顧客に売ったデリバティブで損失が出て、販売の仕方が問われたとき、営業やコンプライアンスの担当者が説明と適合性の確認を見直す手がかりに、過去の判決と報告書で何が争点になったかを参考にできます。
3 つの事例の違い
3 つの事例は、どれも顧客へのデリバティブの販売の仕方が問われた点で共通しますが、問われた中身が違います。
| 事例 | 時期 | 商品 | 問われたこと | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| 日経平均株価オプションの売り取引 | 2005 年の最高裁判決 | 上場オプション | 売り取引の勧誘が適合性原則に反するか | 適合性原則から著しく逸脱したとはいえないとして、高等裁判所に差し戻し |
| 金利スワップ | 2013 年の最高裁判決 | 銀行と結んだ金利スワップ | 説明義務を尽くしたか | 説明義務違反はないとして、顧客の請求を棄却 |
| 英国の金利ヘッジ商品 | 2012 年から 2013 年 | 金利ヘッジ商品(キャップなど) | 規制の要件を満たす販売だったか | 銀行が過去の販売を見直し、必要な場合に顧客を救済することに同意 |
オプション売りの勧誘の事例
2005 年 7 月 14 日の最高裁判所の判決は、証券会社が顧客に日経平均株価オプションの売り取引を勧めたことが、適合性原則に反する不法行為(損害賠償を求める根拠になる違法な行為)1になるかを判断しました。結論は、この事案の勧誘は適合性原則から著しく逸脱したとはいえない、というものでした2。
顧客は広島市の水産物の卸売業者で、1984 年 9 月に証券会社へ運用資金 5 億円を預け、証券取引を任せました。取引は約 10 年続き、売買総額は累計で約 1,800 億円に達しました。1989 年 6 月に大阪証券取引所で日経平均株価オプション取引が始まると、顧客はこの取引も始めました。損失が大きかったのは、売り取引が多かった 3 回目と 4 回目で、通算の損失は 3 回目が約 2,090 万円、4 回目が約 2 億 721 万円でした3。
オプションの買いは、払ったプレミアムを超える損失が出ません。売りは、利益がプレミアムの範囲に限られる一方、損失が無限大かそれに近くなる可能性があります。判決もこの違いを説明し、売り取引を、各種の証券取引の中で極めてリスクの高い類型で、求められる適合性の程度も相当に高度だとしました4。
原審(この事件で最高裁の前に判断した高等裁判所)は、売り取引のリスクを限定したり避けたりする知識、経験、能力がない顧客に売りを勧めることは、特段の事情がなければ適合性原則に違反するとして、顧客の請求の一部を認めました。最高裁はこの判断を認めず、次の基準を示しました。証券会社の担当者が、顧客の意向や実情に合わない、明らかに過大な危険のある取引を熱心に勧めるなどして、適合性原則から著しく逸脱した勧誘をして、顧客に取引をさせたときは、不法行為法上も違法になります5。
その判断では、売り取引という類型の一般的なリスクだけを見ません。対象のオプションの基礎商品が何か、上場商品かどうかといった具体的な商品の特性と、顧客がどれだけ投資を経験し、証券取引に詳しく、何を望み、どの程度の財産を持っているかを合わせて考えます5。
この事案では、日経平均株価オプションが取引所の上場商品で、商品性の審査を経ていることが考慮されました。最高裁は、顧客側の次の事情も考慮しました6。
- 返済を要するとはいえ、20 億円以上の資金があった。
- 専務取締役が、現物取引、信用取引、先物取引などを毎年数百億円の規模で経験していた。
- オプションの損失が 1,000 万円を超えたらやめる方針を自分で立て、実際にやめた。
最高裁は、原審の判断に法令の違反があるとして、原審の判決のうち証券会社の敗訴部分を退けました。そのうえで、説明義務違反などその他の責任原因を審理させるため、東京高等裁判所に差し戻しました2。裁判官 1 人が、多数意見に加えて個別に述べる補足意見を書き、顧客の取引が極端に売り取引に偏り、リスクを管理できなくなるおそれがあるときに、証券会社が改善を促す指導や助言をする義務を負うかを、差戻審で検討する必要があると述べました7。
金利スワップの説明の事例
2013 年 3 月 7 日の最高裁判所の判決は、銀行が事業会社に金利スワップを提案したときの説明義務を判断し、この事案では説明義務違反はないとしました8。
顧客は、パチンコ店などを経営する株式会社でした。2003 年 12 月 30 日に、銀行から 1 億 5,000 万円を、短期プライムレートに年 0.75% を足した変動金利で借りました。銀行の従業員は、顧客の銀行借入には変動金利のものが多いと把握し、金利が上がったときのリスクを抑える商品として金利スワップを提案しました9。2004 年 3 月 4 日に結んだ契約の条件は、次のとおりです10。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 想定元本 | 3 億円 |
