鉱山が将来の売値を決めたいときや、金属を原材料にする加工業者が仕入れ値を固定したいとき、金属のデリバティブを使うことがあります。

銅の鉱山が先渡取引で売値を決める例

金属は、貴金属(金、銀、プラチナ、パラジウム)と非鉄金属(銅、アルミ、ニッケル、亜鉛、錫、鉛)に分かれます1。この節の例は、非鉄金属の銅です。

架空の例で考えます。銅の鉱山を持つ V 社は、3 か月後に銅 1,000 トンを、そのときの市場価格で顧客に売る予定です。V 社は、3 か月後に 1 トンあたり 10,000 ドルで銅 1,000 トンを売る先渡取引を、ディーラーと結びました。この先渡取引は、満期に銅を受け渡さず、10,000 ドルとの差額だけを受け払いする差金決済とします。

顧客銅の買い手V 社銅の鉱山ディーラー先渡しの相手銅 1,000 トン市場価格の代金高いとき差額低いとき差額
図 1V 社の銅の販売と先渡取引の受け払い
図の説明

V 社は、顧客に銅 1,000 トンを渡し、そのときの市場価格の代金を受け取ります。V 社はこれとは別に、ディーラーと 1 トンあたり 10,000 ドルの先渡取引を結んでいます。満期の市場価格が 10,000 ドルより高いときは V 社がディーラーに差額を払い、低いときはディーラーが V 社に差額を払います。販売の代金と先渡取引の差額が、V 社の手取りになります。

3 か月後の市場価格が 1 トンあたり 12,000 ドルに上がると、V 社の販売代金は 1,200 万ドルです。先渡取引では、(12,000 − 10,000)ドル × 1,000 トンの 200 万ドルをディーラーに払い、手取りは 1,000 万ドルになります。市場価格が 8,000 ドルに下がると、販売代金は 800 万ドルに減りますが、先渡取引で 200 万ドルを受け取り、手取りはやはり 1,000 万ドルです2。

3 か月後の市場価格(ドル/トン) 販売代金(万ドル) 先渡取引の損益(万ドル) 手取り(万ドル)
12,000 1,200 −200 1,000
10,000 1,000 0 1,000
8,000 800 200 1,000
−3,000−2,000−1,0000+1,000+2,000+3,00010,000損益(ドル)3 か月後の市場価格(ドル)利益損失損益分岐点 10,000
図 2銅を 1 トンあたり 10,000 ドルで売る先渡取引の損益
図の説明

銅を 1 トンあたり 10,000 ドルで売る先渡取引を満期まで持った側の、1 トンあたりの損益です。市場価格が 10,000 ドルのときは 0 で、それより高いと損失、低いと利益になります。市場価格が 12,000 ドルなら 1 トンあたり 2,000 ドルの損失、8,000 ドルなら 2,000 ドルの利益です。V 社の場合は、この損益が銅の販売代金の増減と打ち消し合います。

この例で手取りが変わらないのは、売る銅の量と先渡取引の量が同じ 1,000 トンで、販売代金も先渡取引の差額も同じ市場価格で決まるとしたためです。値下がりに備えた代わりに、値上がりの利益は先渡取引の損で消え、価格が上がっても手取りは増えません。

貴金属と非鉄金属の違い

日本銀行金融研究所の論文は、貴金属を、消費するコモディティとしての性質より金融資産としての性質が強いと説明しています。紹介されている研究では、1990〜2003 年に金と銀の先物の価格は、期先ほど高いコンタンゴの形を保ちました。現物を持っているだけで得られる利点(コンビニエンス・イールド)も小さく、金では推定値がゼロでした。論文は、貴金属ではリース市場が発達していること、保管の費用が原油や銅より小さいこと、現物が劣化しにくいことをその原因と考えています3。

使い道も違います。次の表のとおり、金は宝飾品と、中央銀行などの保有や地金(バー)の形の投資が大きく、銅は建築や電気・電子の製品に使われます。ただし、貴金属にも工業の用途があり、プラチナとパラジウムは自動車の排ガスを浄化する触媒が最大の用途です。

金属 使い道の内訳 範囲と時点
金 宝飾 45%、中央銀行などの保有 21%、地金 19%、公式のコインとメダルなど 7%、電気・電子 6%、その他 1% 上場投資信託(ETF)などを除く世界の推計。2024 年4
銅 建築 42%、電気・電子 23%、輸送機器 18%、消費財 10%、産業機械 7% 米国での銅と銅合金の製品。銅の業界団体の資料による5
プラチナ 自動車の触媒が世界の需要の 40% 超 2016 年6
パラジウム 自動車の触媒が世界の需要の 84% 超 2016 年6

