営業担当者は、デリバティブを提案する前の聞き取りで、顧客の外貨や借入の受け払いと取引の目的を確かめます。コンプライアンス担当者は、この聞き取りと記録の手順を点検するときにも、この内容を使います。

提案の前にニーズを確かめる理由

顧客のニーズの把握は、どの取引を、どれだけの金額と期間で提案するかを決める前提になります。顧客向けの業務の流れの中では、提案と説明より前に置かれる段です。流れの全体は顧客向け業務の流れで扱います。

顧客営業担当者事業の受け払いと取引の目的を伝える金額、時期、期間、確かさを聞き取る取引の目的がヘッジかを分ける実需の範囲と有効性を確かめる確認結果の説明を受ける説明を受けたことを顧客に確かめる確認の記録を書面で残す
図 1ニーズの把握から記録までの流れ
図の説明

顧客と営業担当者の間で、ニーズの把握が進む順番です。顧客が事業から生じる外貨や金利の受け払いと取引の目的を伝え、営業担当者が金額、時期、期間と確かさを聞き取ります。次に営業担当者が、目的がヘッジかを分け、提案する取引を実需(事業から実際に生じる受け払い)の範囲に収め、ヘッジとして働くこと(有効性)を確かめます。その結果を顧客に説明して、説明を受けたことを顧客に確かめ、確認の記録を書面(確認書等)で残して、契約の後も実需が続いているかを見直すもとにします。目的がヘッジでないときは、ヘッジとしての有効性の確認は当てはまりません。

銀行が事業会社と店頭デリバティブを取引するときの手順は、金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」に示されています。取引がヘッジ目的なら、銀行は次の 3 つを確かめ、その結果を顧客に説明します1。

  1. 顧客の事業の状況(仕入れ、販売、資金の調達の環境)と、仕入先や販売先との価格の決め方を踏まえても、ヘッジの手段として働くこと
  2. ヘッジとして働く場面が、契約の終わりまで続くと見込まれること
  3. 取引が、顧客の今後の経営をかえって見通しにくくしないこと

証券会社などについては、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」に、通貨オプションや金利スワップなどの店頭デリバティブで、同じ 3 つの点を顧客が理解しているかを確かめる項目があります2。どれも、顧客の事業と実需の聞き取りが前提になります。

顧客のリスクを金額、時期、期間で聞き取る

聞き取りでは、顧客の事業から生じる外貨や金利の受け払いを、金額、時期、期間の数字で確かめます。事業会社 F 社の架空の例で考えます。

F 社は米国の取引先に製品を輸出し、代金をドルで受け取っています。今後 12 か月の受け取りは毎月 50 万ドル、合わせて 600 万ドルの見込みで、そのうち最初の 6 か月分の 300 万ドルは注文を受けています。また、F 社は変動金利で 10 億円を借りており、返済までの残りの期間は 5 年です。営業担当者は、次の表の形で聞き取りの結果をまとめます。

項目 ドルの受け取り 借入
リスクの種類 為替リスク(円高で円での受取額が減る) 金利リスク(金利が上がると利息が増える)
金額 毎月 50 万ドル、12 か月で 600 万ドル 10 億円
時期と期間 毎月、今後 12 か月 残り 5 年、期日に一括で返す
確かさ 最初の 6 か月分(300 万ドル)は注文済み、残りは見込み 契約済み

金額と期間に加えて、「確かさ」の欄が後の判断に効きます。注文済みの 300 万ドルと、見込みの 300 万ドルでは、実際に受け取れなくなるおそれの大きさが違うためです。

営業担当者は、相場の変動を取引先との価格に転嫁できるかも聞き取ります。ヘッジの手段として働くかは、為替や金利が動いてもその影響を和らげる価格交渉力や価格決定力があるかを含めて判断します3。値上げや値下げで相場の影響を吸収できるかどうかで、デリバティブがヘッジの手段として働くかの判断が変わります。企業がヘッジを検討するときも、価格の変動を販売先に転嫁できるか、転嫁できないならヘッジで対応するかを先に考えます4。反対に、ヘッジで仕入れの価格などを固定すると、顧客の価格競争力に影響することがあります3。

