経理はヘッジ会計の適用で、システムの担当は限月ごとの取引単位の管理で、この取引に関わります。
貯められない電力の価格の動き方
電力は、ほかのコモディティと違って貯めておくことが難しい財です。電力システムを維持するため、30 分ごとの発電(供給)と消費(需要)を同じ量にしなければならず、これを「同時同量の原則」といいます。今のスポット価格と、先の期間を対象にした先物の価格の間には、保管を通じた裁定の関係がありません1。先物の価格と現物の価格の一般の関係(保管費用とコンビニエンス・イールド)は、コモディティ・デリバティブの全体像で扱います。
スポット市場の価格は、30 分ごとに、その時点の需要と発電できる量の釣り合いで決まります。前日に計画を決めた後に、気温が上がって需要が増えたり、発電所が事故で止まったりすると、小売電気事業者や発電事業者は足りない分を当日市場で買い足すことができます2。2016 年 4 月に電力の小売が全面自由化された後、スポット市場の取引量は増え、2025 年 2 月時点で国内の電力の総需要の約 3 割を占めています。一方で、再生可能エネルギーの拡大や世界の液化天然ガス(LNG)の需給の引き締まりを背景に、スポット価格が急に大きく動くことが起きています3。そのため、電力を売る発電事業者と、電力を買って家庭や企業に売る小売電気事業者の両方に、価格の変動をヘッジする必要が生じています。
JEPX のスポット市場とエリアの価格
2019 年 1 月版の取引ガイドによると、日本卸電力取引所(JEPX)は、電力の現物を売買する会員制の取引所です。取引会員の要件の一つは、送配電網を通じて電力を受け渡す契約を結んだ、電力の実物を扱う事業者であることで、ほかに純資産額の要件もあります4。JEPX の中心は、翌日に受け渡す電力を取引する一日前市場(スポット市場)で、その後の調整に使う当日市場(時間前市場)もあります。発電事業者は発電の計画のうち売り先の決まっていない量を売り、小売電気事業者は需要の予測に対して足りない量を買います2。
スポット市場では、1 日を 30 分ずつに区切り、48 の商品として売買します。売買の単位は 0.1MW(30 分で 50kWh)、価格は 1kWh あたりの円で 0.01 円刻みです5。入札は毎日 10 時に締め切り、JEPX はその日のうちに翌日の分の約定を計算します6。参加者はほかの参加者の入札が見えない状態で入札し、JEPX は締め切った後にすべての売りと買いを合わせて、需要と供給の曲線の交点で約定価格と量を決めます。参加者は自分の入札した価格によらず、この 1 つの約定価格で売買します(ブラインド・シングルプライスオークション)7。
全国の入札を合わせて求めた価格をシステムプライスといいます。ただし、地域の間をつなぐ送電線(連系線)に流せる量には上限があります。流せる量を超えるときは、たとえば東日本と西日本に分けて計算し直し、それぞれの約定価格(エリアプライス)で売買を成立させます。これを市場分断といいます8。電力先物は、このエリアプライスを決済の基準にしています。
東京商品取引所と EEX の電力先物
東京商品取引所の電力先物は、JEPX のスポット市場の価格を対象にした、現物を受け渡さない差金決済の先物取引です。対象のエリアと時間帯の組み合わせで、次の 6 つが上場しています9。対象の価格と時間帯は、月間物の制度概要によります10。
| 商品 | 対象の価格 | 対象の時間帯と日 |
|---|---|---|
| 東エリア・ベースロード | JEPX の東京エリアプライス | 0:00〜24:00、暦日 |
| 西エリア・ベースロード | JEPX の関西エリアプライス | 0:00〜24:00、暦日 |
| 中部エリア・ベースロード | JEPX の中部エリアプライス | 0:00〜24:00、暦日 |
| 東エリア・日中ロード | JEPX の東京エリアプライス | 8:00〜20:00、平日 |
| 西エリア・日中ロード | JEPX の関西エリアプライス | 8:00〜20:00、平日 |
| 中部エリア・日中ロード | JEPX の中部エリアプライス | 8:00〜20:00、平日 |
ベースロードは 1 日 24 時間を通した一定の量の電力を、日中ロードは平日の 8 時から 20 時までの 12 時間の電力を対象にしています。対象にする期間の長さで、月間物、週間物、年度物の取引があります9。月間物の主な条件は次のとおりです10。
