事業会社が先物でヘッジを検討するときや、運用の担当者が先物の取引の目的を整理するときに、ヘッジ、投機、裁定取引の区別が出てきます。

同じ値動きでも損益の出方が違う

ヘッジ、投機、裁定取引は、同じ先物を使っても、相場が動いたときの損益の出方が違います。先物の運用手法は、単純売買取引(スペキュレーション)、ヘッジ取引、裁定取引の 3 つに分けられ、単純売買取引が投機にあたります1。

指数が今 20,000 で、先物の取引単位が指数の 1,000 倍の株価指数先物を使った架空の例で考えます。指数が 22,000 に上がるか、18,000 に下がると、3 つの取引の損益は次のようになります。

目的 取るポジション 指数が 22,000 のときの損益(万円) 指数が 18,000 のときの損益(万円)
ヘッジ 株式 2 億円を持ち、先物を 20,000 で 10 枚売る 0 0
投機 先物を 20,000 で 1 枚買う 200 −200
裁定取引 借りたお金で株式 2 億円を買い、先物を 20,200 で 10 枚売る 160 160

表の 3 行は、それぞれ別の場面です。ヘッジでは、株式と先物の損益が打ち消し合い、合計は指数がどちらに動いても 0 です。投機では、指数が上がれば利益、下がれば損失が出ます。裁定取引では、配当が予想どおりで取引のコストがなければ、始めたときの先物の割高さから決まる利益が、指数がどちらに動いても残ります。ただし、配当が予想より少なかったりコストがかかったりすると利益は減り、損失になることもあります。先物の仕組みは先渡しと先物で扱います。

3 つの目的は、冒頭の定義に当てはめて見分けます。「以外か」と聞く質問は、「いいえ」ならその定義に当てはまります。

はいいいえ持っている資産の損失を抑えるための反対の取引以外かヘッジの定義に当てはまるはいいいえ性格が同じ 2 つの商品の価格差を利益にする取引以外か裁定取引の定義に当てはまるはいいいえ相場の上げ下げの予想で利益を狙う取引か3 つの定義のどれにも当てはまらない投機の定義に当てはまる
図 1取引の目的を定義から見分ける
図の説明

1 つの取引が複数の定義に近いこともあるため、図は定義を順に当てはめる目安です。

上の表の 3 つの場面では、ヘッジは 1 つ目の質問で、裁定取引は 2 つ目の質問で、投機は 3 つ目の質問で、それぞれの定義に当てはまります。投機の場面は、損失を抑える対象の資産も組み合わせる別の商品もなく、指数が上がることを予想した取引なので、1 つ目と 2 つ目が「はい」、3 つ目も「はい」です。

ヘッジは値動きの損失を反対の取引で抑える

ヘッジは、持っている資産や、将来持つ予定の資産の値動きによる損失を、先物やオプションで反対のポジションを取って抑える取引です2。株式 2 億円を持つ投資家が、値下がりに備えて、指数が 20,000 のときに先物を 20,000 で 10 枚売る例で確かめます。先物 10 枚の取引の大きさは、20,000 に 1,000 倍と 10 枚を掛けた 2 億円で、株式の金額と同じです。例を簡単にするため、先物の価格は指数と同じ 20,000 とし、その後も指数と同じ幅だけ動くとします。株式は指数と同じ割合で動くとし、金利と配当、手数料は考えません。

満期の指数 株式の損益(万円) 先物の損益(万円) 合計(万円)
18,000(10% 下がる) −2,000 2,000 0
22,000(10% 上がる) 2,000 −2,000 0

指数が 18,000 に下がると、株式は 2 億円から 1 億 8,000 万円になり、2,000 万円の損失です。先物は 20,000 で売って 18,000 で買い戻すので、2,000 に 1,000 倍と 10 枚を掛けた 2,000 万円の利益になり、株式の損失を埋めます。一方で、指数が 22,000 に上がると、株式の 2,000 万円の利益は先物の 2,000 万円の損失で消えます。ヘッジは損失を抑える代わりに、値上がりの利益もあきらめる取引です。

持っている株式の値下がりに備えて先物を売るヘッジを売りヘッジ、将来株式を買う予定があり、値上がりに備えて先物を買うヘッジを買いヘッジといいます。買いヘッジでは、値上がりしたときの先物の利益を、株式を買う資金に足します3。値下がりに備える方法には、先物を売るほかに、プット・オプションを買う方法もあります2。

