新しい顧客と店頭デリバティブを結ぶ前には、顧客の確認、信用力の審査、担保と与信枠の決定を済ませます。この段階の役割は、営業を進める部門、審査部署、法令の対応を統括する担当者で分かれます。

何のためにあるか

本人確認と与信審査は、目的が違います。本人確認は、金融機関が犯罪で得た資金の移転やテロへの資金供与に使われないようにするためのものです。犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)は、銀行や金融商品取引業者などに、顧客の本人特定事項などの確認、取引の記録の保存、疑わしい取引の届出を義務づけています1。本人確認のうち、この法律が定める手続きは、法律の語で「取引時確認」といいます。

与信審査は、顧客が破綻したときに金融機関が受ける損失に備えるためのものです。事業会社の G 社が、輸入代金の支払いに備えて、金融機関と「1 年後に 100 万ドルを 1 ドル 150 円で買う」為替予約を結ぶ架空の例で考えます。途中で為替レートが 1 ドル 140 円に下がると、この予約は、金融機関にとって 140 円の価値のドルを 150 円で売れる約束になり、価値はおよそ 1,000 万円のプラスです2。このとき G 社が破綻すると、金融機関はこのプラスの分を失いえます。この損失のリスクをカウンターパーティ・クレジットリスク、相手が破綻した時点で失いうる額をエクスポージャーといいます3。金融機関はこのようにエクスポージャーを負うことがあるため、取引を始める前に顧客の信用力を調べ、損失を抑える手立て(担保など)を検討します4。

為替レートが逆に 1 ドル 160 円に上がると、予約の価値は G 社にとっておよそ 1,000 万円のプラスで、金融機関のエクスポージャーは 0 です。G 社から見ると、予約だけでは 140 円のとき 1,000 万円の損、160 円のとき 1,000 万円の得になります。ただし、どちらの場合も 100 万ドルを 150 円で買うため、輸入代金の円での支払いは 1 億 5,000 万円に決まります。

約定までの流れ

顧客との業務の全体の流れは顧客向け業務の流れで扱います。取引の提案や約定の前に済ませる手順は、次の 4 つです。手順ごとに根拠の資料が違うため、末尾に資料を添えます。

銀行の態勢は、金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」に沿います。デリバティブなどのカウンターパーティの信用リスクについては、バーゼル銀行監督委員会が 2024 年 12 月に「カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)の最終版を公表しました。主に銀行に向けて、効果的な管理の手続きを示しています5。

  1. 取引時確認。金融機関が、顧客の名称や所在地、取引の目的などを書類と申告で確かめ、記録を残します(犯罪収益移転防止法)。
  2. 反社会的勢力でないことの確認。金融機関が、反社会的勢力に関する情報を使って事前に審査します(主要行等向けの監督指針)。
  3. 与信審査。営業を進める部門から分けた審査部署が、顧客の財務の状況などから信用力を評価します(主要行等向けの監督指針、ガイドライン)。
  4. 担保の要否と与信枠の決定。金融機関が、審査の結果をもとに、担保を求めるかと、顧客ごとのエクスポージャーの上限を決めます(ガイドライン)。
G 社金融機関反社対応部署審査部署為替予約を相談し、書類と申告を出す取引時確認と記録の保存反社会的勢力の情報で審査する財務などから信用力を評価する担保の要否と与信枠を決める提案・約定へ進む
図 1本人確認と与信審査の業務フロー(本文の手順の番号の順。部署の分担は一例)
図の説明

G 社の為替予約を例に、本文の手順 1 から 4 を部署ごとに並べた図です(「反社対応部署」は、反社会的勢力への対応を総括する部署)。G 社の相談と書類の提出から始まり、4 つの手順が約定の前に済んで、提案と約定へ進みます。図は手順がそのまま進む場合を描いています。部署の名前と分担は金融機関ごとに違います。

手順を誰がどの順に進めるか、どの役職が承認するかは、金融機関が自分の規程で決めます。金融機関は取引時確認などの規程を作るよう努め、銀行は決裁権限などを書いたクレジット・ポリシーを定めます6。

取引時確認で確かめること

取引時確認が要る取引(特定取引)は政令が並べています。預金口座を開く契約、お金を貸す契約のほか、金融商品取引法の店頭デリバティブの取引を行う契約も入ります7。顧客が法人のときは、次の 4 つの事項を確かめます8。

確かめる事項 G 社の例 確かめ方
本人特定事項(名称と本店の所在地) G 社の商号と本店の住所 登記事項証明書などの提示を受けるか、登記情報の提供の制度で登記情報を受け取る
取引を行う目的 輸入代金の為替リスクのヘッジ G 社から申告を受ける
事業の内容 部品の輸入と販売 定款や登記事項証明書などで確かめる
実質的支配者の本人特定事項 G 社の議決権の 4 分の 1 を超えて持つ個人の氏名、住居、生年月日 G 社の代表者等から申告を受ける

