顧客が決算の処理や監査の対応で時価を受け取るとき、金融機関の担当者はこの業務で応じます。

時価を知らせる目的

時価の報告は、顧客が決算の処理をし、取引を続けるか解約するかを決めるための情報を届けます。金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」と「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」は、デリバティブの契約の後に顧客へ時価などの情報を知らせる態勢を、どちらも確かめる点に挙げています12。金融機関は、顧客から求めがあれば、定期的に、または必要に応じて随時、顧客の持ち高の時価情報と、その時点の解約清算金の額などを知らせます。金融商品取引業者等向けの監督指針では、この点は金利スワップや通貨オプションなどの店頭デリバティブの説明の留意事項の 1 つです。金融庁のパンフレットでも、販売の後のフォローアップの例に時価情報の提供が挙がっています3。

顧客が時価を必要とするのは、会計でデリバティブを時価で測るためです。デリバティブ取引から生じる正味の債権と債務は、時価で貸借対照表に載せ、評価差額は原則としてその期の損益にします4。会計の指針では、取引の相手の金融機関から入手した価格も、一定の確かめをしたうえで時価の算定に使えるとされています5。

報告する時価の意味と解約清算金との違い

会計でいう時価は、算定日に市場参加者の間で秩序ある取引をすると想定したとき、資産を売って受け取る価格、または負債を移すために払う価格です6。買気配と売気配があるときは、その間の適切な価格を使います。実務の簡便法として、買気配と売気配の仲値などを使うこともできます7。

解約清算金は、期日の前に取引を終える期限前解約のときに、当事者の間で実際に受け払いする金額です。主要行等向けの監督指針では、時価情報と解約清算金の額は別の項目で、どちらも知らせる対象です1。解約清算金は、報告の時価と同じ額とは限りません。時価は取引の費用を除いて計算した値で8、実際に解約するときは、時価をもとに費用などが加わることがあるためです。解約するときの金額の決まり方と説明の決まりは、期限前解約で扱います。

金利スワップで借入の金利を固定した R 社の架空の例で考えます。R 社は、変動金利(指標の金利に上乗せ幅を足した率)で 20 億円を借り、金融機関と想定元本 20 億円、期間 5 年の金利スワップを結んでいます。R 社は固定金利 0.8% を払い、借入と同じ指標の変動金利を受け取ります。決算日の時価の報告で、次の 2 つのどちらかが届いたとします。

報告の時価(R 社から見た値) R 社の会計での区分 スワップと借入を合わせた R 社の利払いの率
+1,000 万円 金融資産 固定 0.8% + 借入の上乗せ幅
−1,000 万円 金融負債 固定 0.8% + 借入の上乗せ幅

デリバティブ取引の価値は、契約の権利と義務の価値の純額です。その純額がプラスなら金融資産(正味の債権)、マイナスなら金融負債(正味の債務)になります9。R 社の例では、プラスの時価は、決算日の市場で見ると、R 社の権利(変動金利の受け取り)の価値が義務(固定金利の支払い)の価値を上回っていることを示し、マイナスの時価はその逆を示します。

時価がプラスでもマイナスでも、R 社はスワップで受け取る変動金利を借入の利払いに充て、固定 0.8% を払う関係のままです。そのため、両方を期日まで続ければ、借入の上乗せ幅を除いた利払いの率は 0.8% で変わりません。スワップの時価の求め方は金利スワップの時価評価で扱います。借入とスワップを組み合わせることはヘッジの一例です。

報告の流れと時期

時価の報告には、顧客の求めに応じて出すもの、法令で定期的に出すもの、顧客の監査人の依頼に答えるものがあります。

R 社顧客金融機関報告する側監査人R 社の監査人問い合わせ求めに応じ報告取引残高報告書依頼状残高確認書で回答
図 1R 社の時価や評価損益が届く経路
図の説明

図は、金融機関から R 社へ時価や評価損益が届く経路を 2 つ、R 社の監査人へ届く経路を 1 つ示します。R 社が金融機関に問い合わせると、金融機関は求めに応じた報告を R 社に出します(点線はいずれも情報の流れで、お金や資産は動きません)。金融機関は、取引残高報告書も R 社に出します。ただし、これは R 社が特定投資家でない場合の経路で、特定投資家なら原則として適用されません。監査人は、R 社の名前で出す確認の依頼状を金融機関に送り、金融機関は残高確認書への回答を監査人に直接返します。