取引の場:取引所の先物と店頭の先渡取引

金属の取引は、取引所の先物取引と、当事者どうしが相対で結ぶ先渡取引や現物の取引に分かれます。コモディティの取引所取引では、1 回の数量、引渡しの場所、引渡しの方法を商品ごとに決めます。店頭の取引(店頭デリバティブを含む)は、契約の内容を当事者が自由に決められ、商社や金融機関、ブローカーが相手方になることが多くなります7。

日本では、大阪取引所に金標準先物が上場しています。標準品は純度 99.99% 以上の金地金で、1 枚は 1kg です。2 月、4 月、6 月、8 月、10 月、12 月のうち直近の 6 つの限月が取引され、満期まで持つと現物を受け渡します。この先物は 1982 年に取引が始まり、2020 年 7 月 27 日に東京商品取引所から大阪取引所に移りました8。

貴金属の店頭市場は、会員どうしと、会員と顧客が、当事者の間で直接取引する形です。信用リスクは 2 者の間に残ります。ディーラーは顧客の求めに合わせて、数量、品質、受渡日、受渡場所を決めた見積りを出します。ロンドンは世界の店頭市場の中心で、たとえばオーストラリアの銀行と南アフリカの鉱山会社が取引しても、金属はほとんどの場合ロンドンの口座の上で決済されます10。

店頭の取引で持っている金属の持ち高と、取引所の先物の持ち高は、互いに入れ替えられることが多く、この入替えを EFP(Exchange for Physical)といいます。入れ替えられるかどうかは、法律や取引所の要件で決まります。入替えのときの価格の差額は、受渡日までの日数、通貨と金属の金利、金属を運ぶ費用、純度や棒の大きさを合わせる費用などで変わります11。先物の価格の決まり方、コンタンゴとバックワーデーション、受渡決済と差金決済の違いは、コモディティ・デリバティブの全体像で扱います。

金属の種類による価格要因の違い

世界銀行の 2026 年 4 月の見通しは、2026 年第 1 四半期(1〜3 月)に金属の価格を動かした要因を、非鉄金属と貴金属に分けて説明しています。非鉄金属は工業の需要と鉱山や輸出の供給の制約が中心で、貴金属は投資家の資金と安全資産としての需要が中心です12。

非鉄金属は、需要では再生可能エネルギー、送電網、データセンターが価格を支えました。建設向けは、中国の不動産の低迷などで弱い状態でした。供給では、銅は大きな鉱山の障害、アルミは中東からの輸出の混乱が価格を押し上げ、鉛は世界の在庫の増加で価格が下がりました。

貴金属のうち金は、安全資産としての需要と投機的な需要、ETF への資金流入、中央銀行の購入が価格を支えました。金は、再生金(再利用された金)が供給の 30% 近くを占めます。銀とプラチナには工業の需要もあります。

同じ見通しによると、2026 年第 1 四半期の価格は、前の四半期に比べて、金属全体の価格指数が 13%、銅が 15%、アルミが 13%、金が 17% 上がりました。金は 4 月にかけて価格が下がりました。金利の見通しの変化とドルの動きの中で、投機的な買いが巻き戻されたためです。金利が上がると、利息のつかない貴金属を持つ機会費用が高くなるため、金利の上昇は貴金属の価格の下げ要因になりえます12。

貴金属の貸し借りと先渡しの価格

貴金属には金利があります。金属を貸す側は運用の収益を求め、借りる側の目的はさまざまで、鉱山が将来の生産分の価格をヘッジするためや、工業の会社がプラチナやパラジウムを触媒の製造に使うためなどがあります。貸す側は、貸した金属の全量について借り手の信用リスクを負います。金属の価格が上下すると、その通貨での価値も上下します13。

金などの金属は、中央銀行が貸すこともあります。特定の棒で預けられている金は、貸すと特定の棒の持ち分でなくなり、返ってくるときは別の棒になります13。

金属と通貨を交換する先渡しやスワップでは、貸借より元本の信用リスクを抑えられるため、日々の取引ではこちらが使われます。通貨と金属の 2 つの金利が関わり、貴金属の市場は先渡しの価格を、通貨の金利から金属の金利を引いた差で見積もります。LBMA は説明のために、ドルの借入金利が 10%、金の貸出金利が 3% なら、1 年のスワップレートは 10% − 3% = 7% になる例を示しています。実際の金利からかけ離れた例だと断っています。

この 7% を日数で按分して現物の価格に足したものが、1 年先の先渡しの価格です。同じ例では、現物が 1 オンス 1,200 ドルの金は、1 年先が約 1,285 ドル(1,200 + 1,200 × 7% ÷ 360 × 365)になります13。

非鉄金属や外国為替では、現物の価格に足す「ポイント」で先渡しの価格を見積もります。貴金属の市場は、この形を使いません13。

鉱山と加工業者の使い方

金属の生産者と、金属を原材料にする企業は、価格の変動に備えて先渡取引や先物を使います。日本銀行金融研究所の論文は、企業が原材料や生産物の価格の変動をヘッジするために、コモディティの先物や先渡取引へのニーズを高めていると説明しています14。

