銀行や証券会社の営業担当者、承認する管理職、手順を検証する内部管理部門は、勧誘の前から契約の後まで、顧客と取引が合っているかを確かめます。確かめた内容は顧客カードなどに記録し、社内の基準に沿って勧誘してよいかを判断します。
何のために確かめるか
適合性原則は、証券会社などの金融商品取引業者と、銀行などの登録金融機関に向けた決まりです。顧客の知識、経験、財産の状況と、契約を結ぶ目的に照らして不適当な勧誘をしないように、業務をすることを求めています1。現場で顧客の情報を集め、社内の基準に照らし、記録に残す一連の手順が、適合性の確認です。
店頭デリバティブでは、この確認が説明の中身にもつながります。銀行は、融資と一緒に、またはデリバティブだけを顧客と取引するときに、顧客の知識、経験、財産の状況、取引の目的を踏まえて、商品の内容やリスクに応じた説明をします2。
勧誘の相手が特定投資家(金融商品取引法が定める、適格機関投資家、国、日本銀行などの投資家)のときは、適合性原則の勧誘の決まりは原則として当てはまりません。ただし、公益や特定投資家の保護に支障が出るおそれがあるとして内閣府令で定める場合は当てはまります3。一般投資家の顧客が特定投資家として扱うよう申し出たときは、金融機関は、顧客の知識、経験、財産の状況、投資の目的に照らしてふさわしいかを考えてから、承諾するかを決めます4。
確認の流れ
適合性の確認は、商品を扱うと決める前から、契約した後まで続きます。次の順は、金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」(以下、主要行等向けの監督指針)と「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(以下、金融商品取引業者等向けの監督指針)、日本証券業協会の規則に沿っています。手順ごとに根拠の資料と、求められる相手が違うため、末尾に資料を添えます。
- 商品の把握。証券会社などは、扱う商品ごとにリスク、リターン、コストを分析し、勧誘する役職員が正しく説明できるよう研修や説明の資料を整えます(金融商品取引業者等向けの監督指針)5。協会員(日本証券業協会の会員)は、自社にとって新しい商品のうち、合う顧客を想定できないものは販売しません(日本証券業協会の規則)6。
- 顧客の情報の把握と記録。証券会社などは、顧客の投資の目的、経験、資産の状況などをつかみ、顧客カードなどに記録します(金融商品取引業者等向けの監督指針、日本証券業協会の規則)57。銀行は、ヘッジの取引なら、その取引が顧客の事業に有効なヘッジとして働き、それが契約の終わりまで続く見込みかも確かめます(主要行等向けの監督指針)8。実需の聞き取りと確かめ方は顧客のニーズの把握で扱います。
- 社内の基準との照合。協会員は、デリバティブ取引などを始める顧客について、投資の経験や預かっている資産などで取引開始基準を定め、それに合う顧客とだけ契約します(日本証券業協会の規則)9。
- 合理的な理由の検討と承認。証券会社などは、勧誘の前に、商品と取引の頻度や金額が顧客の属性と目的に合う合理的な理由があるかを検討します。顧客の属性によっては、一定の商品の勧誘を管理職の承認制にします(金融商品取引業者等向けの監督指針)5。
- 説明と契約の意思の確認。銀行の営業担当者は、商品の内容とリスクを書面で説明し、説明を受けたことを顧客に確かめて書面に残します(主要行等向けの監督指針)10。
- 契約後の見直し。銀行は、契約した後も、顧客の業況と実需の変化に合わせてヘッジが有効かを確かめます(主要行等向けの監督指針)11。
記録する項目と社内の基準
確かめた内容は記録に残します。日本証券業協会の規則は、協会員に、特定投資家を除く顧客について、次の項目を書いた顧客カードを備えることを求めています7。顧客カードなどは、顧客の投資の目的を十分に確かめて作り、登録した目的を金融機関と顧客の双方で共有します5。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称、所在地と連絡先 | 顧客を特定する情報 |
| 職業と生年月日(個人のとき) | 顧客が個人のときの属性 |
| 投資目的 | ヘッジか運用かなど、取引の目的 |
| 資産の状況 | 財産の状況を判断する手がかり |
| 投資経験の有無、取引の種類 | 知識と経験を判断する手がかり |
| その他 | 協会員がそれぞれ必要と認めて足す項目 |
社内の基準は、商品の特性に合わせて前もって決めます。証券会社などは、合理的な理由を検討するときの考慮の要素と手続きを決めておきます5。協会員は、顧客の調査や取引開始基準などについて社内規則を作り、役職員に守らせます12。基準の中身(どの商品に、どの経験や資産の水準を求めるか)は、金融機関が扱う商品と顧客の層に合わせて決めるため、金融機関ごとに違います。
関わる部署と役割
適合性の確認は、勧誘する役職員だけでなく、承認する管理職と、手順を検証する部署が分けて持ちます。金融商品取引業者等向けの監督指針の着眼点に出てくる担い手と役割は、次のとおりです5。
| 担い手 | 監督指針の着眼点での役割 |
|---|---|
| 勧誘に携わる役職員 | 商品のリスク、リターン、コストを正しく理解し、顧客に説明する |
| 管理職 | 顧客の属性に応じて、一定の商品の勧誘を承認する |
| 営業部門の管理責任者(担当者以外の責任者。内部管理責任者、部店長などを含む) | 取引の内容を顧客に直接確かめる必要があるときに、顧客と面談する |
| 内部管理部門 | 商品の把握、顧客の情報の把握、合理的な理由の検討と、不適当な勧誘がないかを検証し、態勢を見直す。管理責任者の面談の方法を定め、実施の状況を検証する |