経路 誰が誰に 基準日 載せるもの 根拠
求めに応じた報告 R 社の求めに応じて、金融機関が R 社に知らせる 知らせる時点(定期的に、または必要に応じて随時) 持ち高の時価と、その時点の解約清算金の額など 主要行等向けの監督指針
取引残高報告書 特定投資家でない顧客(R 社が特定投資家でなければ R 社)に、金融機関が出す 報告の期間の末日 未決済のデリバティブ取引の明細と評価損益 金融商品取引業等に関する内閣府令
残高確認書への回答 R 社の監査人が R 社の名前の依頼状を金融機関に送り、金融機関が監査人に直接回答する 依頼状で決めた日(確認基準日) 確認基準日の時価を含む取引の残高 日本公認会計士協会の様式例

金融商品取引業者等は、金融商品取引契約が成立したときなどに、内閣府令で定める情報を顧客に提供しなければなりません10。金融商品取引業者等には、金融商品取引業者のほか、登録を受けて金利や通貨のデリバティブ取引などをする銀行などの金融機関(登録金融機関)も入ります11。取引残高報告書は、この決まりで出す書面の 1 つです。報告の期間は、1 年を 3 か月以下に区切った期間が基本で、顧客が請求すれば取引や受渡しのたびに出します12。記載事項には、期間の末日の未決済のデリバティブ取引の明細と評価損益が入ります13。顧客が特定投資家なら、この決まりは原則として適用されません14。

監査の確認は、監査人が回答を金融機関から直接受け取るため、証明力の強い証拠になります。2022 年 10 月改正の日本公認会計士協会の周知文書では、決算の時期に確認の依頼が銀行に集中するため、監査人は回答の期間に余裕をもって依頼状を送ることが考えられます。金融機関は、残高確認書を送ってから回収するまで通常 10 銀行営業日ほどの日程を望んでいます15。

残高確認書の様式例に並ぶ項目

求めに応じた時価の報告に載せる項目は、監督指針の該当箇所で定められていません。項目の例として、日本公認会計士協会が示す監査用の銀行等取引残高確認書(以下、残高確認書)の様式例があります。残高確認書は、取引確認書(コンファメーション)とは別の書面です。残高確認書への回答は、時価の報告と同じく、続いている取引のある時点の価値を知らせます。

店頭デリバティブの欄は、取引の種類ごとに次の項目を並べ、どの種類にも確認基準日の時価の欄があります16。

取引の種類 様式例の項目(時価のほか)
先渡取引(金利先渡、為替先渡) 契約番号、種類、約定日、契約期間、通貨の種類、銀行から見た売買の別、想定元本、約定利率か為替相場
為替予約 契約番号、約定日、実行期日、銀行から見た売買の別、予約為替相場
金利スワップ 契約番号、種類、約定日、契約期間、直近の利息の受渡日、想定元本、銀行の受取と支払
通貨スワップ 契約番号、種類、約定日、契約期間、直近の利息の受渡日、銀行の受取と支払
オプション 契約番号、種類、約定日、行使期限、通貨の種類、コールとプットの別、銀行から見た売買の別、契約額、権利行使価格、オプション料とその決済日
その他 契約番号、種類、約定日、取引の概要、契約額か想定元本

様式例の売買の別と受取・支払は、銀行の側から書く欄です17。顧客が自分の帳簿と照合するときは、どちらの側から見た値かをそろえてから突き合わせます。

顧客の会計と監査での使い方

顧客は、金融機関から受け取った時価を、そのまま会計に使えるとは限りません。取引の相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダーなどの第三者から入手した相場価格は、会計基準に沿って算定されたものだと顧客が判断した場合に、時価の算定に使えます5。判断のための手続きとして、会計の指針は、第三者の価格と自分で計算した推定値を比べる、ほかの第三者の価格と比べる、第三者の算定の過程(入力の値や評価の方法)を確かめる、などの例を挙げています18。

