輸入した大豆の値下がりに備えて先物を売る商社、原材料の値上がりに備える製造業者、インフレへの備えとして運用に加える投資家が、コモディティ・デリバティブを使います。

コモディティの分類

コモディティは、エネルギー資源、金属、穀物のような実物資産のことです。コモディティ・デリバティブは、コモディティやその価格を原資産にするデリバティブです。コモディティは株式や債券と違い、消費できる実物なので、価格は消費の需要、供給の制約、保管のコスト、需要と供給の季節性の影響を受けます1。取引所で取引される主なコモディティは、次の 3 つの分類に分かれます2。

分類 主なコモディティ
エネルギー関連 原油、天然ガス、電力、石油製品(ガソリン、灯油)、石炭、排出権
金属・工業品 非鉄金属(銅、アルミなど)、貴金属(金、銀、プラチナ、パラジウム)、ゴム
農畜産物 大豆、小麦、トウモロコシ、米、砂糖、コーヒー、豚肉、牛肉など

電力と排出権は、この分類ではエネルギー関連に入っています。電力は貯めておくのが難しいため、需要が供給の限界を超えると現物の価格が急に上がることがあります。天然ガスや灯油は、需要の多い時期に先物の価格が高くなる季節性が強いコモディティです1。原油と天然ガスの指標と市場はエネルギー(原油、天然ガス)で扱います。

取引所取引と店頭取引

コモディティ・デリバティブには、取引所で取引する先物取引とオプションと、取引所を通さずに当事者どうしで結ぶ先渡取引、スワップ、オプションがあります234。取引所の取引では、品質と決済の方法をそろえるために、1 回の取引の数量、受渡しの場所と方法を商品ごとに細かく決めています。店頭の取引は相対で契約するため、契約の内容を自由に決められ、生産する側と使う側のさまざまな求めに合わせた形があります。2010 年の日本銀行金融研究所の論文によると、生産する側と使う側が直接契約することもありますが、商社、金融機関、ブローカーなどの仲介者が相手になることが多くあります2。

先物取引と先渡取引は、どちらも将来の決めた時点に、決めた数量と金額を交換する契約です3。先物取引では、取引所が決済機関となって清算、値洗い、証拠金の管理を担い、相対の先渡取引では、取引相手の信用リスクを負います3。

店頭のスワップ(商品スワップ)では、一方の当事者が、決めた数量のコモディティのその時の価格で計算した金額を受け取り、固定の金額を払います5。このほか、原材料と製品の価格の差を取引するスプレッド取引や、一定の期間の平均の価格を参照するオプション(アジアン・オプション)も取引されています。平均の価格を参照するのは、使う側がコモディティを使う期間の平均の価格に関心があるためです6。

満期の決済方法

取引所の商品先物を取引最終日まで持ち続けると、商品によって、現物を受け渡して決済する受渡決済か、価格の差を現金で受け払いして決済する差金決済になります。大阪取引所の金の先物を例にとると、金標準先物は受渡決済の先物(制度の名前は現物先物取引)で、金ミニ先物は差金決済の先物(制度の名前は限月現金決済先物取引で、満期に金銭を授受して決済します)です7。

金標準先物の取引単位は 1kg で、受け渡す現物は 1,000g のバーで純度 99.99% 以上の金地金です8。D 社が金標準先物を 1 枚買い、取引最終日までに転売しなかった架空の例で考えます。受渡決済期日には、売った側も D 社も、清算機関の日本証券クリアリング機構(JSCC)を相手に受け渡しをします。売った側は、取引所が指定した倉庫が発行した倉荷証券を JSCC に出します。D 社は、受渡値段で計算した受渡代金を JSCC に払います89。

売った側渡方清算機関JSCCD 社受方倉荷証券受渡代金倉荷証券受渡代金
図 1金標準先物の受渡決済での受け渡し
図の説明

金標準先物を取引最終日まで持ち続けた売った側(渡方)と、買った側(受方)の D 社が、受渡決済期日に清算機関の JSCC を相手に受け渡しをする流れです。売った側は、指定倉庫が発行した金地金の倉荷証券を JSCC に出し、JSCC から受渡代金を受け取ります。D 社は JSCC に受渡代金を払い、倉荷証券を受け取ります。売った側と D 社は直接は受け渡しをせず、清算機関をはさんで現物の権利と代金を交換します。