| 取引期間 | 2005 年 3 月 8 日から 2011 年 3 月 8 日まで(契約の 1 年後に始まる先スタート型。契約と同時に始まる型はスポットスタート型) |
| 顧客が払う金利 | 固定金利の年 2.445% |
| 顧客が受け取る金利 | 変動金利で、3 か月のTIBORに 0% を足した率 |
| 受け払いの間隔 | 2005 年 6 月 8 日から 3 か月ごと |
この金利スワップでは、想定元本 3 億円に対して、顧客は固定金利の年 2.445% で、銀行は 3 か月 TIBOR に 0% を足した変動金利で、それぞれ金額を計算します。3 か月ごとに受け払いするのは、2 つの金額の差額だけです。顧客は、変動金利が固定金利を下回れば払う側になり、上回れば受け取る側になります。
顧客は 2005 年 6 月 8 日から 2006 年 6 月 7 日までの間に、契約で決めた固定金利と変動金利の金利差を精算する形で、合計 883 万 355 円を銀行に払いました11。この金額は、変動金利が 0% 以上の場合に、契約の条件から計算できる年の最大額(想定元本 3 億円 × 固定金利 2.445% で 733.5 万円)より大きい額です。
この契約が顧客にとって損か得かは、変動金利の水準で決まります。判決の契約条件を借りた架空の例で考えます。顧客が、想定元本と同じ 3 億円を、3 か月 TIBOR に 1% を足した金利で借りているとします。取引が始まった後の 1 年について、TIBOR が一定のまま続く場合を、年あたりの金額で比べます。表のうち、0.09% は提案書が 2004 年 1 月 15 日の 3 か月 TIBOR として示した実在の値です12。4% と、借入の 1% の上乗せは、この例のための仮の水準です。
| 項目(年あたり) | 3 か月 TIBOR が年 0.09% | 3 か月 TIBOR が年 4% |
|---|---|---|
| 金利スワップの受け払い(3 億円 × (TIBOR − 2.445%)) | 706.5 万円を払う | 466.5 万円を受け取る |
| 借入の利息(3 億円 × (TIBOR + 1%)) | 327 万円 | 1,500 万円 |
| 合計の負担 | 1,033.5 万円 | 1,033.5 万円 |
どちらの水準でも、借入と合わせた負担は年 3.445%(1,033.5 万円)に固定されます。変動金利が低いままなら、金利スワップを結ばなかった場合(0.09% なら借入の利息 327 万円)より負担が重くなります。変動金利が高くなれば、結ばなかった場合より負担が軽くなります(4% なら、借入の利息 1,500 万円が 1,033.5 万円になります)。
原審は、銀行が次の 3 つを説明しておらず、説明が極めて不十分だったとして、説明義務違反を認め、契約を無効としました。
- 中途解約のときに必要になるかもしれない清算金(解約のときに払う金額)の具体的な算定方法
- 先スタート型とスポットスタート型(表の取引期間の行を参照)の利害得失
- 固定金利の水準が、金利上昇のリスクを抑える効果の面から妥当な範囲にあること
最高裁はこれを認めず、顧客の請求を棄却しました。理由は次の 4 点です13。
- この取引は、将来の金利の変動を予測できたかどうかだけで有利か不利かが決まり、基本的な構造が単純で、少なくとも企業経営者なら理解が困難ではない。
- 銀行は、基本的な仕組みを説明し、変動金利があまり上がらないと、借入の利息を払うより負担が重くなる危険も伝えており、基本的に説明義務を尽くした。
- 提案書には、原則として中途解約できないことと、銀行の承諾を得て解約すれば清算金を払う可能性があることが書かれていた。清算金の具体的な算定方法まで説明する義務があったとはいい難い。先スタート型とスポットスタート型は両方を説明し、顧客が自分で選んでいた。
- 固定金利の水準が妥当かどうかは、この取引が単純である以上、顧客の自己責任に属する。
この判決が述べたのは、この事案の取引の説明です。提案書の記載、顧客の事業、取引の単純さを前提にした判断で、どの金利スワップの販売にも同じ結論が当てはまると書いているわけではありません。
英国の金利ヘッジ商品の見直し
金利ヘッジ商品(IRHP)は、借入を金利の変動から守るものとして売られることの多かった商品で、金利スワップやキャップなどが含まれます14。
