ワースト・オブは、仕組債に組み込まれて投資家に販売され、組成するディーラーが評価とヘッジで相関の置き方に悩む場面で出てきます。

最も低い銘柄の水準で受け取りが決まる

ワースト・オブのコールは、参照する銘柄のうち、満期に最も値上がりしなかったものを基準に受け取りを決めます1。銘柄 ii の当初の値を Si(0)S_i(0)、満期の値を Si(T)S_i(T) とすると、基準になる水準 mm は、当初値に対する満期の値の割合のうち最も小さいものです。

m=min⁡1≤i≤nSi(T)Si(0)m = \min_{1 \le i \le n} \frac{S_i(T)}{S_i(0)}

行使価格を当初値に対する割合 KK で決めると、コールの満期の受け取りは max⁡(m−K, 0)\max(m - K,\ 0)2、プットの受け取りは max⁡(K−m, 0)\max(K - m,\ 0) です3。コールは、最も低い銘柄でさえ行使価格を上回って、初めて受け取りが生まれます。プットは、どれか 1 つの銘柄が行使価格を下回れば受け取りが生まれます。ワースト・オブは主に店頭で取引され、価格が直接得られません4。

P 社が、銘柄 1 と銘柄 2 を参照するワースト・オブのヨーロピアン・コールを買う架空の例で考えます。現在の株価はどちらも 100 円、行使価格は当初値の 100%(100 円)、満期は 1 年で、数値は 1 単位あたりです。最も低い銘柄の値が 100 円を上回った分が受け取りになります。

場合 満期の銘柄 1(円) 満期の銘柄 2(円) 最も低い値(円) ワースト・オブのコールの受け取り(円)
1 130 120 120 20
2 130 70 70 0
3 80 90 80 0
4 120 150 120 20
01020304050100満期の受け取り(円)満期の最も低い銘柄の値(円)受取
図 1ワースト・オブのコールの満期の受け取り
図の説明

P 社が買うワースト・オブのコール(行使価格 100 円)の、満期の受け取りです。横軸は 2 つの銘柄のうち満期に低い方の値、縦軸は 1 単位あたりの受け取りで、プレミアムは含みません。低い方の値が 100 円以下なら受け取りは 0 円です。100 円を超えると、1 円上がるごとに受け取りが 1 円増え、120 円で 20 円、140 円で 40 円になります。高い方の銘柄の値は、図にも受け取りにも入りません。

P 社は最初にプレミアムを払います。場合 1 と場合 4 は受け取りが 20 円で、プレミアムより大きければ利益、小さければ損です。場合 2 は、銘柄 1 が 30 円上がっても銘柄 2 が 30 円下がっているため、受け取りは 0 円で、損は払ったプレミアムです。場合 3 は、どちらも下がっているので同じ結果になります。

銘柄ごとのオプションとの比較

同じ行使価格なら、ワースト・オブのコールの受け取りは、銘柄ごとのコール(それぞれの銘柄だけを参照する通常のコール)のうち最も小さいものに等しく、プットの受け取りは、銘柄ごとのプットのうち最も大きいものに等しくなります。最も低い銘柄の値は、どの銘柄の値よりも小さいか等しいためです。前の例の場合 1〜4 で、銘柄ごとのコールと比べます。

場合 ワースト・オブのコール(円) 銘柄 1 のコール(円) 銘柄 2 のコール(円)
1 20 30 20
2 0 30 0
3 0 0 0
4 20 20 50

ワースト・オブのコールは、どの場合でも銘柄ごとのコールを上回りません。そのため、プレミアムも銘柄ごとのコール以下になります。受け取りが等しくなる場合もあり、場合 3 のように全部が 0 円の場合がそうです。プレミアムが等しくなるのは、後の相関係数 1 の例です。その代わり、場合 2 のように、銘柄 1 のコールなら 30 円を受け取れたときに、ワースト・オブでは 0 円になります。

プットは逆です。場合 2 で、最も低い値は 70 円なので、ワースト・オブのプットは 30 円を受け取り、銘柄 1 のプット(0 円)と銘柄 2 のプット(30 円)のうち大きい方に一致します。ワースト・オブのプットは、銘柄ごとのプットのどれも下回らないため、プレミアムも銘柄ごとのプット以上になります。

相関と銘柄の数が価格に効く向き

銘柄どうしの相関が低いと、一方が上がっているときに他方が下がっている場面が増え、最も低い値は低くなりやすくなります。表の価格は、ボラティリティと相関が一定で、各銘柄が幾何ブラウン運動に従うという前提の値です。相関やボラティリティの置き方で価格が変わることは、後の節で扱います。銘柄 1 と銘柄 2 の現在の株価が 100 円、年率のボラティリティがどちらも 20%、行使価格が 100 円、満期が 1 年、金利と配当が 0% の架空の例で考えます5。

相関係数 ワースト・オブのコール(円) ワースト・オブのプット(円)
1 8.0 8.0
0.5 3.7 11.7
0 2.0 13.3

相関係数が 1 のときは、2 つの銘柄が同じ値動きをするため、価格は単独の銘柄のコールとプット(どちらも 8.0 円)に一致します。相関係数が下がるほど、この例ではコールの価格が下がり、プットの価格が上がります。

