先物を取引する顧客の証拠金の管理や、証券会社などと清算機関の間の毎日の決済では、損益を毎日計算して証拠金の過不足を確かめます。
取引の担保としての証拠金
先物の証拠金は、まだ決済していない先物の取引から出る損失に備えて差し入れる担保です。取引に対して差し入れることが求められる証拠金の額を、証拠金の所要額といいます。価格 1,000 の先物を 1 枚買い、価格が 1 動くと 1 枚あたり 1 万円の損益が出る架空の例で考えます。この 1 枚の取引の大きさは、1,000 に 1 万円を掛けた 1,000 万円です。所要額が 1 枚 50 万円なら、取引の大きさの 20 分の 1 の担保で取引していることになり、価格が 50(5%)下がると、損失は所要額と同じ 50 万円になります。先物という取引の仕組みは先渡しと先物で扱います。
先物を取引して、まだ転売や買戻し、最終決済で決済していないものを未決済約定といい、その数量を建玉(たてぎょく)といいます1。証拠金は、この建玉に対して求められます。
日本証券クリアリング機構(JSCC)は、大阪取引所、東京商品取引所、堂島取引所に上場している先物・オプションの清算をしています。顧客がこれらの先物を取引するときは、証券会社などに先物・オプション取引の口座を設け、取引した日の翌日までに証拠金を差し入れる決まりです。ただし、JSCC によると、ほとんどの証券会社は取引を始める前に一定以上の証拠金の差し入れを求めています。顧客が差し入れた証拠金は、証券会社などを通じて清算機関の JSCC に預けられます2。
JSCC の清算資格を持つ証券会社などを、清算参加者といいます3。清算参加者は、顧客の証拠金を自分の金銭や有価証券に差し換えて JSCC に預けることも認められています(差換預託)。顧客に求める証拠金の額は、JSCC が計算した額以上の範囲で、証券会社ごとに決めています。差し入れの方法も証券会社ごとに違います2。証拠金は金銭のほか、有価証券で代用することもできます4。
毎日の損益を求める値洗い
値洗いは、先物の建玉を毎日の清算値段(先物では通常その日の終値)で評価し直すことです56。上の例で、1,000 で買った建玉のその日の清算値段が 995 なら、値下がりの 5 に 1 万円を掛けた 5 万円がその日の損失です。次の日の清算値段が 1,010 なら、前の日の 995 から 15 上がったので、その日は 15 万円の利益になります。
清算値段は、日々の値洗いや証拠金の計算に使う値段です。先物の清算値段にする終値には、最終気配値段も含みます6。指数先物では、同じように値洗いに使う値を清算数値と呼び、原則として 1 日の最後の約定値段を使います7。
先物の損益は、価格の差に取引単位と枚数を掛けて求めます。上の例では、価格 1 あたり 1 万円の掛け目が取引単位にあたります。買った建玉を転売したときは、転売した値段から買った値段を引き、取引単位と枚数を掛けます8。売った側から見ると、同じ値動きで損益の向きが逆になり、買った側の 5 万円の損失は売った側の 5 万円の利益です。取引単位と価格の刻み(呼値の単位)は商品ごとに決まっています。
値洗いは、清算参加者と JSCC の間でも、証券会社などと顧客の間でも、毎日行います5。
計算例:5 日間の値洗いと証拠金の増減
値洗いで損失が続くと、証拠金の余裕が減り、足りなくなった分を差し入れます。上の先物を 1 日目に 1,000 で 1 枚買い、5 日間持ち続ける架空の例で考えます。顧客は取引の前に証拠金 60 万円を金銭で差し入れ、証拠金の所要額は 5 日間 50 万円のまま変わらないとします。手数料は考えず、値洗いの損益のほかに受け払いの予定はないものとします。
まず、毎日の値洗いの損益です。1 日目は約定した値段の 1,000 から、2 日目以降は前の日の清算値段からの値動きで損益を計算します。
| 日 | 清算値段 | 値動き | その日の損益(万円) | 損益の累計(万円) |
|---|---|---|---|---|
| 1 日目(1,000 で買う) | 995 | −5 | −5 | −5 |
| 2 日目 | 1,010 | 15 | 15 | 10 |
| 3 日目 | 980 | −30 | −30 | −20 |
| 4 日目 | 955 | −25 | −25 | −45 |
| 5 日目 | 970 | 15 | 15 | −30 |
図の説明
金額は上の表のとおりです。この図の矢印は、お金の受け払いではなく、その日の損益を表します。上向きが利益、下向きが損失で、矢印の長さは金額の大きさの目安です。累計の損益は図に描いていません。
