証拠金の請求を出す側も受ける側も、期限までに正しい額を受け渡し、そのための資金を用意する業務を担います。請求の流れと期限、額が合わないときの対応、急な請求への備えを確かめる場面があります。
担保の過不足を埋めるための請求
マージンコールは、担保を受け渡す取引で、時価の変動に合わせて相手に担保の差し入れや返還を求めることです。担保の受け渡しは、取引相手の信用リスクへの備えになります1。時価は日々動くため、必要な担保の額も日々変わります。日本の証拠金規制の対象になる取引では、相手ごとに取引の時価の合計と担保の時価を毎日計算し、変動証拠金の受け渡しを求めます2。
一方で、市場が荒れたときに思いがけない額の請求が集まると、受け渡すための資金の需要が市場全体で膨らみます。どれだけ耐えられるかは、ポジションの大きさと資金の備えによって参加者ごとに違います1。そのため、請求を出す側も受ける側も、期限までに正しい額を受け渡す手順と、払うための資金を整えておきます。資金の負担がどれほど大きくなりうるかと、市場が荒れたときの事例は、変動証拠金と当初証拠金の資金負担で扱います。
相対取引の請求の 5 段階
相対取引の請求は、評価から受け渡しまで 5 段階で進みます。清算機関を通さない相対取引では、担保の条件を、基本契約に付けるクレジット・サポート・アネックス(CSA)で決めます。主な条件は、担保を求めない限度額である閾値、受け渡しをする最低の金額である最低受渡額、時価を評価し直す頻度です3。証拠金規制は、閾値を 0 として変動証拠金を受け渡すよう求めています3。2017 年の論文の時点で、金融機関どうしの取引では閾値を 0 にすることが多くなっていました。評価の頻度は、日本では週 1 回の契約が多かったものの、毎日の契約が増えていました3。
T 銀行と U 銀行が CSA のもとで取引していて、T 銀行から見た時価がプラスの架空の例で考えます。
- 時価の評価: T 銀行と U 銀行は、それぞれ、相手との取引の時価の合計と、受け渡し済みの担保の時価を計算します。
- 必要額の計算: 両行は、時価の合計に見合う担保の額と、今ある担保との差を求めます。差が最低受渡額以下なら、その日は受け渡しません。
- 請求: 差が最低受渡額を上回れば、担保が足りない T 銀行が U 銀行に差し入れを求めます。時価が逆に動いて T 銀行が担保を多く持ちすぎたときは、U 銀行が T 銀行に返還を求めます。
- 合意: 請求を受けた U 銀行は、請求の額を自分の計算と照らし合わせます。額が合えば応じ、合わなければ両者で紛争を解く手順に進みます。
- 受け渡し: U 銀行が期限までに担保を差し入れ、T 銀行は受け取ったことを確かめます。
図の説明
T 銀行と U 銀行はそれぞれ別々に評価と計算をし、T 銀行の請求を U 銀行が自分の計算と照らします。額が合えば U 銀行が差し入れ、T 銀行が受け取りを確かめます。合わなければ両者で紛争を解く手順に進みます。差が最低受渡額以下の日は、請求も受け渡しもありません。
閾値が 0 で、担保が現金のとき、受け渡す額 は次の式で求まります。
は T 銀行から見た取引の時価の合計、 は T 銀行が受け取っている担保の額(T 銀行が差し入れているときはマイナス)です。 がプラスなら U 銀行が T 銀行に差し入れ、マイナスなら T 銀行が U 銀行に担保を返すか差し入れます。 の大きさが最低受渡額以下なら受け渡しません。
閾値を 0、最低受渡額を 0.5 億円、担保を現金とした架空の例で考えます。前日までに T 銀行は U 銀行から 8 億円の担保を受け取っています。
| 日 | 取引の時価の合計 (億円) | 受け取っている担保 (億円) | 差 (億円) | 受け渡す額(億円。プラスは U 銀行から T 銀行へ) |
|---|---|---|---|---|
| 1 日目 | 10 | 8 | 2 | 2 |
| 2 日目 | 10.3 | 10 | 0.3 | 0 |
| 3 日目 | 7 | 10 | −3 | −3 |
1 日目は差が 2 億円で最低受渡額を上回るため、U 銀行が 2 億円を差し入れ、担保は 10 億円になります。2 日目の差 0.3 億円は最低受渡額以下なので受け渡さず、T 銀行は 0.3 億円の分だけ担保のない状態が続きます。3 日目は時価が 7 億円に下がって差が −3 億円になり、T 銀行が U 銀行に 3 億円を返します。時価が T 銀行に有利に動いた日は U 銀行が資金を出し、不利に動いた日は T 銀行が資金を出します。閾値と最低受渡額がエクスポージャー(取引相手が破綻したときに失いうる額)をどれだけ減らすかは、ネッティングと担保による削減効果で扱います。
