販売会社が顧客に EB 債の条件とリスクを説明するときや、顧客が説明を受けて投資効果を確かめるときに、この債券の仕組みが問われます。
対象株式で償還されることがある債券
EB 債は、償還日までの株価の動きによって、満期に償還金の代わりに、発行体とは別の会社の株式が交付されることがある債券です。この株式を対象株式といいます。EB は exchangeable bond(エクスチェンジャブル・ボンド)の略です1。EB 債は、個別の株価に連動する仕組債の典型例です2。債券にデリバティブを組み合わせる仕組債の全体は、仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。
B 社が発行し、C 社の株式を対象株式にする EB 債の架空の例で考えます。条件を決めたときの C 社の株価は 2,000 円で、この価格を当初価格といいます3。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 発行体 | B 社 |
| 対象株式 | C 社の株式(当初価格 2,000 円) |
| 額面と期間 | 100 万円、1 年 |
| 利息 | 年 8%。満期に 8 万円を現金で受け取る |
| ノックイン | 期間中に一度でも C 社の株価が 1,400 円(当初価格の 70%)以下になる |
| 満期の償還 | ノックインしていて、満期の株価が当初価格を下回るときは C 社の株式 500 株(100 万円 ÷ 2,000 円)。それ以外は現金 100 万円 |
期間中に株価が決めた水準(ノックイン価格。例では 1,400 円)以下になることを、ノックインといいます4。多くの EB 債は、この例と同じ形の条件を持ちます。期間中に一度でも株価が大きく下がり(ノックインし)、満期の株価が当初価格を下回っていれば、当初価格で計算した数の株式で償還されます5。株数は満期の株価によらず決まっていて、例では満期の株価がいくらでも 500 株です6。
条件は商品ごとに違います。期間中にノックインしても、満期の株価が、当初価格ではなくノックイン価格を上回っていれば額面で償還する型もあります7。株式の代わりに、株式の時価に当たる金銭で償還する型もあります2。
ノックインの条件を持たない型もあります。国税庁の資料が「プレーン型」と呼ぶ EB 債では、償還日の数日前の評価日に対象株式の株価が転換価格を下回ると株式で、転換価格以上なら額面の現金で償還されます。転換価格は、条件を決めた日の株価以下の水準に設定されます。どちらの場合も、利息は現金で支払われます8。株式で償還するかどうかが決まる価格を、日本証券業協会の資料は「基準価格」と呼んでいます3。
米国では、別の会社の株式などに連動し、決めた数の株式か、その時価に当たる金銭で償還されることがある債券を、reverse convertible(リバース・コンバーティブル)と呼びます9。この債券を買う投資家も、EB 債と同じく、発行体にプット・オプションを売ったのと同じ立場になります10。
満期の償還額と損益
例の EB 債では、ノックインしなければ満期の株価によらず 100 万円で償還され、ノックインして株価が当初価格を下回ると、下がった分だけ受け取りが元本を下回ります。満期の C 社の株価とノックインの有無で、受け取りは次のようになります。配当と税は除きます。
| 場合 | ノックイン | 満期の株価(円) | 償還 | 利息を含む受け取り(万円) | 損益(万円) |
|---|---|---|---|---|---|
| A | しない | 2,400 | 現金 100 万円 | 108 | 8 |
| B | しない | 1,600 | 現金 100 万円 | 108 | 8 |
| C | する | 2,200 | 現金 100 万円 | 108 | 8 |
| D | する | 1,600 | 株式 500 株(時価 80 万円) | 88 | −12 |
| E | する | 1,000 | 株式 500 株(時価 50 万円) | 58 | −42 |
A、B、C では、投資家は元本の 100 万円と利息 8 万円を受け取ります。B は満期の株価が当初を 20% 下回っていますが、ノックインしていないため額面で償還されます。C は期間中にノックインしましたが、満期の株価が当初価格を上回ったため、額面で償還されます7。
A では株価が 20% 上がっています。100 万円で C 社の株式を 500 株買っていれば 20 万円の利益でしたが、EB 債で得るのは利息の 8 万円だけです。投資家は、対象株式の値上がりを受け取れません9。