次に、証拠金の増減です。値洗いの損益の累計から、払い出した利益を除いたものを、計算上の損益といいます。先物の建玉が複数あれば、計算上の損益はすべての建玉を合算して計算します。差し入れた金銭や有価証券の額に、計算上の損益など受け払いの予定の金額(現金授受予定額)を足し引きした額を、受入証拠金の総額といいます。先物を建てたままで、ほかに受け払いの予定がなければ、足し引きするのは計算上の損益だけです9。この計算例では、受入証拠金の総額が所要額の 50 万円を下回ると、その差が不足額です。
| 日 | 差し入れた金銭の累計(万円) | 計算上の損益(万円) | 受入証拠金の総額(万円) | 不足額(万円) |
|---|---|---|---|---|
| 1 日目 | 60 | −5 | 55 | 0 |
| 2 日目 | 60 | 10 | 70 | 0 |
| 3 日目 | 60 | −20 | 40 | 10 |
| 4 日目 | 70 | −45 | 25 | 25 |
| 5 日目 | 95 | −30 | 65 | 0 |
3 日目に受入証拠金の総額が所要額を下回り、顧客は 4 日目に不足額を差し入れます。4 日目も値下がりが続いて不足が残るため、5 日目にも差し入れ、値上がりもあって総額は所要額を上回ります。
同じ値動きでも、売った側から見ると損益は逆です。1,000 で 1 枚売った人の計算上の損益は、3 日目に 20 万円、4 日目に 45 万円の利益になります。
買った側から見ると、2 日目は受入証拠金の総額が所要額を上回っています。証券会社は、所要額を超える額を限度に、顧客の請求に応じて計算上の利益を金銭で払い出せます10。そのため、顧客は 2 日目に利益を受け取れます。計算例では払い出さないものとしました。
証拠金が足りないときの差し入れ
受入証拠金の総額が所要額を下回ったときは、顧客は証券会社などの請求に応じて、不足額以上を翌日までに差し入れます11。計算例の 3 日目なら、4 日目のうち証券会社が指定する日時までに 10 万円以上を差し入れます。翌日が休業日なら、期限は次の営業日に繰り下がります。顧客が非居住者なら、期限は不足が生じた日から数えて 3 日目(休業日を除く)です11。
不足額には 2 つあります。1 つは、上の計算例の不足で、受入証拠金の総額が所要額を下回った分です(総額の不足額)。もう 1 つは、差し入れている金銭が、値洗いの損失などで払う予定の金銭(現金支払予定額)を下回った分です(現金不足額)。顧客は、2 つのうち大きいほうの額以上を差し入れます11。証拠金は有価証券で代用できますが、現金不足額にあたる分は金銭で差し入れます4。
たとえば、計算例の最初の 60 万円を金銭ではなく、60 万円と評価される有価証券で差し入れていたとします。有価証券の評価額は変わらず、ほかに受け払いの予定はないものとします。1 日目に現金不足額が 5 万円出るため、顧客は 2 日目に 5 万円を金銭で差し入れます。
| 日 | 差し入れている金銭(万円) | 計算上の損益(万円) | 現金不足額(万円) | 受入証拠金の総額(万円) | 総額の不足額(万円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 日目 | 0 | −5 | 5 | 55 | 0 |
| 2 日目 | 5 | 10 | 0 | 75 | 0 |
| 3 日目 | 5 | −20 | 15 | 45 | 5 |
3 日目は、現金不足額と総額の不足額のうち大きいほうの現金不足額以上を、金銭で差し入れます。
受入証拠金の総額が所要額を上回っていなければ、差し入れた証拠金を引き出すことはできません12。
証券会社と清算機関の間の受け払い
値洗いで出た損益の金額を、値洗いの差金といいます。顧客と証券会社の間では、計算例のように値洗いの損益を受入証拠金の総額に足し引きします。一方で、清算参加者と JSCC の間では、この差金を毎日計算し、翌日に日本円の金銭で受け払いします1314。JSCC は、上場デリバティブについて、この受け払いを変動証拠金(または値洗いに伴う差金)の受け払いとしています14。
図の説明
図は、証券会社などが清算参加者である場合を描いています。顧客と証券会社の間の損益は受入証拠金の総額に足し引きし、毎日差金を受け払いするのは清算参加者と JSCC の間なので、差金の矢印は支払いと受け取りの 2 本です。
清算参加者が JSCC に預ける証拠金を、取引証拠金といいます。取引証拠金が所要額に足りなければ、清算参加者は翌日までに不足分を預けます15。受け払いの時限は次のとおりです1315。
| 受け払い | 誰から誰へ | 時限 |
|---|---|---|
| 値洗いの差金の支払い | 清算参加者から JSCC | 差金が生じた日の翌日の午前 11 時まで |
| 値洗いの差金の受け取り | JSCC から清算参加者 | 差金が生じた日の翌日の午後 1 時以降速やかに |
| 取引証拠金の不足分の預託 | 清算参加者から JSCC | 不足が生じた日の翌日の午前 11 時まで |
