顧客が説明や勧誘に納得できず、証券会社の外にある窓口へ申し出たとき、金融機関は、外部の機関による調査の依頼や手続への応諾の求めへの対応が求められます。その場面で必要になるのが、申出から和解や訴訟に至るまでの流れと、金融機関が負う義務の理解です。
苦情と紛争の外部の窓口がある理由
金融庁は、金融 ADR の趣旨の 1 つに、紛争解決機関を行政庁が指定して監督し、中立性と公正性を確保することを挙げています1。
顧客が不満を申し出る「苦情」(法でいう苦情処理手続)と、外部の機関が間に入って解決を図る「あっせん」(法でいう紛争解決手続)は、別の手続です。法は、前者を金融商品取引業等業務に関する苦情を処理する手続、後者を当事者が和解できる紛争を訴訟によらずに解決する手続として分けています2。
苦情の件数や内容を組織の統制に生かす話は、コンダクト・リスクで扱います。
苦情の申出から解決までの流れ
FINMAC に申し出た顧客が、相談から紛争解決まで進む流れは次のとおりです3。
- 顧客が FINMAC に、電話、ファックス、ホームページ、郵送のいずれかで申し出ます。相談員が助言し、苦情なら取り次ぎます4。
- 相談員が、苦情の内容を金融機関に伝え、調査を依頼します。
- 金融機関か相談員が、調査の結果を顧客に報告します。
- 顧客が結果に納得できないとき、FINMAC のあっせんの手続に進みます。顧客があっせんの申立書を出し、FINMAC が受理を通知します。
- 顧客が申立金を納め、弁護士であるあっせん委員(法でいう紛争解決委員にあたります5)が、顧客と金融機関から事情を聞きます。
- あっせん委員が和解案を示し、双方が納得すれば和解契約書を結びます。
図の説明
図は、上の手順 1〜6 を、顧客、FINMAC、金融機関のどこが担うかで並べています。手順 3 の報告は、金融機関のほか FINMAC の相談員が行う場合があります。和解案に双方が納得しなければ、和解せずに手続が終わります。
手順 3 で金融機関が顧客に直接回答した場合も、FINMAC は金融機関から苦情処理の結果の報告を受けます。顧客が金融機関の回答に納得しないとき、FINMAC は当事者の話し合いをさらに促し、顧客が希望すれば金融機関にさらなる対応を指示します6。法の側では、指定紛争解決機関が顧客から苦情の解決の申立てを受けたとき、相談に応じ、助言し、事情を調べ、金融機関に内容を通知して迅速な処理を求めることを義務にしています7。
金融 ADR 制度の仕組み
金融 ADR(裁判外紛争解決)は、金融機関と利用者のトラブルを、銀行、保険、証券などの業態ごとに行政庁が指定した紛争解決機関が、弁護士などの紛争解決委員の和解案によって、裁判以外の方法で解決を図る制度です1。利用者から申立てがあれば、金融機関に手続の利用や和解案の尊重を求めて、解決の実効性を確保します。金融分野に知見を持つ紛争解決委員が当たることで、専門性も確保します1。
金融商品取引法の指定は、次の形で動きます。
- 申請があれば、内閣総理大臣は、法が定める要件を満たす法人を、紛争解決等業務を担う機関に指定できます8。
- 指定を受けた機関(指定紛争解決機関)は、業務規程を定めます。業務規程を変えるときは内閣総理大臣の認可が要り、認可のない変更は効力を生じません9。
- 金融機関は、指定紛争解決機関と手続実施基本契約を結びます。契約には、機関が求めたとき、金融機関が手続に応じる内容が入ります9。
- 紛争解決手続は公開しません10。
金融庁の一覧では、2026 年 10 月 3 日に、金融商品取引法の指定を受けた機関として載っているのは、特定第一種金融商品取引業務を種別とする FINMAC だけです。一覧には、銀行業務の全国銀行協会、生命保険業務の生命保険協会など、業態ごとの機関も載っています11。FINMAC は、預金商品と保険商品のトラブルは扱わず、そちらは全国銀行協会や生命保険協会、日本損害保険協会といった金融 ADR 機関の窓口に当たると案内しています12。
FINMAC の対象とあっせんの進み方
FINMAC は、特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センターの略称で、2011 年 2 月 15 日付で金融庁長官から指定紛争解決機関の指定を受け、同年 4 月 1 日から指定紛争解決機関としての業務を始めました13。
FINMAC が扱う相手は 3 種類に分かれます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 加入第一種金融商品取引業者 | FINMAC と手続実施基本契約を結んだ第一種金融商品取引業者。セキュリティトークン取扱業者、暗号資産等デリバティブ業者、FX 専業事業者、証券会社を含む |
| 協定事業者 | 日本証券業協会など 6 つの金融商品取引業協会の会員等。協会から委託を受けて扱う |
| 特定事業者 | FINMAC に個別に利用登録した第二種金融商品取引業者等 |
この区分は FINMAC の公開ページによります1412。これらに当たらない事業者の業務に関する苦情と紛争は、FINMAC は受け付けないと書かれています6。FINMAC は、投資の相談や株価の照会にも応じません15。
あっせんは、公正で中立な弁護士のあっせん委員が、双方から事情を聞き、話し合いによる解決を促す手続です。あっせん委員は、当事者から個別に事情を聞いたり、双方が同席する話し合いを仲介したりして、和解案を示します。双方の歩み寄りがなければ、不調で終わります16。FINMAC は、申立てを受けた時点から、できるだけ 4 か月以内に決着させることを目標にしています15。
