穀物を原料に使う飼料メーカーや食品の加工会社は、仕入れの前に原料が値上がりする場合に備え、買う価格を先物で固めることがあります。作物を売る生産者は、出荷の前に値下がりする場合に備え、売る価格を固めることがあります。

穀物とソフト・コモディティ

農産物のコモディティは、鉱山から掘り出す金属や、油田から採る原油と違い、畑や農園で育てて収穫する作物です。この記事では、トウモロコシ、大豆、小麦を穀物と呼びます。砂糖、コーヒー、カカオ、綿花のような作物は、ソフト・コモディティと呼ばれます1。ただし、米国の先物会社の StoneX のように、トウモロコシ、小麦、大豆なども含める説明もあります1。この記事では、穀物と分けて、砂糖やコーヒーのような作物を指す呼び方として使います。

日本はとうもろこしのほぼ全量を輸入していて、その大部分が米国産です。用途の約 7 割は飼料用で、飼料用の 8 割以上が、養豚用や乳牛用などの配合飼料の原料になります。食品用は、コーンスターチに加工して糖類や食品原料にするものが中心です2。

一般的なコモディティ・デリバティブの仕組みは、コモディティ・デリバティブの全体像で説明しています。

W 社が先物で仕入れの価格を固定する例

先物を使う典型は、原料の買い手が値上がりに備える使い方と、売り手が値下がりに備える使い方です。現物の市場の持ち高と反対の持ち高を先物などで取って、不利な価格の変動による損失を抑える参加者を、ヘッジャーといいます。このような取引をヘッジといいます。値上がりに備えて先物を買う取引は、買いヘッジです3。

飼料を作る W 社が、3 か月後にとうもろこし 50 トン(= 50,000 kg)を輸入商社から買う予定の架空の例で考えます。W 社は、とうもろこし先物 1 枚(取引単位が 50 トン4)を 1 トンあたり 4 万円で買い、先物の価格が 3 か月後に 4 万 8,000 円か 3 万 2,000 円になった場合を考えます。現物の価格は、先物の価格に 1 トンあたり 2,000 円を足した値で決まるとします。この 2,000 円が、現物と先物の価格の差(ベーシス)です。

3 か月後 先物の価格(円/トン) 現物の購入価格(円/トン) 現物の購入代金(万円) 先物の損益(万円) 合わせた負担(万円)
値上がり 48,000 50,000 250 40 210
値下がり 32,000 34,000 170 −40 210

値上がりしたときは、購入代金は 250 万円に増えますが、先物で(4 万 8,000 円 − 4 万円)× 50 トンの 40 万円の利益が出て、合わせた負担は 210 万円です。値下がりしたときは、購入代金は 170 万円に減りますが、先物で 40 万円の損失が出て、合わせた負担はやはり 210 万円です。値下がりでは、先物を買わなかった場合より 40 万円多く負担したことになります。値上がりと値下がりのどちらでも負担が 210 万円で変わらないことが、ヘッジの結果です。

−15,000−10,000−5,0000+5,000+10,000+15,00040,000損益(円)先物の最終的な価格(円)利益損失損益分岐点 40,000
図 1とうもろこし先物を 1 トンあたり 4 万円で買った側の損益
図の説明

とうもろこし先物を 1 トンあたり 4 万円で買った側の損益です。横軸は先物の最終的な価格、縦軸は 1 トンあたりの損益で、1 枚(50 トン)の損益はこの値の 50 倍です。損益は価格とともに同じ幅で増える直線で、4 万円のときに 0 になり、それより高いと利益、低いと損失になります。価格が 4 万 8,000 円なら 1 トンあたり 8,000 円の利益、3 万 2,000 円なら 8,000 円の損失です。W 社の場合は、この損益が現物の購入代金の増減と打ち消し合います。

ベーシスが変わると、結果も変わります。3 か月後の先物が 4 万 8,000 円で、ベーシスが 3,000 円に広がると、現物の購入価格は 5 万 1,000 円、購入代金は 255 万円です。先物の利益は 40 万円のままなので、合わせた負担は 215 万円になります。ベーシスが縮めば、負担は 210 万円より小さくなります5。ベーシスは、現物の価格から最も近い限月の先物の価格を引いた差です3。ヘッジを建ててから外すまでの間に、ベーシスが想定外に広がったり縮んだりするリスクを、ベーシスリスクと呼びます3。

反対の立場の生産者は、先物を売って将来の販売の価格を固定します。値下がりしたときは先物の利益が販売代金の減少を埋めますが、値上がりしたときは先物の損失が販売代金の増加を打ち消します。ヘッジは損失を抑える代わりに、有利な値動きの利益も手放す取引です。

収穫年度で区切る統計と、旧穀と新穀

農産物は、収穫から次の収穫までを 1 つの区切りにした収穫年度を基準に、統計が作られているものが多くみられます2。収穫年度の始まりは作物と国で違います。米国のトウモロコシと大豆は 9 月 1 日に始まり、翌年の 8 月末に終わります。たとえば 2026/27 年度は、2026 年 9 月 1 日から 2027 年 8 月末までで、2026 年に収穫した新しい作物がその年度に計上されます2。小麦の例は、表のとおり CFTC の用語集が挙げています3。

作物 収穫年度の例 資料
トウモロコシ(米国) 9 月 1 日から翌年 8 月末 日本取引所グループ
大豆(米国) 9 月 1 日から翌年 8 月末 日本取引所グループ、CFTC
小麦 7 月 1 日から 6 月 30 日 CFTC(例として)

収穫年度が暦年の途中で切り替わるため、すでに収穫された古い作物(旧穀)と、これから収穫される新しい作物(新穀)で、価格が別物のように動くことがあります。春から新穀が収穫されるまでを天候相場、収穫後から春の前までを需給相場と呼ぶこともあります2。

