複数の銘柄をまとめて 1 つの原資産にするエキゾチック・オプションであるバスケット・オプションの評価とリスク管理では、銘柄どうしの相関の置き方が価格とヘッジを左右します。エキゾチック・オプション全体の分類はエキゾチック・オプションの全体像で扱います。

バスケットの値と受け取りの決め方

バスケット・オプションの原資産は、複数の銘柄の価格を契約で決めた重みで合計した値で、バスケットの値といいます。銘柄 ii の価格を SiS_i、重みを aia_i とすると、バスケットの値 BB は次の式です1。

B=∑i=1naiSiB = \sum_{i=1}^{n} a_i S_i

コールの満期の受け取りは、バスケットの値が行使価格 KK を上回った分で、max⁡(B−K, 0)\max(B - K,\ 0) です。プットの受け取りは max⁡(K−B, 0)\max(K - B,\ 0) です。日本銀行金融研究所の論文は、32 銘柄の株価の合計に対するヨーロピアン・コールを例にしています2。

複数の価格のうち最大や最小に対するオプションは、合計ではなく最大値(max オプション)や最小値(min オプション)を原資産にします。店頭取引で、早くから価格が提示されていたオプションです。2 つの価格の差に対するスプレッド・オプションもあります3。

C 社が、銘柄 X と銘柄 Y の株価を 0.5 ずつの重みで合計したバスケットのヨーロピアン・コールを買う架空の例で考えます。現在の X と Y はどちらも 100 円で、バスケットの値は 100 円です。行使価格は 100 円、満期は 1 年で、数値は 1 単位あたりです。受け取りは max⁡(0.5X+0.5Y−100, 0)\max(0.5X + 0.5Y - 100,\ 0) になります。

場合 満期の X(円) 満期の Y(円) バスケットの値(円) 受け取り(円)
1 130 120 125 25
2 130 70 100 0
3 150 60 105 5
4 80 90 85 0
01020304050100満期の受け取り(円)満期のバスケットの値(円)受取
図 1バスケットのコールの満期の受け取り
図の説明

C 社が買うバスケットのコール(行使価格 100 円)の、満期の受け取りです。横軸は満期のバスケットの値、縦軸は 1 単位あたりの受け取りで、プレミアムは含みません。バスケットの値が 100 円以下なら受け取りは 0 円です。100 円を超えると、バスケットの値が 1 円上がるごとに受け取りが 1 円増え、120 円で 20 円、140 円で 40 円になります。

C 社は最初にプレミアムを払います。場合 1 と場合 3 では受け取りがあり、プレミアムより大きければ利益、小さければ損になります。場合 2 と場合 4 では受け取りが 0 円で、損は払ったプレミアムです。場合 2 は、X が 30 円上がっても Y が 30 円下がり、バスケットの値が 100 円のままのため、受け取りがありません。

個々のオプションの合計より安くなる理由

バスケットのコールの受け取りは、銘柄ごとのコールを同じ重みで組み合わせた受け取りを上回ることがありません。C 社が X と Y の 0.5 単位ずつのコール(どちらも行使価格 100 円)を別々に買う場合と比べます。

場合 バスケットのコール(円) X と Y のコールの組み合わせ(円)
1 25 0.5 × 30 + 0.5 × 20 = 25
2 0 0.5 × 30 + 0.5 × 0 = 15
3 5 0.5 × 50 + 0.5 × 0 = 25
4 0 0.5 × 0 + 0.5 × 0 = 0

組み合わせは、銘柄ごとに上昇分だけを受け取り、下落分は打ち消しに使えません。バスケットは、上昇と下落を合計してから受け取りを決めます。重みが正で、バスケットの行使価格が各銘柄の行使価格の重み付きの合計に等しいとき、次の関係がどの場合にも成り立ちます。

max⁡(∑iaiSi−∑iaiKi, 0)≤∑iaimax⁡(Si−Ki, 0)\max\Bigl(\sum_i a_i S_i - \sum_i a_i K_i,\ 0\Bigr) \le \sum_i a_i \max(S_i - K_i,\ 0)

等号が成り立つのは、すべての銘柄が行使価格より上、またはすべてが下の場合で、場合 1 と場合 4 が当てはまります。受け取りがいつも同じか小さいため、バスケットのコールのプレミアムは、組み合わせのプレミアムを超えません。ただし、バスケットは銘柄ごとの動きを選べないので、場合 2 と場合 3 のように、組み合わせなら受け取れた額を受け取れないことがあります。

相関がプレミアムに与える影響

銘柄どうしの相関が低いほど、バスケットの値は一方の上昇を他方の下落が打ち消しやすくなり、値の変動の大きさ(ボラティリティ)が小さくなります。複数の原資産を持つデリバティブの価格は、原資産の価格どうしの相関の影響を受けます4。

