企業が為替の手当てに使うオプションを選ぶときや、金融機関が顧客に売ったオプションを評価してヘッジするときに、エキゾチック・オプションが出てきます。評価を点検する立場では、価格がモデルによって変わる理由を説明する場面で、エキゾチック・オプションが話題になります。
バニラ・オプションとの違い
オプションのうち、原資産を行使価格で買う権利をコール・オプション(コール)、売る権利をプット・オプション(プット)といいます。この標準的な形をバニラ・オプションといいます。エキゾチック・オプションは、バニラ・オプションと比べて、満期までの価格の動き、受け取りの形、参照する原資産の数、受け取りの通貨への換算のどれかが違うオプションです。
米国の連邦準備制度理事会の検査の手引き(1998 年 2 月の版)は、エキゾチック・オプションを店頭で取引されるもの(店頭デリバティブ)として挙げています。店頭のオプションは、利用者の必要に合わせて条件を決めるのが一般的です12。
バニラ・オプションのうち、満期にだけ行使できるヨーロピアン・オプションのコールのペイオフは、満期の原資産の価格と行使価格の差(差がマイナスなら 0)です。満期までにどんな値動きをたどっても、満期の価格が同じなら受け取りは同じです3。コールとプットの基本はオプションの基本(コールとプット)で扱います。
経路で変わる受け取りの例
受け取りが満期の価格だけでなく、満期までにたどった価格にも依るオプションを、経路依存型オプションといいます3。期間中の平均の価格で受け取りを決めるものをアジアン・オプション、期間中の最高値や最安値で決めるものをルックバック・オプションといいます1。
行使価格 100、期間 1 年のコールで、3 か月ごとに 4 回(最後は満期の日)原資産の価格を観測する場合の架空の例で考えます。経路 A と経路 B は、満期の価格がどちらも 108 ですが、途中の動きが違います。アジアン・オプションは、4 回の観測の平均から行使価格を引いた額を受け取るとします。ルックバック・オプションは行使価格を決めておく形とし、4 回の観測のうちの最高値から行使価格を引いた額を受け取るとします4。
| 経路 | 観測した価格(3 か月後、6 か月後、9 か月後、満期) | アジアンの受け取り | ルックバックの受け取り |
|---|---|---|---|
| A | 104、115、97、108 | 6 | 15 |
| B | 102、104、106、108 | 5 | 8 |
バニラ・オプションの受け取りは、満期の価格が 108 なので、どちらの経路でも 8 です。アジアンの受け取りは、平均が経路 A で 106、経路 B で 105 と違うため、6 と 5 になります。ルックバックの受け取りは、途中の高値 115 を使う経路 A で 15、最高値が満期の 108 の経路 B で 8 になります。
エキゾチック・オプションの分け方
エキゾチック・オプションは、バニラ・オプションのどこを変えたかで次のように分けられます。
| 分け方 | 何が違うか | 主な型 |
|---|---|---|
| 経路依存型 | 満期までの価格の動き(平均、最高値や最安値、ある水準に触れたか)で受け取りが決まる | アジアン、ルックバック、バリア |
| ペイオフの形が違うもの | 満期の価格で決まるが、受け取りが行使価格を境に一定の金額へ跳ぶ | デジタル |
| 複数の原資産に依るもの | 複数の価格の合計、最大や最小、差で受け取りが決まる | バスケット |
| 通貨の換算を固定するもの | 外国の原資産の値動きを、決めておいた為替レートで自国の通貨に換える | クオント |
アジアン・オプションは、平均価格オプションとも呼ばれます1。平均は算術平均が多く、実務では決まった日の価格を平均します5。
ルックバック・オプションには、行使価格を決めておく形のほかに、コールなら期間中の最安値で買える形もあります6。
バリア・オプションは、原資産の価格が決めておいた水準(バリア)に触れたかどうかで、権利が生まれたり消えたりするオプションです1。
デジタル・オプション(バイナリー・オプション)は、満期の価格が行使価格を上回れば決めておいた一定の金額を受け取り、下回れば何も受け取らないオプションです。上回った幅にかかわらず、受け取る金額は同じです1。
バスケット・オプションは、複数の原資産の価格の合計などに対するオプションです7。複数の価格のうち最大や最小に対するオプションや、2 つの価格の差に対するオプションもあります8。
クオント・オプションは、外国の通貨で値が付く原資産のオプションで、受け取りを取引の初めに決めた為替レートで自国の通貨に換えるものです910。
このほか、あらかじめ決めた複数の日に行使できるバミューダン・オプションをエキゾチック・オプションに含めることもあります1。金利、為替、株式のそれぞれに固有のエキゾチック商品は、ここで挙げた型には含めません。
利用者の必要に合わせて使われる理由
エキゾチック・オプションが使われる理由の 1 つは、プレミアムを抑えられることです。バリア・オプションのうち途中で消えることのあるものは、同じ行使価格と満期のバニラ・オプションよりプレミアムが低くなります。アジアン・オプションも、平均を使うことで値動きの幅が小さくなり、プレミアムは低くなる傾向があります1。日本銀行の 2007 年の資料は、為替の変動が小さかった時期の市場の見方を紹介しています。輸出入企業が、為替の一定の水準に触れると消える通貨オプションを買って、プレミアムを節約する動きが広がったというものです11。ただし、その水準に触れるとオプションは消え、企業はヘッジの効果を失います。消えた後に備えるには、オプションを買い直すか為替予約を結ぶなど、為替の手当てをし直すことになります12。