日本の証拠金規制は、受け渡す額 の大きさが、当事者があらかじめ決めた額を上回れば、直ちに請求するよう求めています。この額は、当初証拠金について決める同じ種類の額と合わせて 7,000 万円以下です。差がこの額を上回ったときに求めるのは差の全額なので、この額は閾値ではなく、最低受渡額に近い働きをします。請求した側は遅滞なく受け取り、請求された側は応じます2。
清算機関の請求は規則で額と時限が決まる
清算機関との間では、清算機関が規則に定めた方法で請求の額を計算して通知し、清算参加者は規則の時限までに受け渡します。日本証券クリアリング機構(JSCC)の金利スワップの清算を例にします。
JSCC は、清算中の取引の正味現在価値の前営業日からの変動に応じて、変動証拠金の所要額を計算します。変動証拠金は、取引の通貨の現金で、営業日ごとに受け払いします5。円建ての取引では、払う側の清算参加者は、計算した日の翌営業日の 11 時までに JSCC に預託します。JSCC は、受け取る側の清算参加者に、13 時 30 分以降遅滞なく払います。外貨建ての取引では、計算した日の後で JSCC とその通貨の市場の両方の営業日に当たる最初の日の 11 時までに預託し、JSCC は同じ日の 13 時以降遅滞なく払います5。
これとは別に、JSCC は毎営業日、当初証拠金の一部である日中証拠金の所要額を計算し、清算参加者に通知します。預託している当初証拠金がこの所要額に足りなければ、清算参加者は不足が出たその日の 15 時 30 分までに不足額を預託します6。日中証拠金は、日本円と米ドルの現金のほか、日本国債と米国財務省証券でも預託できます7。さらに JSCC は、市場環境が急に変わったときなどには、額と方法をその都度決めて、変動証拠金の臨時の預託を求めることができます8。
2017 年の論文の時点で、英国の清算機関 LCH と JSCC は、エクスポージャーをできるだけ減らすため、日中に複数回のマージンコールをしていました9。ノンバンクの市場参加者向けの FSB の提言は、日中の請求に備えて、どの相手が日中の請求をできるか、どんな取引や状況で請求が来るか、請求が繰り返し来るのか臨時なのかを把握しておくことを求めています10。
相対取引と比べると、次のように違います。
| 項目 | 相対取引(CSA) | 清算取引(JSCC の金利スワップ) |
|---|---|---|
| 額を計算する者 | 両方の当事者がそれぞれ計算し、照らし合わせる | JSCC が計算して通知する |
| 請求の頻度 | 契約で決める。規制の対象の取引は毎日計算する | 変動証拠金も日中証拠金も毎営業日 |
| 受け渡しの期限 | 契約で決める。規制は請求の後に遅滞なく受け取ることを求める | 変動証拠金は円建てなら翌営業日の 11 時、日中証拠金は当日の 15 時 30 分 |
| 受け渡す資産 | CSA で決める3 | 変動証拠金は取引の通貨の現金。日中証拠金は現金か日本国債、米国財務省証券 |
請求の額が合わないとき
合計に含める取引や、取引と担保の評価が当事者の間で違えば、両者の計算した請求の額は合いません。額が合わないときは、あらかじめ決めておいた方法で解きます。
たとえば前の例の 1 日目で、閾値は 0、受け取っている担保 は 8 億円とします。T 銀行は取引の時価の合計 を 10 億円と評価し、 億円を請求します。U 銀行は同じ取引を T 銀行より低い 9.6 億円と評価していて、 億円と計算します。請求の 2 億円と自分の計算の 1.6 億円には 0.4 億円の差があるため、U 銀行は請求にそのまま応じられず、紛争を解く手順に進みます。あらかじめ取り決めた方法が T 銀行の評価に従うなら 2 億円、U 銀行の評価に従うなら 1.6 億円を受け渡す、というように、どちらの額になるかは取り決めの中身で決まります。評価が逆に違えば、U 銀行の計算のほうが大きくなることもあります。
日本の証拠金規制のもとでは、両者の計算した額に差があるとき、請求した側は、両者があらかじめ取り決めた方法で算出した額を受け取ります。変動証拠金なら遅滞なく受け取り、当初証拠金なら先に受け取ったうえで、残りの差を速やかに解消します11。金融庁の監督指針は、証拠金の紛争への対応策の事前の策定、適切な対応、紛争内容の記録と保存に努めているかを、金融商品取引業者の態勢整備の着眼点に挙げています12。FSB の提言は、紛争を解く仕組みをはっきりさせ、解決していない紛争を追って管理するシステムを持つことを挙げています10。