表の「確かめ方」は、施行規則が定める方法の一部です9。実質的支配者は、法人の事業経営を実質的に支配できる個人です。株式会社では、議決権の総数の 4 分の 1 を超えて直接か間接に持つ個人がこれにあたります。そうした個人がいなければ、出資や融資、取引などを通じて事業活動に支配的な影響力を持つ個人、それもいなければ法人を代表して業務を執行する個人になります10。

G 社の財務部長のように、G 社のために実際に手続きをする個人(代表者等)がいるときは、その個人の氏名、住居、生年月日も確かめます11。確かめた内容は確認記録にして、取引の契約が終わった日などから 7 年間保存します12。確認記録を保存している顧客とのその後の取引では、政令で定める取引について確認を繰り返さなくてよくなります13。一方で、金融機関は、確かめた事項の情報を最新の内容に保つ措置もとります14。

金融機関は、顧客が確認に応じないときは、応じるまで取引の義務の履行を拒めます15。また、金融機関は、受け取った財産が犯罪による収益である疑いがあると判断したときは、行政庁に届け出ます(疑わしい取引の届出)16。

反社会的勢力でないことの確認

反社会的勢力は、暴力、威力、詐欺的な手法を使って経済的な利益を求める集団や個人です。暴力団や暴力団関係企業、総会屋のような属性と、暴力的な要求や法的な責任を超えた不当な要求のような行為の両方に着目してとらえます18。金融機関は、顧客が反社会的勢力でないことを取引の前に確かめ、取引を含めた一切の関係を持たないようにします。この考え方のもとは、2007 年に政府の犯罪対策閣僚会議の幹事会がまとめた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」です。銀行は、この指針の趣旨を踏まえた主要行等向けの監督指針に沿って、関係を断つ態勢を整えます19。

確認の中心は、取引の前の審査です。反社会的勢力に関する情報を集めたデータベースを、反社会的勢力への対応を総括する部署が一元的に管理し、取引先の審査に使います。あわせて、契約書や取引約款に暴力団排除条項を入れ、反社会的勢力が取引先になるのを防ぎます20。証券会社などの金融商品取引業者も、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」に沿って、同じ事前審査と暴力団排除条項の導入をします21。

事前審査だけでは防ぎきれないこともあります。反社会的勢力が関係する企業を使い、通常の経済取引を装って取引関係を築き、後でトラブルになる事例があるためです19。そのため銀行は、既存の契約も後から検証し、取引の後に反社会的勢力と分かったときは、経営陣に報告したうえで、できる限り速やかに関係を解消します22。

与信審査で見ること

与信審査では、審査部署が顧客の財務の状況と財務以外の情報を合わせて、信用力を評価します。銀行は、主要行等向けの監督指針に沿って、営業を進める部門と審査をする部門を分けます。審査の部門は、与信先の財務状況、資金使途、返済財源などをつかみ、それをもとに信用格付(金融機関が内部で顧客の信用度に付ける段階。内部格付ともいいます)が正しいかを確かめます23。

財務の分析では、決算書の数値から計算した指標を使います。日本銀行の金融高度化センターが内部格付の作り方を解説した資料は、財務指標の例として次のものを挙げています24。

観点 指標の例
規模 自己資本額、純資産額
安全性 自己資本比率、流動比率
収益性 総資本経常利益率、売上高営業利益率
成長性 増収率、増益率

財務以外の情報では、業種の特性(成長性、市況の変動の大きさ、参入障壁)と、企業の特性(営業基盤、技術力、資金繰り、親会社の支援)を評価に加える例があります25。G 社なら、自己資本比率などで財務の安全性を見て、扱う部品の市況の変動の大きさや親会社の支援の有無を加えて評価します。

デリバティブのカウンターパーティの審査について、ガイドラインでは、銀行は評判、戦略、リスク管理の実態などの財務以外の情報も確かめ、本人確認で得た情報も使って信用力を評価するとされています4。十分な情報が取れない相手には、内部格付、与信枠、担保の条件を保守的に(厳しく)設定するとされています26。審査は取引を始めるときだけでなく、その後も続け、カウンターパーティの状況が変われば、内部格付、取引できる商品、契約の内容、与信枠を見直すとされています4。

ガイドラインの背景には、2021 年のアルケゴスの事案など、カウンターパーティの審査、リスクの計測と管理、ガバナンスの不備が表に出た事案があります27。

担保と与信枠の決め方

与信審査の結果をもとに、担保を求めるかと与信枠の大きさを決めます。ガイドラインでは、担保の枠組みについて、銀行は、取引のエクスポージャーの大きさ、受け取る担保の質(適格性)、カウンターパーティの信用リスクに見合うように担保の条件を決め、エクスポージャーが動けば受け取る担保の額も変えるとされています28。デリバティブの担保の受け渡しの条件は、ISDA(International Swaps and Derivatives Association)のマスター契約に付ける担保契約であるクレジット・サポート・アネックス(CSA)で定めます29。

G 社の例で、金融機関が予約の価値のプラスに見合う担保として 1,000 万円を G 社から受け取っていれば、その時点で G 社が破綻しても、エクスポージャーの 1,000 万円は担保でまかなえます。