取引の目的がヘッジかどうかを確かめる

営業担当者は、取引の目的が、ヘッジか、相場の値動きから利益を得ようとする投機かを分けて確かめます。目的によって、金融機関が確かめることが変わるためです。

適合性原則は、顧客の知識、経験、財産の状況と、契約を結ぶ目的に照らして不適当な勧誘をしないという、金融商品取引法の原則です5。銀行がデリバティブを取引するときは、主要行等向けの監督指針で、顧客の知識、経験、財産の状況と取引を行う目的を踏まえることが求められています6。監督指針の 3 つの確認は、目的がヘッジのときに当てはまります。F 社の例では、ドルの受け取りと借入の利息という、事業から生じる受け払いが先にあり、それを固定したいという目的なら、ヘッジに当たります。

目的がヘッジでないときは、ヘッジとしての有効性の確認は当てはまりません。一方で、金融商品取引業者等向けの監督指針で、顧客が許容できる損失の額と、それが経営や財務に重大な影響を及ぼさないかを確かめる手順には、ヘッジ目的という条件が付いていません7。同じ監督指針では、顧客が許容できる損失額を、最悪のシナリオでの損失と比べて説明する手順も示されています8。

実需を超える金額や期間の取引を避ける

営業担当者は、ヘッジとして提案する取引を、聞き取った実需の金額と期間の範囲に収めます。実需を超える部分は、ヘッジの対象がないまま残り、相場によって得にも損にもなる別のポジションになるためです。

F 社の例では、ドルを売る為替予約の金額は 12 か月で 600 万ドル以下、期間は 12 か月以内が実需の範囲です。3 年分のドル売りの為替予約を結ぶと、2 年目と 3 年目の分は、聞き取りで確かめた受け取りの見込みを超えます。借入についても、10 億円を超える想定元本や、残りの期間の 5 年より長い金利スワップは、借入を返した後や借入を超える部分の利息を固定することになり、ヘッジの対象がありません。

範囲の中に収めても、実需が後から減ると、同じことが起きます。ヘッジの手段そのものに損失が出ていなくても、事業の規模が縮むと、ヘッジが契約の終わりまで働かないことがあります3。そのため営業担当者は、見込みの部分の確かさを聞き取り、確かさの低い部分まで取引を広げないかを確かめます。

ヘッジする割合の考え方

ヘッジする金額が実需の範囲に収まっていても、実需のうちどれだけをヘッジするかは、顧客のリスク管理の方針で決まります。実需の金額のうちヘッジする金額の割合をヘッジ比率といいます11。

F 社の 600 万ドルの受け取りを、ヘッジ比率 0%、50%、100% のそれぞれで 1 ドル 150 円の為替予約でヘッジした例で、円での受取額を比べます。例を簡単にするため、600 万ドルはすべて同じ日に受け取り、そのときの相場は 1 ドル 140 円か 160 円のどちらかとします。ヘッジしない部分は、その日の相場で円に換えます。

ヘッジ比率 予約した金額(万ドル) 140 円のときの受取額(億円) 160 円のときの受取額(億円)
0% 0 8.4 9.6
50% 300 8.7 9.3
100% 600 9.0 9.0

ヘッジ比率 100% では、相場によらず受取額は 9 億円に決まります。140 円の円高なら、ヘッジしないときより 6,000 万円多く受け取れますが、160 円の円安なら 6,000 万円少なくなります。50% では、ヘッジしないときとの差が、どちらの相場でも半分の 3,000 万円になります。比率を上げるほど受取額は相場に左右されにくくなる一方、相場が有利に動いたときの得も小さくなります。