顧客は、あっせんの受理の通知が届いてから 10 日以内に、申立金を納めます。期限までに納めないと、申立てがなかったものとみなされます。納めた申立金は、あっせんの期日の前に取り下げた場合を除き、返還されません17。
申立金は、顧客が金融機関に請求する損害賠償の額に応じて決まります。FINMAC の料金表(消費税込。2026 年 10 月 3 日に確認)の一部は次のとおりです。金融機関側(あっせんの相手方)は、あっせんに応じる費用を負担しません17。
| 請求額 | 申立金 |
|---|---|
| 100 万円以下 | 2,090 円 |
| 500 万円超 800 万円以下 | 11,550 円 |
| 5,000 万円超 | 52,360 円 |
相談と苦情の処理は無料です15。
FINMAC は、あっせんを裁判と比べて簡易で迅速な手続としています。一方で、当事者の同意を基本とするため、双方の主張が大きく異なるときは話し合いによる解決が難しく、裁判のように事実を認定したり当事者に一定の強制力を持ったりするものではありません16。
法は、紛争解決委員が手続を実施しない場合も定めています。紛争解決委員は、顧客が紛争を適切に解決する能力を持つと認められることなどから、手続を行うのに適当でないと認めるときは、手続を実施しません。当事者が不当な目的でみだりに申し立てたと認めるときも同じです18。
金融機関が負う義務
第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者は、指定第一種紛争解決機関があるとき、その 1 つと手続実施基本契約を結ぶ措置を取らなければなりません。結んだときは、相手の機関の名称を公表します19。登録金融機関を除く第一種金融商品取引業者が対象で、この義務は FINMAC との契約につながります14。
手続実施基本契約には、法が定める内容が入ります9。
| 内容 | 金融機関に生じること |
|---|---|
| 手続への応諾 | 機関か紛争解決委員が手続に応じるよう求めたとき、正当な理由なく拒めない |
| 資料の提出 | 報告や帳簿書類などの提出を求められたとき、正当な理由なく拒めない |
| 訴訟の報告(係属中) | 訴訟が係属している請求で手続が始まったとき、その旨と請求の理由、訴訟の程度を機関に報告する |
| 訴訟の報告(提起後) | 手続の対象の請求で訴訟が提起されたとき、その旨と請求の理由を報告する(訴訟の程度は含まれない) |
| 顧客への周知 | 機関による紛争解決等業務について、顧客に周知するため、必要な情報の提供などの措置を取る |
和解案については、紛争解決委員が作った和解案の受諾を、委員が当事者に勧告できます。和解が成立する見込みがないとき、委員は事案の性質や当事者の意向を考えて相当と認めれば、理由を付けた特別調停案を示せます。特別調停案は、顧客が受諾しないときなど、法が挙げる場合を除き、金融機関が受諾しなければなりません9。
あっせんと裁判の関係
金融商品取引法は、紛争解決手続の後の時効と、すでにある訴訟の手続について定めています。
手続が終わった後に関わるのは、時効の完成猶予です。これは、一定の事由があるあいだは時効が完成しないという民法の扱いです21。紛争解決委員が和解の見込みがないとして手続を終え、申立てをした当事者にその旨を通知したとします。この当事者が、通知を受けた日から 1 か月以内に、手続の対象だった請求で訴えを起こすと、時効の完成猶予の点では、手続で請求した時に訴えたものとして扱われます22。
訴訟手続の中止は、すでに訴訟があるときの話です。当事者間に訴訟がある場合に、紛争解決手続が行われているなどの事由があり、当事者が共同で申し立てると、受訴裁判所は決定により、期間を 4 か月以内で定めて訴訟手続を止めることができます23。
例:請求額 600 万円のあっせん
請求額 600 万円のあっせんの架空の例で考えます。A 銀行の証券子会社(第一種金融商品取引業者で、FINMAC と手続実施基本契約を結んでいるとします)の顧客が、デリバティブ取引の説明に納得できないとして、損害賠償 600 万円を求めて申し立てたとします。請求の中身が正しいかは、この例では考えません。
- 申立金: 請求額の 600 万円は、料金表の「500 万円超 800 万円以下」に当たるので 11,550 円です。顧客は、受理の通知が届いてから 10 日以内に納めます。相手方の証券子会社は、あっせんに応じる費用を負担しません。
- 金融機関の側の動き: 手続実施基本契約があるので、FINMAC かあっせん委員が手続に応じるよう求めたとき、正当な理由なく拒めません。
- 結果が和解のとき: 双方が和解案に納得すれば、和解契約書を結んで終わります。納めた申立金は、あっせんの期日の前に取り下げた場合を除き、戻りません。
- 結果が不調のとき: あっせん委員が和解の見込みがないとして手続を終え、顧客に通知したとします。顧客がその通知を受けた日から 1 か月以内に、同じ請求で訴えを起こせば、時効の完成猶予の点では、あっせんで請求した時に訴えたものとして扱われます。この場合も、申立金は戻りません。
和解になるか不調になるかで、顧客が負担するものと、その後の選択が変わります。
この記事が書いていないこと
銀行などの登録金融機関の苦情と紛争の窓口は、この記事では扱いません。
注
-
金融庁「金融ADR制度について」(PDF 1 ページ)の「金融ADR制度のイメージ」と「金融ADR制度の趣旨」。 ↩ ↩2 ↩3
-
「金融商品取引法」第 156 条の 38 第 9 項(苦情処理手続)、第 10 項(紛争解決手続)、第 11 項(紛争解決等業務)。 ↩