取引相手が破綻したとき、紛争などのために、最後に担保を交換してから取引を処理し終えるまでに一定の期間がかかります3。この期間をマージン・ピリオド・オブ・リスク(MPOR)といいます。毎日マージンコールをしていても、MPOR の間にエクスポージャーが大きく動くことがあります3。
期限までに差し入れられないときの扱い
清算機関では、期限までに払えないときの扱いを規則に定めています。JSCC の金利スワップでは、清算参加者が債務を期限までに履行しないときや、そのおそれがあるときを決済不履行といいます13。JSCC は、決済不履行を認定すると、必要な範囲と期間で、その参加者を当事者とする新しい取引の引き受けと、その参加者への金銭などの引き渡しを止めます。止めた金銭などは、その参加者の JSCC への債務の弁済に充てることができます13。
JSCC が清算参加者の破綻を認定すると、その参加者の清算中の取引は、破綻を認定した日に、意思表示を要せず終了します13。JSCC は、金利スワップでは、ほかの清算参加者が参加する入札で、破綻した参加者のポジションを処理します14。
相対取引で担保を差し入れられなかったときの扱いは、基本契約と CSA の定めによります。FSB の提言は、市場が荒れたときの資金の見積もりに、CSA の仕組みと、信用力の悪化で発動する条項や解約の事由を織り込むことを求めています15。
請求の額を前もって見積もり資金を用意する
FSB の 2024 年 12 月の報告書は、ノンバンクの市場参加者に、マージンコールへの資金の備えを求めています16。参加者は、マージンコールによる資金の逼迫をストレステストで前もって見積もり、その結果で手元の資金と担保の量を決めます17。現金でしか受け渡せない請求に備えて、平常時にも市場が荒れたときにも高い確度で払える現金か、確かな資金の手当てを用意します。用意する現金は、請求された通貨で、請求の時間帯に、受け渡しの場所で使えるものにします18。現金以外で払える請求には、十分で分散した担保を用意し、担保の評価を割り引く掛け目(ヘアカット)も見込みます18。
参加者は、担保に使うつもりの資産が、ほかに差し入れていない状態で、必要な時間のうちに使えることを、日中の請求も含めて試しておきます10。手元の資金を確約された借入の枠などで補うことや、現金以外の担保を差し入れられるように CSA の条件を相手と見直すことも、備えの手段として挙げられています18。JSCC の金利スワップでも、変動証拠金は取引の通貨の現金で受け払いするため、国債を持っていても、変動証拠金を払うには現金が要ります5。
金融庁の監督指針は、金融商品取引業者の流動性リスク管理の着眼点として、日々の資金繰りの管理と、業容や市場環境の急変に備えた資金調達の手段の確保を例に挙げています19。
注
-
Financial Stability Board「Liquidity Preparedness for Margin and Collateral Calls: Final report」(2024 年 12 月 10 日)の 1.1 節(ページ 5、PDF の 9 ページ目)。 ↩ ↩2
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条第 1 項第 21 号の 10 イ(取引と担保の時価の毎日の算出)、ロ(直ちに請求。この額は同項第 21 号の 11 ロの額と合わせて 7,000 万円以下)、ハ(遅滞なく受け取る)、ニ(求めに応じる)。 ↩ ↩2
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の 3 節(1)の「イ.信用極度額」「ロ.最低受渡担保額」「ハ.評価頻度」「ニ.適格担保」(116〜118 ページ)。論文は閾値を「信用極度額」、最低受渡額を「最低受渡担保額」、マージン・ピリオド・オブ・リスクを「リスクのマージン期間(MPR)」と書いています。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
-
Financial Stability Board「Liquidity Preparedness for Margin and Collateral Calls: Final report」(2024 年 12 月 10 日)の Annex 3 の Recommendation 6 の例(ページ 30、PDF の 34 ページ目)。 ↩ ↩2
-