D と E では、500 株で償還されます。E の株式の時価は 50 万円で、利息を足しても 42 万円の損失です。同じ 100 万円で C 社の株式を買っていた場合の損失 50 万円との差は、利息の 8 万円だけです。株式で償還される場合の EB 債は、株式を買ったのと同じような経済効果を持ちます11。
図の説明
例の EB 債がノックインした場合の、満期の損益を C 社の株式 1 株あたり(額面 2,000 円分)で表した図です。利息 8 万円を 500 株で割った 160 円を含みます。満期の株価が 2,000 円以上なら額面で償還され、損益は利息の 160 円で一定です。2,000 円を下回ると、株価が 1 円下がるごとに損益も 1 円減り、1,840 円で 0 円、1,000 円なら −840 円になります。株価が下がるほど損失は広がり、利益は利息の 160 円までに限られます。
ノックインした場合の 1 株あたりの損益は、満期の株価が当初価格を下回れば、利息の 160 円から当初価格と満期の株価の差を引いた額です。D では 160 円 −(2,000 円 − 1,600 円)= −240 円で、500 株分は −12 万円になります。
債券とノックイン・プットの売りに分ける
EB 債を買う投資家は、普通の債券を買い、同時に対象株式のプット・オプションを発行体に売ったのと同じ立場にいます。投資家は、プットを売る対価として、普通の債券より高い利息を受け取ります10。例の EB 債は、B 社が発行する額面 100 万円、期間 1 年の普通の債券と、C 社の株式 500 株分のプットの売りに分けられます。プットの行使価格は当初価格の 2,000 円で、期間中に株価が 1,400 円以下になったとき(ノックインしたとき)だけ権利が生まれます4。このようにノックインした後にだけ効くプットを、ノックイン・プットといいます。
E の場合で確かめます。ノックインした後、満期の株価は 1,000 円です。プットの買い手は 1,000 円の株式を 2,000 円で投資家に売れるため、プットを売った投資家は 500 株 ×(2,000 円 − 1,000 円)= 50 万円の損失を負います。債券の償還 100 万円からこの 50 万円を引いた 50 万円が、500 株の時価と同じになります。当初価格を 100 として、70 に下がった場合も同じです。EB 債では 100 の元本に対して 70 しか支払われず、70 の株式を 100 で買うプットの売り手と同じ 30 の損失になります12。
EB 債の高い利率の主な源泉は、ノックインしたときに投資家が大きな損失のリスクを負うことの対価で、オプション・プレミアムに当たります12。ただし、組み込むプットのプレミアムから、組成する金融機関(ディーラー)の収益になる手数料が引かれます13。高い利率には、株式を持っていれば得られた値上がり益をあきらめる対価の面もあります(上の A の場合)14。一般に、利率が高い EB 債ほど、対象株式の株価の予想される変動(ボラティリティ)が大きく、ノックインして元本を下回る額で償還される見込みが大きくなります10。
早期償還が付く型
EB 債には、判定日(例えば四半期ごと)の株価が一定の幅(例えば 5%)上がっていると、その時点で満期の前に償還される条件(オートコール)を持つものがあります。早期償還されると、高い利息を受け取れる期間もそこで終わります5。早期償還とノックインを組み合わせた数年の例は、エクイティ・エキゾチックの全体像で扱います。
発行体が選んで満期の前に償還できる条項(期限前償還)を持つものもあります15。オートコールの早期償還は判定日の株価の水準で決まりますが、期限前償還は発行体が償還するかどうかを選びます515。
投資家が負うリスク
EB 債の損失の主な原因は、対象株式の値下がりです。株式で償還された場合、交付された株式の時価によっては元本を下回り、交付された後に株価がさらに下がると損失が広がります1。
EB 債も、発行体の財務の状況が悪化するなどして支払い能力が変化すると、元本や利息の支払いが滞るおそれがあります。満期の前に売ると、売る時点の価格によっては元本を下回る額でしか売れません3。この 2 つは仕組商品に共通するリスクで、仕組商品とは(デリバティブへの分解)の共通するリスクの節で扱います。また、債券の部分は発行体の無担保の債務で、発行体の格付けは、対象株式の株価がノックイン価格を下回るといった市場のリスクを表していません15。
