原油の仕入れを担う購買の担当者や、生産した原油や天然ガスを売る販売の担当者が、将来の仕入れ値や売値を先物で前もって決めておく場面で、エネルギーのデリバティブが出てきます。

原油の価格の指標

原油の価格は、指標になる原油の価格をもとに決まります。世界の原油の市場で主な指標は、WTI 原油、ブレント原油、ドバイ原油(オマーン原油との平均)の 3 つです。指標ごとに産地と、その価格をもとに取引される原油の地域が違います1。

指標 産地と性質 その価格をもとに取引される主な原油
WTI 原油 米国産の軽質で硫黄分の少ない原油。オクラホマ州クッシングの取引の拠点の価格 米国産の原油、カナダ・メキシコ・南米から米国が輸入する原油
ブレント原油 北海で生産される 4 つの軽質で硫黄分の少ない原油(ブレント、フォーティーズ、エコフィスク、オーセバーグ) 欧州、地中海、アフリカのほか、オーストラリアとアジアの一部の原油
ドバイ原油 ドバイ原油とオマーン原油(どちらも中質で硫黄分の多い原油)の価格の平均 中東で生産されてアジアに輸出される原油

指標として広く使われる原油には、生産が安定していて量が多いこと、透明で自由な市場があること、十分な貯蔵の設備があること、ほかの市場の拠点と取引しやすい受渡しの場所があること、といった共通の性質があります1。

日本が輸入する原油のほとんどは中東産で、中東で生産されてアジアに輸出される原油は、ドバイ原油の指標をもとに取引されます1。日本は原油を主にサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールなどの中東から輸入していて、2023 年度の原油の輸入に占める中東の割合(中東依存度)は 94.7% でした2。

原油の先物は決済の方法が指標ごとに違う

ここでは 3 つの指標の先物取引として、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の WTI 原油の先物、ICE Futures Europe のブレント原油の先物、東京商品取引所のドバイ原油の先物を取り上げます。満期まで持ったときの決済の方法は、指標ごとに違います。

先物 取引所 満期まで持ったときの決済
WTI 原油の先物 NYMEX クッシングでの原油の受渡決済
ブレント原油の先物(Brent Crude Futures) ICE Futures Europe 受渡決済が基本で、ICE Brent Index の価格による差金決済も選べる
プラッツドバイ原油先物 東京商品取引所 その限月の月のドバイ原油の平均価格による差金決済

WTI 原油の先物を取引の最後まで持った人は、事前に別の取り決めをしていなければ、クッシングで原油を受け渡します。ただし、多くの参加者は受渡しを避けるため、満期の前に反対の取引をして先物を手放します。受渡しまで進む先物は、取引された量の 1% ほどです3。

ブレント原油の先物の取引単位は 1,000 バレルで、価格は 1 バレルあたりのドルで表します。差金決済を選んだときに使う ICE Brent Index の価格は、取引の最終日の次の取引日に取引所が公表します4。

東京商品取引所のプラッツドバイ原油先物は、ドバイ原油の価格を指標とする中東産の原油を対象にした先物です。取引単位は 50 キロリットル(1 枚)で、価格は 1 キロリットルあたりの円で表します。満期まで持った取引は、その限月の月のドバイ原油の平均価格を円に換算した最終決済価格で、差額だけを受け払いします5。

原油の仕入れ値を固定する例

プラッツドバイ原油先物は、限月の月のドバイ原油の平均価格で差金決済します。そのため、同じ月の平均価格で購入の価格が決まる原油の仕入れ値を、前もって固定するのに使えます。原油の買い手は先物を買って将来の購入の価格を、生産者は先物を売って将来の販売の価格を、いま決めておけます。この使い方をヘッジといいます。原油の先物は、原油を生産も消費もしないで値動きから利益を狙う投機の参加者も売買しています6。

原油を仕入れる E 社が、2027 年 1 月に中東産の原油 50 キロリットルを、1 月のドバイ原油の平均価格(円に換算した値)で買う契約の架空の例で考えます。E 社は値上がりに備えて、2027 年 1 月限のプラッツドバイ原油先物を 1 キロリットルあたり 7 万円で 1 枚買いました。

1 月の平均価格(円/kl) 原油の購入代金(万円) 先物の損益(万円) 合わせた負担(万円)
80,000 400 50 350
60,000 300 −50 350

1 月の平均価格が 8 万円に上がると、E 社の購入代金は 8 万円 × 50 キロリットルで 400 万円です。一方で先物は、(8 万円 − 7 万円)× 50 キロリットルで 50 万円の利益になり、合わせた負担は 350 万円です。平均価格が 6 万円に下がると、購入代金は 300 万円に減りますが、先物で 50 万円の損失が出て、合わせた負担はやはり 350 万円です7。