2012 年から 2013 年にかけて、英国の金融サービス機構(FSA)が販売を調べました。FSA は、2012 年の調査で、一部の銀行による小規模な事業者への IRHP の販売に重大な不備があったと報告しました。これを受けて、11 行が、2001 年 12 月 1 日以後に売った約 40,000 件の金利ヘッジ商品を見直すことに同意しました。対象は、一定の「洗練されていない(non-sophisticated)」顧客です15。
FSA が 2012 年に見つけた不備には、次のものが含まれます16。
- 複雑な種類の商品を、洗練されていない顧客に不適切に売った。
- 解約にかかる費用の開示が不十分だった。
- 顧客がリスクを理解しているかを確かめなかった。
- 助言をしない販売のはずが、助言に踏み込んでいた。
- 金額や期間が裏にある借入と合わない「過剰なヘッジ」があった。
FSA は、販売する側の報酬や評価の仕組み(インセンティブ)も、これらの不備の一因だったとしています16。
見直しの手順は次のとおりです。2012 年 6 月 29 日に、Barclays、HSBC、Lloyds、RBS の 4 行が、顧客に積極的に救済を行う作業と過去の販売の見直しを引き受けると発表しました。7 月 23 日には、ほかの銀行も同じ条件で見直すと発表しました。分け方は、商品によって違いました。structured collar(FSA の資料の用語)を売った洗練されていない顧客には、自動的に救済を行うことになっていました。それ以外の商品(キャップを除く)は、銀行が販売を見直して救済が要るかを判断することになっていました。キャップは、顧客が見直しの間に苦情を申し立てた場合に見直すことになっていました。銀行ごとに、FSA が承認した独立の審査者を置き、銀行と審査者の判断が分かれたときは審査者の結論を優先しました17。
2013 年 1 月(3 月に一部を訂正)の報告書は、パイロットで見た 173 件の販売のうち 90% 超が、FSA の規制の要件の 1 つ以上に適合していなかったと報告しました。FSA は、パイロットの対象が比較的複雑な少数の事例だったため、この割合は見直し全体の結果を代表しない可能性があるとも書いています18。
図の説明
英国の金利ヘッジ商品の見直しに関する日付を、古い順に並べた年表です。2001 年 12 月 1 日は見直しの対象の起点で、出来事の日ではありません。2012 年 6 月 29 日、7 月 23 日、2013 年 1 月が、発表と報告書の日付です。図の間隔は、日付の間の長さを表しません。見直しは、銀行の合意、ほかの銀行への広がり、パイロットの報告の順に進んだことが分かります。
見直しの対象に入る顧客を分けるのが、洗練度の判定でした。当初は、売上高が 650 万ポンド、貸借対照表の合計が 326 万ポンド、従業員が 50 人のそれぞれを超える 3 つの基準のうち、2 つ以上を満たす顧客を洗練されているとみなしました。FSA はパイロットで、この基準では、不動産や機械が多い農家や民宿が対象から外れる一方、大企業グループの小さな子会社が対象に入る場合があることに気づき、基準を改めました19。
事例から出た教訓
3 つの事例は、争点が別々でも、販売の問題を見る 3 つの観点を示しています。
| 観点 | 日本の最高裁判決 | 英国の FSA の報告 |
|---|---|---|
| 説明 | 商品の構造が単純で、提案書にリスクと中途解約の清算金の可能性が書かれていたため、説明義務違反はないとした | 解約費用の開示が不十分で、顧客のリスクの理解を確かめていなかったことを不備に挙げた |
| 適合性 | 商品の特性と顧客の経験、知識、意向、財産を合わせて考え、著しい逸脱がなければ違法にならないとした | 顧客の専門性を売上高などの基準と実際の知識で判定し、洗練されていない顧客を見直しの対象にした |
| 報酬の仕組み | 両判決の理由に、販売する側の報酬の仕組みを判断した記載は見当たらない | 報酬や評価の仕組みを不備の一因に挙げた |
説明について、金融商品取引法 37 条の 3 は、契約を結ぼうとする金融商品取引業者等に、損失のおそれなどを契約の前に顧客に知らせることを求めています(第 1 項)。第 2 項は、損失のおそれなど一部の事項を除いて、知らせる事項を顧客に理解される形で説明することを求めています。顧客の知識、経験、財産の状況、契約の目的に照らし、理解に必要な方法と程度で行う説明です。除かれた事項は、第 2 項の説明の対象ではなく、第 1 項で知らせるだけです20。
適合性について、金融商品取引法は、金融商品取引業者等が、顧客の知識、経験、財産の状況、契約を結ぶ目的に照らして不適当な勧誘をしてはならないと定めています21。
