をする例になっています3。

変動金利の借入を金利スワップでヘッジする

金利スワップは、同じ想定元本について、一方が固定金利を、もう一方が変動金利を払う取引です5。変動金利で借りている会社は、借入と同じ指標金利を受け取り、固定金利を払う金利スワップを結ぶと、差し引きの支払いを固定金利の水準にできます。

期間 5 年、変動金利で 100 億円を借りていて、借入の金利が指標金利そのものである Y 社の架空の例で考えます。Y 社は、想定元本 100 億円、期間 5 年で、固定金利 1% を払い、借入と同じ指標金利の変動金利を受け取る金利スワップを結びます。利払いは年 1 回とし、その年の指標金利で 1 年分の利息を計算します。毎年の利払いの向きは図 2 のとおりです。

借入先Y 社スワップ相手借入の利息固定の利息 1 億円変動の利息
図 2Y 社の借入とスワップの利払い
図の説明

図 2 は、Y 社が借入とスワップで利息を受け払いする 3 者の流れです。借入先へは借入の利息を払い、スワップ相手へは固定金利の利息を払って、変動金利の利息を受け取ります。固定金利の利息は指標金利によらず 1 億円で、ほかの 2 つの額は指標金利で変わります。

その年の指標金利 スワップがないときの支払い(借入の利息) スワップで受け取る変動金利 スワップで払う固定金利 スワップがあるときの差し引きの支払い
2.0% 2 億円 2 億円 1 億円 1 億円
1.0% 1 億円 1 億円 1 億円 1 億円
0.5% 5,000 万円 5,000 万円 1 億円 1 億円

指標金利が 2.0% に上がると、スワップがなければ年 2 億円を払いますが、スワップで受け取る 2 億円で借入の利息をまかない、差し引きの支払いは 1 億円で済みます。反対に、指標金利が 0.5% に下がると、スワップがなければ年 5,000 万円で済んだところを、差し引きで 1 億円を払うことになり、5,000 万円多くなります。

原材料の価格リスクを商品先物でヘッジする

商品先物取引は、農産物、鉱物、電力などを対象に、価格と数量を前もって決めて売買する先物取引です6。原材料を買う予定の会社が、先に商品先物を買っておくことを買いヘッジといいます2。買いヘッジをすると、原材料が値上がりしたときの仕入れの費用の増加を、先物の得で打ち消せます。商品先物取引では、製造業者は原料の値上がりに備えられ、販売業者は販売するときの値下がりに備えられます7。

製造業の Z 社が 3 か月後に原料 1,000 トンを買う予定で、今のうちに 1 トン 5 万円で 1,000 トン分の先物を買う架空の例で考えます。例を簡単にするため、3 か月後の仕入れの日の現物の価格と先物の価格は同じとします。

3 か月後の価格(1 トン) 先物がないときの費用(現物の仕入れ) 先物の得と損 先物があるときの差し引きの費用
6 万円 6,000 万円 +1,000 万円 5,000 万円
5 万円 5,000 万円 0 円 5,000 万円
4 万円 4,000 万円 −1,000 万円 5,000 万円

先物の得と損は、買った価格と、仕入れの日に先物を売って取引を終える(反対売買)ときの価格の差に 1,000 トンを掛けた額です。先物取引では、最終取引日までに反対売買をして、価格の差額を受け払いすれば取引を終えられます6。原料が 6 万円に上がると、仕入れの費用は 1,000 万円増えますが、先物の得 1,000 万円で打ち消されます。4 万円に下がると、仕入れの費用は 1,000 万円減りますが、先物の損 1,000 万円で打ち消されます。

販売する側は反対に、先物を先に売っておく売りヘッジを使います2。米や小豆の生産者の団体が先物を売っておき、現物を売った分だけ反対売買をする例があります7。

ヘッジで手放す得と残る約束

ヘッジをすると、相場が不利に動いたときの損を抑えられる代わりに、有利に動いたときの得もデリバティブの損で打ち消されます。X 社の例では、1 ドル 160 円の円安になっても、受取額は為替予約で決めた 1 億 5,000 万円のままで、為替予約がないときより 1,000 万円少なくなります。Y 社と Z 社の例でも、金利や価格が下がると、ヘッジをしないときより差し引きの支払いや費用が多くなります。為替相場や金利が変わると、デリバティブ商品で顧客に損失が出ることもあります4。