日本証券クリアリング機構「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」第 77 条(変動証拠金の授受)、第 78 条(変動証拠金の所要額)、第 81 条(変動証拠金の預託時限。外貨建ては 11 時と 13 時)(66〜67 ページ)、第 2 条第 4 号の 4(外貨本国営業日)(3 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本証券クリアリング機構「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」第 2 条第 54 号(日中証拠金は当初証拠金のうち第 67 条から第 70 条に従って預託されるもの)、第 68 条(日中証拠金所要額の算出と通知)、第 70 条第 1 項(日中証拠金の預託時限)(9 ページ、62 ページ)。 ↩
-
日本証券クリアリング機構「金利スワップ担保・決済」の「当初証拠金、日中証拠金及び清算基金の差入れ及び返戻並びに変動証拠金の決済方法」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
日本証券クリアリング機構「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」第 82 条(変動証拠金の臨時預託)(67 ページ)。 ↩
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の脚注 8(117 ページ)。 ↩
-
Financial Stability Board「Liquidity Preparedness for Margin and Collateral Calls: Final report」(2024 年 12 月 10 日)の Recommendation 6(3.3 節、ページ 18、PDF の 22 ページ目)。 ↩ ↩2 ↩3
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条第 1 項第 21 号の 10 ハ(変動証拠金)と第 21 号の 11 ハ(当初証拠金)。 ↩
-
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ−2−4(4)③ロ(当初証拠金及び変動証拠金共通。証拠金に係る紛争)。 ↩
-
日本証券クリアリング機構「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」第 2 条第 15 号(決済不履行の定義)(4 ページ)、第 89 条(決済不履行及び破綻等の場合における措置)、第 91 条第 1 項(清算約定の強制解約)(74 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本証券クリアリング機構「リスク管理 参加者破綻処理」(2018 年 2 月 13 日現在)。 ↩
-
Financial Stability Board「Liquidity Preparedness for Margin and Collateral Calls: Final report」(2024 年 12 月 10 日)の Recommendation 5(3.2 節、ページ 17、PDF の 21 ページ目)。 ↩ ↩2
-
Financial Stability Board「Liquidity Preparedness for Margin and Collateral Calls: Final report」(2024 年 12 月 10 日)の 1 節(ページ 3、PDF の 7 ページ目)。 ↩
-
Financial Stability Board「Liquidity Preparedness for Margin and Collateral Calls: Final report」(2024 年 12 月 10 日)の Recommendation 4(3.2 節、ページ 16、PDF の 20 ページ目)。 ↩ ↩2
-
Financial Stability Board「Liquidity Preparedness for Margin and Collateral Calls: Final report」(2024 年 12 月 10 日)の Recommendation 7(3.3 節、ページ 19、PDF の 23 ページ目)。 ↩ ↩2 ↩3
-
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ−2−5(1)(流動性リスク管理態勢の主な着眼点)。 ↩