適合性原則から著しく逸脱した勧誘をしたときは、民事上も違法になります。2005 年の判決が引いたのは、1998 年の改正前の証券取引法の規定や、証券業協会(証券会社の業界団体)の規則などです。判決は、これらが行政が証券会社を規制する決まり(公法上の業務規制)や、業界団体が自ら定める決まり(自主規制)という位置づけだと述べました。それでも、担当者が適合性原則から著しく逸脱した勧誘をしたときは、不法行為法上も違法になると判断しました5。
利益相反の考え方は、コンダクト・リスクで扱います。報酬の仕組みについては、上の表のとおり、英国の報告が不備の一因に挙げました。日本で、顧客の利益が自社やグループの取引によって不当に害されることを防ぐ定めとして、金融商品取引法の第 36 条があります。条文に利益相反の語はありませんが、有価証券関連業を行う第一種金融商品取引業者などは、情報の管理と業務の監視の体制を整えなければなりません22。
3 つの事例の判断は、どれも商品と顧客の組み合わせごとに行われています。同じ商品でも、顧客の経験や事業の規模が違えば、説明の程度も適合性の判断も変わります。ここで見た事例は、販売の現場で何が問題になりうるかを知るための材料で、特定の販売や金融機関の評価ではありません。
顧客への説明の手順は提案と説明で扱います。
この記事が書いていないこと
その後の法改正と、英国の見直しの最終的な結果は、この記事では扱いません。structured collar の仕組みは、この記事では扱いません。
注
-
「民法」第 709 条(e-Gov 法令検索)。 ↩
-
最高裁判所第一小法廷判決 平成 17 年 7 月 14 日(平成 15 年(受)第 1284 号)の主文(1 ページ)と理由 4(3)(8〜9 ページ)、5(9〜10 ページ)。結果は「破棄差戻」。 ↩ ↩2
-
同判決の理由 1(2)〜(5)(1〜5 ページ)。顧客の取引の事実は、原審が確定した事実として判決が示すもの。オプション取引の開始は 3 ページ(イ)、3 回目の損失は 4 ページ(エ)、4 回目の損失は 5 ページ(オ)。 ↩
-
同判決の理由 4(2)(7 ページ)と、補足意見(10 ページ)。 ↩
-
同判決の理由 3(5〜6 ページ。原審の判断)と 4(1)(6〜7 ページ)。本文の「証券業協会(証券会社の業界団体)」は判決の説明ではなく、日本証券業協会「協会の概要」(2026 年 10 月に取得)の「全国の証券会社を構成員とする社団法人」による。 ↩ ↩2 ↩3
-
同判決の理由 4(2)(7〜8 ページ)と 4(3)(8〜9 ページ)。 ↩
-
同判決の才口千晴裁判官の補足意見(10〜11 ページ)。 ↩
-
最高裁判所第一小法廷判決 平成 25 年 3 月 7 日(平成 23 年(受)第 1493 号)の主文と理由 1、4(1、5〜6 ページ)。 ↩
-
同判決の理由 2(1)(1 ページ)。 ↩
-
同判決の理由 2(4)(4 ページ)。 ↩
-
同判決の理由 2(5)(4 ページ)。 ↩
-
同判決の理由 2(2)(2 ページ)。 ↩
-
同判決の理由 3(4〜5 ページ。原審の判断)、4(5〜6 ページ)。1 と 2 は 5 ページ、3 は 5〜6 ページ、4 は 6 ページ。 ↩ ↩2
-
Financial Conduct Authority, "Interest rate hedging products (IRHP)"(2026 年 10 月に取得。最終更新 2023 年 3 月 20 日), "Background to the sales review"。 ↩
-
Financial Services Authority, "Interest Rate Hedging Products: Pilot Findings"(2013 年 3 月の版), 1 "Executive Summary"(3 ページ)。 ↩
-
同報告書の 2 "Background"(5〜6 ページ)と 3 "Findings from the pilot" の "Independent reviewers"(8 ページ)。 ↩
-
同報告書の 1 "Executive Summary"(3 ページ。脚注 2 に 2013 年 3 月 6 日の訂正)と 3 "Findings from the pilot"(7 ページ)。 ↩
-
同報告書の 4 "How the review will be conducted" の "Sophistication test"(10〜11 ページ)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 37 条の 3 第 1 項第 5 号、第 2 項。 ↩
-
「金融商品取引法」第 40 条第 1 号。 ↩
-
「金融商品取引法」第 36 条第 1 項、第 2 項。 ↩