受け取りを利用者の収入や費用の形に合わせることも理由になります。売上や仕入れの代金を定期的に受け払いする企業にとっては、1 時点の価格で決まるバニラ・オプションより、期間中の平均で決まるアジアン・オプションのほうが、ヘッジの対象と合いやすくなります5。クオント・オプションを使うと、外国の株式や商品の値動きに連動した受け取りを、為替の変動の影響を受けずに自国の通貨で得られます9。為替レートを固定するため、為替が有利に動いたときの得も受け取りに入りません。
投資家がオプションを売る側に回る使い方もあります。仕組商品は、貸出、預金、債券にスワップやオプションを組み合わせたもので、投資家がオプションを売った対価のプレミアムで高めのリターンを狙う商品が多くあります13。投資家は、プレミアムを受け取る代わりに相応のリスクを負います11。仕組商品には、市場流動性がかなり低いものが少なくありません。途中で売るときの価格が、理論価格をかなり下回ることもあります14。仕組商品の組み立ては仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。
評価の難しさ
エキゾチック・オプションの評価は、市場の価格をそのまま使えないことから難しくなります。エキゾチック・オプションの多くは、市場の流動性がバニラ・オプションほど高くありません。示された価格で実際に取引を解消できるとは限りません1。バリア・オプションも、バニラ・オプションと比べて市場流動性と価格の透明性が低くなります15。
そこで、流動性の高いバニラ・オプションの価格から求めたボラティリティに合わせたモデルで、エキゾチック・オプションの価格を推定します。この価格は、使ったモデルによって変わります16。バニラ・オプションの受け取りは満期の価格だけで決まるため、満期の価格の分布が同じモデルならバニラ・オプションの価格はそろいます。一方で、エキゾチック・オプションの受け取りは経路に依るため、途中の値動きの想定が違うモデルでは価格がそろいません17。
計算の方法は、エキゾチック・オプションの型によって変わります。2002 年の日本銀行金融研究所の論文では、実務では式で解ける解析解、次に格子(ツリー)や差分法、最後にモンテカルロ法の順に選ばれています。モンテカルロ法は、原資産の価格の経路を多数作り、経路ごとの受け取りの現在価値を平均する方法です18。
満期にだけ行使できる型のうち経路依存型のものには、ふつう格子や差分法を使いません。複数の原資産を持つものでは、格子や差分法で計算できる原資産の数はせいぜい 3 つまでです。多くの原資産を持つバスケット・オプションには、モンテカルロ法を使うのが一般的です18。一方で、経路依存型でも、常に価格を見る(連続監視の)バリア・オプションやルックバック・オプションのように、式で解ける型もあります19。
複数の値の関係も評価に入ります。バスケット・オプションでは、銘柄どうしの値動きの相関(分散共分散行列)を入れて、原資産の価格の経路を作ります7。クオント・オプションの価格は、為替レートと原資産の価格の相関で変わります20。
ヘッジの難しさ
エキゾチック・オプションの売り手になる金融機関は、顧客の必要に応じてオプションを売買した後、その持ち高のリスクをヘッジします11。エキゾチック・オプションのリスクは、ふつう原資産とバニラ・オプションを売買して管理します24。
図の説明
顧客(企業や投資家)は金融機関にプレミアムを払い、金融機関は顧客にエキゾチック・オプションを売ります。金融機関は、売ったオプションのリスクを抑えるために、ほかの金融機関などを相手に原資産とバニラ・オプションを売買します。図の「ヘッジの商品」は原資産とバニラ・オプションで、金融機関がそれを市場から買って代金を払う場合を示しています。売る場合は受け渡しの向きが逆になります。
ヘッジの組み方には、動的ヘッジと静的ヘッジがあります。バリア・オプションを例にすると、どちらの方法にも問題があります。動的ヘッジは、市場が動くたびにオプションの感応度を計算し直し、それに合わせて原資産の持ち高を変える方法です。頻繁な組み直しが要り、取引の費用が大きくなります15。
静的ヘッジは、取引の初めにバニラ・オプションの組み合わせを作り、バリアに触れて権利が消えたときに解消する以外は組み直さない方法です16。ボラティリティが変動しないとみて作った組み合わせでは、その変動を踏まえていないため、ヘッジの誤差が大きくなります。ボラティリティの変動まで考えて組み合わせを作ると、流動性の低いオプションが多く要ります。そのため、実現そのものが難しくなります15。
バリアに触れると消えるノックアウト型のバリア・オプションでは、原資産の価格がバリアに近づくと、ヘッジのための売買の量が増え、売買の向きが大きく変わることもあります25。
注
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Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual"(1998 年 2 月)の Section 4330.1 "Options" の "Exotic Options"(Page 2。PDF の 40 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
-