| 項目 | 月間物の条件 |
|---|---|
| 最終決済価格 | 対象のエリアプライスの、その月の平均価格(ベースロードは暦日、日中ロードは東京商品取引所が指定する平日) |
| 取引単位 | ベースロードは「月の暦日数 × 24 時間 × 100kWh」、日中ロードは「月の平日の日数 × 12 時間 × 100kWh」 |
| 呼値の単位 | 1kWh あたり 0.01 円 |
| 限月 | 24 限月 |
| 取引最終日 | ベースロードは限月の末日の前営業日、日中ロードは限月の最終平日の前営業日 |
| 最終決済日 | 限月の翌月の第一営業日 |
| 証拠金 | 日本証券クリアリング機構が VaR(バリュー・アット・リスク)方式で計算 |
取引単位は、1 時間あたり 100kWh(0.1MW)の電力を、対象の期間を通して合わせた量にあたります。30 日の月のベースロードなら 1 枚は 30 × 24 × 100 = 72,000kWh で、限月の日数によって 1 枚の量が変わります。東京商品取引所の上場商品デリバティブ取引は、2020 年 7 月から日本証券クリアリング機構(JSCC)が清算していて、JSCC は売買の当事者に代わって決済の相手方になります11。月間物は 2019 年 9 月 17 日に試験上場し、2022 年 4 月 4 日に本上場しました10。電力先物の口座を開いた参加者は、2019 年 9 月の市場の開設のときの 13 社から、2024 年 12 月時点で 200 社近くに増え、100 社を超える国内の電気事業者が実際に取引しています3。
JSCC は、清算する上場デリバティブを少なくとも 1 日 1 回値洗いし、値洗いに伴う差金を清算参加者との間で受け払いしています12。値洗いは先物の建玉を日々評価し直すことで、取引参加者と顧客の間でも毎日行われます13。先物を買った人が約定から最終決済までに受け取る額の合計(日々の値洗いの差額を含む)は、次の式で表せます。最終決済価格を 、約定価格を (どちらも 1kWh あたりの円)、1 枚の取引単位を (kWh)、枚数を とします。値が負なら、その額を払います。売った人の受け払いは、金額が同じで向きが逆です。
欧州のエネルギーの取引所 EEX(European Energy Exchange)も、2020 年 5 月から日本の電力の先物を扱っていて、対象のエリアには東京、関西、中部があります。2025 年 2 月からは東京と関西のエリアの月間のオプションも扱い、このオプションは対象の月の JEPX のスポット価格の平均で決済します。EEX の日本の電力の取引は、取引所の板で約定したものも、ブローカーを通じて登録したものも、清算機関 ECC(European Commodity Clearing)で清算します14。
小売電気事業者と発電事業者のヘッジ
小売電気事業者は、顧客の需要に対して足りない分をスポット市場で買うため、スポット価格が上がると調達の費用が増えます。将来スポット市場で買う予定の電力と同じエリア、同じ期間、同じ量の電力先物を買うと、ヘッジを始めたときに将来の調達の費用を固定できます15。
手数料は考えず、東京エリアの小売電気事業者 F 社が、30 日ある翌月に、スポット市場から 1 時間あたり 1,000kWh(1MW)の電力を一定に買う予定の架空の例で考えます。F 社は、東エリア・ベースロードの翌月の限月を、1kWh あたり 10 円で 10 枚買います。10 枚の量は 72,000kWh × 10 = 72 万 kWh で、F 社がひと月に買う予定の量と同じです。
| 翌月の東京エリアプライスの平均 | 15 円 | 10 円 | 7 円 |
|---|---|---|---|
| スポット市場での買いの代金(F 社の支払い) | 1,080 万円 | 720 万円 | 504 万円 |
| 先物の受け払い(約定から最終決済までの合計) | +360 万円 | 0 円 | −216 万円 |
| 差し引きの費用 | 720 万円 | 720 万円 | 720 万円 |
| 1kWh あたりの費用 | 10 円 | 10 円 | 10 円 |