ヘッジ比率は、実需が減ったときに実需を超える予約の金額も変えます。F 社の受け取りが 400 万ドルに減ったとします。比率 100% の 600 万ドルの予約では 200 万ドルが実需を超え、その分はその日の相場でドルを買って渡すことになるため、前の節で見たように相場によって得にも損にもなります。比率 50% の 300 万ドルの予約なら、受け取りが 400 万ドルに減っても予約は実需の範囲に収まります。注文済みの部分と見込みの部分で比率を分けるかも、顧客の方針で決まります。

2022 年 3 月に海外で活動する製造業の上場企業に調査票を送った調査では、為替のヘッジの割合に社内ルールがあると答えた企業は、回答した 92 社のうち 50 社(54%)でした12。ルールがあると答えた企業のうち、ヘッジの割合の問いに答えた 48 社では、ほぼ 100% が 18 社(38%)、約 50% が 14 社(29%)で、規模の小さい企業では約 50% が最も多くなっています。ヘッジの期間の問い(複数回答)では、答えた 73 社のうち 3 か月が 36 社(49%)で最も多くなっています12。東京商品取引所の事例集が示す企業のヘッジの手順には、ヘッジする期間と量を決めることや、取引の内容がリスク管理の方針に照らして妥当かを確かめることがあります4。顧客にヘッジの割合を決めるルールがあるかは、提案する金額と期間を決める手がかりになります。

聞き取った内容を記録し、見直しに使う

営業担当者は、聞き取った実需と目的、ヘッジの有効性を確かめた結果を記録に残します。銀行は、ヘッジの有効性の確認結果などの説明を受けたことを顧客から確かめ、その記録を書面(主要行等向けの監督指針の語では「確認書等」)で残します13。証券会社などは、顧客カードなどに顧客の投資目的をよく確かめて書き、その内容を顧客と共有します14。

記録は、契約の後に実需が続いているかを見直すときのもとになります。F 社の例なら、注文済みの 300 万ドルと見込みの 300 万ドルがどうなったかを、聞き取りのときの記録と比べます。

聞き取りの結果をもとに取引を組み立て、リスクと期限前解約の扱いを説明する段は、提案と説明で扱います。

注

  1. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.c.(218 ページ)。 ↩

  2. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-3-3-2(6)③(165〜166 ページ)。 ↩

  3. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.c.の(注1)〜(注3)(218〜219 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  4. 東京商品取引所「ヘッジ取引の事例集」(2021 年)の 53 ページ「ヘッジ取引実施ステップ」。 ↩ ↩2

  5. 「金融商品取引法」第 40 条第 1 号。 ↩

  6. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.の柱書き(217 ページ)。 ↩

  7. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-3-3-2(6)①ロ.(165 ページ)。 ↩

  8. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-3-3-2(6)①イ.ロ.(165 ページ)。 ↩

  9. 「金融商品取引法」第 38 条第 4 号とただし書き。 ↩

  10. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.f.とその(注)(219 ページ)。例外の先の例と、実態で判断する例は同じ(注)にあります。 ↩ ↩2

  11. 経済産業研究所の調査結果概要(2024 年 1 月)は「為替リスクエクスポージャーに対するヘッジの割合」と書き(11 ページ)、日本銀行「金融システムレポート(2017年4月)」の図表Ⅲ-2-4 は、生命保険会社の外国公社債投資の「ヘッジ比率」を示しています。 ↩

  12. 伊藤隆敏・鯉渕賢・佐藤清隆・清水順子・吉見太洋「日本企業の為替リスク管理とインボイス通貨選択:2021年度「日本企業の貿易建値通貨の選択に関するアンケート調査」結果概要」(経済産業研究所、2024 年 1 月)の 2 章、11 ページ、表 3-3(a)(調査票は 2022 年 3 月に送付。期間の問いの回答は 73 社)。 ↩ ↩2

  13. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.d.(219 ページ)。 ↩

  14. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-2-1(1)②イ.(52 ページ)。 ↩