与信枠は、カウンターパーティごとに決めるエクスポージャーの上限です。ガイドラインでは、銀行は、新しいカウンターパーティと取引を始めるときに、見込みの取引とリスクの量を想定するとされています4。枠の大きさも、銀行がとるリスクの範囲(リスク・アペタイト)に沿わせ、カウンターパーティの信用力やエクスポージャーが変われば変えるとされています30。内部格付の使い道の例には、取引の方針や限度額の設定があります31。G 社の例なら、今後結ぶ見込みの為替予約の金額と期間を想定し、審査の結果とあわせて枠を決めます。

枠が決まった後、約定の前に使用額が枠に収まるかを確かめる仕組みと、使用額の測り方は与信枠の管理で扱います。

関わる部署と役割

役割は次のように分かれます。部署の名前と分担は金融機関ごとに違います。

役割 すること 根拠
フロント(営業・トレーディング) 顧客への提案。審査をする部門とは分ける 主要行等向けの監督指針23
審査部署 与信審査、信用格付の検証 主要行等向けの監督指針23
反社会的勢力への対応を総括する部署 反社会的勢力の情報の一元管理、取引先の審査 主要行等向けの監督指針20
統括管理者 取引時確認などの措置の統括、リスクの高い取引の承認 犯罪収益移転防止法、主要行等向けの監督指針17

注

  1. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 1 条(目的)と第 2 条第 2 項第 1 号(銀行)、第 21 号(金融商品取引業者)。 ↩

  2. 予約の価値を、そのときの為替レートと予約のレートの差に 100 万ドルを掛けた(150 円 − 140 円)× 100 万ドル = 1,000 万円で表した概算です。期日までの金利の差と割引は無視しています。 ↩

  3. カウンターパーティ・クレジットリスクは、金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 6 ページ。エクスポージャーは、日本銀行金融機構局 金融高度化センター「信用リスク管理態勢の整備」(2019 年 8 月)の 6 ページ。 ↩

  4. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 9 ページ「Onboarding(取引開始時)」と「Ongoing credit assessment(継続モニタリング)」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  5. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 4 ページ「背景・経緯」と 7 ページ「適用範囲、比例適用、リスクベースの対応」。 ↩

  6. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 11 条第 2 号。金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-2-1-2(1)(108 ページ)。 ↩

  7. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令」第 7 条第 1 項第 1 号のイ(預金の受入れの契約)、カ(金銭の貸付けの契約)、リ(「金融商品取引法」第 2 条第 8 項第 1 号から第 6 号などの行為を行う契約。店頭デリバティブ取引は同項第 4 号)。リから除く取引は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」第 4 条。 ↩

  8. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 4 条第 1 項第 1 号から第 4 号。 ↩

  9. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」第 6 条第 1 項第 3 号イ、ロと第 7 条第 2 号(本人特定事項)、第 9 条(取引を行う目的)、第 10 条第 2 号(事業の内容)、第 11 条第 1 項(実質的支配者)。 ↩

  10. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」第 11 条第 2 項。議決権を持つ個人でも、事業経営を実質的に支配する意思や能力がないことが明らかな場合と、ほかの個人が議決権の 2 分の 1 を超えて持つ場合は除きます。 ↩

  11. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 4 条第 4 項と第 1 項第 1 号。 ↩

  12. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 6 条。 ↩

  13. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 4 条第 3 項。 ↩

  14. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 11 条の柱書き。 ↩

  15. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 5 条。 ↩

  16. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 8 条第 1 項。 ↩

  17. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-1-3-1-2(1)①、②ハと(2)(152〜154 ページ)。統括管理者の選任は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 11 条第 3 号。 ↩ ↩2

  18. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-1-4-1の(参考)「反社会的勢力のとらえ方」(159 ページ)。 ↩

  19. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-1-4-1「意義」(158 ページ)。 ↩ ↩2

  20. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-1-4-2(2)①と(3)(160 ページ)。 ↩ ↩2

  21. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-11の「③ 適切な事前審査の実施」(93 ページ)。 ↩

  22. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-1-4-2「主な着眼点」の前文と(4)、(5)①(159〜161 ページ)。 ↩

  23. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-2-1-2(2)、(5)(108〜109 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  24. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「信用リスク管理態勢の整備」(2019 年 8 月)の 14 ページ「④財務指標の選択」。 ↩

  25. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「信用リスク管理態勢の整備」(2019 年 8 月)の 18 ページ「⑥定性情報の反映」。 ↩

  26. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 8 ページ「Information Disclosure(情報開示)」。 ↩

  27. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 6 ページ「Introduction / はじめに」。 ↩

  28. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 10 ページ「Margining(証拠金・担保)」。 ↩

  29. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 3 ページ「Glossary」の CSA の項。 ↩

  30. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月)の 15 ページ「Limits(信用枠・リミット)」。 ↩

  31. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「信用リスク管理態勢の整備」(2019 年 8 月)の 9 ページ「①目的の明確化」。 ↩