実際の株式は指数とまったく同じには動かないため、損失が全部は消えないことがあります。オプションの値動きを原資産の売買で打ち消す方法は、デルタ・ヘッジで扱います。

投機は値動きを予想して利益を狙う

投機は、相場の上げ下げを予想して先物などのポジションを取り、予想どおりに動いたときに反対売買で利益を得ようとする取引です5。指数が 20,000 のときに、値上がりを予想して先物を 20,000 で 1 枚買う例では、取引の大きさは 20,000 に 1,000 倍を掛けた 2,000 万円です。指数が 22,000 に上がって転売すると、2,000 に 1,000 倍を掛けた 200 万円の利益になり、予想が外れて 18,000 に下がると 200 万円の損失になります。値下がりを予想して先物を売った人の損益は、この逆になります。手数料は考えていません。

先物は、取引の大きさより小さい証拠金を差し入れて取引します。そのため、利益だけでなく損失も証拠金に比べて大きくなります6。相場の動きによっては、証拠金を追加で差し入れることになったり、損失が証拠金を上回ったりすることもあります7。

投機をする人は、ヘッジをしたい人が手放すリスクの受け手になります。投機をする投資家の市場での役割は 2 つあります。それぞれの判断で売買に加わって市場の価格発見の働きを高めることと、ヘッジをしたい投資家のリスクの移転先になることです5。ヘッジの節の株式を持つ投資家の例で、その投資家が売った先物を、値上がりを予想する投資家が買えば、値下がりのリスクが株式を持つ投資家から先物を買った投資家に移ります。

−3,000−2,000−1,0000+1,000+2,000+3,00020,000損益(ポイント)満期の指数(ポイント)利益損失損益分岐点 20,000
図 2指数 20,000 で買った先物の満期の損益
図の説明

指数が 20,000 のときに先物を買った人の、満期の損益です。縦軸は指数のポイントで、1 枚あたりの金額にするには 1,000 倍します。指数が 20,000 を上回った分だけ利益が増え、下回った分だけ損失が増えます。同じ先物を売った人の損益は、この線を上下に反転した形で、買い手の利益がそのまま売り手の損失になります。

裁定取引は価格のずれから利益を得る

裁定取引は、性格が同じ 2 つの商品の間で、割高な方を売って割安な方を買い、その価格差を利益にする取引です8。投資家は、先物と現物(先物のもとになる株式などの資産)の間のほか、先物の限月(取引できる期限の月)の間や、異なる先物の商品の間でも裁定取引をします8。

株価指数の先物と現物の間の裁定取引では、先物の実際の価格と理論価格を比べます。理論価格は、指数と金利、予想配当利回り、満期までの日数から計算する先物の価格の目安です910。指数が 20,000、満期まで 73 日(0.2 年)、金利が年 2%、予想配当利回りが年 1% の架空の例で考えます。1 単位あたりの金利は 20,000 × 2% × 0.2 = 80、配当は 20,000 × 1% × 0.2 = 40 です。指数に金利の分を足し、配当の分を引いた 20,040 が理論価格の目安です11。

このとき先物の価格が 20,200 なら、先物は理論価格より 160 割高です。先物の価格が理論価格より高いときは、先物を売って現物の株式を買います。これを買い裁定といい、逆に先物が理論価格より安いときに先物を買って株式を売る取引を売り裁定といいます12。

買い裁定の例として、2 億円を年 2% で借りて指数と同じ構成の株式を 2 億円買い、先物を 20,200 で 10 枚売ります。73 日の間に払う金利は 2 億円 × 2% × 0.2 = 80 万円、受け取る配当は 2 億円 × 1% × 0.2 = 40 万円です。大阪取引所の株価指数先物では、満期まで持った先物は、指数の構成銘柄の株価から計算する最終清算数値(SQ)との差額で決済されます13。株式は SQ と同じ水準で売れるとして、満期の指数が 22,000 と 18,000 の 2 つの場合を計算します。

満期の指数(SQ) 株式の損益(万円) 先物の損益(万円) 金利(万円) 配当(万円) 合計(万円)
22,000 2,000 −1,800 −80 40 160
18,000 −2,000 2,200 −80 40 160

指数が 22,000 なら、株式は 2,000 万円の利益、先物は(20,200 − 22,000)に 1,000 倍と 10 枚を掛けた 1,800 万円の損失です。18,000 なら、株式は 2,000 万円の損失、先物は 2,200 万円の利益です。どちらの場合も、金利と配当を足し引きした合計は 160 万円で、始めたときの割高さの 160 に 1,000 倍と 10 枚を掛けた金額と同じです。先物が理論価格の 20,040 で売られていたら、合計は 0 になります。