深掘り日中取引証拠金
清算機関を通さない店頭デリバティブで、当事者どうしが受け払いする証拠金の決まりは、証拠金規制で扱います。
日本の取引所の証拠金の計算方法
JSCC は、2023 年 11 月 6 日から、VaR 方式で先物・オプションの証拠金を計算しています。VaR 方式は、値動きのシナリオを作り、シナリオごとにポートフォリオの損益を計算して、建玉から出うる損失を見積もる方法です17。所要額は建玉と市場のデータから計算するため、計算例のように毎日同じとは限りません。建玉がとても大きい場合は、JSCC が規則に基づいて所要額を引き上げます18。
深掘りVaR 方式での所要額の求め方
JSCC は、それまでの SPAN 方式から VaR 方式に移しました。VaR 方式には、ヒストリカル・シミュレーション方式(HS-VaR 方式)と代替的方式(AS-VaR 方式)があります。指数先物(配当指数先物を除く)、国債先物、金利先物などには HS-VaR 方式を使います。HS-VaR 方式では、過去の市場のデータなどからシナリオを作り、シナリオごとにポートフォリオ単位の損益を計算して、その損益のうち 99% をカバーする金額を求めます17。
顧客の証拠金の所要額は、顧客の建玉から VaR 方式で見積もった損失の額(想定損失相当額)をもとに求めます。オプションの建玉があれば、その価値を差し引いたり加えたりします。JSCC は、所要額を引き上げるほど建玉が大きいかどうかを、流動性や建玉の集中の度合いに照らして判断します18。
注
-
大阪取引所「契約(取引成立)から満期まで(先物)」。 ↩
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」(2023 年 11 月 6 日現在)の 4 ページ、Ⅰ.2 の備考(非清算参加者は、取引参加者のうちクリアリング機構の清算資格を持たない者)。 ↩
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 4 ページ、Ⅰ.1.(5)「証拠金の有価証券等による代用」。 ↩ ↩2
-
日本取引所グループ「清算数値(用語集)」。 ↩
-
大阪取引所「決済方法(先物)」の「反対売買による決済」。 ↩
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 3 ページ、Ⅰ.1.(2)「受入証拠金の計算方法」、1〜2 ページの注 1、注 2、1 ページの備考。 ↩
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 4 ページ、Ⅰ.1.(8)「計算上の利益の払出し」。 ↩
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 3 ページ、Ⅰ.1.(3)「証拠金の差入れ・預託及び維持」、(4)「証拠金の差入れ・預託時限」(4 ページの冒頭まで)。 ↩ ↩2 ↩3
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 4 ページ、Ⅰ.1.(7)「証拠金の引出しの制限」。 ↩
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 12 ページ、Ⅱ.1.(1)「清算参加者とクリアリング機構との間の値洗いに係る差金の授受」と、12〜13 ページの備考。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本証券クリアリング機構「リスク管理 証拠金」(2024 年 12 月 18 日現在)の 2 段落目と、「各清算業務における証拠金算出スケジュール」の先物・オプション取引の注 1。 ↩ ↩2
-
日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る取引証拠金」の「清算参加者が預託する証拠金」の 2 つの「取引証拠金の追加預託」。 ↩ ↩2
-
日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る取引証拠金」の「日中取引証拠金」と、大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 11 ページ、Ⅰ.5「日中取引証拠金」。 ↩
-
日本証券クリアリング機構「新証拠金計算方式(VaR方式)とは」の冒頭、「VaR方式の概要」と「各計算方式の対象商品」。 ↩ ↩2
-
大阪取引所、日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る証拠金及び決済制度の概要」の 2 ページ、Ⅰ.1.(1)「証拠金所要額」とその備考。 ↩ ↩2