X と Y の現在の価格が 100 円、重みが 0.5、年率のボラティリティがどちらも 20%、行使価格が 100 円、満期が 1 年、金利と配当が 0% の架空の例で考えます。相関係数ごとに、バスケットのボラティリティとコールの価格を比べます。価格は、モーメント近似とモンテカルロ法の節で説明する近似による値です。

相関係数 バスケットのボラティリティ(年率) バスケットのコールの近似価格(円)
1 20.0% 8.0
0.5 17.3% 6.9
0 14.2% 5.7

相関係数が 1 のときは、バスケットのボラティリティが各銘柄と同じ 20% で、価格 8.0 円は X と Y のコールの組み合わせと同じです。相関係数が下がるほど、価格は組み合わせより安くなります5。この例では、相関が下がるとコールの価格が下がります。

モーメント近似とモンテカルロ法

複数の資産のヨーロピアン・オプションの価格の式は、ふつう多次元の積分を含み、数値計算が要ります6。バスケット・オプションには、次の 2 つの方法がよく使われます。

1 つ目は、バスケットの値の分布を対数正規分布で置き換えるモーメントの近似です。各銘柄の価格が相関のある幾何ブラウン運動に従うとして、バスケットの値の分布を、扱いやすい対数正規分布で近似します。満期のバスケットの値の平均と 2 乗の平均が、近似に使う対数正規分布と一致するように、バスケットのボラティリティ σˉ\bar\sigma を決めます。配当がなく、金利とボラティリティが一定のとき、σˉ\bar\sigma は次の式です7。

σˉ2=1Tln⁡(∑i,jaiajSiSj eρijσiσjT(∑iaiSi)2)\bar\sigma^2 = \frac{1}{T}\ln\left(\frac{\sum_{i,j} a_i a_j S_i S_j\, e^{\rho_{ij}\sigma_i\sigma_j T}}{\bigl(\sum_i a_i S_i\bigr)^2}\right)

ここで σi\sigma_i は銘柄 ii のボラティリティ、ρij\rho_{ij} は銘柄 ii と jj の相関係数、TT は満期までの年数です。重みが正なら、相関係数が大きいほど分子が大きくなり、σˉ\bar\sigma も大きくなります。この σˉ\bar\sigma を原資産のボラティリティとして、ブラック・ショールズ・モデルと同じ形の式でコールの価格を求めます8。前の節の表は、この方法で計算しました。

深掘り2 乗の平均から求める式の導出

配当がなく、金利 rr が一定の場合を考えます。銘柄の価格の積の期待値は、E[SiSj]=SiSj e(2r+ρijσiσj)TE[S_i S_j] = S_i S_j\, e^{(2r + \rho_{ij}\sigma_i\sigma_j)T} です。ここで右辺の SiS_i と SjS_j は現在の価格です。これを使うと、バスケットの値の 2 乗の期待値は次のとおりです7。

E[B2]=∑i,jaiajSiSj e(2r+ρijσiσj)TE[B^2] = \sum_{i,j} a_i a_j S_i S_j\, e^{(2r + \rho_{ij}\sigma_i\sigma_j)T}

近似に使う対数正規分布は、平均が B0erTB_0 e^{rT}、2 乗の平均が B02e(2r+σˉ2)TB_0^2 e^{(2r + \bar\sigma^2)T} です(B0=∑iaiSiB_0 = \sum_i a_i S_i)。2 乗の平均を E[B2]E[B^2] に等しいと置いて σˉ\bar\sigma について解くと、本文の式になります。

この近似は、バスケットの値の分布のうち、最初の 2 つのモーメントしか合わせません。Brigo らの数値実験では、各銘柄のボラティリティが近く相関が高いときに、近似はモンテカルロ法の価格とよく合いました。一方、ボラティリティの差が大きいときや相関が負のときには、近似の質が大きく下がります9。

2 つ目は、モンテカルロ法です。一様乱数を標準正規乱数に変換し、さらに分散共分散行列 Σ\Sigma に従う多次元の正規乱数に変換して、原資産の価格を多数作ります。各回の受け取りを平均して価格にします10。分散共分散行列には、銘柄ごとのボラティリティと銘柄どうしの相関係数が入ります。

乱数の平均と分散共分散行列を理論値に合わせる工夫(1 次と 2 次のサンプリング法)もあります。同論文の 32 銘柄のコールの例では、この工夫を併用すると、試行回数 10,000 回の価格の標準偏差が、併用しない場合の約 5.4 分の 1 に減りました11。

どちらの方法でも、相関係数をいくつに置くかで価格が変わります。置き方は、相関のリスクの節で扱います。

相関のリスクとヘッジの難しさ

バスケット・オプションの価値は、相関が変わっても動きます。単一の原資産のデリバティブにはなく、複数の原資産を持つデリバティブに特有のこのリスクを、相関(コリレーション)変動リスクといいます12。前の節の表の例では、相関が下がるとバスケットのコールの価格が下がります。