翌月の平均が 15 円に上がると、F 社はスポット市場で 72 万 kWh × 15 円 = 1,080 万円を払います。先物では、約定から最終決済までに合わせて(15 − 10)× 72 万 kWh = 360 万円を受け取ります。平均が 7 円に下がると、スポット市場での支払いは 504 万円に減る一方、先物では(7 − 10)× 72 万 kWh = −216 万円で、216 万円を払います。どちらの場合も、差し引きの費用は 720 万円、1kWh あたり 10 円です。価格が下がったときに先物で払う 216 万円の分だけ、F 社は安くなったスポット価格の恩恵を受けられません。表は、F 社が毎時間同じ量を買い、その量が先物の量とちょうど同じときの結果です。
図の説明
小売電気事業者の F 社は、JEPX のスポット市場から翌月に電力 72 万 kWh を受け取り、翌月の平均の価格が 1kWh あたり 15 円なら、代金として合わせて 1,080 万円を JEPX に払います。F 社は同じ量の電力先物を 1kWh あたり 10 円で買っているため、約定から最終決済までに、清算機関から合わせて 360 万円を受け取ります。差し引きの費用は 720 万円で、1kWh あたり 10 円に固定されます。
発電事業者は、発電した電力をスポット市場で売るため、スポット価格が下がると収入が減ります。そのため、将来の売りと同じ方向の取引、つまり電力先物の売りでヘッジします15。例と同じ量の先物を 10 円で売っていれば、平均が 7 円に下がったときは、スポット市場での収入が 504 万円に減る代わりに先物で合わせて 216 万円を受け取ります。平均が 15 円に上がったときは、スポット市場での収入が 1,080 万円に増える代わりに先物で 360 万円を払い、どちらの場合も収入は 720 万円です。
店頭で結ぶ固定価格のスワップ
電力の価格のヘッジは、取引所の先物のほか、2 者が相対で結ぶ店頭デリバティブの取引でもできます。固定価格のスワップでは、決めた量について、当事者の一方が固定の価格を払い、もう一方がスポット価格の期間の平均を払う約束をし、実際には差額だけを受け払いします。F 社の例で、F 社が固定の 10 円を払い、相手方が東京エリアプライスの翌月の平均を払う 72 万 kWh 分のスワップを結ぶと、差額の受け払いは先物を 10 円で 10 枚買ったときと同じになります。
商品先物取引法は、一定の期間の一定の電力を単位として取引する電力を、「商品」に含めています17。取引所の市場によらずに、約定した価格と将来の現実の価格の差で金銭を受け払いする取引は、同法の「店頭商品デリバティブ取引」に当たります18。
ヘッジで残るリスク
先物で固定できるのは、対象のエリアで、期間を通して一定の量の電力を、期間の平均の価格で買う(売る)費用です。小売電気事業者の実際の需要は 30 分ごとに変わるため、需要の多い時間帯に価格も高いと、実際の調達の費用は平均の価格で計算した額より高くなります。経済産業省と東京商品取引所が 2025 年 2 月にまとめたヘッジ会計の報告書は、電気事業者の実態として、この需要の山と谷の部分も実際の需要で、価格の変動のリスクが特に大きいところだとしています19。先物の量を需要の最も少ない時間帯に合わせると、それを超える部分はヘッジされずに残ります。ヘッジの対象(予定取引)の決め方の一つは、期間の中で最も少ない時間帯の量をベースロードで固定することです。平日の 8 時〜20 時にそれを超える量は、日中ロードで追加して固定することもできます16。それでも、30 分ごとの需要の形との差は残ります。
エリアの違いも差を生みます。市場分断が起きるとエリアごとの価格が分かれるため、先物の対象のエリアと実際に取引するエリアが違えば、先物の受け払いとスポット市場の支払いが打ち消し合いません8。また、ヘッジした量より実際の買いや売りが少ないと、その分は先物の損益だけが残ります。売りのヘッジでは、太陽光の発電による供給の過剰で、スポット価格が 1kWh あたり 0.01 円でも売れ残ることがあり、予定した量を売れないおそれがあります20。