−30,000−20,000−10,0000+10,000+20,000+30,00070,000損益(円)最終決済価格(円)利益損失損益分岐点 70,000
図 1プラッツドバイ原油先物を 1 キロリットルあたり 7 万円で買った側の損益
図の説明

プラッツドバイ原油先物を 1 キロリットルあたり 7 万円で買い、満期まで持った側の損益です。横軸は最終決済価格、縦軸は 1 キロリットルあたりの損益で、1 枚(50 キロリットル)の損益はこの値の 50 倍です。損益は最終決済価格とともに同じ幅で増える直線で、7 万円のときに 0 になり、それより高いと利益、低いと損失になります。最終決済価格が 9 万円なら 1 キロリットルあたり 2 万円の利益、5 万円なら 2 万円の損失です。E 社の場合は、この損益が原油の購入代金の増減と打ち消し合います。

この例で負担が変わらないのは、購入の価格と先物の最終決済価格が同じ指標の同じ月の平均で決まり、購入の量と先物の量がどちらも 50 キロリットルで同じとしたためです。購入の価格が別の指標や別の期間の平均で決まるときは、先物の損益と購入代金の増減がずれ、負担は一定になりません。

天然ガスと LNG の価格

米国の天然ガスの価格の指標は、ルイジアナ州エラスにあるヘンリー・ハブの価格です。ヘンリー・ハブは、NYMEX の天然ガスの先物が受渡決済されるときの受渡しの場所で、米国の取引拠点で売買される天然ガスの多くはヘンリー・ハブの価格をもとに値付けされます8。NYMEX で天然ガスの先物の取引が始まったのは 1990 年で、天然ガスの先物も、原油と同じく生産者と消費者のヘッジに使われます。受渡しまで進む NYMEX の天然ガスの先物は 2% 未満です9。

天然ガスは気体のままパイプラインで運ぶか、−162℃ まで冷やして液体にした液化天然ガス(LNG)としてタンカーで運びます。日本は 2023 年度に天然ガスの 97.9% を輸入していて、輸入分はすべて LNG でした10。日本の LNG の輸入価格は、基本的に原油の価格に連動します。LNG の大半を長期契約で買っていて、その価格の多くが日本向けの原油の平均輸入価格に連動するためです10。一方で、米国からの LNG はヘンリー・ハブの価格に連動するものが多く、スポットで買う LNG は相対の交渉で価格を決めます10。

東京商品取引所には、LNG(プラッツJKM)先物が上場しています。対象は日本と韓国を仕向け地としてスポットで取引される LNG で、取引単位は 1,000 mmBtu(1 枚)、価格は 1 mmBtu あたりの円で表します。満期まで持った取引は、限月の前々月の 16 日から前月の 15 日までの平均価格を円に換算した最終決済価格で、差金決済します11。

クラック・スプレッド

石油製品の卸売の価格と原油の価格の差を、クラック・スプレッドといいます。原油の費用と、原油から作る製品の売値を比べるため、石油精製の利幅の目安に使われます12。ただし、クラック・スプレッドは原油以外の精製の費用を含まず、ガソリンや軽油などの一部の製品だけで計算する簡単な目安です12。

よく使われるのが 3:2:1 クラック・スプレッドで、ガソリン 2 バレルと留出油(軽油や暖房油など)1 バレルの価格の合計から、原油 3 バレルの価格を引いて求めます。米国の精製では、留出油 1 バレルに対しておよそ 2 バレルのガソリンができるため、この比にしています12。原油が 1 バレル 70 ドル、ガソリンが 85 ドル、留出油が 100 ドルの架空の例で考えます。このとき 85 × 2 + 100 − 70 × 3 で 60 ドル、原油 1 バレルあたり 20 ドルです。原油の価格が変わらずにガソリンが 70 ドルに下がると、70 × 2 + 100 − 70 × 3 で 30 ドル、1 バレルあたり 10 ドルに縮みます。

石油製品の先物もあり、米国ではガソリンと留出油の先物で、将来に受け渡す製品を売買したり、価格の変動をヘッジしたりできます13。原油の先物を買い、製品の先物を売る組み合わせでは、原油と製品の価格の差、つまりクラック・スプレッドをいま決めることになります。クラック・スプレッドは製品によって季節で動きやすく、米国ではガソリンは春から夏に、留出油は 10 月から 2 月に高くなりやすい傾向があります13。

WTI 原油先物のマイナス価格

2020 年 4 月 20 日、NYMEX の WTI 原油の、満期の最も近い(期近の)先物は、取引が始まった 1983 年以来初めてマイナスの価格を付けました。米国東部時間の午後 2 時 30 分ごろには 1 バレル −40.32 ドルまで下がり、次の取引日の一部でも 0 を下回りました3。マイナスの価格では、売り手がお金を払い、買い手がお金を受け取ります14。