売る側の V 社は、V 社の銅の例のように売値を前もって決めます。買う側にも同じ仕組みが使えます。銅を原料に使う加工業者が、3 か月後に銅 1,000 トンを市場価格で仕入れる予定で、1 トンあたり 10,000 ドルで買う先渡取引を結んだ架空の例で考えます。市場価格が 8,000 ドルに下がると、仕入れ代金は 800 万ドルですが、先渡取引で 200 万ドルを払うため、合わせた負担は 1,000 万ドルです。12,000 ドルに上がると、仕入れ代金は 1,200 万ドルですが、先渡取引で 200 万ドルを受け取り、合わせた負担はやはり 1,000 万ドルです。買い手も、安く仕入れられる機会を手放す代わりに、仕入れの値段を固定します。

リスク:価格の変動、取引相手、規格の違い

先物を買った側は価格が下がると、売った側は価格が上がると損失が出ます。価格の変動は大きくなることがあり、2026 年第 1 四半期の金は、投機的な買いの積み上がりと巻き戻しの中で、価格の変動が数十年で最も大きい水準に達しました12。損益を日々精算する値洗いと証拠金の仕組みは、先物の証拠金と値洗いで説明しています。大阪取引所の金標準先物の証拠金は、VaR 方式で計算します8。

貴金属の店頭の取引では、信用リスクが取引する 2 者の間に残ります10。

取引所の先物と店頭のロンドンの金では、純度や棒の大きさ、受渡しの場所が違うことがあり、持ち高を入れ替えるときは、その費用が差額に入ります11。

注

  1. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」(『金融研究』2010 年 4 月)の「2.(1)コモディティ市場の概観」の表 1「商品取引所におけるコモディティ取引の事例」(29 ページ)。 ↩

  2. 手数料、取引相手の信用リスク、実際の販売価格と先渡取引の参照価格の差を含めていません。 ↩

  3. 同じ論文の「(4)貴金属」(66 ページ)と、その注 53。1990〜2003 年の金と銀の先物の曲線がコンタンゴを保ったことと、金のコンビニエンス・イールドの推定値がゼロだったことは、論文が紹介している Casassus and Collin-Dufresne(2005)の分析の結果。原因は論文の注 53 にあり、論文の表現は「原因と考えられる」です。 ↩

  4. U.S. Geological Survey「Mineral Commodity Summaries 2025」の Gold(2025 年 1 月)の 2 ページ目の冒頭の段落。ETF などを除く、2024 年の世界の消費の推計。 ↩

  5. U.S. Geological Survey「Mineral Commodity Summaries 2025」の Copper の「Domestic Production and Use」の段落(銅の業界団体 Copper Development Association の資料の引用)。 ↩

  6. London Bullion Market Association「A Guide to the Loco London Precious Metals Market」の「19. Key Facts about Precious Metals」の Platinum と Palladium の項(2016 年の Johnson Matthey の統計)。 ↩ ↩2

  7. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」の「2.(1)コモディティ市場の概観」の 2 段落目(29 ページ)。 ↩

  8. 大阪取引所「制度概要(金標準先物)」(2026 年 4 月 13 日更新)の「標準品」「取引開始日」「限月取引」「取引最終日」「取引単位」「受渡値段」「受渡日時」「受渡方法」「証拠金」「決済方法」。 ↩ ↩2 ↩3

  9. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「沿革」と「『清算機関』の機能」。JSCC は金融商品取引清算機関で、2020 年 7 月 27 日に日本商品清算機構との合併により上場商品デリバティブ取引を清算の対象にしました。複数の市場参加者の売買の相手方になって決済の履行を保証する機関を、清算機関(セントラル・カウンターパティ、CCP)といいます。 ↩

  10. London Bullion Market Association「A Guide to the Loco London Precious Metals Market」の「Introduction」の「Over The Counter (OTC)」と「Metals Clear London」の段落。 ↩ ↩2

  11. London Bullion Market Association「A Guide to the Loco London Precious Metals Market」の「13. Futures Markets and Exchange Traded Products」の「Futures Markets」の段落。 ↩ ↩2

  12. World Bank「Commodity Markets Outlook, April 2026」の「Metals and minerals」(36〜37 ページ)と「Precious metals」(41〜43 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  13. London Bullion Market Association「A Guide to the Loco London Precious Metals Market」の「9. Lending and Borrowing Metal」の「Deposits and Leases」「Lending Allocated Metal」と「Forwards」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  14. 日本銀行金融研究所「コモディティ価格変動の特徴とプライシング・モデルの展開」の「1. はじめに」(28 ページ)。 ↩