取引所の先物では、参加者は証拠金を預けます10。また、先物の建玉は毎日値洗いされ、清算参加者と JSCC の間では値洗いの差金を毎日、日本円で受け払いします12。そのため、買いでヘッジした小売電気事業者は、価格が下がると、対象の期間より前から値洗いで先物の損失が出ます。スポット市場での買いの代金が減るのは対象の期間になってからなので、その間の資金を先に用意する必要が出ることがあります21。証拠金の預け方と、価格の動きで日々の損益を受け払いする仕組みは、先物の証拠金と値洗いで扱います。店頭のスワップは、清算機関を通さない相対の取引なら、決済の相手は取引の相手方そのもので、相手方が差額を払えなくなるリスクが残ります11。
システムと業務での扱い
東京商品取引所の電力先物の最終決済価格は、JEPX のスポット市場のエリアプライスから計算します。ヘッジ会計の報告書が示すテストの方法では、予定した取引を実行した時点でヘッジの効果を確かめるときに、予定した取引の側は 30 分ごとのスポット市場の約定価格を使います。先物の側は、最終決済価格のもとになった 30 分ごとの約定価格を使います16。そのため、ヘッジ会計を使うには、限月ごとの約定価格と枚数に加えて、30 分ごとのエリアプライスと、自社がスポット市場で買ったり売ったりした量を持つ必要があります。
注
-
経済産業省 商務・サービスグループ、東京商品取引所「電力先物におけるヘッジ会計適用に関する報告書」(2025 年 2 月)の 2 ページ、「(2)ヘッジ対象となる電力の特性」。 ↩
-
経済産業省 商務・サービスグループ、東京商品取引所「電力先物におけるヘッジ会計適用に関する報告書」(2025 年 2 月)の 2 ページ、「(1)電力システム改革と市場リスクへの対応」。 ↩ ↩2
-
日本卸電力取引所「日本卸電力取引所取引ガイド」(2019 年 1 月版)の 5 ページ、「取引の準備」。 ↩
-
同じ資料の 7 ページ、「取引の単位」。 ↩
-
同じ資料の 8 ページ、「入札受付時間」。 ↩
-
同じ資料の 9 ページ、「約定の方法」。 ↩
-
東京商品取引所「制度概要(月間物取引)(電力先物)」(2026 年 4 月 13 日更新)のベースロード電力と日中ロード電力の表。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の沿革(2020 年 7 月の株式会社日本商品清算機構との合併と、東京商品取引所などの上場商品デリバティブ取引の清算業務の開始)と、「「清算機関」の機能」。 ↩ ↩2
-
日本証券クリアリング機構「リスク管理 証拠金」(2024 年 12 月 18 日現在)の 2 段落目と、「各清算業務における証拠金算出スケジュール」の先物・オプション取引の注 1。 ↩ ↩2
-
日本取引所グループ「値洗い(用語集)」。 ↩
-
European Energy Exchange AG "Japanese Power Market" の "Japanese Power Futures"、"Order Book Trading"、"EEX Japan Power Options" の項。 ↩
-
経済産業省 商務・サービスグループ、東京商品取引所「電力先物におけるヘッジ会計適用に関する報告書」(2025 年 2 月)の 3 ページ、「(3)ヘッジ手段となる電力先物とヘッジ会計」と、18 ページの「② 事前テスト」(買いヘッジと売りヘッジ)。 ↩ ↩2
-
同じ資料の 18〜19 ページ、「(1)電力ヘッジに対するヘッジ会計適用」の「② 事前テスト」〜「⑤ 事後テスト」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
「商品先物取引法」第 2 条第 1 項第 4 号。 ↩
-
「商品先物取引法」第 2 条第 14 項第 2 号。 ↩
-
経済産業省 商務・サービスグループ、東京商品取引所「電力先物におけるヘッジ会計適用に関する報告書」(2025 年 2 月)の 10 ページ、「② 期間中の合計数量(期間平均数量)に合せた箱型」。 ↩
-
同じ資料の 5 ページ、「【課題2】ヘッジ対象の予定取引の適格要件(事前テスト)」。 ↩
-
日本卸電力取引所「日本卸電力取引所取引ガイド」(2019 年 1 月版)の 10 ページ、「清算決済(買い代金支払,売り代金受領)について」。 ↩ ↩2
-
経済産業省 商務・サービスグループ、東京商品取引所「電力先物におけるヘッジ会計適用に関する報告書」(2025 年 2 月)の 3 ページ、「(3)ヘッジ手段となる電力先物とヘッジ会計」。 ↩