同じ D 社が、金標準先物の代わりに金ミニ先物(取引単位 100g)を 1 枚買って持ち続けたときは、金の現物は動きません。金ミニ先物は、同じ限月の金標準先物の価格を対象にする先物です。取引最終日の翌日、金標準先物のその日の取引(日中立会)が始まったときの値段を決済の値段(最終清算数値)にし、買った値段との差で決まる金額を受け払いします710。D 社が 1g 1 万円で買う架空の例で考えます。最終清算数値が 1g 1 万 1,000 円なら、差の 1,000 円に 100g を掛けた 10 万円の得です。最終清算数値が 1g 9,000 円なら、同じく 10 万円の損になります。

先物は、取引最終日より前に反対の売買をして取引を終えることもできます。買っていたものを売る、売っていたものを買い戻すことで、最初の価格と反対売買の価格の差額を受け払いして取引から離れられます。この差額の受け払いも差金決済といいます11。差金決済の語は満期の決済だけでなく反対売買の差額の受け払いにも使われ、大阪取引所は日経平均ボラティリティー・インデックス先物(日経平均VI先物)の最終決済も差金決済と書いています12。

先物価格とコンビニエンス・イールド

コモディティの先物の価格は、現物の価格に、満期まで現物を持つための資金の調達コストと保管費用を足し、現物を手元に持つ利点を引いた水準で決まります13。現物の価格が 1 トン 10 万円、1 年の資金を年 2% で借りられ、倉庫で 1 年保管する費用が 1 トン 3,000 円のコモディティの架空の例で考えます。資金の調達コストは 10 万円 × 2% で 2,000 円なので、現物を持つ利点を考えなければ、1 年後に受け渡す先物の価格は 10 万 + 2,000 + 3,000 で 10 万 5,000 円です。

金融資産の先物では、資金の調達コストと利子などの収入から先物の価格を考えることが多く、その考え方は先渡しと先物で説明しています。コモディティでは、これに保管費用と、すぐに使える現物を手元に持っている価値が加わります13。

現物を手元に持っている価値を、利回りの形で表したものをコンビニエンス・イールドといいます。貯めておくのが難しいもの、在庫が少なくなったもの、欲しいときにすぐ手に入れにくいものほど、現物を持つ価値が高く、コンビニエンス・イールドも高くなります13。先の例で、現物を 1 年持つ利点が 1 トン 8,000 円に当たる(コンビニエンス・イールドが年 8%)とすると、先物の価格は 10 万 5,000 − 8,000 で 9 万 7,000 円になり、現物の価格より低くなります。

深掘り連続複利で表した先物の価格

現物の価格を SS、満期までの年数を TT、無リスク金利を rr、利回りで表した保管費用を cc、コンビニエンス・イールドを ε\varepsilon とすると、先物の価格 FF は次の式で表せます14。

F=Se(r+c−ε)TF = S e^{(r + c - \varepsilon)T}

本文の例は、この関係を年 1 回の単利で近似し、保管費用とコンビニエンス・イールドを金額で表したものです。保管費用は直接は観察しにくいため、コンビニエンス・イールドから保管費用を引いたものをまとめて δ=ε−c\delta = \varepsilon - c と書くこともあります。このとき δ\delta は、市場で観察できる現物と先物の価格と金利から逆算できます14。

コンタンゴとバックワーデーション

限月の遠い(期先の)先物ほど価格が高い形をコンタンゴ、期先ほど価格が低い形をバックワーデーションといいます。現物をいちばん近い受渡しとみなすと、前の節の例で、先物の価格が 10 万 5,000 円で現物の 10 万円より高い並びがコンタンゴ、9 万 7,000 円で現物より低い並びがバックワーデーションに当たります。バックワーデーションは、資金の調達コストと保管費用の合計より、コンビニエンス・イールドのほうが大きいときに現れます15。

需給が引き締まっている(現物の価格が高い、在庫が少ない)ときにはバックワーデーションが現れやすく、需給が緩むとコンタンゴが現れやすくなります。需給が引き締まっているときは、保管費用を払っても現物を持っておく価値が高く、コンビニエンス・イールドが高くなるためです。2010 年の日本銀行金融研究所の論文によると、市場で観察されるコモディティの先物の価格は、期先ほど低い形になっていることが多く、コンビニエンス・イールドが金利より高くなりやすいことを示しています15。

同じコモディティでも、時期によって形は変わります。WTI 原油の先物の価格は、1999 年 1 月 4 日にはコンタンゴ、2008 年 1 月 2 日にはバックワーデーションでした16。期先の途中までは価格が上がり、その先は下がるような、単純に上がる形や下がる形ではない先物の価格の並びが現れることもあります16。