とうもろこしの価格は、米国の主な産地であるコーンベルトの作柄に大きく影響されます。日本のとうもろこしは輸入品なので、為替や輸送の運賃の変動も価格に響きます。このほか、転作が可能な大豆と小麦の動向も、価格に響きます。米国農務省(USDA)が発表する在庫率や輸出量の推移と、原油の価格に左右されるバイオエタノールの需要も、価格に響きます2。

日本の取引所のとうもろこしと大豆の先物

取引所の起源とされる堂島米市場は、1730 年に江戸幕府が公認しました6。現在、大阪取引所には、とうもろこし先物と一般大豆先物が上場しています。この 2 つの規格を次の表で比べます。どちらも 2013 年 2 月 12 日に東京商品取引所で取引が始まり、2020 年 7 月 27 日に大阪取引所へ移りました。表の項目は、日本取引所グループの「制度概要(とうもろこし先物)」と「制度概要(一般大豆先物)」によります47。

項目 とうもろこし先物 一般大豆先物
標準品 米国産黄とうもろこしのうち、米国農務省の穀物検査規格 No.3(未通関のもの) 米国産黄大豆のうち、米国農務省の穀物検査規格 No.2 で、遺伝子組換えと非遺伝子組換えが分別されていないもの
取引単位 50,000 kg 25,000 kg
呼値の単位 1,000 kg あたり 10 円 1,000 kg あたり 10 円
限月 1、3、5、7、9、11 月のうち直近 6 限月 2、4、6、8、10、12 月のうち直近 6 限月
取引最終日 各限月の前月 15 日 各限月の 15 日
決済 転売か買戻し、または現物の受渡しによる最終決済 同じ

どちらも現物先物取引で、満期まで持つと実際に現物を受け渡します。とうもろこしの受渡場所は、川崎、横浜、千葉、鹿島の各港にある取引所の指定の埠頭4で、一般大豆は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県にある指定の倉庫です7。

買い手は、取引最終日の日中立会の出来高加重平均価格(VWAP)で決まる受渡値段をもとに、受渡代金を支払います4。日中立会の時間は、レギュラー・セッションが 8:45〜15:40、クロージングが 15:45 です4。

満期の前に転売か買戻しで手仕舞うと、確定した損益の差(差金)だけを授受する差金決済になります8。満期まで持つと現物の受渡しで最終決済します4。

先物を原資産にしたオプションは先物オプションと呼ばれます3。

ソフト・コモディティの規格

ソフト・コモディティの例として、米国の ICE Futures U.S. のコーヒー C 先物を見ます。取引単位は 37,500 ポンドで、アラビカ種を 20 の国から受け渡せます。国ごとに割増しや割引があり、現物の受渡しで決済します9。日本の 2 商品のように標準品を 1 つに決める先物と違い、産地ごとの割増しと割引で受渡しできる範囲を広げる規格もあります。

リスク(天候、ベーシス、証拠金)

春から新穀が収穫されるまでの相場は、天候相場と呼ばれることがあります2。ヘッジをしていない買い手は、値上がりの影響を受け、先物の売り手は、同じ値上がりで損失が出ます。気温や降水量の指数そのものを対象にして、天候による収益の変動に備える取引もあります。

W 社の例のように、ヘッジを外すまでにベーシスが想定外に変わると、合わせた負担も変わります。これがベーシスリスクです。

現物先物では、満期まで持つと現物の受渡しになります。受渡しを望まない参加者は、取引最終日の前に転売か買戻しで手仕舞います。損益の精算に使う値洗いと証拠金の仕組みは、先物の証拠金と値洗いで説明しています。

この記事が書いていないこと

日本の取引所の農産物のオプションは、この記事では扱いません。

注

  1. StoneX「What are softs?」(金融用語集)の冒頭の定義と、含まれる商品の一覧("coffee, cocoa, sugar, corn, wheat, soybeans, fruit, cotton, rice, and livestock")。 ↩ ↩2

  2. 日本取引所グループ「商品概要(とうもろこし先物)」の「とうもろこしとは」の 3 段落(輸入、用途、価格に響く要因)と、「とうもろこしの価格形成上の特徴」の段落(旧穀と新穀、天候相場と需給相場、収穫年度、米国の収穫年度の例)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  3. U.S. Commodity Futures Trading Commission「CFTC Glossary」(Futures Glossary)の「Crop Year」「Basis」「Basis Risk」「Hedger」「Long Hedge」「Option on Futures」の各項目。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  4. 日本取引所グループ「制度概要(とうもろこし先物)」(2024 年 11 月 4 日更新)の「取引種類」「標準品」「取引開始日」(2020 年 7 月 27 日の移管の注を含む)「限月取引」「取引最終日」「立会時間」「取引単位」「呼値の単位」「受渡値段」「受渡場所」「受渡方法」「決済方法」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  5. 損益には手数料と、実際の輸入にかかる費用(為替の換算、運賃の変動など)を含めていません。数値はすべて架空です。 ↩

  6. 日本取引所グループ「堂島米市場」(ページの冒頭の段落)。享保 15 年(1730 年)の公認。 ↩

  7. 日本取引所グループ「制度概要(一般大豆先物)」(2024 年 11 月 4 日更新)の「取引種類」「標準品」「取引開始日」「限月取引」「取引最終日」「取引単位」「呼値の単位」「受渡場所」「決済方法」。 ↩ ↩2 ↩3

  8. 日本取引所グループ「用語集」の「差金決済」の項目。 ↩

  9. ICE Futures U.S.「Coffee C Futures」(商品のページ)の「Contract Size」「Settlement」と、受渡しできるコーヒーの産地の割増しと割引の一覧。 ↩ ↩2