銘柄の数を増やすと、最も低い値はさらに低くなりやすくなります。すべての組の相関係数が 0.5 で、ほかの条件が同じ場合の価格は、次のとおりです5。

銘柄の数 ワースト・オブのコール(円) ワースト・オブのプット(円)
1 8.0 8.0
2 3.7 11.7
3 2.3 14.0

銘柄を 1 つ加えると、最も低い値は同じか低くなるので、コールの受け取りは増えず、プットの受け取りは減りません。表の値は、この向きと合っています。

ワースト・オブ型オートコールとノックイン

ワースト・オブは、仕組債に組み込まれて販売されます。受け取りが参照する銘柄のうち最も値動きの悪いものに連動し、元本の戻りが制限されることがある型です6。オートコールの仕組みと数値の例はオートコールで扱います。ここでは、オートコールの判定を最も低い銘柄で行うことの効き方を見ます。

P 社が、銘柄 1 と銘柄 2 を参照する 2 年のワースト・オブ型のオートコール債を、額面 100 万円で買う架空の例で考えます。観測日は 1 年後と満期の 2 年後で、いずれも 2 つの銘柄の当初値に対する水準のうち低い方で判定します。クーポンは年 3 万円で、償還のときに保有した年数分をまとめて受け取ります。

  • 1 年後と満期の観測日に、低い方が 100% 以上なら、額面とクーポンを受け取って償還されます。
  • 満期の観測日に、低い方が 100% 未満でも 65% を超えていれば、額面だけを受け取ります(クーポンはありません)。
  • 満期の観測日に、低い方が 65% 以下ならノックインとなり、額面に低い方の水準を掛けた額で償還され、クーポンもありません。

この例は条件を単純にしてあり、オートコールの記事の例とは違います。クーポンは償還のときにまとめて払い、ノックインの水準は 65% としています。

場合 1 年後の銘柄 1 と銘柄 2 2 年後の銘柄 1 と銘柄 2 償還の時期と受け取り
A 112%、104% 償還済み 1 年後に 103 万円(額面 100 万円とクーポン 3 万円)
B 120%、92% 125%、98% 2 年後に 100 万円(額面のみ。クーポンなし)
C 120%、92% 130%、60% 2 年後に 60 万円(額面 100 万円 × 60%)
D 120%、92% 108%、103% 2 年後に 106 万円(額面 100 万円とクーポン 6 万円)

銘柄 1 だけを参照する同じ条件なら、場合 B、C、D は 1 年後に償還されていました。最も低い方で見ると、銘柄 2 が 92% のため、この 3 つは 1 年後に償還されません。

場合 A は、2 つとも 100% 以上なので 1 年後に償還されます。場合 B は、満期に低い方が 98% で 100% に届かず、65% は上回るため、額面だけを受け取ります。場合 C は、銘柄 1 が 30% 上がっていても、銘柄 2 が 60% まで下がってノックインし、元本を 40 万円割ります。値上がりした銘柄の利益は、受け取りに入りません。場合 D は、満期に 2 つとも 100% 以上なので、額面と 2 年分のクーポンを受け取ります。

ある研究の例には、3 つの銘柄のうち最も低いものを参照し、四半期ごとの観測日に水準を判定する、クーポン付きのオートコールがあります7。ここでの例は 2 銘柄で、観測は年 1 回です。

参照する銘柄が増えると、どれか 1 つが水準を割る場面が増えます。ワースト・オブの仕組債には、値下がりしたときに、最も値動きの悪い銘柄の株式そのものを受け渡す形もあります8。販売の問題や仕組債一般のリスクは、エクイティ・エキゾチックの全体像で扱います。

評価が相関の置き方で変わる理由

ワースト・オブの価格は、各銘柄の価格の動きを相関のある確率過程で表し、多数の経路を乱数で作るモンテカルロ法で求める方法があります9。必要な入力は、各銘柄のボラティリティと、銘柄どうしの相関です。入力にどの値を使うかで、価格が変わります。

ある論文の数値実験では、同じ株価指数のアット・ザ・マネーの価格に合わせた 2 つのモデルで、ワースト・オブのコールの価格が違いました。2 つのモデルは、相関を一定とするモデルと、指数の水準が構成銘柄の動きに影響するモデルです。相関を一定とするモデルの方が、特にイン・ザ・マネーで高い値になっています10。

さらに、個別銘柄の分布と指数(バスケット)の分布が同じでも、ワースト・オブの価格は変わります11。例えば 2 つの銘柄が当初の 100 円から、一方は 80 円、他方は 120 円に動くと、2 銘柄の平均は 100 円のままですが、ワースト・オブは 80 円で決まります。同じ論文の数値実験では、50 銘柄の最も低い値に対する 2 年のプットが、相関の置き方の違いだけで 2 通りの価格になりました12。指数のオプションの価格からは、ワースト・オブの価値が一通りに決まりません。