同じ資料の Section 4330.1 の "Description of Marketplace"(Page 3。PDF の 41 ページ)。 ↩
-
Mark Broadie、Jérôme Detemple "Option Pricing: Valuation Models and Applications"(Management Science 50(9)、2004 年)の付録 A.2 "Path-Dependent Options"(1170 ページ)。行使の時点だけでなくその前の価格にも受け取りが依るオプションの定義です。 ↩ ↩2
-
Steven Kou "Discrete Barrier and Lookback Options"(2008 年)の 1 節 "Introduction"(343 ページ)と 1.1 節(344 ページ)。アジアンとルックバックのコールの受け取りの式です。 ↩
-
Mark Broadie、Jérôme Detemple "Option Pricing: Valuation Models and Applications" の付録 A.2.3 "Asian Options"(1171 ページ)。 ↩ ↩2
-
Steven Kou "Discrete Barrier and Lookback Options" の 1.1 節 "Barrier and lookback options"(344 ページ)。 ↩ ↩2
-
石川達也、内田善彦「モンテカルロ法によるプライシングとリスク量の算出について」(日本銀行金融研究所「金融研究」2002 年 6 月)の 5 節(1)「バスケット型オプションのプライシング」(66 ページ)。32 銘柄の株価の合計に対するコールが例です。 ↩ ↩2
-
Mark Broadie、Jérôme Detemple "Option Pricing: Valuation Models and Applications" の付録 "Multiasset Options"(1172 ページ)。 ↩
-
Martin Haugh "Foreign Exchange, ADR's and Quanto-Securities"(コロンビア大学 IEOR E4707 の講義資料、2013 年)の 4 章 "Quanto-Securities"(8 ページ)。 ↩ ↩2
-
Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual" の Section 4345.1 "Equity Derivatives" の脚注 1(Page 1。PDF の 57 ページ)。 ↩
-
日本銀行金融市場局「通貨オプション取引の増加と市場取引への影響」(日銀レビュー、2007 年 11 月)の 2 ページ「2007年前半にかけての取引への影響」と図表 2。 ↩ ↩2 ↩3
-
同じ資料の 3〜4 ページ。 ↩
-
日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」(2019 年 7 月の基礎研修の参考資料 2)の 3 ページ「1.仕組商品とは」。 ↩
-
同じ資料の 30 ページ「(1)購入前の検討(続き)」。 ↩
-
新原祐喜「確率局所ボラティリティ・モデルのもとでのヘッジ戦略」(日本銀行金融研究所「金融研究」2011 年 10 月)の 1 節「はじめに」(126 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
同じ論文の 2 節(1)ロ「エキゾチック・オプションの時価評価と静的ヘッジ」(131〜132 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
同じ論文の 2 節(1)(133〜134 ページ)と脚注 15。 ↩
-
石川達也、内田善彦「モンテカルロ法によるプライシングとリスク量の算出について」(2002 年)の補論 3「派生商品のプライシングを行う際の数値計算手法」(85〜86 ページ)。モンテカルロ法を使う例を、ヨーロピアン・タイプのオプションについて挙げています。 ↩ ↩2
-
Steven Kou "Discrete Barrier and Lookback Options" の 1.1 節(345 ページ)。多くのモデルが連続監視を前提にするのは解析解が得られるためだとし、連続監視のルックバックとバリアの式を示した文献を挙げています。 ↩
-
Martin Haugh "Foreign Exchange, ADR's and Quanto-Securities" の "Quanto Options"(9 ページ)。価格の式の配当利回りの項に、為替レートと原資産の価格の相関が入ります。 ↩
-
Mark Broadie、Jérôme Detemple "Option Pricing: Valuation Models and Applications" の 5.1.1 節 "Path-Dependent Options"(1165〜1166 ページ)。 ↩
-
新原祐喜「確率局所ボラティリティ・モデルのもとでのヘッジ戦略」の 2 節(1)イ「オプションのデルタ・ヘッジ」(128 ページ)。 ↩
-
同じ論文の脚注 11(132 ページ)。 ↩
-
同じ論文の 1 節「はじめに」(127 ページ)。 ↩
-
日本銀行金融市場局「通貨オプション取引の増加と市場取引への影響」の 4 ページの BOX「金融機関のノックアウト・オプションに関するデルタ・ヘッジ」。 ↩