報告の時価が顧客の財務諸表のどこに出るかは、顧客の会計処理で変わります。原則では、評価差額をその期の損益にします4。ヘッジ会計を使うときは、ヘッジの手段の損益や評価差額を、ヘッジの対象の損益が出るまで純資産の部で繰り延べるのが原則です19。借入の金利の受払条件を変えるための金利スワップには、特例の処理があります。スワップがヘッジ会計の要件を満たし、想定元本、利息の受払条件、契約期間が借入とほぼ同じなら、スワップを時価で評価せず、受け払いの純額を借入の利息に加減できます20。

時価が大きく動いたときの対応

時価が大きく動いたときも、金融機関は、契約の後のフォローアップの中で顧客からの問い合わせに答えます。時価情報を知らせる時期は「定期的又は必要に応じて随時」とされ、時価がどれだけ動いたら知らせるかの基準は示されていません1。

注

  1. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(令和 8 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.h(219〜220 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(令和 8 年 10 月)のⅣ-3-3-2(6)⑥(166 ページ)。 ↩

  3. 金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」の裏面の「販売後のフォローアップ」。 ↩

  4. 企業会計基準委員会 企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」の第 25 項(2026 年 7 月 17 日更新の版)。 ↩ ↩2

  5. 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第 31 号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」の第 18 項(7 ページ)。 ↩ ↩2

  6. 企業会計基準委員会 企業会計基準第 30 号「時価の算定に関する会計基準」(2019 年 7 月公表。2024 年 7 月 1 日までの修正を反映した版)の第 5 項(4 ページ)。 ↩

  7. 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第 31 号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021 年 6 月改正。2024 年 7 月 1 日までの修正を反映した版)の第 9 項(5 ページ)。 ↩

  8. Society of Actuaries "Interest Rate Swaps"(2017 年 5 月)の 6 章 "Market Value"(15 ページ)の本文。時価を "ignoring transaction costs"(取引の費用を除いた)値としています。 ↩

  9. 企業会計基準委員会 企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」の第 4 項、第 5 項と、結論の背景の第 52 項。 ↩

  10. 「金融商品取引法」第 37 条の 4。 ↩

  11. 「金融商品取引法」第 34 条(金融商品取引業者等の定義)と第 33 条の 2 第 3 号(金融機関の登録)。 ↩

  12. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 98 条第 3 号。1 年間取引も受渡しもなく、金銭か有価証券の残高があるときは、報告の期間を 1 年などにできます(同号ロ)。 ↩

  13. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 108 条第 1 項第 6 号。 ↩

  14. 「金融商品取引法」第 45 条第 2 号。内閣府令で定める場合は除きます(同条ただし書)。 ↩

  15. 日本公認会計士協会 監査・保証基準委員会「監査基準報告書505周知文書第4号 銀行等取引残高確認書に係る周知文書」(2022 年 10 月改正)の「1.はじめに」と「2.銀行等取引残高確認書に関する回答期間の確保」(1 ページ)。 ↩

  16. 日本公認会計士協会 監査・保証基準委員会「監査基準報告書505実務ガイダンス第1号 銀行等取引残高確認書及び証券取引残高確認書の様式に係る実務ガイダンス」(2022 年 10 月最終改正)の第 3 項(13)(2 ページ)。 ↩

  17. 同実務ガイダンスの第 6 項(2 ページ)と、付録 1「銀行等取引残高確認書の様式例」の依頼状、「ご記入上の注意」、「13.デリバティブ取引の契約額等」(5〜13 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  18. 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第 31 号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」の第 43 項(21 ページ)。 ↩

  19. 企業会計基準委員会 企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」の第 32 項。 ↩

  20. 企業会計基準委員会 企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」の注 14「金利スワップについて」。 ↩