実際の取引がヘッジの量より少なくなっても、デリバティブの約束はそのまま残ります。たとえば、X 社の輸出が 50 万ドルに減っても、100 万ドルを 1 ドル 150 円で売る為替予約の約束はなくなりません。足りない 50 万ドルを、その日の相場で買って渡すとします。相場が 160 円なら、8,000 万円で買ったドルを 7,500 万円で売ることになり、500 万円の損です。140 円なら、7,000 万円で買ったドルを 7,500 万円で売ることになり、500 万円の得です。

デリバティブ商品は原則として途中で解約できず、顧客の都合で解約すると解約清算金が要ることがあります4。

財務諸表の注記での開示

有価証券報告書を出す会社は、重要性の乏しいものを除き、財務諸表の注記に、使っているデリバティブ取引の内容、リスク、利用目的を書きます。有価証券を発行している一定の会社は、事業年度ごとに有価証券報告書を提出します11。その財務諸表の注記には、金融商品の取組方針、内容とリスク、リスク管理体制などを書きます12。デリバティブ取引については、取引の内容とリスクに加えて利用目的も書きます13。

製造業の開示例には、リスクを避けるためだけにデリバティブを使い、投機のための取引はしないという方針が書かれています。取引の権限や限度額を社内の規程で決め、財務部が取引をし、経理部が記帳と取引先との残高の照合をする体制も、例として書かれています14。ただし、ASBJ は、開示例は理解を助けるための例で、各企業は実情に合わせて注記するとしています14。

ヘッジ会計を使うときの処理はヘッジ会計の基本で扱います。

注

  1. 財務省「貿易取引通貨別比率(令和8年上半期)」(2026 年 7 月 30 日)の 1 ページ目、「(地域別)」の表で、「日本からの輸出」と「日本への輸入」の「世界」の行。比率は金額の比率(2 ページ目の「(注)」の 1、2)。 ↩

  2. 日本取引所グループ「ヘッジ取引(用語集)」。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 企業会計基準委員会「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第 19 号)の「参考(開示例)」の「2. 製造業」、1 の (2)「金融商品の内容及びそのリスク」と (3) の ②「市場リスク(為替や金利等の変動リスク)の管理」。 ↩ ↩2

  4. 金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」の表面、「説明事項(主な例)」。 ↩ ↩2 ↩3

  5. 日本取引所グループ「スワップ(用語集)」。 ↩

  6. 農林水産省「商品先物取引とは」の冒頭の説明、「先物取引の仕組み」と「先物市場の役割」の (イ)「価格変動リスクの抑制(ヘッジ)機能」。 ↩ ↩2

  7. 同じ資料の「Q&A」の Q4。 ↩ ↩2

  8. 金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」の表面、「金融庁からのおしらせ」の 1 つ目の項目の【例えば】。 ↩

  9. 同じ資料の裏面、「販売後のフォローアップ」の 1 つ目の項目。 ↩

  10. 金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」の表面、「金融庁からのおしらせ」の冒頭の文(金融商品取引法と金融庁の監督指針が定めるルールと着眼点)と 3 つ目の項目。 ↩

  11. 「金融商品取引法」第 24 条第 1 項。 ↩

  12. 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第 1 条第 1 項(金融商品取引法第 24 条第 1 項などにより提出する財務書類に適用)と、第 8 条の 6 の 2 第 1 項第 1 号(同項ただし書きで、重要性の乏しいものは省略できる)。 ↩

  13. 企業会計基準委員会「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」の第 3 項の柱書き(重要性が乏しいものの省略)と (2) ③。 ↩

  14. 企業会計基準委員会「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」の「参考(開示例)」の冒頭の説明と、「2. 製造業」の 1 の (1)「金融商品に対する取組方針」、(3) の ②。 ↩ ↩2