背景には、受渡決済の仕組みと、原油の貯蔵の余地の不足がありました。新型コロナウイルス感染症の広がりで原油と石油製品の消費が急に減り、余った原油が貯蔵に回っていました。4 月 17 日時点で、クッシングの在庫は 6,000 万バレルでした。そのうち約 200 万バレルはパイプラインなどで運ばれている途中で、タンクにある 5,800 万バレルは、使える貯蔵能力 7,600 万バレルの 76% に当たります3。空いている貯蔵にも、すでに契約済みのものがあるとみられ、取り決めのない先物の買い手が借りるには、高い費用がかかるとみられる状況でした。そのため、受渡しを避けたい買い手の一部が、相手にお金を払ってでも先物を売って手放しました3。

マイナスの価格は、取引最終日が近づいていた、2020 年 5 月に受け渡す限月の先物で起きました。2020 年 6 月に受け渡すブレント原油の先物は、4 月 21 日に 1 バレル 19.33 ドルで取引を終えました。WTI 原油の先の限月の先物もプラスの価格でした3。

リスク:価格の変動と受渡しの制約

先物の買い手は価格が下がると、売り手は価格が上がると損失が出ます。損益を日々精算する値洗いと証拠金の仕組みは先物の証拠金と値洗いで扱います。2020 年 4 月の WTI 原油の先物のように、価格が 0 を下回ることもあり、そのときの買い手の損失は、買った値段の全額より大きくなります3。

受渡決済の先物では、満期まで持つと実際に原油を受け取ったり渡したりする必要があります。受け取る場所や貯蔵の手当てがない参加者は、取引最終日の前に反対の取引をして手放す必要があり、2020 年 4 月にはそれが価格を押し下げました3。

ヘッジでは、ヘッジの対象の価格と先物の指標が違うと、損益が打ち消し合わない部分が残ります。

コンタンゴとバックワーデーションのような限月の間の価格の並びと、コモディティ・デリバティブの全体の仕組みはコモディティ・デリバティブの全体像で扱います。

注

  1. U.S. Energy Information Administration「Benchmarks play an important role in pricing crude oil」(Today in Energy、2014 年 10 月 28 日)の、指標に共通の 4 つの性質の段落と、Brent、WTI、Dubai/Oman のそれぞれの段落、図の注。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年版)」第 1 章第 3 節(「1.化石エネルギーの動向」の「(1)石油」。原油の輸入先と中東依存度の段落)。 ↩

  3. U.S. Energy Information Administration「Low liquidity and limited available storage pushed WTI crude oil futures prices below zero」(Today in Energy、2020 年 4 月 27 日)の第 1〜7 段落。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  4. ICE Futures Europe「Brent Crude Futures」(商品のページ)の「Contract Size」「Currency」「Trading Price」と「Delivery/Settlement Terms」。 ↩

  5. 東京商品取引所「制度概要(プラッツドバイ原油先物)」(2024 年 11 月 4 日更新)の取引種類、現金決済先物取引の対象、取引最終日、最終決済日、取引単位、呼値の単位、最終決済価格の各項目。 ↩ ↩2

  6. U.S. Energy Information Administration「Oil prices and outlook」(2023 年 8 月 16 日更新)の「Different types of oil market transactions are available」の段落。 ↩

  7. 損益には手数料と、換算のレートの違いを含めていません。 ↩

  8. U.S. Energy Information Administration「Market dynamics vary at key natural gas pricing hubs」(Today in Energy、2024 年 10 月 23 日)の Henry Hub の段落。 ↩

  9. U.S. Energy Information Administration「What is the natural gas futures market?」(Today in Energy、2024 年 7 月 29 日)の、先物の決済("settle both physically and financially")の段落と、1990 年の取引の開始の段落。 ↩

  10. 資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年版)」第 1 章第 3 節(「(2)ガス体エネルギー」の冒頭の段落と、「①天然ガス」の「(ア)供給の動向」「(ウ)価格の動向」)。 ↩ ↩2 ↩3

  11. 東京商品取引所「制度概要(LNG(プラッツJKM)先物)」(2024 年 11 月 4 日更新)の取引種類、現金決済先物取引の対象、取引単位、呼値の単位、最終決済価格の各項目。 ↩

  12. U.S. Energy Information Administration「An introduction to crack spreads」(Today in Energy、2011 年 6 月 2 日)。定義と精製の利幅の目安は第 1 段落、3:2:1 クラック・スプレッドは「Multiple-product crack spreads」の段落。 ↩ ↩2 ↩3

  13. U.S. Energy Information Administration「What drives petroleum product prices: Prices and crack spreads」の、先物の対象の製品と季節の傾向の各 2 段落。 ↩ ↩2

  14. 資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年版)」第 1 章第 3 節(注 13、「マイナス価格」の意味)。 ↩