ヘッジの例と同じく、買い裁定も株式を持って先物を売る組み合わせです。違いは、ヘッジが持っている株式を守るために先物を売るのに対し、買い裁定は先物の割高さに気づいてから株式と先物を同時に取引する点です。満期まで待たず、先物と現物の価格差が理論価格の水準に戻ったところで両方を反対売買して利益を確定することもあります12。

計算例では、配当が予想どおりに入り、株式を指数どおりに組めて、取引のコストがないとしました。実際の裁定取引には、手数料と税金がかかります。ほかに、タイミング・ロス、マーケット・インパクト、トラッキング・エラーなどもコストになります14。そのため、投資家は、先物の実際の価格と理論価格の差が一定の水準より大きくなったときに裁定取引をします15。

前提が崩れると、合計は計算例の 160 万円から変わります。たとえば、配当が予想の半分の 20 万円しか入らなければ、合計は 160 万円から 140 万円に減ります。手数料などのコストが合わせて 200 万円かかれば、合計は 160 万円から 200 万円を引いた 40 万円の損失です。

投資家が裁定取引で割高な先物を売り、割安な現物を買うため、先物と現物の価格のずれは縮みます。裁定取引によって先物の価格が適正な水準に保たれ、先物と現物の両方の市場の流動性が高まります1615。為替の先渡しの相場も、円と外貨の金利の取引に裁定が働くことを前提に、今の為替相場と 2 つの通貨の金利から計算します17。

深掘り大阪取引所の理論価格の式

日経225先物の理論価格は、日経平均株価に e(r−δ)Te^{(r-\delta)T} を掛けた値です。ee は自然対数の底、rr は金利、δ\delta は予想配当利回り、TT は満期までの日数を 365 で割った値です10。

F=S×e(r−δ)TF = S \times e^{(r-\delta)T}

SS は指数、FF は先物の理論価格です。本文の例(SS = 20,000、rr = 2%、δ\delta = 1%、TT = 0.2)をこの式で計算すると、20,040.04 になります。本文の目安の 20,040 は、金利と配当を単利で計算した値で、この例では式の値との差は 0.04 です。

注

  1. 企業年金連合会「先物取引(用語集)」。 ↩

  2. 日本取引所グループ「ヘッジ取引(用語集)」。 ↩ ↩2

  3. 大阪取引所「先物取引のすべて」(2024 年 8 月発行)の付録「株価指数先物取引の利用方法」の「(2)ヘッジ取引」(40 ページ)。 ↩

  4. 同じ資料の「ヘッジ取引の具体例」(40〜41 ページ)。 ↩

  5. 大阪取引所「利用方法(先物)」の「スペキュレーション」。 ↩ ↩2

  6. 日本取引所グループ「先物取引(用語集)」。 ↩

  7. 日本取引所グループ「商品概要(日経225先物)」の「証拠金」の「1単位あたりの例」の下の段落。 ↩

  8. 日本取引所グループ「裁定取引(用語集)」。 ↩ ↩2

  9. 大阪取引所「先物取引のすべて」の「裁定取引の具体例」(42 ページ)。 ↩

  10. 日本取引所グループ「商品概要(日経225先物)」の「理論価格」の段落と理論価格算出式。 ↩ ↩2

  11. 単利の目安は 20,000 × (1 + (2% − 1%) × 0.2) = 20,040 で、本文の「指数 + 金利 − 配当」と同じ値です。資料の式(深掘りを参照)で計算した理論価格は 20,040.04 です。 ↩

  12. 大阪取引所「利用方法(先物)」の「理論価格と裁定取引」。 ↩ ↩2

  13. 大阪取引所「先物取引のすべて」の「建玉及び決済について」の「(3)最終決済」(38 ページ)。 ↩

  14. 大阪取引所「先物取引のすべて」の「(2)異なる限月間の裁定取引(スプレッド取引)」に続く段落(42 ページ)。 ↩

  15. 大阪取引所「先物取引のすべて」の付録「株価指数先物取引の利用方法」の「(3)裁定取引」(41 ページ)。 ↩ ↩2

  16. 大阪取引所「利用方法(先物)」の「裁定取引(アービトラージ)」の 2 段落目。 ↩

  17. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「スポットレートとその応用」の「5.フォワード為替」(14 ページ)と「フォワード為替の計算式」(15 ページ)。 ↩