営業担当者やトレーダーが、顧客に最終の価格を示して取引を成立させる場面で使います。バックの担当者は、約定の記録を受けて確認書の手続きを進めます。

合意した時点で取引の条件が決まる

契約は、一方が内容を示して結びたいと申し入れ(申込み)、相手が承諾したときに成立し、法令に特別の決まりがなければ書面は要りません1。そのため、電話で条件と価格に合意すれば、その時点で取引は成立し、後から相場が動いても合意した条件は変わりません。米国の連邦準備制度理事会の検査の手引き(1998 年版。以下、検査の手引き)では、取引は数秒で成立し、そこで約束した内容は確定した契約として扱われていました2。

約定した条件を後から変えることも、簡単にはできません。為替予約は、決めた受渡日か期間の中で予約した金額を使い切るのが原則で、予約したレートのまま期日を変えることは基本的に認められていません3。

店頭デリバティブでは、取引の後に取引確認書(コンファメーション)を送り合います。確認書は、合意した条件を書面に記録し、双方の記録を照らし合わせて誤りを見つけるためのもので、取引を成立させるものではありません4。確認書の中身と送り方は確認書(コンファメーション)で扱います。

約定より前には、ニーズの把握、本人確認と与信審査、提案と説明、適合性の確認の段階があり、取引の説明もそこで終えておきます。主要行等向けの監督指針では、銀行は、デリバティブ取引のリスクや中途解約(顧客の申し出による期限前解約)について説明を受けたことを顧客から確かめ、その記録を書面に残すこととされています5。説明のときに渡す書面は、取引説明書と契約締結前交付書面です。説明の手順は提案と説明で扱います。

価格の提示から意思の確認まで

1 年後に米国の取引先から輸出の代金 100 万ドルを受け取る予定の事業会社 N 社の架空の例で考えます。円での受取額を今のうちに決めるため、N 社は金融機関と、1 年後に 100 万ドルを売る為替予約を結びます。N 社の取引は外国為替の取引なので、手順の一部はグローバル外為行動規範(以下、行動規範)に沿って書きます。行動規範は、外国為替市場の参加者に向けた、法令ではない原則です6。

  1. N 社の財務担当者が、金融機関の営業担当者に、売買の向き(ドル売り)、金額(100 万ドル)、受渡日(1 年後)を伝えて価格を求めます。
  2. 営業担当者は、社内のトレーダーから価格を受け取ります7。トレーダーは、その時点の相場と自社の持ち高を見て価格を決めます2。
  3. 金融機関は、取引が N 社の与信枠に収まるかを確かめます。為替予約を結ぶことは顧客への与信にあたるため、金融機関は事前に審査をし8、承認した限度に収まるときだけ取引を受けます(行動規範)9。
  4. 営業担当者は、示す価格が取引できる価格か、目安の気配値かをはっきりさせて伝えます(行動規範)10。ここでは、取引できる価格として 1 ドル 140.00 円を示します。
  5. N 社が「140.00 円で 100 万ドルを売ります」と答え、金融機関がそれを受けた時点で取引が成立します。
  6. トレーダーは、約定の日時と条件を記録し、事務の部署に引き継ぎます。

図 1 は、この手順を部署ごとに並べたものです。

営業担当者トレーダーバック向き、金額、受渡日を聞く価格の決定与信枠の確認顧客への提示顧客の回答と取引の成立日時と条件の記録記録を受け、確認書へ進む
図 1価格を示してから事務に引き継ぐまでの部署別の流れ
図の説明

営業担当者が顧客から向き、金額、受渡日を聞き、トレーダーが相場と持ち高を見て価格を決めます。価格を示す前に、取引が与信枠に収まるかを確かめます。営業担当者が取引できる価格として顧客に示し、顧客の回答で取引が成立すると、トレーダーが日時と条件を記録し、バックが確認書の手続きに進みます。約定の前の確認はフロントの中で行い、記録からはバックが引き継ぎます。

約定の結果、1 年後に N 社は 100 万ドルを渡し、1 億 4,000 万円を受け取ることが決まります。N 社が答えを保留し、しばらくして価格を求め直すと、その間の相場の動きで示される価格が変わります。価格が 139.50 円になれば受取額は 1 億 3,950 万円で 50 万円少なくなり、140.50 円になれば 1 億 4,050 万円で 50 万円多くなります。どの時点にどの価格で合意したかは、約定のときに残す記録で後から確かめます。

示される価格には、金融機関が上乗せする手数料や利ざや(マークアップ)が含まれていることがあり、同じ取引でも顧客によって価格が違うことがあります。外国為替の取引について、行動規範は、この 2 点を顧客に明らかにするよう求めています11。

約定で残す記録

約定の時には、いつ、何を、いくらで合意したかを後から確かめられる記録を残します。外国為替の取引については、行動規範が記録の残し方を定めています。時刻は、依頼を受けた時点と約定した時点の両方を、十分に細かいタイムスタンプで記録します12。記録の中身は次のようなものです。

記録するもの N 社の例
依頼を受けた日時と約定した日時 価格を求められた時刻と、N 社が答えた時刻
商品の種類 為替予約
取引の量と価格 100 万ドル、1 ドル 140.00 円
担当者と顧客の名前 トレーダーと N 社

約定の時刻を記録しておくと、取引の価格をその時刻の相場と比べられます。相場から離れた価格での取引を見つけやすくなり、取引相手や顧客との価格の食い違いや紛争を解決するときにも使えます1312。