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「相談等の流れ」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「苦情解決の流れ」と「納得いかない場合(あっせん手続きへの移行)」。 ↩
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「苦情処理・紛争解決支援」(2026 年 10 月 3 日に確認)の受付方法(電話、ホームページの相談フォーム、ファックス、郵送)。郵送は「フィンマックとは」の「利便性」の欄にも載っています。 ↩
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「紛争解決等業務の質の向上への取組み」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「紛争解決委員(あっせん委員)の選任について」。 ↩
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「苦情処理・紛争解決支援」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「相談(質問)・苦情について」。 ↩ ↩2
-
「金融商品取引法」第 156 条の 49。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 39 第 1 項。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 44。業務規程の変更の認可は第 7 項、手続実施基本契約の内容は第 2 項(訴訟の報告は第 6 号と第 7 号)、特別調停案の受諾は第 2 項第 5 号と第 6 項。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
「金融商品取引法」第 156 条の 50 第 7 項(非公開。当事者の同意があれば、紛争解決委員は相当と認める人の傍聴を認められる)。 ↩
-
金融庁「指定紛争解決機関一覧」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「紛争解決機関としての指定を受けた団体の一覧」。 ↩ ↩2
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「フィンマックの業務内容」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「指定第 1 種紛争解決機関としての業務」と「金融商品取引法上の金融商品取引業協会からの委託を受けた業務」。 ↩ ↩2
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「指定紛争解決機関として」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「指定紛争解決機関の指定取得について(平成 23 年 2 月 15 日)」と「指定紛争解決機関としての業務開始について(平成 23 年 4 月 1 日)」。 ↩
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「対象とする事業者」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「加入第1種金融商品取引業者」「協定事業者」「特定事業者」。 ↩ ↩2
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「フィンマックとは」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「フィンマック 5 つの特色」と「どんな相談にのってもらえるの?」。 ↩ ↩2 ↩3
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「あっせんとは」(2026 年 10 月 3 日に確認)の「あっせんとは?」と「あっせんと裁判の違い」。 ↩ ↩2
-
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター「あっせん申立ての料金表」(2026 年 10 月 3 日に確認)。申立金の納入はあっせん規程第 32 条。 ↩ ↩2
-
「金融商品取引法」第 156 条の 50 第 4 項ただし書。 ↩
-
「金融商品取引法」第 37 条の 7 第 1 項第 1 号(第一種金融商品取引業。イは指定機関がある場合、ロはない場合)と第 2 項(公表)。第 2 号から第 5 号は、ほかの業を行う者について同じ構成の措置を定める。 ↩ ↩2
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 115 条の 3 第 1 項第 1 号と、同項第 2 号から第 5 号(協会や認定投資者保護団体の苦情解決などの別の措置)。 ↩
-
「民法」第 147 条第 1 項(裁判上の請求などの事由がある間は時効は完成しない)。ほかの事由に、催告(第 150 条)、書面による協議の合意(第 151 条)があります。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 51 第 1 項。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 52 第 1 項。 ↩