ディーラーのヘッジと相関のリスク

ワースト・オブの価値は、銘柄ごとの値動き、銘柄ごとのボラティリティ、銘柄どうしの相関で変わるため、反対側に立つディーラーは、この 3 つに対するリスクを持ちます。前の節の表の例では、相関が上がるとワースト・オブのコールの価値が上がり、プットの価値が下がります。コールを売る側とプットを買う側は、この例ではどちらも相関が上がると不利になります。

ある論文は、2010 年ごろ、銀行がワースト・オブ型などの商品を売った結果として、相関のショートの持ち高を持つと述べています。そして、その一部を戻す方法として、相関スワップや、指数のオプションとその構成銘柄のオプションを反対向きに売買するディスパージョン取引を提案しています13。ワースト・オブの価格に効く相関は、指数のオプションの価格だけでは決まりません(前の節)。

オートコール型では、観測日の付近でデルタとガンマが大きく変わります。ある研究は、3 銘柄のオートコールで、デルタとガンマを中立に保つのが難しいことを示しています14。

注

  1. The Options Industry Council「Analysis on Structured Products and Listed Equity Options in Europe(Part 1)」(SRP、2015 年)の Glossary of Terms の "Worst-of option"(PDF の 54 ページ目)。例は FTSE100 と S&P500 のコールです。 ↩

  2. Benjamin Jourdain、Mohamed Sbai "Coupling Index and stocks"(arXiv、2009 年)の "Application: Pricing of a worst-of option"(PDF の 18〜19 ページ目)のコールの式です。本文の mm と nn は記号の書き直しです。 ↩

  3. Alex Langnau "Introduction into “Local Correlation” Modelling"(arXiv、2018 年版)の 7 節(PDF の 21 ページ目)のプットの式です。 ↩

  4. Maxime Malgrat "Pricing of a “worst of” option using a Copula method"(修士論文、2013 年)の 1 章 D 節 "Worst Of options"(PDF の 20 ページ目)。コール・オン・ミニマム(Call-on-min)とも呼ぶこと、主に店頭で取引され、価格が直接得られないこと。 ↩

  5. 資料にある価格ではなく、本文の条件でモンテカルロ法により求めた値です。各銘柄は幾何ブラウン運動に従い、ボラティリティと相関係数は一定、試行は 40,000,000 回(符号を反転した組を含む)で、小数第 2 位を四捨五入しています。相関係数 1 と銘柄 1 つの値は、同じ 1 銘柄のコールとプットの値で、ブラック・ショールズの式の値(約 7.97 円)と合います。 ↩ ↩2

  6. FINRA「Regulatory Notice 12-03」(2012 年 1 月)の 4 ページ、"worst-of" の例。参照する指数のうち最も値動きの悪いものに受け取りが依ること、元本の戻りが制限されることがある。 ↩

  7. Anil Sharma ほか "Hedging and Pricing Structured Products Featuring Multiple Underlying Assets"(ICAIF 2024)の 3 ページ、Table 1 と 3 節。3 つの資産のうち最も低いものを参照し、観測は四半期ごと、期間は 4 年の例です。 ↩

  8. The Options Industry Council、前掲の Convertible Structures の "Worst of"(PDF の 41 ページ目)。参照する複数の銘柄のうち、発行価格以下のものがあれば、最も値動きの悪い銘柄を決めた数量だけ現物で受け渡す形。 ↩

  9. Maxime Malgrat、前掲の 2 節 "Applications to pricing of options" と 1 章 D 節(PDF の 19〜20 ページ目)。各銘柄の動きに相関のある乱数を使う、モンテカルロ法による価格の求め方。ボラティリティが一定として、各銘柄の経路を作る。 ↩

  10. Benjamin Jourdain、Mohamed Sbai、前掲の "Application: Pricing of a worst-of option"(PDF の 19 ページ目)。指数のアット・ザ・マネーの価格が合うように相関係数を決めた一定のモデルの価格は、論文のモデルの価格より常に高く、特にイン・ザ・マネーで差が大きいという結果。この論文の数値実験の設定の中での結果。 ↩

  11. Alex Langnau、前掲の 7 節(PDF の 21 ページ目)。2 銘柄のバスケットで、一方が 100 から 80、他方が 100 から 120 に動く例(バスケットは変わらず、最低値のオプションは影響を受ける)。 ↩

  12. Alex Langnau、前掲の 7 節(PDF の 21〜22 ページ目、Table 5)。EuroStoxx 50 の 50 銘柄の、当初値に対する最低値のプット(行使価格 0.6 で 0.306 と 0.463)。個別銘柄の分布と指数の分布が同じで、相関の中心の置き方だけを変えた 2 通り。 ↩

  13. Antoine Jacquier、Saad Slaoui "Variance dispersion and correlation swaps"(arXiv、2010 年)の要旨。銀行がワースト・オブ型などの商品を売った結果、相関のショートの持ち高を持つこと、それを戻す方法として、相関スワップとディスパージョン取引(指数のオプションと構成銘柄のオプションの反対の持ち高)が提案されていること。 ↩

  14. Anil Sharma ほか、前掲の 3 ページの 2 節末と 3 節。観測日の付近でデルタとガンマが大きく変わり、デルタ中立とガンマ中立のポートフォリオを保つのが難しいという説明。 ↩