顧客に接するフロント(営業・トレーディング)の営業担当者は、表の 1 行目の役職員に当たります。主要行等向けの監督指針は、顧客への説明の態勢について、取締役会が全行の内部管理の態勢をつくることと、検査や監査による内部のけん制が働いていることを着眼点にしています13。承認する役職の名前や、検証する部署の置き方は、組織の規模や扱う商品によって金融機関ごとに違います。
高齢の個人顧客
証券会社などは、高齢の個人顧客への勧誘をほかの顧客より慎重にします。高齢の個人顧客は、投資の経験が十分でも、体の衰えに加えて、短い間に判断する力が変わることがあります。そのため、勧誘と販売を慎重にする態勢と、問題のある販売を早く見つける仕組みを置きます14。高齢の顧客の定義、販売の対象にする商品、説明と注文の受け方などは、社内規則で定めます15。日本証券業協会の規則では、どの年齢から高齢の顧客とするかは各社が決めます。
契約した後の見直し
デリバティブの契約は何年も続くため、確認は契約で終わりません。銀行は、契約した後も定期的に、また必要に応じて、顧客の業況と財務の内容を踏まえて確かめます。確かめるのは、実需がどれだけ続いているかに照らして、ヘッジが有効か、顧客がそのヘッジを続けられるかです11。ヘッジの手段そのものに損がなくても、事業の規模が小さくなるなどして、契約の終わりまでヘッジとして働かなくなる場合があります8。証券会社などは、長く続くデリバティブ取引の実態を、営業部門の管理責任者の面談などでつかみます5。
事業会社の架空の例で考えます。M 社は、海外から原材料を輸入し、毎月 100 万ドルを支払います。この支払いに備えて、毎月 100 万ドルを買う為替予約を 3 年分結んでいます。契約から 1 年後の見直しで、輸入が毎月 50 万ドルに減ったと分かったとします。残りの 24 か月は、毎月 50 万ドル、合わせて 1,200 万ドルが実需を超えます。この部分はヘッジの対象がない持ち高で、相場によって得にも損にもなります。見直しの結果、顧客が契約を期日の前に終えることを考えるときの手続きは、期限前解約で扱います。
証券会社などは、見直しで顧客の資産や収入の状況、投資の目的の変化が分かれば、顧客カードなどの登録の内容を変えるかを顧客に確かめてから変え、変えた後の内容を顧客と共有します。その後の勧誘は、変えた後の内容に沿って行います5。
顧客が求めれば、銀行は、決算や解約の判断に使う持ち高の時価や解約清算金の額も知らせます11。
不適当な勧誘と防ぎ方
適合性の確認の手順があっても、確認を形だけにする勧誘が起きえます。金融商品取引業者等向けの監督指針は、不適当または不誠実な勧誘の例として、次の 3 つを挙げています5。
- 顧客の属性や目的に合わない高い頻度の売買を勧め、手数料を多く負わせる。
- 手順 2 で登録した投資の目的を、意味を理解させないまま、勧めたい商品に合わせて変えさせる。
- 合う商品がいくつもあるのに、理由なく手数料の高いものを勧める。
証券会社などは、目的に合わない勧誘を防ぐために、顧客の属性に応じて一定の商品の勧誘を管理職の承認制にし(手順 4)、内部管理部門がこうした勧誘がないかを検証して態勢を見直します5。
注
-
「金融商品取引法」第 40 条第 1 号。金融商品取引業者と登録金融機関を合わせて「金融商品取引業者等」と呼ぶことは同法第 34 条。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ(217 ページ)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 45 条柱書と第 1 号。特定投資家の範囲は同法第 2 条第 31 項。 ↩
-
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅢ-2-3-2-1(1)⑥(53 ページ)。申出の根拠は「金融商品取引法」第 34 条の 3 第 1 項。 ↩
-
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅢ-2-3-2-1「適合性原則」の前文と(1)①〜⑤(51〜53 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10
-
日本証券業協会「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」第 3 条第 3 項。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.cと、その(注1)〜(注3)(218〜219 ページ)。 ↩ ↩2
-
日本証券業協会「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」第 6 条第 1 項(第 4 号の有価証券関連デリバティブ取引等、第 5 号の特定店頭デリバティブ取引等など)と第 2 項。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.aとd(217〜219 ページ)。 ↩
-
日本証券業協会「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」第 24 条第 1 項。 ↩
-
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(1)①と③ロ(216 ページ)。 ↩
-
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ-3-1-2(3)「高齢顧客への勧誘に係る留意事項」(129 ページ)。 ↩
-
日本証券業協会「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」第 5 条の 3。 ↩