使い手:生産者、消費者、投資家

コモディティ・デリバティブの主な使い手は、コモディティを生産して売る人、原材料として買って使う人、運用の対象にする投資家です。生産者と販売業者は値下がりに、製造業者は原料の値上がりに備えるために、先物を使ってヘッジします171。

売る側のヘッジでは、あらかじめ先物を売っておき、現物を売ったときに先物を買い戻します。たとえば、米国産の大豆を輸入して売る商社は、船で運ぶ間の値下がりに備えて先物を売っておきます17。現物の価格が下がれば、現物の売上の減りを先物の得で埋められます18。反対に現物の価格が上がると、先物の損が現物の売上の増えた分を打ち消すため、ヘッジをしなかったときより手取りが少なくなります。

投資家は、インフレのリスクへの備えや、株式や債券などとの値動きの連動の低さを理由に、コモディティを運用の対象にします1。代表的な先物の価格から作る商品指数や、受け取りが商品指数に連動する債券(コモディティ・リンク債)もあります19。先物を買った投資家は、値上がりすれば得をし、値下がりすれば損をします。

商品先物取引は、相場の動きが小さくても大きな利益か損失が出る取引です20。

注

  1. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」(『金融研究』2010 年 4 月)の「1. はじめに」(28 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. 同じ論文の「2.(1)コモディティ市場の概観」と表 1「商品取引所におけるコモディティ取引の事例」(29 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」の「2.(2)さまざまなコモディティ取引」(31 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  4. 「商品先物取引法」第 2 条第 14 項。同法は、商品市場などによらないで行う取引のうち、将来の時期に商品と対価を受け渡す売買取引(第 1 号)、オプション(第 4 号)、商品の価格の変化率に基づいて互いに金銭を払う取引(第 6 号)などを「店頭商品デリバティブ取引」と定めています。 ↩

  5. Martin Haugh「Forwards, Swaps, Futures and Options」(コロンビア大学 IEOR E4706 の講義資料、2016 年)の 5 ページ Example 3。 ↩

  6. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」の「2.(2)さまざまなコモディティ取引」(31〜32 ページ)。 ↩

  7. 大阪取引所「商品先物取引制度要綱」(2026 年 4 月 13 日現在)の「Ⅰ 1 (1) 取引の種類等」(1 ページ)と「(2) 標準品等」の「②限月現金決済先物取引における取引の対象」(2〜3 ページ)。 ↩ ↩2

  8. 大阪取引所「商品先物取引制度要綱」の「6 (1) 取引単位」(5 ページ)と「8 (1) 現物先物取引における受渡決済」の「① 受渡決済」「② 受渡供用品」(9 ページ)。 ↩ ↩2

  9. 大阪取引所「制度概要」(金標準先物、2026 年 4 月 13 日更新)の「受渡場所」「受渡方法」。 ↩

  10. 大阪取引所「商品先物取引制度要綱」の「8 (2) 限月現金決済先物取引の取引における最終決済」(11 ページ)と「6 (1) 取引単位」(5 ページ)。 ↩

  11. 農林水産省「商品先物取引とは」の「先物取引の仕組み」と、「用語解説」の「反対売買」「差金決済」。 ↩

  12. 大阪取引所「日経平均ボラティリティー・インデックス先物取引の利用のコツ」(第 4 版、2024 年 11 月)の「日経平均VI先物取引制度概要」の「最終決済」(14 ページ)。 ↩

  13. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」の「2.(3)イ. 先物価格の期間構造」(33〜34 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  14. 同じ論文の「2.(3)イ.」の (1) 式とその前後(34 ページ)。論文の F(t,T)F(t, T)、S(t)S(t)、T−tT - t を、ここでは FF、SS、TT と書いています。 ↩ ↩2

  15. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」の「2.(3)イ. 先物価格の期間構造」(34 ページ)。 ↩ ↩2

  16. 同じ論文の図 3「WTI 原油の先物カーブ」(35 ページ)と、図 5 の前後の説明(36 ページ)。 ↩ ↩2

  17. 農林水産省「商品先物取引とは」の「Q&A」の Q4。 ↩ ↩2

  18. 農林水産省「商品先物取引とは」の「先物市場の役割」の「(イ)価格変動リスクの抑制(ヘッジ)機能」。 ↩

  19. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」の「2.(2)さまざまなコモディティ取引」(33 ページ)。 ↩

  20. 農林水産省「商品先物取引とは」の「Q&A」の Q5。 ↩