会話の記録も残します。営業と取引の部署は、記録と録音のできる連絡の手段を使うのが望ましく、取引に使う手段では特にそうです14。検査の手引きでは、録音した会話は確認書を送って照らし合わせる手続きを補うもので、電話での確認だけに頼るのはよくない慣行とされていました15。

約定する部署と引き継ぐ部署

約定は、顧客に接するフロントが行い、確認書と決済はバックが受け持ちます。外国為替の取引について、行動規範の原則では、約定する担当と確認書を扱う担当を分けます17。部署ごとの役割は次のとおりです。

部署 約定での役割
フロントの営業担当者 顧客から条件を聞き、トレーダーから受け取った価格を示し、顧客の答えを受ける
フロントのトレーダー 相場と自社の持ち高を見て価格を決め、約定の内容を記録する
審査部署 顧客ごとの与信枠を、フロントから独立して決める
バック 約定の記録を受け取って中身を確かめ、確認書を送り、取引相手の返事と照らし合わせる

表のうち、営業担当者、トレーダー、バックの役割は検査の手引きの説明(バックの役割は 2003 年版を含む)、審査部署の役割は行動規範の原則によります72189。

検査の手引きでは、約定のデータを誰が社内のシステムに入れるかは、金融機関のシステムの作りで違っていました。フロントとバックでシステムが分かれていれば、トレーダーが書いた約定の伝票(トレード・チケット)をバックが受け取って入力していました。約定から決済まで 1 つの流れで処理するシステムでは、フロントが入力し、バックが確かめてから受け入れていました19。

約定でよくある問題と防ぎ方

外国為替の取引について行動規範が示す例では、顧客の財務担当者が 1 つの相手と電話で 10 件の取引をまとめた後、システムへの入力を昼食の後まで先延ばしにしています。約定と記録の間のこうした時間のずれは、確認書のやりとりの遅れにつながりかねません20。

記録の残らない手段でのやりとりも問題になります。営業担当者が、約定した取引の確認が残っているのに早く帰り、録音されない個人の携帯電話のメッセージで顧客に確認を送るのは、望ましくない例とされています。望ましい例では、事務所に残る同僚に頼み、録音される手段で確認をしてもらっています21。

外国為替の取引では、行動規範の原則に沿って、金融機関は担当者が認められた範囲を超えて取引することにも備えます。トレーダーごとに取引できる商品を決め、その範囲を超えた取引を、取引の後の見直しで見つけます22。約定の条件を後から直したり取り消したりする手続きも、厳しく管理し、営業、取引、事務の担当を分けます23。

約定に関係する法令と規範

記録については、証券会社(第一種金融商品取引業者)が作る帳簿書類が金融商品取引法にもとづく内閣府令で決められており、その中に注文伝票があります24。

行動規範を守る意思を示す参加者は、遵守意思表明という書面を使います。遵守意思表明を使うかは、行動規範と同じく参加者に任されています25。

注

  1. 「民法」第 522 条第 1 項(契約の成立)と第 2 項(書面などの方式は要らない)。 ↩

  2. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(検査の手引き)の Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ、"TRADE CONSUMMATION"。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 日本貿易振興機構(ジェトロ)「先物為替予約の種類と利用にあたっての留意点:日本」の「II. 先物為替予約の留意点」の「予約の取消と期日変更」。 ↩

  4. 検査の手引きの Section 2060.1「Operations and Systems Risk (Back-Office Operations)」(1998 年 2 月)の 3 ページ、"Confirmations"。 ↩

  5. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イa〜d(217〜219 ページ)。監督指針は、この記録の書面を「確認書等」と書いています(取引確認書とは別の書面です)。 ↩

  6. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」(2024 年 12 月版、東京外国為替市場委員会による仮訳。以下、行動規範)の序文の「I. グローバル外為行動規範とは」(1 ページ)。 ↩

  7. 検査の手引きの Section 2050.1(1998 年 2 月)の 1 ページ("sales force or marketing staff" の段落)。 ↩ ↩2

  8. 日本貿易振興機構(ジェトロ)「先物為替予約の種類と利用にあたっての留意点:日本」の「II. 先物為替予約の留意点」の「事前審査」。 ↩

  9. 行動規範の原則 29(36 ページ)。 ↩ ↩2

  10. 行動規範の原則 9 の「役割」(13 ページ)。 ↩

  11. 行動規範の原則 14(21 ページ)。 ↩

  12. 行動規範の原則 36(41 ページ)。 ↩ ↩2

  13. 検査の手引きの Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ("Time-stamping of trade tickets" の段落)。 ↩

  14. 行動規範の原則 23(30 ページ)。 ↩

  15. 検査の手引きの Section 2060.1(1998 年 2 月)の 3〜4 ページ、"Confirmations"。 ↩

  16. 行動規範の原則 44(46 ページ)。 ↩

  17. 行動規範の原則 46(46 ページ)。 ↩

  18. 検査の手引きの Section 2060.1(2003 年 4 月の 2 ページと 1998 年 2 月の 3 ページ)の、トレード・チケットを受け取った後の手続きの段落。 ↩

  19. 検査の手引きの Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ、"Transaction Flow"。 ↩

  20. 行動規範の付属書 1 の、原則 47 の例示(76 ページ)。 ↩

  21. 行動規範の付属書 1 の、原則 23 の例示(71〜72 ページ)。 ↩

  22. 行動規範の原則 38(42 ページ)。 ↩

  23. 行動規範の原則 45(46 ページ)。 ↩

  24. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 157 条第 1 項第 3 号。 ↩

  25. 行動規範の付属書 3「遵守意思表明」(81〜82 ページ)。 ↩