買う時点の株価も受け取りを左右します。条件を決めたときより買う時点の株価が下がっていると、株式で償還されることになる価格までの幅が、すでに狭くなっています4。例で C 社の株価が 1,600 円に下がってから買うと、ノックインの 1,400 円まで 12.5% しか下がる余地がありません。
利率は年率で示されるため、期間が 1 年より短い EB 債では、実際に受け取る利息は利率より小さくなります3。例えば年 10% の利率でも、期間が 3 か月なら、受け取るのは額面の約 2.5% です(1 年を 360 日として計算)16。
注
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日本証券業協会「EB債(他社株転換可能債券)の特徴やリスクとは?」の 1 ページ、「1.そもそもEB債とは?」と「〇 注意すべき事項」。 ↩ ↩2
-
金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 28 ページ、「① 商品性に関する問題点」と脚注 25。 ↩ ↩2
-
日本証券業協会「EB債(他社株転換可能債券)の特徴やリスクとは?」の 2 ページ、「2.EB債の商品内容を理解するポイント」の「ポイント1 発行・償還条件等の確認」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
日本証券業協会「EB債(他社株転換可能債券)の特徴やリスクとは?」の 3 ページ、「ポイント2 他社株式への転換に係る事項の確認」の注と「ポイント3 投資判断時の対象株式の価格水準の確認」。 ↩ ↩2 ↩3
-
金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 29 ページ、Ⓐ〜🄫の段落と図表 22。 ↩ ↩2 ↩3
-
同じ資料の 29 ページ、脚注 26。当初の価格が 100 で、期間内に 70 を切った後に 75 に戻った場合も、当初価格 100 で計算した株数で償還されるとしています。 ↩
-
FINRA「Regulatory Notice 10-09」(2010 年 2 月)の「Background & Discussion」の、株価の動きごとの償還の表(Scenario 1〜5)と、その前の段落。 ↩ ↩2
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国税庁「EB債(他社株転換債)の評価」の「(理由)」と「【EB債の一般的な仕組み】」。 ↩
-
FINRA「Regulatory Notice 10-09」(2010 年 2 月)の「Background & Discussion」の 1〜2 段落目。 ↩ ↩2
-
FINRA「Regulatory Notice 10-09」(2010 年 2 月)の「Background & Discussion」の 3 段落目("In effect, the investor in the reverse convertible is selling the issuer a put option")。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本証券業協会「EB債(他社株転換可能債券)の特徴やリスクとは?」の 2 ページ、「2.EB債の商品内容を理解するポイント」の冒頭の段落。 ↩
-
金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 29 ページ、本文の「こうした EB 債の商品性は」の段落と脚注 27。 ↩ ↩2
-
同じ資料の 30 ページ、「また、オプションを組み込む際」の段落。 ↩
-
同じ資料の 29 ページ、「また、相対的な高金利は」の段落。 ↩
-
FINRA「Regulatory Notice 10-09」(2010 年 2 月)の「Background & Discussion」の、償還の表の後の段落。 ↩ ↩2 ↩3
-
FINRA「Regulatory Notice 10-09」(2010 年 2 月)の「Communications With the Public and Other Sales Practices」の、年率の利回りの示し方の段落。 ↩ ↩2
-
同じ資料の「Suitability」と「Eligible Accounts」。 ↩