単一の原資産のオプションでは、同じ原資産のベガの合計をゼロにするヘッジがよく使われます。相関デリバティブは流動性が低く、同じ原資産の相関デリバティブを市場で見つけるのが難しい場合があります。そのため、ベガと相関変動リスクをそのまま保有し、似た原資産の相関デリバティブを組み合わせるなどして、リスクの合計をコントロールすることが試みられます13。

2003 年ごろの実務では、個別の株式や株式のバスケットのリスクを、株価指数の先物や株価指数オプションでヘッジすることが多くありました。このヘッジは、指数と銘柄の相関に頼ります。相関が想定どおりでなければ、ヘッジが効かず、市場リスクが残ることがあります16。ヘッジの一般論はエキゾチック商品のヘッジの難しさで扱います。

注

  1. Damiano Brigo ほか "Approximated moment-matching dynamics for basket-options simulation"(Banca IMI、2002 年 10 月版)の 2 節 "Assumptions and notation"(3 ページ)。重み aia_i は契約で決まる定数として扱う記述。 ↩

  2. 石川達也、内田善彦「モンテカルロ法によるプライシングとリスク量の算出について」(日本銀行金融研究所「金融研究」2002 年 6 月)の 5 節(1)「バスケット型オプションのプライシング」(66 ページ)。32 銘柄の株価の合計に対するヨーロピアン・コールで、各銘柄の現在の価格を 100 円、満期を 1 年とした例。 ↩

  3. Mark Broadie、Jérôme Detemple "Option Pricing: Valuation Models and Applications" の付録 A.3 "Multiasset Options"(1172 ページ)。最大や最小に対するオプションは店頭で古くから気配が出ており、2 つの価格の差に対するスプレッド・オプションは取引所でも取引できる、という説明の箇所。 ↩

  4. 中村一岳「相関デリバティブのリスク特性やリスク管理手法に関する考察」(日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー No. 2003-J-7、2003 年 5 月)の 1 節「はじめに」(1 ページ)。 ↩

  5. Damiano Brigo ほか、前掲の 6 節 "An empirical analysis of the two- and three-moment matching approximations"(16 ページ)。相関係数が 1 でボラティリティが等しいとき、バスケットは実際に幾何ブラウン運動に従うため、近似が一致します。表の数値は、本文の条件で計算し、小数第 2 位を四捨五入した値です。 ↩

  6. Mark Broadie、Jérôme Detemple、前掲の 5.1.3 節 "Multiasset Options"(1166 ページ)。 ↩

  7. Damiano Brigo ほか、前掲の 3.1 節 "Case with continuous dividends, constant rates and volatilities"(4〜5 ページ)。資料の式は連続配当の利回りを含みます。本文の式は、配当の利回りを 0 とした場合です。 ↩ ↩2

  8. Damiano Brigo ほか、前掲の 4.1 節 "The call option value in the three-moment matching procedure"(13 ページ)。近似した幾何ブラウン運動を原資産とするコールの価格は、ブラック・ショールズの式になるという説明(資料は 3 つのモーメントを合わせる手順の中で書いている)。 ↩

  9. Damiano Brigo ほか、前掲の 6 節(16 ページ)と 9 節 "Conclusions"(25 ページ)。実験の対象は 2 銘柄のバスケットです。ボラティリティが同程度で相関が高い場合に近似がモンテカルロ法とよく合い、相関が負のときは質が大きく下がります。 ↩

  10. 石川達也、内田善彦、前掲の正規乱数を作る手順(3 節)(ステップ 1〜5。PDF の 7 ページ目)。 ↩

  11. 石川達也、内田善彦、前掲の 5 節(1)の図表 14(67 ページ)。行使価格が現在の価格指数と同じ(アット・ザ・マネー)の場合で、試行回数 10,000 回の価格の標準偏差が、調整なしで 4.141、1 次と 2 次のサンプリング法の併用で 0.769(その比が約 5.4)。 ↩

  12. 中村一岳、前掲の 4 節(1)(8 ページ)。資料は、第 8 項のリスクを「相関(コリレーション)変動リスク」と呼んでいる。資料の題材はコンポジット・オプションで、複数の原資産を持つデリバティブ一般についての記述。 ↩

  13. 中村一岳、前掲の 4 節(1)(18 ページ)。 ↩

  14. 中村一岳、前掲の 5 節(3)「相関係数の推定値がプライシングに与える影響」(29 ページ)。 ↩

  15. 中村一岳、前掲の 6 節(2)「相関係数の扱い」(31 ページ)。 ↩

  16. Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual"(2003 年 4 月)の Section 4345.1 "Equity Derivatives" の "Hedging"(Page 3)。 ↩